#47 運命…運命…
その日の夜、突然世界から明かりが消えた。
シュリが暮らしていたのは、海の近くにある小さな集落だった。
昔は港町だったらしく、海沿いには使われなくなった建物も残っている。
大停電が起きた夜も、シュリはいつもと同じように家族と一緒にいた。
父と母、それに生まれたばかりの弟。
突然明かりが消えた事に驚きはしたが、それが世界を大きく変える出来事になるなんて、この時は誰も知らなかった。
夜も遅くなり、シュリは二階の自分の部屋で眠っていた。
ガタンッ――。
何かが倒れる音で目を覚ました。
『……お父さん?』
返事はない。
しばらく布団の中で耳を澄ませていると、今度は一階から何かを引きずるような音が聞こえてきた。
ズル……ズル……。
泥棒?
シュリは怖くなった。
父と母が下にいるはずなのに、二人の声が全く聞こえない。
『お母さん……?』
それでも返事はない。
シュリは布団から出ると、ゆっくり部屋の扉を開けた。
真っ暗な廊下を進み、階段の上から一階を覗く。
『お父さん?お母さん?』
その時、聞いた事のない声が返ってきた。
『ウンメェ……ウンメェ……』
シュリの身体が固まった。
人の声ではない。
暗闇の中から何かを噛み千切る音が聞こえる。
グチャ……。
『ウンメェ……』
月明かりが窓から差し込んだ。
そこにいたのは大きな狸だった。
ただの狸ではない。
人間よりも遥かに大きな身体に、まるで鎧のような茶釜を身に着けている。
その化け物は床に座り込み、何かを夢中になって食べていた。
『ウンメェ……ウンメェ……』
シュリは声が出なかった。
床に散らばっている物。
見覚えのある服。
そして――。
見たくない物まで見えた。
『……お父……さん?』
足から力が抜けた。
父も母もいない。
赤ん坊の泣き声も聞こえない。
目の前の化け物が何を食べているのか、子供のシュリにも分かってしまった。
『…………』
叫ぶ事も出来ない。
逃げる事も出来ない。
茶釜を着た大狸は、まだシュリに気付いていなかった。
『ウンメェ……ウンメェ……』
その声だけが何度も響く。
シュリは震えながら口を押さえた。
見つかったら自分も食べられる。
そう思った瞬間だった。
大狸の耳がピクリと動いた。
『……?』
食べるのをやめ、鼻を鳴らす。
クンクン……。
シュリは息を止めた。
見つかった。
そう思った。
だが大狸が顔を向けたのはシュリのいる階段ではなかった。
家の外。
『ムシクサイ……』
低い声を出すと、大狸は立ち上がった。
外にいた狸達も何かに気付いたのか騒ぎ始める。
大狸は忌々しそうに鼻を鳴らした。
『チッ……、ケエルゾ』
その声を合図に狸達が動き出した。
食料。
道具。
持ち運べそうな物。
集落から奪った物を抱え、次々と暗闇の中へ消えていく。
茶釜を着た大狸も家から出て行った。
シュリは動けなかった。
階段に座り込んだまま、ただ震えていた。
助かった。
でも嬉しくない。
お父さん。
お母さん。
弟。
呼んでも、もう誰も返事をしてくれない。
やがて集落は静かになった。
しばらくして、一人の男が集落へ入ってきた。
男は辺りを見回す。
壊された家。
荒らされた食料庫。
あちこちに残された大きな足跡。
『ふむ、先客……?ケモノですか……。まぁいいでしょう』
フレルティは特に慌てる様子もなく、荒らされた集落を歩いていく。
彼がここへ来たのは偶然ではない。
長い間近付く事すら出来なかった場所が、突然目の前に現れた。
そこには人間達が暮らしている。
フレルティはこの地を調べる為にやって来た。
集落の奥には小さな神社が見えた。
フレルティは足を止める。
『…………』
近付かない。
遠くから眺めるだけだった。
小さな神社ではあるが、そこには今も神聖な力が残っている。
フレルティは少し考えた後、別の方向へ歩き出した。
すると草むらが揺れた。
ガサガサッ――。
三匹の狸が姿を現した。
先程まで集落を襲っていた者達の仲間なのだろう。
逃げ遅れたのか、まだ何か盗める物を探していたのかは分からない。
三匹の狸もフレルティに気付いた。
互いに見つめ合う。
フレルティの口元がゆっくりと緩んだ。
『いい事を思いつきました』
―――――
翌朝。
昨夜を生き延びた住民達が、変わり果てた集落を見て言葉を失っていた。
壊された家屋。
奪われた食料。
戻って来ない家族。
あちこちから泣き声が聞こえる。
シュリも近所の住民に保護されていた。
何を聞かれても、ほとんど答えられない。
昨夜の光景が何度も頭の中に浮かぶ。
『ウンメェ……ウンメェ……』
耳から離れない。
その時、集落の入口が騒がしくなった。
『おい!誰か来たぞ!』
一人の男が歩いてくる。
その男の近くには三匹の狸がいた。
住民達が警戒する中、男は穏やかな表情を浮かべた。
『皆さん、どうか落ち着いてください』
三匹の狸は既に抵抗出来ない状態だった。
『この者達が近くをうろついていましてね。どうやら昨夜、皆さんを襲った者達の仲間ではないでしょうか?』
『狸……!』
『昨日の奴らだ!』
『あんたが捕まえたのか?』
『ええ。たまたま見つけただけですよ』
男は軽く頭を下げた。
『私の名はフレルティと申します』
誰も知らない男。
だが昨夜、自分達を襲った狸を三匹も捕らえている。
『酷い有様ですね……。私でよろしければ、少しお手伝いしましょうか?』
その言葉に安堵する者もいた。
助かったと頭を下げる者もいた。
シュリは何も言わず、その男を見ていた。
優しそうな人。
みんなを助けてくれる人。
そう見える。
でも――。
『…………』
なんとなく嫌だった。
理由は分からない。
ただ、あの男が近くにいるだけで身体がゾワゾワする。
虫を見つけた時みたいに。
フレルティがこちらを見る。
目が合った。
男は優しく微笑んだ。
シュリはすぐに目を逸らした。
頭の中には、昨夜聞いた声だけがいつまでも残っていた。
『ウンメェ……ウンメェ……』
大変お待たせを致しました。第三章 開演です!
過去話の挿絵や後書き、四コマ等を追加の作業もまだ行っております!また追加した挿絵が気に入らずに作り直したりも……笑
暫く鈍行での執筆となりますが頑張ります!
また第三章から文章の『、、』や『。。』などの書き方を辞めたり、少しでも読みやすくなるような改変も試みたりもしてます!
※ 物語の構想、世界設定、人物、展開および初稿は作者自身が制作しています。生成AIは、作者が執筆した文章の推敲・可読性向上を目的とした編集補助として一部使用しています。
感想・ご意見・ご指導などございましたらお気軽にご連絡下さいませ。
また、Xでの最新記事や挿絵追加の報告もしております。世紀末な後始末の雑談が出来るお友達も募集中です!
では、引き続き宜しくお願い致します( ॑꒳ ॑ )ノ⋆⟡.·




