#44 銀世界
双山村に突如として来襲したベリト、マーモン、エーディン、そして蟲の王と名乗るバアルを撃退した雪舟やマリ達は元々の災いの訪れるだろうその日を明日に控え、未だ緊張に包まれた状況を打破出来ずにいた。
『スリングショット用の石がまだまだ足りないぞ!』
『飛行種対策用のワイヤーの点検終わりました!』
『血清や毒抜き、その他集められるだけの緊急用品も忘れずにな!』
村人たちは次戦に向けての士気を下げずに手分けして準備に取り掛かっていた。
『旗がまだまだ足りないぞ!裁縫班頑張って!!』
『あと50本位は立てないと叱られそうだぞ!』
その準備の中で何故か村のあちらこちらへ旗を立てる指揮を執る笹岡と峰岸の姿が。
『ん?笹岡くん、峰岸くん、何やらあちこちに旗を立てとるようじゃが…何かの戦略でも思いついたのか?』
通りすがりの雪舟が問い掛ける。
『しーっ!こっちに来てください…』
笹岡に連れられ物陰に移る三人
『実はですね…ごにょごにょごにょ…』
『セオリのヤツめ…マリに感化されて前線で暴れようと企んでおったか…』
『絶対にセオリちゃんには俺らが話した事言わないで下さいね!約束ですよ!』
そう言って笹岡と峰岸はそそくさと旗立て作業に戻って行く。
(なるほどの、よく見ると旗ではなく羽織になっておったか…セオリも年頃の娘じゃから仕方ないのじゃが…セオリの出番が来ないようにワシも頑張らないとじゃな)
旗のように見えた羽織は龍化した後の裸を隠す為に村のあちこちに着替えを用意するようセオリの指示した行動だった。
『あれ?おじい様!』
『噂をすれば何とやらじゃな。』
『噂??』
『まぁ良い。セオリは今は何をしておるんじゃ?』
『丁度蓮見くん達とお花への水やりが終わったのでこれから神楽殿で舞の稽古をする予定です!』
『随分やる気になっておるようじゃの』
『当たり前ですっ!マリさん…昨夜寝てる時に原田さんから新装備のレクチャー受けた見たいで…もう俺でも絶対に勝てないなって、あの負けず嫌いのタツキが戦う前から白旗あげてるんですよ?私、あったま来ちゃったんです!!では忙しいので失礼します!』
ふくれっ面で神楽殿へ向かうセオリ。
(マリがまた強く?この時間は御社殿前にマリは居るはずじゃの。どれ見てくるかな)
―――――
予想通り御社殿前ではマリと蓮見が模擬戦をし汗を流していた。
『二人共、精が出ておる様じゃな』
『おはようございます!雪舟先生!』
『おはようございます!』
『マリ、セオリに聞いたのじゃがまた強くなったとか?』
『ええ、原田にこのサーベルの仕組みを教わりまして、私の《奥義・銀世界》を強化する事が出来ました!』
『ほほう』
『特に型が変わるわけではないのですが、もし良ければ受けてみますか?』
『無論、そのつもりで来たからな』
立ち位置を整える二人
『では参ります』
『うむ』
『奥義・銀世界っ!!』
『な、何も見えぬ…!!!』
雪舟の首元にレイピアの切っ先が紙一重で止まる。
『ありがとうございました』
雪舟でさえも心奪われそうな笑顔でマリが勝どきともとれる挨拶で締める。
『これはもう無敵じゃな…』
ゴクリと生唾を飲む雪舟。
(敵じゃ無くて良かったわい…)
その頃、樹海の奥では……
―――――
『ふぅ~やれやれ、危うく王の僕が死んじゃうとこだった。不意の一撃が龍のどデカい尻尾の叩き打ちだよ?僕の身体中の蝿が即死!たった一匹だけ瀕死で助かったから僕は転移して助かったってわけ!』
『それはそれは…まさかこんな所にそこまでの霊力を持つ強者がいたなんて。それに、ベリト達三人も戦死したみたいですわよ?』
『あちゃ~、それは僕のせいだなぁ。横着してベリトに偵察に行かせちゃったの僕だし。けどそうなるとさ!』
『ええ、おりますわね。白龍の女の他にも腕のたつ者が数人。今回は私もバアル様と共に出向いた方がよろしくて?』
『そうだねぇ、また僕ひとりで会いに行ったら友達のいないぼっちのように思われちゃうしね!白龍の子とどちらが美人か見比べるのも悪くないしさ!』
