14話:押忍!特攻暴走卍天使の黒妃!
境内の重厚な静寂から一転。バイクの爆音と排気ガスの匂いが充満する高架下に辿り着いた途端、オレの全身からだらだらと嫌な脂汗が吹き出した。
「姐さん、カチコミ乙っす!!」
「天宮の神域から強奪完了っすね! 流石総長、カッケェ!!」
ずらりと並んだド派手な改造バイクと、特攻服に身を包んだ鋭い眼光の少女たち。
さっきまでの神道と伝統芸能の厳かな威圧感とは180度違う、暴力的で生々しい威圧感がオレを押し潰しにかかってくる。
「まったく……お前ら、また急に弾けることになっちまって済まねぇな」
サキは特攻服の襟を正しながら、集まったメンバーにぽんと頭を下げた。
「やめてくださいよ総長! アタイら総長の頼みなら火の中水の中っすよ!」
「ところで……そこの、見るからに情けなさそうな奴が、噂の姐さんの恋人っすか?」
ニヤニヤとした視線が一斉にオレに集中する。
(ひ、ひぇっ……!!)
逃げ場のない集団の視線に晒された瞬間、オレの脳内にはまたしても勝手に『脳内Xスレッド』が錬成され始めた。
----------
【匿名暴走族A】@yankey_guard
【朗報】暴走族総長の男、見た目が弱すぎて草www
└ 引用ツイート 52件 / リツイート 110件
【匿名ヤンキーB】@Biorensu_high
いつまでサキさんに抱き着いてんだゴミが。そこ退けアタイが代わっちゃるわ!
└ 引用ツイート 32件 / リツイート 99件
【通りすがりのギャルC】@galforce_Walkthrough
こんなもやし男のどこが良いんだよwww総長目覚ませwww
└ 引用ツイート 108件 / リツイート 256件
----------
脳内で跳ね上がる数字と、リアルで取り囲むレディースたちの嫉妬と羨望が混ざり合った悪意。あまりの恐怖にオレは体を丸めて縮こまることしかできない。
だが、サキはそんな空気の乱れを一瞬で見逃さなかった。
「ああん? なんだお前ら、あたしの面に恥をかかせるつもりかい!?」
サキが静かに、しかし地鳴りのような低い声を張ると、場が一瞬で凍りついた。
(いったいどこからそんな声が出るのか……)
「悠がビビってんのは、お前らのツラが厳いからだろ! あたしが『この男がいい』って決めたんだよ。なんか文句あんのか? あたしの眼力に泥塗るような度胸がある奴、この中にいねーよな!?」
ヘイトの矛先を巧みに自分への『忠誠心』へと誘導し、一瞬で場の空気を統制してみせる鮮やかな手腕。
「あ、アタイらそんなつもりじゃ……っ!」
「総長の男なら、アタイらにとっても特別なアニキっす!」
「解散っ! 明日の総長のデートの邪魔すんな! 撤収ーーッ!!」
サキの一言で、さっきまでの威圧感が嘘のようにレディースたちは爆音とともに去っていった。まさに、情報戦ではなく「現場の空気」を支配するカリスマの技だった。
「……ふぅ。驚かせてごめんね、悠」
静かになった高架下で、オレは息を整えながら必死に頭を下げた。
「あ、ありがとうサキ……助かった。天宮さんの結納も怖かったけど、正直さっきのも寿命が縮んだよ……」
「……ほんと、情けないんだから」
サキはくすりと笑うと、羽織っていた特攻服を脱ぎ、丁寧にはたいてバイクのシートに畳んで置いた。
その下から現れたのは、ダボついた特攻服に隠れていた、繊細な少女の肩だった。
汗ばむ褐色の肌、近くにいると感じ取れるほのかな体温。
「あのさ……悠」
サキは視線を足元に落とし、自分の爪を弄りながら、蚊の泣くような小声で呟いた。
「明日は……ちゃんと、普通の女の子としてのデート……してくれよな?」
「……え?」
「だからっ! 暴走族とか総長とか、そういうの一切ナシ! 普通の服着て、普通の街で、普通の高校生みたいに……悠とデートしたいのっ! 恥ずかしがらせないでよバカ!!」
顔を真っ赤に染め、今にも消え入りそうな声で訴えてくるサキ。
(……は??)
さっきまでバイクを乗り回し、ヤンキーたちをひと声で黙らせ、伝統ある神社からオレを強奪していったあの圧倒的な「総長」はどこへ行ったのか。
目の前にいるのは、ただ好きな男(?)の前に立って赤面している、あまりにもウブで可憐な一人の女の子だった。彼女はやはり、その場を支配するために気を使いすぎていただけなのだろう。そして、オレの前でだけうっかり覗かせた彼女の本性が、こうして垣間見えるのだ……。
天宮莉央の悪魔的な戦略と権威。
黒木サキの圧倒的な行動力と、その裏にあるギャップすぎる素顔。
「普通の女の子」という言葉の重みに脳を殴られながら、オレは明日に迫る「日曜日デート」の予感に、再び猛烈な目眩を覚えるのだった。




