#36 心の洗濯
『わっちじゃよ!わっち!わーはっは!』
『わっちって…私の望みはキュエーン様って事ー!?!!』
『んー、そうとも言えるし、そうとも言えないかもじゃな?』
『ほへ~??』
キョトンとするあち
『ちびっ子の望みは…』
『あ ち で す っ ! !』
『おチビちゃんの…』
『あーーーちーーーぃぃ!!!ガルルルッ……』
『お主の今日の望みは《行動目的》じゃ』
『行動目的??』
握り締めていた拳の力を緩め首を傾げる。視線をりゅとに送るがまだほわほわしてて役に立たなそうだ。
『そうじゃ、行動目的。当初の目的の西の集落、蜘蛛の巣窟の件は万事解決した。わっちが蜘蛛っ子を曼荼羅へ送り飛ばしたからの』
『蜘蛛っ子?曼荼羅~…??』
『解らぬままで良いぞ!わっちとお主達とじゃ生きてる時間が違うからの。わっはっは』
『?、?、?』
一方的に話し続けるキュエーン様にまったくついていけず思考限界を迎えるあち。頭の中にお花畑が咲きそうだ。
『今からおチビ…いや、あちには四苦八苦をして貰うのじゃ!』
『しくはっく…』
あちの頭から湯気が立ち上がる。
『この地、旧世界で言う関東地方。ここには百八つの霊場があるのじゃ。その全てを巡拝しに行く。まずはここ、西の集落を1つ目として残り107箇所の霊場をこれから全て回って貰う』
あちの目がぐるぐる回り出し、ふらふらと今にも倒れそうになっている。
『やれやれ…仕方ない、、』
キュエーンはそう言うと指をパチンッと鳴らす。するとあちの足元から赤い甲羅の亀が迫り上がり甲羅の上にあちを乗せた。
『長話は終いじゃ、行先はその赤亀が勝手に先導してくれるでの、ちゃっちゃと終わらせようかの。おい、そっちの半天狗。道中に出てくるのは蟲だけに限らんからな。心してついて来るのじゃぞ。では出発じゃ~!』
キュエーン様とあちを乗せて歩く亀たちはノソノソと歩く割にはマラソンランナー並のの速度で進んでいく。これならあちが歩く時よりよっぽど速い。
『え、あ、わかった』
もうこの場にいないキュエーン様への返答をし、亀の足跡を追い後から続く。考えたい事がたくさんあったから目的や行先を決めてくれる人がいるのは有難い。ただひたすらに亀を追いながら新技のイメージを沸かせたり、刀や団扇、俺が何者なのかなど常に考え事をしていられるからだ。
こうして俺たち二人はは新たな仲間を加え三人旅がスタートした。
そしてその頃、双山村では、、
ブンッ!ブンッ!ブンッ!
『よし、今朝はここまでじゃ』
いつものように朝は素振りの音から始まる。
『お疲れ様でした。では私は花壇の水やりをしに行ってきますね~』
農作業の傍らで花壇の設置をしていたセオリは災いが来るであろう日を目前にしていても変わることなく日課として続けていた。人は来るかも知れない脅威に対して鈍感で日頃の行動の一切を避難行動に置き換える事に消極的な生き物だ。
『あ、蓮見さん!おはようございます!』
『セオリさん!おはようございます!』
出会いの日、散々悪態を付いていた巨漢の蓮見は意外にも花好きで毎朝の水やりを志望し手伝うようになっていた。
『セオリさん!見てください!もう何本か咲き始めましたよ!!』
『ふふっ本当にお花が大好きなんですね~』
『花はいいですよ!見るだけでも癒されるし匂いも心地良いですし、ほら!この花も凄く綺麗ですよ!マリさんにプレゼントしたら喜んでくれるかも!!』
『持って行ってあげたらいいんじゃ無いですか?マリさんならまだ御社殿前でおじい様と一緒に居られると思いますから』
そう言うとセオリは綺麗に咲いた一輪の黄色の花を摘み、蓮見にそっと手渡した。
(綺麗だという理由で人は花を愛し育て守り、そしてそれを摘むことに罪悪感を抱くことは無い。人は…いや、私は本当に身勝手で傲慢だ…)
セオリから渡された花を優しく握り締め蓮見は御社殿へと駆けて行った。
『銀世界っ!!』
御社殿前の開けた地にて雪舟と模擬戦をしていたマリがそう叫んだ。
それと同時にマリの周辺の空間に無数の細い糸と針が顕現する。それは陽の光を様々な角度で乱反射させ対峙した者からはまさに銀世界と呼べる視界へと変わる。
