#37 敵か味方か
『鱗!?』
『ふふ、びっくりしました?バレたと言うか…マリさんになら見せてもいいかなって、むしろ見て欲しかったって言うのが正解かもしれません』
マリがセオリに近づき鱗状にになった肌を指先で撫でるように触れていく。
『ちょ、マリさん、くすぐったい…』
セオリは肌を隠すようにもう一度湯の中にその身体を浸からせる。
『東の集落で岩崩れがあって、異臭騒ぎが起きた事があって。その時に私はその臭気を大量に吸ったらしく数日寝たきりになった時があったんです』
『異臭…?』
『身体を動かすこともままならなくなり、そのうち目も見えなくなって、、でもその後であちちゃん、あ、私の従兄弟の女の子!天狗神社で巫女さんをしてる子なんですけど、その子の治癒術ですっかり全て回復させて貰ったんですけど、その後から私の肌が鱗状になる症状が現れ始めたんです』
静かに話を聞くマリ
『初めは後遺症か何かだと思ってすぐにあちちゃんに相談しようかとも思ったんですけど、あちちゃんはあちちゃんで身体が炎化する能力に目覚めた事で、自身が人では無くなった、化物になってしまったかも知れないと悩んでいる事を知ってしまい、何だか言い出せなくなっちゃって、、』
『なるほど…』
『でも、この肌って普段から鱗化するわけじゃないんです。突発的に誰かが触れてきたり、私自身が身の危険を感じたりするとその部位や一定の範囲で鱗化して、その脅威を弾いたり、衝撃を和らげてくれたりする事が分かって。きっとこれは後遺症とかじゃなく私の何かしらの能力なのかも知れないんですけど、、なかなか男性達に相談するのも難しいじゃないですか?それこそ見せたり触らせたりしないと分かって貰えないかもだし、、』
『そうか、一人でずっと悩んでいたんだな』
マリはそう言うとセオリの身体を引き寄せ抱きしめ、セオリの肌を優しく撫で回した。
『あ…マリさん、やめ…』
マリはそのまま確かめるように指の腹でセオリの肌をなぞるように走らせる。
胸、腹部、下腹部は鱗にはならない。手足はほぼ全周、顔は頬の一部までは鱗化するのか、、
『マリさ…ん、くすぐったい…』
『心配する事ないよ。セオリの身体はこんなにも美しいじゃないか。鱗化してようがしてまいがどちらの肌も私にはとても暖かくて心地良い』
『マリさん…』
セオリはマリに抱きしめられながら、静かに涙を流した。
『セオリ、家にハサミってあるかな?』
『え?あると思いますけど、、』
『髪を切ってくれないか?』
『え?マリさんこんなに綺麗な髪なのに…?』
マリのキラキラ輝く金色の髪。それは脱色ではなくマリの血筋、混血による純粋な金色の髪だった。
『髪は伸ばせば元に戻る。今は女としての証よりも戦闘時に役に立つかどうか。私はセオリのその鱗が羨ましいよ。髪の毛はあっても役に立たないから不要だ。長いと私の戦い方には邪魔になるだけだからね。首が見えるくらいまでショートにして貰えたら助かる』
『うぅ、こんな綺麗な髪にハサミを入れるのなんか怖いけど、それがマリさんの為になるのなら…』
そう言うとセオリは裸のまま家に戻り、ハサミや櫛なども用意し、温泉脇の岩にマリを腰掛けさせ器用にハサミを入れていく。
『はい、出来ました!』
『ありがとう!セオリ!』
前髪を作りサイドは耳にかけ、器用にシースルーバングのショートに仕上がっていた。
『むぅ、元が良すぎるとショートの破壊力が凄まじいですね、、大人っぽさもあるし少女っぽくも見える!蓮見さんや原田さんがさらにマリさんに首ったけになるのが目に見えて、、なんか妬いちゃうなぁ!』
そう言うとセオリは背後からマリの胸を鷲掴みし、逃げるようにお湯の中に飛び込んだ。
『こら!セオリ!もう、、全く、、』
マリはすっかり肌の事を忘れてはしゃぎだしたセオリを見て、この子は気が強い子なんかじゃなくて明るくて無邪気な子なんだと認識直しをしながら優しく微笑みかけた。
『マリさんそろそろ上がりましょうか!洗濯物乾くまでは私の服で我慢してて下さい』
セオリは家から持ってきた拭き物と浴衣のような羽織をマリに差し出した。
『うん、ありがとう』
袖に腕を通し着てみると裾が長く地面に触れてしまう。腰の部分を折り返しながら腰巻でそれを留め、くるぶしが見える位置に揃えた。
