16話:泥沼の三者会談と、二択の選択肢
「お前……昨日邪魔されたの根に持ってるだろ?」
サキがスプーンを握りしめ、ジト目で向かいの席を睨みつける。
天宮さんは日傘を優雅に膝の上へ置き、完璧なお嬢様スマイルのまま微動だにしない。
「あら、何のことかしら? ですが……もし黒木さんが『デートを邪魔された』とお思いなら、昨日の件とお相子ですわ」
「やっぱり根に持ってんじゃねーか!!」
ドカンとテーブルを叩くサキと、優雅にお冷を口に含む天宮さん。
陽の光が心地よく差し込むオシャレなカフェの一角だけ、まるで局地的な台風でも発生したかのような異様な空気に包まれていた。
(や、やばい……完全に挟み撃ちだ……)
オレは二人の間に挟まれ、身を小さく縮こまらせる。巨大なカップルパフェの生クリームが、冷戦の熱気で心なしか溶け始めていた。
天宮さんは一口満足そうに息を吐くと、オレへと視線を向けた。
「それより一ノ瀬さん。土日の二日間、私とサキさんそれぞれと共に過ごしてみて……あなたの『将来の伴侶』となるのはどちらか、お心は決まりましたの?」
「ブッ……!!?? ちょ、ちょっと待て待て!! なんで高校生のオレが『将来の伴侶』とかいう重すぎる話に巻き込まれてんだよ!?文化祭で頑張った二人への感謝の気持ちって話じゃ——」
「あら。我が家の伝統と格式に則れば、入籍自体は法の定めに従うとしても、婚約の契りを交わすことは今すぐにでも可能ですわ」
「そういう問題じゃねぇだろ天宮!? だいたいあたしは、そんな重い束縛なんかしないっつの!」
サキが身を乗り出して抗議すると、天宮さんは扇子で口元を隠し、不敵に目を細めた。
「あら。では……私と彼が浮気をしたとしても、容認してくださるのかしら?」
「ああん!? んなわけねぇだろ!! 浮気したら即・特攻服着てお仕置き決定だわ!」
「ふふ……サキさんは純粋で健気ですのね。私は……甲斐性の証として、愛人の一人や二人くらいなら包容力として認めて差し上げますけれど。サキさんは二号さんでも……」
「いやちょっと待ってくれ二人とも!! オレの意思はどこ行ったんだよ!? なんで当然のように『天宮さんかサキの二択』前提で話が進んでんだ!?」
あまりの暴論にオレが思わずツッコミを入れると、天宮さんは不思議そうに首をかしげた。
「おや、一ノ瀬さん。私やサキさんほど魅力にあふれる女性が、将来含めてあなたの前に他に現れるとでも?」
「え……?」
オレの思考が不意を突かれてフリーズする。
……言われてみれば、容姿端麗で伝統芸能の雅を体現する超絶お嬢様と、圧倒的な行動力と気配り上手さを兼ね備えた可愛すぎる元総長ギャル。そんな二人に迫られている現状自体、ネットのラノベでもお目にかかれない特大のフィーバー状態だ。
「お、何だ天宮……あたしのこと、認めてくれてんのか?」
サキが照れくさそうに頬を掻くと、天宮さんはハッと正気に戻ったように顔を背けた。
「……っ!? そ、そういう意味ではありませんわ! 比較対象として引き合いに出しただけで——」
「なんだよー、素直じゃないねぇ! 可愛いところあるじゃねえか!」
「粗暴なあなたに褒められても、これっぽっちも嬉しくありませんわ!」
顔を真っ赤にしてそっぽを向く天宮さんと、からかうようにニシシと笑うサキ。
(ヤバイヤバイ……オレにはこの二人によるハイレベルなバトルに介入して止める力なんて、これっぽっちもないぞ……!)
「あ、あの……とりあえずパフェ溶けるから食べない……?」
オレの必死の提案は、二人の甲高いやり取りの音波にかき消され、秋のカフェの空中に虚しく消えていくのだった。




