15話:日曜日の陽だまりと、招かれざる相席
日曜日の午前十時。指定された駅前の時計塔の前で待っていたオレは、遠くから歩いてくる人物の姿を見て、思わず目を丸くした。
「……悠! お待たせ、遅くなっちゃってごめん!」
駆け寄ってきたサキの服装は、昨日の暴走族総長としての特攻服姿どころか、普段のド派手なギャル服ともまるで違っていた。
露出の少ない柔らかい素材のニットに、清楚なロングスカート。淡いパステルカラーでまとめられたそのファッションは、どこからどう見ても「おしとやかで可愛らしい普通の女の子」そのものだった。
「サ……サキ……? その格好……」
「あ、やっぱり変かな……? えと……昨日の悠の報告タイムライン見てたら……『天宮さんの清楚系は悪くない』みたいな報告もあったし……そういうのが好みなのかなって……」
上目遣いにオレの顔色を窺いながら、もじもじと裾を弄るサキ。
気合を入れてギャップを演出してきたというより、オレの好みに合わせようと昨日のオレの報告をチェックしてめちゃくちゃ気を遣ってくれた結果なのだと分かり、オレの心臓は跳ね上がった。
(やばい……破壊力が凄すぎる……!)
「変じゃない! すごく……似合ってる」
「……ホント? ふふ、よかったぁ」
安堵したように胸を撫で下ろし、華奢な肩をすくめて笑うサキ。その無防備な可憐さに、オレは猛烈な緊張と照れくささを隠せなかった。
◇
「よしっ! それじゃあ予告通り、今日はカフェ巡り行くよー!」
サキがスマホの画面を見せながら先導してくれる。
あらかじめ完璧すぎるルートと裏の情報網でオレを追い詰めてきた昨日の天宮さんとは違い、サキのデートコースは、彼女が事前にスマホで必死に調べてくれたと思われる口コミ情報を頼りにした手探りのマップだった。
オレも『ご意見番』の習性で、事前に周辺の有名カフェのデータはすべて頭に叩き込んであった。
だが、サキと一緒に歩く街は、ネットの口コミや星の数といった数値データには一切載っていない「予想外の楽しさ」に満ちあふれていた。
「あ、悠! 見て見て、この路地の奥に小さなお店ある! ネットに出てなかったけど超美味しそうじゃない!?」
「本当だ……ちょっと入ってみるか」
データ化されていない、二人だけの時間と発見。
不意に手と手が触れ合うたび、不覚にも胸がキュッと締め付けられるようなときめきを覚えてしまう。
サキは大の甘党で、お店に入るたびに嬉しそうに目を輝かせた。
そして何より、お店のスタッフや周りの客へさりげなく見せる「自然な気配り」が凄まじかった。水が減っていればサッと目配せをし、狭い店内では他人に道を譲り、場の空気を柔らかく和ませていく。
「サキって……本当に周りをよく見てるよな。その場を自然にコントロールして盛り上げる立ち回り、マジで尊敬する」
オレが心からの感心を口にすると、サキはシフォンケーキのスプーンを止めて、パチグリと目を丸くした。
「……え?」
「あ、いや……出しゃばったこと言ってごめん」
「ううん! 違うの! ……ただ、あたしが無理して場を仕切ってるんじゃなくて、気遣いとしてやってるって気づいてくれたの……悠が初めてだったから」
サキは嬉しそうに、けれどどこか照れくさそうに瞳を潤ませて微笑んだ。
レディースの総長として場を支配する腕前も、この深い気配りと観察眼があってこそなのだろう。オレは改めて、黒木サキという少女の底知れない魅力を思い知らされていた。
◇
「ねえ悠! 次のお店、カップル限定の『特大ペアパフェ』があるんだって! 一緒に食べよ!」
「へ……!? カ、カップルパフェ……!?」
二軒目に入った、陽の光が心地よく差し込むおしゃれなガラス張りの喫茶店。
サキからのストレートすぎる提案に、オレの思考は一瞬で硬直した。
「ダメ……かな?」
「ダ、ダメじゃないです! 食べましょう!」
サキの上目遣いなおねだりにあっけなく敗北し、注文を済ませる。
運ばれてきたのは、色とりどりのフルーツと生クリームが山盛りになった、一つの巨大なグラス。そこに挿された二本のストローとスプーン。
「ふふ、美味しそうだね悠! はい、あーん……」
「あ、あーん……!?」
真っ赤になりながらスプーンを差し出してくるサキ。甘酸っぱい空気と至近距離の吐息に、オレの脳みそが限界を迎えてフリーズしかけた——まさにその時。
「まあ、随分と賑やかなお席ですことですわね」
涼やかで、氷のように冴えわたる声が、テーブルの脇から落ちてきた。
「「……え!?」」
オレとサキが揃って顔を上げると、そこには——上品な日傘を優雅に畳み、完璧なお嬢様スマイルを浮かべた天宮莉央が、当然のような顔で立っていた。
「天宮っち!? なんでここに……!?」
「ふふ、お出かけの途中で偶然お見かけしましたの。……奇遇ですわね、一ノ瀬さん。せっかくですから、私も相席させていただいてもよろしいかしら?」
拒否権など端から与えない威圧感とともに、天宮さんはすっとオレの隣の席へ滑り込んできた。
(絶対昨日のことを根に持ってるだろコレ……)
日差しが降り注ぐカフェの真ん中で、二大ヒロインによる新たなバトルの火蓋が、再び切って落とされたのだった。




