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世紀末な後始末  作者: 柊隼凌
第三章 運命の綻び
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#50 石のテーブル

『ヘーラー様ぁ!緊急報告です!!』


黄金宮にイーリスの声が響いた。


普段ならもう少し落ち着いて話す彼女が、珍しく息を切らしている。


ヘーラーは顔を上げた。


『どうしたのよ』


『アジア支部管内で、封印反応の大規模な変化を確認しました!』


『封印?』


イーリスが慌てて観測結果を表示する。


地球全体を細かく見ている訳ではない。

そもそも神々であっても、下界で起きる全てを一人一人追いかける事など出来ない。


だが、以前からアジア支部管内には注意を向けていた。


その中で、一つだけ明らかに異常な反応が浮かび上がっていた。



挿絵(By みてみん)



ヘーラーの表情が変わる。


『……これ、まさか』

『照合します!』


イーリスが記録を確認する。


数秒。


それだけで十分だった。


『一致しました』

『名前は?』


『平将門です』



挿絵(By みてみん)



その瞬間、ヘーラーの顔から完全に笑みが消えた。


『完全復活は絶対に阻止しなさい』

『やはり、それほど危険なのですか?』


『危険なんてもんじゃないわよ……』



平将門。



天界では、特異点として記録されている存在。

神々ですら、その存在そのものを消す事が出来ない。


理由は単純だった。

平将門という存在は、魂を介して成立していない。


通常の生命とは違う。


死ねば魂が残る。

魂を処理し、転生させる。


そういった天界側の仕組み、その全ての外側にいる。


『つまり……』

『倒したとしても終わらない。消せない。だから封じるしかないのよ。一言で言えばバグね…』


イーリスの顔も真面目になる。


『完全復活した場合は?』

『手に負えない』


『ヘーラー様でも?』

『神々の力を持ってしてもよ』


短い言葉だった。


だが、それだけで十分だった。


イーリスはすぐに別の記録へ視線を移す。


『では、アヌビス様に対応を――』

『そうよ!アヌビスは何してるの!?』


イーリスが確認する。


しばらく無言…。


ヘーラーが嫌な予感を覚える。


『……イーリス?』

『えっとぉ……まだピラミッドですね……』


『まだ!?』


思わず鼻が垂れるヘーラー。


『はい…』

肩を震わすイーリス。



『あなた…もしかして笑ってない?』

『ギッ……ググ……そ、そんなわけっ!!』


イーリスは傍にあったヘーラーの飲みかけの紅茶を手に取り一気に飲み干す。


『ほ、本人は至って真面目に脱出を試みているようです!!』


『あいつぅぅ……』


イーリスは少しだけ目を逸らした。


『方向音痴なので(ボソッ)』

『んな事は知ってるわよっっっ!!!』


天界にヘーラーの声が響く。


だが笑っている場合ではない。


『単独脱出は?』

『困難かと』


『……マアトを向かわせなさい』

『了解しました』


マアト。


真理、正義、秩序を司る女神。


アヌビスの審判に用いられる真理の羽、その象徴でもある。


マアトは審判を支える存在であり、彼の行動基準にも深く関わっている。


そして何より――。


『マアトなら迷子を回収出来るでしょ』

『もうはっきりと迷子認定しちゃいましたね…』


『仕方ないでしょ!』


イーリスはそれ以上何も言わず、マアトへの連絡を進めた。


『それとアマテラスにも協力を要請しなさい』

『テラちゃんですね!思念伝達を試みます!』

『……』



イーリスが目を閉じる。


少し待つ。


『…………』

『どう?』


『反応ありません』

『もう一回』


『はい』


再び思念を送る。


『…………』

『どう?』


『反応ありません』


ドンッ!!

ヘーラーは目の前の机を力任せに叩く!