『マリのレイピアを捌くだけでも難儀なのに視界を完全に奪われるだけでなくこの針が厄介じゃ。致命傷になる訳では無いが大量の針に刺される恐怖心…この針を無視して剣技にのみ対応出来る奴はそうそうおらぬな…』
『これが私に舞い降りた1番最初の神の啓示。《汝、此針糸ニテ世ノ理ヲ綴リシ者》この声を聞いた日から私は針と糸を顕現出来る力を得たのですが正直この力の活かし方が見出だせず、苦肉の策として《銀の雨》レイピアの高速連打との複合技として使っているだけなんです』
『本来の活かし方、世の理を綴る針と糸って事なのじゃろうが…ワシにもさっぱり分からぬのぉ、、孫のあちが裁縫の力に目覚めたのじゃが…さすがに別次元の話じゃろうな』
『ふふ、裁縫のセンスが備われば私ももう少し女性っぽく振る舞えたかも知れませんね』
『なんにせよ、その技は恐ろしい程に初見殺しじゃわい』
顎髭を整えながらマリを横目で見る雪舟
『あら、何か対策を思い付いた御様子ですね!また本気ルールでのお手合せを…』
自らの奥義を破りかねない発言をした雪舟に不満を抱くどころか心踊らせるマリ。
『災いに立ち向かおうとしてる時期にお二人に負傷されたら困るんですけどねぇ…』
稽古に参加していた原田が釘を刺す。
『タツキくん、今朝も村の周辺には異常は無さそうかい?』
『あぁ、全方位を監視してくれてる友達からは異常なしの報告がしっかり届いてる。問題ない』
タツキが裏山頂の試練で会得した獣交信により、鳶が上空から、リスやモグラ達が周囲の樹海の動きを観察してくれていた。
『先生、俺はちょっと稜神山に登ってくる。夕方には戻ると思う』
『ふむ、稜神山か。タツキの守護神とも言える龍神様の護りし山、何か啓示でも受けたのか?』
『いや、鳶に登るよう言われたからさ』
『鳶が?まぁ良い。気をつけて行くのじゃぞ』
雪舟から師匠呼びを禁止されたタツキはそれ以降、じいさん、じっちゃん、おじい様など呼び方を色々模索したのだがしっくり来ずに先生と呼ぶようになっていた。
『マリさーーーん!』
『ん?蓮見?』
息を弾ませながら蓮見が笑顔で駆け寄ってくる。この巨漢が笑顔で寄ってくるのはある意味恐ろしさを覚えそうだ。
『マリさん、これ似合うかなって、、』
蓮見は優しく手で握っていた黄色い花をマリに差し出す。
『ん?花か。ありがとう。受け取っておくわ』
マリは蓮見からのこういう行動に慣れているのだろう。特に驚くこともせず、話を膨らませようとする流れも作らないように綺麗にその場を収めてみせた。
『原田はこれから皆とスリングショットの射撃訓練だったわよね?』
『ええ、なんせこの村にある元樹海に生えていたツタの張力が従来のゴムの数倍優れている事に気づきましたからね。改良開発は俺が得たアイデア構築の能力の最も得意とするとこなんでね』
『楽しそうだな。中心部の防壁も完成間近なのだろ?』
『そっちはこの村に来てから開眼した蓮見の能力のおかげで予想を超えるスピードで作業を進められたのがでかいっすねぇ、、』
原田が恨めしそうに蓮見に目をやる。
『いやぁ、俺はただ皆と一緒に田畑の移設作業を手伝ってただけで、鍬を握ったら突然身体に衝撃が流れて…』
『鍬使いってお前に融合した魂さんは過去に百姓一揆でもしてたのかねぇ、、農業を覚えるならまだしもお前の会得した鍬捌きは明らかに戦闘よりのそれだからなぁ。俺の能力は武器開発、間接員じゃなくて俺も前線張れる力が欲しかったぜ』
『原田は元々の格闘センスがずば抜けてるじゃないか?』
『格闘センスねぇ、旧世界ならまだしも対人戦で無くなったこの世界での俺の戦闘力は戦力とは言い難くてさ~』
『私は原田のその格闘センスや開発能力に大いに期待しているのだけれど?』
原田と蓮見のやり取りを聞いていたマリが原田の肩を叩く。
『マリさんが期待してくれるんなら、この能力にも感謝はちゃんとしないといけなくなっちゃうんだよね、はは』
『原田の作ってくれた装備は皆も凄く感心していたよ!
