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世紀末な後始末  作者: 柊隼凌
第三章 運命の綻び
48/60

#48 役立たず

フレルティが集落に現れてから数日が経った。


壊れた家屋の片付け。

散らばった荷物の回収。

怪我人の手当てに食料探し。


フレルティは嫌な顔一つせず、住民達を手伝い続けていた。


『フレルティさん、本当にありがとう』


『いえいえ。困った時はお互い様ですよ』


『あんたが来てくれなかったら、どうなってたか……』


『私に出来る事でしたら何でもお手伝いします』



挿絵(By みてみん)



誰に対しても優しい。

いつも穏やかに笑っている。


数日も経つ頃には、住民達のほとんどがフレルティを信用していた。


家族を失ったシュリも近所の住民達に面倒を見てもらっていた。


『シュリさん。食事はちゃんと取っていますか?』

『……うん』


『眠れていますか?』

『わかんない』


『そうですか……。何か困った事があれば、いつでも私に言ってくださいね』


『…………』


フレルティはシュリにも優しかった。

それでもシュリは、この男が好きになれなかった。


理由は自分でも分からない。

ただ近くに来られると、身体がゾワゾワする。


シュリは昔から虫が大嫌いだった。

小さな虫が近くを飛んでいるだけでも逃げる。


フレルティから感じる嫌な感じは、それによく似ていた。




集落には小さな神社があった。

そこには昔から沢山のハサミが奉納されている。


祀られているのは運命や寿命を断ち切る神様。


狸達に襲われてから、住民達は以前にも増して神社へ足を運ぶようになった。


『どうか、これ以上犠牲が出ませんように……』

『家族をお守りください……』

『あの化け物達が、もう来ませんように……』


皆が真剣に手を合わせる。



挿絵(By みてみん)



シュリも毎日そこにいた。

ただ、祈る気にはなれなかった。


目の前には大きなハサミ。


運命を断ち切る。

寿命を断ち切る。




そんな力が本当にあるのなら――。

どうしてお父さん達を助けてくれなかったの?


『こんなハサミは役に立たない……』


小さく呟いた。


誰にも聞こえないと思っていた。

しかし、その言葉を聞いていた者がいた。


フレルティだった。


神社から離れた場所。

鳥居よりもずっと向こうから、こちらを見ている。


目が合うとフレルティは微笑んだ。


シュリはすぐに目を逸らした。


フレルティには目的があった。

この集落を守る聖物を破壊する事。


だが神社には神聖な力が残っている。

自分では近付けない。

ましてや、中に祀られている物を直接壊す事など出来ない。




―ならば人間に壊させればいい―




問題はどうやって――。


毎日欠かさず神社へ祈りに来る者達に、自分達の手で壊させるか。


フレルティはその方法を探していた。


そんな時に聞こえたシュリの言葉。


『こんなハサミは役に立たない……』


フレルティの口元が少し緩んだ。


それからだった。


フレルティが以前よりもシュリに話しかけるようになったのは。


『シュリさん』

『……なに?』


『少しお話しませんか?』

『…………』



挿絵(By みてみん)



『皆さん、毎日熱心にお祈りされていますね』

『……うん』


『シュリさんも神様を信じているのですか?』

『みんなが行くから行ってるだけ』


『なるほど……』


フレルティは遠くに見える神社へ視線を向けた。


『ですが、不思議だとは思いませんか?』

『なにが?』


『なぜここにはこんなに立派な神社があるのに貴方のご家族はあんな目に……。どうしてだと思います?』


シュリの表情が変わった。


『……知らない』


『その答えは私は知っています。なぜなら私は真実の神を知っているから』

『真実の神?』


『ええ。この世界には、貴方がまだ知らない事が沢山あるのですよ』


シュリは黙って神社を見る。


沢山のハサミ。


運命や寿命を斬る神様。


でも家族は助けてくれなかった。


もし自分にあんな大きなハサミがあったなら――。


運命とか寿命とか、そんなよく分からない物を斬ろうとは思わない。


嫌いな物を斬る。


自分だったら、もっと上手く使える。


神様が斬ってくれない物を私が斬る。


『シュリさん?』

『……なに?』


『いえ。またお話ししましょう』


フレルティは立ち上がり、その場を離れていった。


シュリは背中をじっと見ていた。


変な人。


みんなと一緒に働いている。

みんなと一緒にご飯も食べている。


なのに――。


フレルティが神社で祈っている姿を、一度も見た事がない。


数日後。


シュリが一人で歩いていると、木陰から小さな声が聞こえた。


フレルティだった。


誰かと話している。


でも相手が見えない。


シュリは物陰からそっと覗いた。


フレルティの指先に、一匹の虫が止まっていた。



挿絵(By みてみん)



『うわ……』


思わず顔をしかめる。


フレルティは虫を追い払わない。


それどころか、まるで人と話すように何かを囁いている。


時折、その虫を指で優しく撫でていた。


シュリの背筋に寒気が走る。


やっぱりこの人は嫌い!!


何を話しているのかは聞こえない。

何をしているのかも分からない。


それでも、今まで感じていた違和感が少しずつ大きくなっていった。


フレルティは優しい。

みんなを助けている。

みんなもフレルティを信用している。


だけど――。


この人は何かがおかしい。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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