↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔優等生と天使ギャル ~不器用と狡猾な二人とSNSジャンキーなボク~  作者: 黒船雷光


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/41

10話:暗闇の灯火、泥臭い手引き

「暗くたって関係ないし! 暗闇カフェってことにすれば超映えるじゃん!」

 静まり返っていた暗闇の教室に、けたたましくも頼もしいサキの声が響き渡った。


 サキはポケットからスマホを取り出すと、ライトを天井に向けて点灯させた。幾重もの光が教室をうっすらと照らし出し、暗がりで固まっていた客たちの顔に少しずつ生気が戻っていく。


「みんな、自分のスマホのライト点けて! テーブルの真ん中に置いてみて! ほら、なんかエモいBARみたいでテンション上がんない!?」


 サキの天性の明るさと強引さに引きずられるように、ギャル組のメンバーや客たちが次々とスマホのライトを掲げ始める。教室の中に、幾つもの温かい光の柱が立ち上った。


「パニックは禁物ですわ。全員、持ち場についてください!」


 続いて響いたのは、天宮の凛とした通る声だった。彼女はすでに行動を開始していた。


「手動の電卓と紙のメモ帳を回収しました。会計はすべて手書きで記録し、二重チェックを行います。サキさん、メニューを限定して手入力でさばけるものだけに絞りましょう!」


「オッケー天宮っち! メニューはシンプルにアイスコーヒーと焼き菓子セットのみ! 手書きメモで爆速で回すよ!」


 現場が息を吹き返していく。


 デジタルが死んだなら、アナログでやればいい。


 データの最適化などなくても、人間には知恵と度胸とチームワークがある。クラスメイトたちも「自分にもできること」を見つけ、手探りで、しかし確実に一丸となって動き始めた。


 その熱気と団結の輪の真ん中で、オレだけが完全に置き去りにされていた。

(オレは……何もできなかった……。画面がないと、何の価値もない……)


 脳内で渦巻いていた悪意のスレッドは少しずつ収まっていったが、代わりに残ったのは途方もない自己嫌悪と敗北感だった。膝に置いた手は震えたままで、立つことすらできない。


 その時、眼前にすっと人影が立った。


「……悠」

 メイド服のサキだった。汗で額に髪を張り付かせ、息を荒らせながらも、その目はまっすぐにオレを見つめていた。

「なに足止めてんの。あたしたち、超忙しいんだけど」


「サキ……でもオレ、配線も直せないし、アプリも動かないし……リアルじゃ何もできない……」

 自虐的に目を伏せるオレの額に、ペチッと軽い衝撃が走った。サキが指でデコピンをかましたのだ。


「バッカじゃないの。画面ばっか見てないで、あたしのこと直接見なよ」

 サキはニッと八重歯を見せて笑い、俺の手を強引に掴んで立ち上がらせた。


「数字とかアプリとか、そんなの最初から知らんし! あたしが頼りにしてんのは、あたしたちのために必死に準備してくれた悠でしょ!」


「……一ノ瀬さん」

 反対側から、天宮が歩み寄ってきた。彼女は手帳とペンをオレの手に押し付ける。


「データの検索なら誰だってできますわ。ですが……今ここで、私と一緒に困って、汗をかいてくれる『あなた』が必要なんです」


 天宮の瞳には、一切の失望も冷たさもなかった。あるのは、ただ一人の仲間としてオレを必要とする強い意志だけだった。


「……っ」

 画面の向こうの不特定多数の評価でもなく、アルゴリズムが弾き出したデータでもない。

 目の前で生きている二人の少女が、泥臭く泥沼に足を突っ込みながら、オレの手を引いてくれている。


「……紙のメモで、注文のカウントと集計なら……オレでもできる」


「よっしゃ! それで十分! 行くよ悠!」


「手伝っていただきますわよ、我がクラスの『優秀な』システム担当」


 オレは震える手でペンを強く握りしめた。

 画面上の数値ではなく、目の前の人間の声を聞き、手帳に文字を書き走らせる。


「アイスコーヒーふたつ!」「了解、手書きメモ通した!」「会計、電卓で四百円!」


 不器用で、非効率で、泥臭い作業。


 けれど、クラス全員で声を掛け合い、手動でトラブルを乗り越えていく空間の温もりは、オレがこれまで画面の中で感じていたどんな「全能感」よりも、遥かにリアルで、誇らしいものだった。


 文化祭の喧騒が夕暮れの赤に染まっていく中、オレは初めて、自分の足で現実の現場に立っている実感を噛みしめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。