』
蓮見が誇らしげに黒い熊手のような鍬を手にし持ち上げる。
『お前の馬鹿力で村にある全ての鍬をダメにしちまったからなぁ、、スリングショットの射撃訓練を兼ねて樹海の入林地付近で捕獲できる蟲たち、大型のカブト虫やクワガタなどの外郭や角なんかは良い加工品になるからな。その鍬は正しくカブトの角で作った鍬だ。軽くて丈夫、こういうのも自然の恵みってヤツなのかも知れないけどね』
双山村南東部にマリを派遣させた神の啓示から4日目を迎え、村の防衛準備は着々と進みつつあった。
私の授かった、針と糸の真実の能力(本当の力)か。
正直、私のオリジナル《銀の雨》のバリエーションの1つとしての活用に留まるような能力では無いのは明白なのだけど…針と糸、、神は私に何かを裁縫させたいのかしら、、
『ばっ!!』
『わぁぁー!』
『考え事ですか?今、水やりから戻りましたぁ』
物思いに耽っていたマリの背後からセオリが回り込むようにマリの顔の間近に自身の顔を接近させた。
『クンクン、臭いますねぇ…』
『え?臭う、、??』
『着の身着のままここに来たからお着替えも無いですもんねぇ、、』
『元の世界でも野外訓練や災害活動時は数日風呂に入れない事もザラだったから気にもしてなかったけど、、臭う??』
『臭います!』
『あはははは、でもまぁしょうがない!今は訓練なんかじゃなく戦時中なんだ。文字通り綺麗事なんか言ってられないさ』
『うーん、、私達ってこの世界になってから毎日戦時中みたいなものでしょ?常に不安や恐怖とは隣合わせで、元の暮らしとは違って食べたい物なんて食べれない。ましてや生きる為の食料がいつ尽きても不思議じゃない。それこそ生命線となっていた田畑をまた自分たちの手で崩して、、でもこういう時だからこそ私は癒しって必要だと思うの。その花みたいにね』
セオリはマリが胸のポケットに差していた蓮見から受け取った花を指差し微笑んだ。
『マリさんマリさん、村の東部、旧東の集落に温泉が沸いてるんですよ。いま村の男達はこちら側の防衛準備に集まってますから、今なら人目を気にせず入れますよ』
マリの耳元で囁くように伝えるセオリ
『温泉!?いやしかし、皆がいま一生懸命に…』
『その最前線でマリさんが毎日くたくたになるまで作業してる姿のままだから皆も感化され動き回っている。このままじゃ決戦の時に皆息切れした状態でその日を迎える事になりますよ』
『そうは言っても……』
『いいの!行きますよっ!』
セオリはまだ躊躇しているマリ手を引き東の集落へと誘う。
『ちょっと二人で資材調達して来ますね!行ってきまぁす!』
『あ、おい、、ちょ、、』
(まったく、強引なやつだ、、)
けどこの状況下でも笑顔を絶やさずに振る舞えているセオリの強さを見習うべきか…。
人々を護ると言うのは脅威を退ける力だけでは無く、笑って暮らせる度量も必要なのかも知れないな。
1時間程度走った先に旧東の集落跡地が見えてくる。
『ここよ!マリさん!』
数件立ち並ぶ家屋の目の前に30畳位のサイズの温泉が湯気を上げている。
『こんな居住区のど真ん中に?』
『タツキの持っている神竜様の薙刀が源泉を掘り当てたらしいの!』
『タツキの薙刀??』
(タツキの試合中にセオリが大事そうに預かっていた白い棒がタツキの武器では無かったのか、)
『さぁマリさん脱いで脱いで!』
セオリがマリの軍服を脱がしていく、汗や土で汚れたまま着ていた軍服はゴワゴワしてとても脱がせにくい。さるに脱がされる事に抵抗を感じているマリのぎこちない姿勢もそれに輪をかけていた。