『もぅ…』
やはり蟲の王バアルは生きていた。しかしあと僅か一匹の蝿を押し潰していればセオリの勝利が確定していたという。この一匹の生存がもたらした運命はどちらに転ぶのだろうか…。
『バアル様、今回の目的は村の掃討ですか?』
『違うよレヴィ。ただの暇つぶしさ!僕が完全復活出来るのは早くても5年後になりそうだし、ちょっとからかったらレヴィと一緒に5年間は海で暮らそうかなってさ!』
『まぁ!それってバアル様!プロポーズって事でいいのよね?私…すごく幸せです…幸せすぎて加減できずに全員殺しちゃうかもです!』
『あはははは!そうなったらなったで仕方ないさ!明日はたくさん楽しもう!』
『はーい!』
―――――
そして旧関東南部を旅するりゅと達一行は、
『キュエさん、、お腹すいたぁ…』
『そうか?ではりゅー坊、その辺で何か食料を…』
『虫はやぁだああああ!!キュエさんの背中のお肉たべちゃいましょうよー!』
『これはわっちのアイデンティティじゃからダメじゃ!』
『まぁたそれ言ってる、、でも何でそのお肉ずっと腐らないんですか??』
『ふぅ~、そんな事も知らんかったか、、いいか二人とも?この世界は霊力によって人々は護られ回復力の速さにも影響しとるのは知っとるのじゃろ?』
『ええ』『うんっ!』
『お主たちの村で食料が腐った事はあったか?』
『え?』
『考えた事も無かったな、米や麦、野菜はすぐ食べちゃうし、肉は余ったら干し肉にしてたし…』
『やれやれ、、育ててる食物の成長の速さは気にならんかったんか…』
『そう言えば早いって噂になってたような…』
『聖地にある神聖物の中が一番霊力が強く回復が早い、それと似たような物じゃが聖地の庇護下の中では生物全ての成長が早く、しかも衰えない。むしろ個別に霊力の高い者は若返りさえするのじゃ』
『なんだって!?』『ほえ~??』
『わっちのこの姿をよく見ろ?わっちは齢1000歳じゃぞ?生活の殆どを樹海で過ごしておってもこの美貌じゃ!それはわっちが聖地に頼らずとも自らの高い霊力で生命エネルギーを高く維持しておるのが理由じゃ!』
『わかったような…』『わからないような??』
『主らは夫婦か何かなのか?、まぁ良い。故にわっちが身につけてる生物は腐らぬ!以上じゃ!』
『とりあえずキュエさんは凄い!』『うん!凄い!』
(霊力の高さはその者の見た目の若さに反映する。この2人の成長の姿がこのまま留まるようなら、わっちよりも…流石にそれは考えすぎか…)
ギュルギュルギュルギュル~
『忘れてた…お腹が…お肉ぅ~』
『キュエさん出会った時の信号機亀たちは出せないんですか?お肉運んでた赤青黄の亀さんたち!』
『わっちはお前ら2人と旅をしてるからのぉ、一日一善は朝イチで終了してるから無理じゃな!』
『かび~ん!』『ズコー!』
『ふぅ…。ん?この辺りは…丁度いいかもな』
『?』『??』
『この先にちょっとした面白い奴らが住んでおってな。なんと言っとったか、、闇の回廊?闇の灯篭??』
『闇のフクロウだよ!キュエさん!』
『おお!やはり先に気づいたおったか!フクちゃん!』
『『フクちゃん??』』
『そそ!この辺りを塒としておる闇の組織のボス?神?ヒーロー?のフクちゃん!』
『もぅ…やめてよキュエさん…恥ずかしい、、』
『前からのお知り合い?』
『そうじゃな!600年前くらい?もうわからんな!』
『そうだねぇ、数えてなんかられないよね!』
名前の通りフクロウを模したフードやマント、あちより少しばかりしか歳の離れてないような女の子。
『フクちゃんさん、初めまして。りゅとです!』
『あちです!』
『キュエさんのお友達かな?宜しくね!私は闇のフクロウ。フクちゃんでいいからね!』
『フクちゃん!早速で悪いんじゃが牛や豚、このおチビが食べたそうな獲物はおるじゃろうか?』
『腹が減ってるんだね!いいよ!任せて!』
『範囲索敵っ(エリアサーチ)!!』
フクちゃんの目の周りに一瞬小さな魔法陣が現れ消えた!
