18話:オレの決断と中間考査
「オレの答えは——」
教室の誰もが息をのむ静寂の中、オレは二人から逃げずに、その瞳をしっかりと見つめ返した。
「ネットの評価や適当な二択で二人を選ぶつもりはない。サキのことも、天宮さんのことも……ちゃんと自分の目で見て、理解する努力をする。だから、オレに時間をくれ」
「「……っ!?」」
一瞬、二人の息が止まった。
いつも画面の向こうの「正解」ばかり探して右往左往していたオレが、初めて自分の意思で突きつけてきた真っ直ぐな言葉。
「っ~~~! ズルいよ悠……っ! そんな真面目な顔で言われたら、待つしかないじゃん……!」
サキは顔をリンゴみたいに真っ赤にし、照れ隠しのように乱暴に自分のカーディガンを引っ張って俯いた。ギャル服の下から覗くその素顔は、完全にノックアウトされたただのウブな女の子だった。
一方の天宮さんは、一瞬だけ意外そうに目を見開いたものの、すぐに扇子で口元を隠すと、不敵で妖艶な笑みを浮かべた。
「ふふ……いいでしょう。適当なノリで選ばれるより、私の深遠な魅力を余すことなく理解させた上で膝を屈せさせる方が、私にとっても勝利の価値がありますわ」
(ふぅ……なんとか第一関門突破……!)
二人がそれぞれ納得し、胸を撫で下ろしたのも束の間。
ガラガラと容赦のない音を立てて教室の扉が開いた。
入ってきたのは、黒髪のボブショートを揺らし、男勝りな歩調で教卓へと向かう担任の古賀崎先生だった。キリッとしたスーツ姿に、シルバーフレームのメガネ。
古賀崎先生はニヤリと不敵な笑みを浮かべると、メガネのフチをすっと指で押し上げ、レンズを妖しく光らせた。
「はい、全員着席ー。……フン、朝から青臭い牽制のし合いご苦労さん。だがな、お前らに余計な恋のサバイバルをやってる暇はないぞ。来週から中間考査だ。赤点取った奴は居残りで秋の校外学習の参加権ナシ。せいぜい地獄の補習でも受けるんだな」
「「「えええええっ!!!???」」」
教室に悲鳴が吹き荒れる。だが、オレの周囲だけは別の意味で温度が急上昇していた。
「……中間考査、ですか」
天宮さんの目が、キラーンと目ざとく光る。
「一ノ瀬さん。我が『天宮派』は学年上位の優秀な人材が集まっております。放課後は放課後で、我が家が経営する静謐な図書館の自習室を貸し切りで手配いたしましょう。私が付きっきりでマンツーマン指導をして差し上げますわ」
「はぁ!? ちょっと待ちなよ天宮っち!」
サキが即座に割り込む。
「悠は堅苦しい図書館なんかより、ファミレスでドリンクバー飲みながらワイワイやる方が集中できるタイプだし! 『黒木派』のみんなでノート持ち寄って対策プリント作ってきたから、あたしたちと一緒に勉強しよ、悠!」
「まあ粗暴ですこと。騒がしいファミレスで集中などできるはずがありませんわ」
「はあ!? あたしたちの集中力舐めてんの!? 楽しむ時は楽しむ、やる時はやるのがあたしたちのやり方なんだよ!」
(また始まった……っ!!)
「理解する努力をする」と言った直後に突きつけられた、「静寂のインテリ図書館」vs.「賑やかのギャルファミレス」という過酷すぎる勉強会アピール合戦。
「一ノ瀬くん! 天宮さんと一緒に勉強して学年上位目指そうよ!」
「悠ー! サキさんと一緒に勉強した方が絶対楽しいって!」
古賀崎先生の仕掛けた爆弾によって、それぞれの背景に控える「天宮派」と「黒木派」のクラスメイトたちまで参戦し、教室はあっという間に「テスト勉強の場所」を巡る代理戦争の呈をなし始めていた。
(自業自得とはいえ、悠長に時間をかけて理解してる暇なんて一秒もなさそうだぞこれ……!!)
こうして、中間考査という新たな戦場を舞台に、オレを巻き込んだ二大派閥のドタバタな前哨戦が幕を開けたのだった。
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いい加減ストックが切れましたので、後身ペースを落としていきます。
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