24話:古都のグループ分けと、巻き込まれた二人
修学旅行の班決め——かつての2年B組であれば、間違いなく『黒木派』と『天宮派』が火花を散らす流血の惨事になっていたはずだった。
しかし、例の合同勉強会で芽生えた『恋成就』の化学反応のおかげで、クラスの人間関係は驚くほど柔軟になっていた。派閥の壁を越えた男女ミックスのグループが次々とスムーズに結成されていく。
(……怪しい噂のせいで酷い目に遭ったけど、クラスが平和になったのだけは怪我の功名だな……)
胸を撫で下ろしたのも束の間。オレの席の周囲だけは、相変わらず別世界の重力がかかっていた。
「悠! 班行動、当然あたしと一緒だよね!?」
「何を仰いますのサキさん。一ノ瀬さんの京都での時間は、私がすべて手配した最高級の料亭と寺院巡りで埋まっておりますわ」
サキと天宮さんの火花を散らす視線が交差する。
当然だが、この二人が別の班になる選択肢など存在しない。別行動をさせれば「抜け駆け」を恐れて双方の監視の目が血走り、修学旅行どころではなくなるからだ。
だが、オレ+ヒロイン二人という危険すぎるトライアングルで行動すれば、目立って仕方がないし、道中で二人から挟み撃ちにされるオレの精神が持たない。
「あ、あの……古賀崎先生」
たまらず教卓で書類を整理している担任に助けを求めた。
「先生、この三角関係のまま班を組むと、京都の治安維持に関わると思うのですが……」
古賀崎先生はメガネのフチをすっと上げると、心底心底心底呆れたような、そして愉悦の混じった顔でオレを見下ろした。
「一ノ瀬。お前、自分が何の役職か忘れたのか?」
「……『ご意見番』ですが」
「そうだな。クラスの恋愛相談役として君臨し、あちこちに縁結びの種を撒いたのはお前だ。なら自分のケツくらい自分で拭け。私はノータッチだ」
(放置どころか完全無視だこのフィクサー教師……!!)
冷たく突き放され、絶望に打ちひしがれていたその時——オレの視界に、妙に雰囲気を柔らかくした「元・刺客」の二人が入ってきた。
「……あ」
志摩瑠璃と、神原智樹。
かつては両派閥の急先鋒としてオレに噛みついてきた二人だが、今や互いに勉強を教え合い、何なら休み時間に二人でジュースを買いに行くほど甘酸っぱい仲になっている。
(待てよ……こうなった『原因』は、元を正せばあの二人だぞ……?)
オレの脳内スレッドが、コンマ数秒で完璧な打開策を弾き出した。
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【緊急】修学旅行のグループ分け詰んだ件【絶望のトライアングル】
1:【冷静のオレ】(青ネーム:論理・リスク管理担当)
状況を整理する。一ノ瀬・黒木・天宮の三人だけで班を組めば、京都の街が修羅場と化してリアルに死人が出る。かといって別行動にすればお互いの監視と嫉妬で監視カメラ以上のプレッシャーが悠を襲う。詰みだ。
2:【熱血のオレ】(赤ネーム:情熱・正面突破担当)
もう腹をくくって二人同時にエスコートするハーレムルートしかなかろうが!! 男なら京の都で爆発しろ!!
3:【冷静のオレ】
>>2
お前の脳みそはお花畑か。サキと天宮さんの殺気で四条河原町が消滅するわ。もっと別の、根本的な「緩衝材」が必要なんだよ。
4:【中立のオレ】(緑ネーム:オブザーバー・調整担当)
……待て。さっき視界の端を通り過ぎたあの二人……志摩と神原はどうだ?
5:【冷静のオレ】
ほぉ……? あの、合同勉強会をきっかけに勝手にカップル成立したリア充二人組か。
6:【熱血のオレ】
なるほど!! あいつらをこの班にブチ込めばいいのか!?
7:【中立のオレ】
そうだ。悠・サキ・天宮の三人だと『2大ヒロイン取り合いの修羅場』として周囲から目立ちすぎるが、そこに『成立したてのリア充カップル(志摩&神原)』という一般人(?)の熱量を紛れ込ませる。
8:【冷静のオレ】
[解]表面上は『派閥の枠を超えた仲良し5人組』として完璧にカムフラージュ可能です。さらに、志摩と神原の間に流れる甘い空気が、サキと天宮さんのピリついた殺気を一定数相殺(マイルド化)するクッションの役割を果たしてくれる。
9:【熱血のオレ】
決まりだ!! 元凶を作ったお前ら、責任取って一緒に京都を巡るぞーーっ!!
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「二人とも、ちょっといいか!」
オレは志摩と神原に駆け寄り、事情を説明して班への加入を打診した。
「……はあ!? あたいと神原が、一ノ瀬たちの班に入るだぁ!?」
志摩が顔を真っ赤にして叫ぶ。
「べ、別にいいけどよ……サキさんの邪魔になるのは嫌だし……(チラッと神原を見る)」
「フッ、一ノ瀬くん。僕たちを身代わりのクッションにしようという魂胆ですね? ……まあいいでしょう。志摩さんと一緒に京都の名所を巡れるのであれば、その程度の雑音は甘んじて受け入れます」
神原は眼鏡の位置を直しながら、どこか嬉しそうに口角を上げた。
「「決まりだな!!」」
こうして、「悠・サキ・天宮・志摩・神原」という、カオスと甘酸っぱさが同居する危険な5人班が結成された。
サキと天宮さんも、「まあ、変な虫がつくよりはマシ」「志摩さんと神原さんなら、私と一ノ瀬さんの邪魔はさせませんわ」と渋々ながら納得。
「よし……なんとか班決めの危機は去ったぞ……」
胸を撫で下ろすオレ。だが、京都という非日常の舞台で、この奇妙な5人組が無事に済むはずもなかった。