『わっ!出た!魔法陣!!』『私も見えた!』
『魔法使いと会うのは初めてじゃったか?田舎者はこれだから困るのぅ』
『キュエさんが誰かを弄ってるとこ初めて見たからとても楽しいよ僕は!』
『ボクっ娘!!』『ん、??』
りゅとの頬を抓るあち
『見ぃつけた!いるよぉ~、あちちゃんだっけ?豚と牛どっちが食べたい??』
『え!?』
目を少女のようにキラキラさせるあち。少女なのだが。
『えと、ハンバーグ!!合い挽き!!両方!!』
『ぷっ…食いしん坊ちゃんなんだね!りょーかい!けど二箇所同時に殺るには少し距離が離れてるねぇ…』
『フクちゃんさん!片方俺が行くよ!方向だけ指で教えて!』
『え?指で?、、わかった、あっちだよ?』
フクちゃんが指さす方に向けて目に霊力を集めるりゅと
『豚さん確認!!行ってくる!縮地っ!!』
ザッ!!
『わあああ!!消えた!りゅとくん?消えたよ!!』
『りゅー坊は天狗の末裔じゃ、こいつらフクちゃんと多分気が合うと思うから仲良くしてやってくれ』
『へぇ~天狗かぁ、僕も天狗は初見だよ!ワクワクしてくるね!』
(りゅとって天狗の能力を使えるんじゃなくて末裔だったの!?へぇ~初耳だぁ)
あちはひとり静かにふふっと微笑んだ。
ビュンッ!ズサ!
『わああああ!!』
『ただいま!』
『お、おかえり?』『りゅとおかえり!』
りゅとのその手には豚が一頭抱きかかえられていた。
『すごい腕力…触ってみてもいいかい??』
『むっ…』
『え?ああいいですよ!』
『むむむ…』
りゅとの腕をまさぐるように触るフクちゃん。やや照れたように見えるりゅとを睨みつけるあち。
『フクちゃんさん!牛さん逃げちゃいますよ!!』
早く引き離す為にフクちゃんをけしかける
『え?あ…そうだった。牛さん牛さん…』
『どっちです?』
『え?あ?んと…あっち!』
動揺するフクちゃんを横目にりゅとはまた軽々と牛の角を片手で握りしめ引きづるように持って帰ってきた。
『すっごいな…速いし筋力異常だし、目も良すぎるね…』
『な?面白いじゃろ?しかも面白いのはこっちの坊主よりそっちのおチビの方が突出しとるのじゃがな?』
『え?そうなの!?このかわい子ちゃんはただの連れじゃないんだね!アジトに招待するからそこでご飯食べながらゆっくり話聞かせてね!』
こうしてりゅと達はフクちゃんこと、闇のフクロウの住むアジトへとお邪魔する事になるのであった。