『この積んである石は石碑が砕けた物なの?』
『えぇ、この集落に来た異邦人に騙されてタツキたちが砕いてしまった龍神様の元石碑です』
『そうか。まぁ形が変わってもこうして飾り祀りあげるのであれば龍神様も許してくれるだろう。私が祀ってきた神は島に置いてきたままだからそのうち叱られてしまうかも知れないな』
『マリさんの祀ってる神って何の神様なんですか?』
『軍神様だよ。毘沙門天、それが私、私達軍が祀り続けている神様だよ』
『へぇー、軍神様かぁ、いかにもって感じですね』
『そうだな、如何にもだな!』
1時間位談笑し陽に照らされすっかり乾いた衣服を取り着替え直すマリ
『元の世界の下着まだ付けてるんですね。私はすっかり着物に定着しちゃったから下着は捨てちゃいました』
『そうなの?何か付けてないと妙に落ち着かなくてさ、けどこれもいつまで付けてられるか、、』
『やっぱり軍服姿のマリさんはとっても凛々しいですね!しかも可愛いです!』
『可愛いはやめろ、セオリ、、』
頭を撫でてくるセオリの手を払い避け、腰にレイピアとサーベルを差す。
『セオリ、連れてきてくれてありがとう。いい気分転換になった』
『いえいえ、ここも早く男女の敷居と周囲の囲いも作ってもらって毎日入りに来れたらいいですね!』
『そうだな。全て片付いたら皆でここを立派な温泉施設に作り上げないとだな!』
帰り道、手を繋ごうとしてくるセオリを上手く嗜むが腕を組んで離さないセオリに優しいため息をつきながら帰路に着いた。
『あれ?マリさんその髪…しかも何かすっごくサッパリしてる、、?』
村の中央で作業をしていた笹岡や峰岸たちから声をかけられる。
『うん、まぁちょっとな。』
『そうそう、ちょっとです!』
『???』
事情を分からず困惑してる二人を放置し御社殿へ向かう二人
『あら?もう誰もここには居ないですね』
『そうだな。では私は一度南東部の状況を見に行ってくるとするよ』
『なら私は神楽殿で舞の練習をしてきます!マリさんまたね!』
マリとの時間を堪能し満足気にセオリは神楽殿へと向かって行った。
『状況はどうだ?』
『あ、マリさん!お疲れ様、、あれ?髪が、、』
『ああ、戦闘時に邪魔になると思ったからセオリに切って貰ったんだ。悪くないだろ?』
『ん、とてもよく似合ってますよ!俺はショートのマリさんの方が好みだったらしいっす!』
原田が笑いながら少し頬を赤くさせた。
南東部から村の中央部を見ると3mはあるだろう壁がその奥を完全に遮る形で建設を終えていた。そしてその中央くらいには弓やスリングショットの発射口も作られていてこれなら間接員達の危険を抑えての援護射撃も期待出来そうだ。
戦闘になれば私や雪舟殿、タツキくんの三人がこの壁の前で白兵戦となる。この壁が村にとっての生命線となる。必ず死守せねばな。
壁の強度を確認しながらマリは細かく周囲の状況をチェックしていく。
村の南東部の外れからすぐ先には樹海が広がり何処までも続いている。島からヘリで飛んできた時もその広さは目視で既に確認済みだった。
ここら海まで続く樹海の中に何かしらの災いをもたらす存在がいるということか。島が襲われた時のように蟲の大群の可能性もある。そうなったらあの時の規模とは桁も違うだろうな。銃火器の無い今の状況でどこまで耐えられるか、、いや、耐えるしか無い。
マリはレイピアを抜き自身の眼前に縦に構える。
『軍神様、この剣にどうか勝利の思し召しを…』
ガサガサガサッ。マリの身体の正面、約100mほど離れた樹海の木々が揺れる。
(蟲か!?今はタツキは居ない。敵の接近を許したか!?)
『総員緊急配備!!後方全ての人員に伝えよっ!!』
そう言うとマリは距離50mの位置まで単身で駆け寄っていく!
『馬、、!?』
茂みの奥から一頭の馬とその背に跨る男の姿が飛び込んだ!その男もマリの方を直視している。
その男は赤いマントと金の装飾の頭飾りを頭部に乗せ腰に一振の刀のような物を付けているのか確認できる。
顔の容姿は日本人っぽくはなく。この距離でも異邦人である事が伺える。
(異邦人……情報に聞いたムカデ男の仲間か…?)
『貴様!!何者だ!!』
男は怪訝そうな顔でマリを見つめている。
(言葉が通じないのか、、?)
