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世紀末な後始末  作者: 柊隼凌
第1章 赤の巫女
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#8 毒を以て毒を制す

『回復だけでも奇跡の話なのに、、遠目からその効果を出せるなんて、、ちなみに師匠の回復の効果ってどれくらいですか?』

『ワシの祈祷で回復力の効果が出るのは恐らく畳1枚程度、医者が手術してるようなイメージすると分かりやすいかの』

『そう考えると別格ですね、、』

『うむ、その日以降、笹岡くんはあちを命の恩人として見ておるし集落の皆もあちのことを神の子なんて呼んだりもしておってな』

『そう言えば軍の方の支給品、子供たち向けのお菓子の他にあちだけが反物を個別に受け取ってましたけどそれも何か特別扱いの要素の1つだったり?』

『軍があちに別途で伺いを立てたとかはないがの、あちが軍におねだりをする事に集落の皆が口を挟むことはしないじゃろうな』

『元々お医者様って職業地位高い事を考えたら皆が敬うのは当然と言えば当然か、、』

『まぁの、、勿論、ワシの孫として皆から愛され敬われその能力(ちから)が多くの人を救えるというのは鼻の高い話じゃ誇りに思う。ただやつもまだまだ幼い。変に自身の能力(ちから)を過信しすぎてしまったり、危険な事に麻痺をしてしまってるような気がしておっての、、』

『正直ワシも孫は可愛いから甘やかしてる部分も多いじゃろうて、、』

『んー、、なんて言えばいいか、、1つ言えるのは、あちはとてもいい子ですよ!』

『そうじゃな。ワシが近くで見守ってればいい話、悩んでも仕方ないかも知れんの。ジジイの話に付き合わせて悪かったの、明日の榊取りには笹岡くんにサポートも頼んでおる。無理だけはしないようにな』

『師匠、了解!』


家族っていいな。窓から見える月を見ながら俺は眠りについた。


あくる日、普段よりも早めに目が覚め、境内の掃除を済ませ榊取りの支度を整える。農業班から背中に背負えるタイプの籠を貸してもらった。ノコギリや剪定バサミのような便利な物はなく、笹岡さんから軍で使ってるという特殊ナイフを貸してもらった。ロープを切ったり対刃素材にも強く、獲物を捌いても脂が付きにくく錆びにくい1品らしく長めのウンチクを聞かされた。


榊の生息地はさほど遠くなく、1番近くの狩猟ポイントまでと大体同程度の時間で辿り着けるとの事。パーティは笹岡さんをリーダーとして俺とあちのスリーマンセルになる。


『あちちゃんが居るからこれはもう遠足だな!』


笹岡さんが嬉しそうにしている。師匠が聞いてなくて本当に良かった。


『えへへへ、任せてね』


あちも満面の笑みだ。俺の役割は採取した榊を守る荷物持ちだ。ちゃんとプライドを持って仕事する予定!


『では先頭は俺、3m位離れて2人は着いてきてくれ』

『了解です』俺とあちの返事がハモっていた。


狩猟ポイントまでの道とは別方向でほぼ開けていない針葉樹林を登っていく。榊の葉は定期的に採取する為、目印のとして木に目立つような傷が付けられていてそれを辿るように進んで行った。


針葉樹林が多く生えるエリアは木の実や果実の実る木はほぼ無く、それらを餌とする動物たちも寄ってこない場所なのだと教えてもらった。


『りゅとー!』


笹岡さんもすっかりリュトと短縮して呼ぶ。あちの呼び方が周りに浸透していってるらしい。


『キノコを見つけても拾って食うなよなー!あははははー!』


笹岡さんは本当に楽しそうだ。


『俺はあちと違って食い意地は張ってませんよ!』

『むぅ、、』


ポカポカポカポカ

並んで歩いていたあちからの連打を受けた。


『着いたぞ!ここが榊の生息地だ』

『おぉぉ、思ったより全然近い』

『ね!楽勝でしょ』


3人で手分けして榊の葉を集める。榊は枝を長めに残し採取する。そのまま土に植えれば比較的育ち安いとの事で境内にも2本ほど実は植えてある。ただ今回の交通手段用としては足りない為、採取する必要があったのだ。


『よし、籠ももういっぱいだ!』

『任務完了ー!わーい!』


あちが得意げに言う。


『帰るまでが遠足だって先生に教わらなかったんか?』


俺が茶々を入れてみたがあちは何食わぬ顔で


『お腹すいたから早く帰ろー!』


と2人を呼びながら小走りで山を降り始めた。


『ちょ、あちちゃん走ったら危ないよ!』


笹岡さんの静止を聞かずに軽やかに降りていく。


『笹岡さんも私の事、子供扱いしすぎだよー』


スキップをするかのように楽しそうに先導していく。

俺は背中の背負った籠の重みと榊の葉が他の木に当たらないように広めのスペースを探しながら降りていたので1番後方を進んでいた。


『きゃーーーーーーー!!!』


前方で叫び声!!


『あちちゃん!!』


笹岡さんの声も響く!

俺からは2人の姿が確認出来ない。背中の籠を放るように投げ置き、前方に全力で駆け出す!