『セオリ待て!1人で脱げる、、!』
『脱がせたらこのまま洗濯してくるんで先にゆっくり浸かっててください!私の元の家すぐそこなんで、着替えや拭き物も用意して来ますんで!』
『そうなのね、そっか。セオリ、ありがと』
『どーいたしまして』
ようやく観念して自ら進んで脱ぎ出すマリ
(思ったより全然筋肉質じゃないんだなぁ、軍服脱いだら当たり前だけど普通の女性にしか見えないや)
1人だけ裸の状態になったマリは気恥しさもありそそくさと湯を身体にかけてから鼻まで浸からせながらセオリの洗濯する姿を眺めていた。
(あぁ…温泉なんていつ以来だろう、、心の底から生き返る気分だ、、あれ?私、泣いてちゃってるじゃん、、)
パサッ
『洗濯終わったんで私も入りま~す!』
涙顔を湯で拭って振り返るとそこには一糸まとわぬセオリが立っていた。スラリと伸びた手足がスタイルの良さを際立たせる。
(白い肌、綺麗だなぁ、、)
ジャボーン!水しぶきが立ちマリは頭から水を被る。
『こら!セオリ!』
『一度飛び込んで見たかったんですよ!温泉で!』
見た目の大人っぽさとは裏腹にキャッキャとはしゃぎ泳ぎ出すセオリ
『ツンとしてないときはすっかり子供だなぁ』
村に着いてまもなくのセオリの印象は芯が強く物怖じしない強い女性だったのだが、素っ裸で泳いでるセオリの姿は未成年の女子を見てる気分になった。
『セオリは今いくつなんだ?』
『ん?今年丁度20歳ですよ!すっかり大人になっちゃいました』
『思ってたより全然若くて驚いた、、』
『む、それって私が老けてるって、、?』
『違う違う、大人っぽいなって思ってたからさ』
羨ましそうにセオリを見つめるマリ
『マリさんはお幾つなんですか?25.6辺りかな~?』
『私は36だ』
『え……!?』
『なんだ?年相応だろう?』
『さんじゅうろくー!?!!』
『そうだよ、もうとっくにおばさんだよ』
『私より16個も歳上なのにその見た目って、、マリさん詐欺すぎません??性格や振る舞いの仕草とかが大人っぽすぎるから25.6って言いましたけど、1個上か2個上なのかなってずっと思ってました、、』
『そんなに若かったら軍の指揮官になんてやってないだろう』
マリはセオリのお世辞だと思い笑い話で返したのだがセオリは本気でそう思っていた。マリはセオリよりも小柄でなにより余りにも童顔過ぎた。日本人場馴れした顔立ちではあったがそれでも年相応ではまかり通れないほど若々しかった。
『なんかマリさんってすっごくズルい、、』
頬をふくらませながらセオリがマリの頬をツンツン突つく。
『な、何がズルいのよ?』
『すっごく強いだけじゃなくて軍でも超エリートのスピード出世、しかもその美貌……ダメなとこ一つも無いじゃないですか…』
『いやいや、私はセオリのその若さが十分羨ましいよ』
『それが嫌味だって言ってるんですぅー!』
セオリがマリの身体をくすぐり報復に出る。
『きゃっ、やめろ!セオリ!……ちょ!どこ触ってるのよぉー!!』
『このこのこのー!』
二人きりで誰もいない温泉の中ではしゃぎ合う二人
『やられたらやり返す!』
マリがセオリの白い肌に手を触れる。
(え?あれ??これって……)
『バレちゃいましたか、、これは私が誰にも伝えていない私の秘密……』
セオリはマリの手を自身の身体から離し、温泉のヘリに上がり腰を下ろす。
先程マリの触れた身体のウエストラインがキラキラ輝いて見える。セオリの白い肌とその輝きで一層神秘的に見えるそのセオリの裸体の節々に細かい亀裂のような線が見える。
『これは……鱗!?』