『Who the hell are you?』
『ふぅ~。いやいや聞こえていますよ』
男は呆れたような声でマリに返答する。
(!!……あいつの足、人のものでは無い、、)
マリがその男を良く良く注視すると馬に跨っているその足。膝下には靴を履いておらず蟲のような足を鐙にかけている。
『何者だ!この村に何しに来た!答えよ!』
男は馬に乗ったまま暫く空を見上げてからこう答える。
『私は神に仕えし者。ベリトと申します。この南部に広がる樹海に転々としている集落を調査しているのですよ』
後方の防御壁の後ろから配置完了の合図が聞こえる。
『神に仕えし者?具体的に話があるなら聞こうではないか。私はこの村のマリ。代表代理だと思ってくれていい』
マリはレイピアを低く構えたままジリジリと距離を詰めていく。相手が人ならず者と分かった以上このまま大人しく帰らせる訳にも行かない。
敵の周囲に仲間らしき存在は見当たらない。
(あいつの武器は腰に下げている剣、馬上用の長物では無い。ならば戦闘スタイルは下馬してからの白兵戦。奴が馬から降りようとしたら一気に距離を詰めてみるか…)
『う~ん。話を聞こうとしているように見えないのは気のせいでしょうか?まぁ無理もない。この危険区域内に一人で行動している私は奇妙としか言えませんものね』
『神に仕えし者とは何なのだ?目的は何だ?』
『神のご意志によって文明を失いリセットされたこの地で能力を得た者たちを導きし者。新たな新世界を築く為の組織。と言えばイメージ出来るでしょうか?』
『能力と言うのはその足も含まれるということか?』
『よく見てらっしゃる。そうですね。私の得た能力の1つと言っても良いでしょう。私は半蟲半人です。あなた達のこの村には居ないのですか?異形の姿になる能力を得た者。霊力者の中には決して珍しい事ではありませんよ』
『すまぬがこの村や私が元いた島では蟲や蟲に姿を変える者に襲われた経験があるのでな。身分証の無いこの世界、お前を信用出来る要素が今のところ見当たらぬと言うのが率直な私の気持ちだ』
『それは困りましたねぇ。蟲に姿を変える者と言うのは蟲の能力を得た人間という事。貴女方は人間同士で争っているだけなのです。人類は何度も過ちを繰り返して来た。この世界がこうなったのは世界規模の戦争を人が起こしたから。それは貴女達も知っている話でしょう』
『それは良く知っている。私も元軍人だからな』
『なるほど、それでその様な軍服を着てらっしゃるのですね。軍人ですか。そうですか。では貴女はこの世界をこのようにした張本人のおひとりと言う事。間違いありませんね?』
『この世界をこうしたと言う話には同意する意思は全くもって無いが、元軍人と言うのは神に誓ってその通りで間違いないよ』
『ふぅ~。仕方ありませんね。貴女を新聖法28条項に則り駆除させて頂きます』
男はゆっくりと下馬し首や腕を回しストレッチを始める。
『話が見えぬが…これ以上の会話は無駄だろう。その剣を抜くようなら私も容赦は出来なくなる』
『あぁ、これは失礼。残念ながらこの剣は飾りです』
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
男の姿が少しづつ人の姿を無くしていき巨大な顎、大きな透明な羽根、黒と赤の縞模様のスズメバチへと姿を変えた。
ブィィイイイン……!!
そのスズメバチは地上に這いつくばったまま細かく羽根をすり合わせ振動させる。
(何をしてる?音を鳴らしてるのか、、?)
『は、しまったっっ!!』
マリが大声を出した直後、マリの背後にある防衛壁とマリの中間辺りの場所で地面の複数が盛り上がり黒い物体が次々と姿を表す。そしてさらに樹海の奥から青く輝く何かの飛行物体が続々と近づいてくる!
『ちっ、、増援部隊を控えさせてたか!!』
20匹前後の巨大な軍隊蟻と同じく巨大化した蝶の群れがマリを取り囲むように群がり始めた!
『マリさんっっ!!』
原田が防衛壁の上に乗りマリを見渡せるポジションに着く。
『射撃隊!下から撃つと流れ弾がマリさんに当たりかねない!ここからは任意参加の個人行動だ!戦える者は壁の上からマリさんを援護するっ!!』
一気に窮地に立たされたマリ。タツキは山に出かけており頼みの綱の雪舟はまだ到着の出来てないこの状況をマリはどうやって凌ぐのか!双山村南東部の戦いは突然火蓋を落とされたのであった。