直ぐに2人の姿が確認できた!座り込むあちを心配そうに笹岡さんが支えて寄り添っている。


『あち!?どーした!?』


あちの代わりに笹岡さんが答える。


『どうやら蛇に噛まれたらしい、、』


座り込んだあちの顔は青ざめ、発汗し小刻みに震えも出ている。すぐ近くに笹岡さんがナイフで仕留めた蛇の死骸。俺はあちの足の裾を捲り上げ、噛まれた傷を確認し毒を吸い出そうと口を近づける。


『待て!りゅと!』


ギリギリで止まる俺。


『毒を急いで抜かないと!!』


笹岡さんは首を横に振り


『俺の能力(ちから)でわかる。口での吸出しはさほど効果は無い。むしろ感染症を引き起し危険だ、、』

『このまま俺はあちを抱えて山を降りる!りゅとは榊の葉を必ず持って降りろ!すまんが先に行く!』


そう言って笹岡さんは直ぐさまあちを抱え下山しに駆け下りて言った。

俺は自分がアニメだか漫画だかで覚えた知識の危うさを知り恥なのか悔しさなのか分からないモヤモヤとあちよりも榊の葉を守らなきゃいけない歯痒さに苦しみながら2人の後を追った。


集落が近づいた辺りで前方から草笛?甲高い音が3回鳴る。後から知ったが緊急事態の合図として3回の草笛を鳴らしたようだ。

息を枯らしながらやっとの思いで下山。境内に数人が集まり御社殿の中を心配そうに見守る。


背中の籠を急いで降ろし、皆をかき分けながら拝殿に飛び込む。


『あちっ!!!』

『りゅと!無事帰ったな!』笹岡さんだ。

『あちは?あちの様子はっ!?』

『心配ない、雪舟さんが数分前から祈祷してくれてる。血清があれば1番良かったんだが雪舟さんの祈祷なら問題ないはずだ』


祈祷の邪魔をする訳にはいかない。流行る気持ちを抑えつつズボンを握りしめ何も出来ず祈祷を見守る。


30分ほど続いた祈祷は終わり、翁が腰を降ろす。


『師匠!あちは、、』

『大丈夫じゃ、顔に生気も戻っており熱も下がりだした。医学的な数値での根拠こそ無いが毒素は消えたはずじゃ』

『良かった、、』皆も口々に安堵の声をあげた。

『雪舟さんすまねぇ、俺が付いていながら、、』

申し訳なさそうに笹岡さんが頭を下げる。

『お主のせいでは無い。山に入るということは誰しもが危険が伴う。ワシやあちでもそれは同じじゃと言うことだ』


暫く拝殿に寝させたままあちの看病をした。かすり傷で1晩の回復効果、祈祷で回復力を高めたとはいえ蛇に噛まれたケースでの事例はまだ無かった為、師匠も心配そうな表情が続いた。

あちは翌朝まで眠り続け、朝には意識が戻りまだ起き上がれはしないものの、果汁などは口にでき会話も出来るほど回復していた。


『じっちゃ、ごめんね。りゅとも心配させちゃって、、』

『大丈夫!まだ無理して喋らなくていい』

『あち、良い勉強になったな。ワシ含め皆に言えることじゃがな』


あちは布団を被りシクシクと泣いていた。


『りゅと、遅くなったが榊の葉ご苦労じゃったな』

『…。俺は何も役に立てませんでした、、』

『何を言うか、3人とも無事に下山し当初の目的の榊の葉も十分集まった』

『…。』


言葉にならなかった。


山での知識やトラブルへの対処手段の無さ、幼児化含め身体の基礎的な力の無さ、俺はただの本当に荷物持ちでしか無かった。悔しさで床を殴る。


『あちの無事がほぼ確定したから言える事じゃが、いい経験になったと思う。ワシらの脅威は食糧難や危険区域の化物とかでは無く、未だよくわからぬまま使っている能力(ちから)への慢心だったり日々の油断、身近なところにまだまだあるのじゃ』

『そうですね、、俺自身何も想定すら出来てなかったし、緊急事に出来ることの選択肢を増やす準備も何も考えつかなかった。運ぶ為の籠や枝を切るナイフばかりに意識があって、山の危険さや山での人の無力さとか、、何も考えずに今までずっと、、』


悔しくて涙が止まらなかった。

多分、あちよりも俺は泣いていた。


3日であちは普段通りに動けるようになった。足の傷もすっかり消えたそうだし、食事も普段通り出来るようになっていた。


『あち!』『りゅと!』


2人の声が交錯する。


『あ、ごめ、、』『ど、どうぞ』


再度の交錯。


『りゅとから言って!!』

『あ、、んと、、強くなりたい、、』

『私、、何も出来ない子供のままだった』

『いや、あちは急遽毒を食らったんだし、毒さえ無ければどうにか出来る力はあるはずだよ!それに比べて俺は何一つ出来ること無かった、、根拠の無い知識であちを更に危険な状態にするかも知れなかった、、』


暫しの沈黙


『何かさ、私こないだじっちゃんに怒られたじゃん。この事だったんだなぁって、、不思議な力を手に入れてさ、浮ついてたんだなって気づいたの』

『うん、、』


肯定でも否定でもない空返事


『私は自分の弱さをこれからは絶対に忘れないようにする!』


前向きな言葉を口にしたあちを見て俺はこの子がこれからもっともっと皆に慕われる巫女さんになった時の姿が目に浮かんだ。


『俺も早く何かみんなの役に立てるような能力(ちから)とかじゃなくてもいい、技術や知識、、何でもいい、』

『うん、一緒に頑張ろうね!』

『ワンッ!!』


ぺとが俺もと言わんばかりに元気よく返事をした。


読んで頂きありがとうございます!

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