そして無言で小さなハンドベルを顕現させ手に取った。


チリン。


『…………』


チリン、チリン。


『…………』


チリンチリンチリン。


イーリスが静かに言った。


『反応ありません』


『キィィィィィッッ!!』


手に持つハンドベルを振りかぶりイーリスを睨みつける。


その頃。


アマテラスは耳栓をして寝ていた。


あちの神楽鈴対策である。



―――――



《地上 旧関東地区》



闇のフクロウのアジト。


前回捕まえた牛と豚を使い、りゅと達は食事の準備をしていた。


『どこで食べる?』


闇のフクロウが周囲を見回す。


『僕は別にどこでもいいけど』

『私もうお腹ぺこぺこ……』


『わっちもじゃ…』


キュエーンが辺りを見回した。


せっかく四人で食べるにしては何とも味気ない場所。


すると、りゅとが少し離れた所に横たわっている大きな石を見つけた。


『これ、使えそうじゃない?』


近付いてみる。

大きくて平たい石。


正確には碑石だった。


だが千年もの風雨に晒され、角は丸く削れ、表面もほとんど判別出来なくなっている。


何かが彫られていた面影だけはある。


文字か。

模様か。


それすら分からない。


『なんか書いてある?』


あちが顔を近付ける。


『読めないね』


闇のフクロウ、フクちゃんも覗き込む。


フクちゃんの目に魔法陣が現れるが…


『僕にも無理…』

『わっちにも分からん』


石像や墓石のようにも見えない。


そもそも、元々何だったのかすら分からない。


碑石は核ミサイルの爆風にも負けず、そのまま長い年月そこに横たわっていた。


今の四人から見れば、ただの古い石だった。


『これならテーブル代わりになるんじゃない?』


『ちょうど良さそう!』


数人で食事をするには高さも広さも悪くない。

四人は力を合わせ、碑石を少し移動させた。


その瞬間!


誰も気付かない場所で、何かが解けた。



―――――



『反応が強くなっています!』


イーリスが声を上げた。


ヘーラーが振り返る。


『どのくらい!?』

『先程より明確です!』


封印が弱まっている。


いや。


もう、ほとんど消えている。


『完全復活する前に何とかしなさい!』

『ですが、現地へ直接干渉出来る神が――』


『だからテラちゃんをを呼んでるのよ!』


『反応ありません』

『あのオタンコナス……』


ヘーラーは頭を抱えた。


アヌビスはピラミッド。


アマテラスは無反応。


平将門は完全復活へ近付いている。



『なんでこういう時に限って全員使えないのよ……!』



―――――



その頃、りゅと達は楽しく食事をしていた。


碑石の上には料理が並んでいる。


牛肉。

豚肉。

焼いた物。

煮た物。


『美味しい!』



挿絵(By みてみん)



あちは幸せそうに頬張っている。


『僕、これ好きかも』


フクちゃんも気に入ったらしい。


『わっちはこっちの方がよいのぉ』


キュエーンも箸を伸ばす。


りゅとも黙々と食べる。


四人の誰一人として、自分達が今、平将門の封印を解いた張本人だとは思っていない。


それどころか、目の前の石が封印に関係している事すら知らない。


ただの便利なテーブル。


それだけだった。


食事はしばらく続いた。

腹も満たされ、片付けが始まる。


『これどうする?』


りゅとが碑石を見る。


『元の場所に戻しとけばいいんじゃない?』

フクちゃんが答える。


『邪魔になるかもしれないし』

『そうだね』

『わっちもそれでよいと思うぞ』


四人は再び碑石を持ち上げる。


そして、元々倒れていた場所へ戻した。


ゴトン。


石が地面へ置かれる。


ただそれだけ。


だった。


―――――


『あれ??消えました!!』


イーリスが声を上げた!


『ほへ?』


『反応が……消えました』


ヘーラーが画面を見る。


確かに。


先程まで異常なほど強く出ていた平将門の反応が、綺麗に消えている。


『…どういう事?』

『さぁ?』


『アヌビス?』

『まだピラミッドです』


『マアトは?』

『向かっている途中です』


『テラちゃん?』

『反応ありません』


『じゃあ誰よ!?』

『さぁ?』



イーリスも分からない。


完全復活へ向かっていた特異点。


それが突然、元の封印状態へ戻った。

ヘーラーは少し考えた後、顔を上げる。



『今の周辺、見られる?』

『範囲を絞れば』


『見なさい。誰かが何かしたはずよ』

『確かにっ!』


イーリスが観測範囲を絞ろうとした。


その時だった。


天界に別の通知が響いた。


ヘーラーの身体が固まる。


『……何?』


イーリスが確認する。


そして、少しだけ気まずそうな顔をした。


『ヘーラー様』


『何よ』


『運永神様からお呼びです』


『…………』


運永神。


ゲーム制作で言うところの運営を司る、ヘーラーよりもさらに上位の神。


ヘーラーは以前、運永神から新開発の盤上型世界、そのβテストを頼まれていた。


そして――。


まだ一度も報告していない。


『何の用?』


『βテストの進捗報告について、と』


『…………』

『ヘーラー様?』


『イーリス』

『はい』


『私、報告した?』

『一度も』


『…………』


ヘーラーはゆっくり後退した。


『隠れるわよ』

『無理だと思います』


『やってみないと分からないでしょ!』


次の瞬間。


ヘーラーの足元に光が広がった。


『ちょ、ちょっと待って……今すごく大事なところで……』


光が強くなる。


『平将門が!アジアが!今ちょうど誰が封印したのか調べ――』



挿絵(By みてみん)



ヘーラーの姿が消えた。


残されたイーリスは、しばらく何も言わずその場所を見つめる。


そしておもむろに女王の椅子に座り、手を伸ばし林檎を1つもぎ取る。


『……ヘーラー様…どんまい……』


画面の向こうでは。


何も知らないりゅと達が、食後の片付けを続けていた。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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