#34 戦う意味
銀髪の美女タマモから叱られるだけでなくその相方とおぼしきナムチから挑発まで受けた。
むしゃくしゃしていた。
一同は集会所から出て樹海、蜘蛛の巣窟へと向い歩き出す。
村の中心部で火葬されたご遺体達の脇を通る際、りゅとは静かに手を合わせる。
そして次の瞬間行動を移す!!
『縮地っ!!』
ザッ!!
『なっ!?…あいつ!!あちちゃん!僕たちも行こう!』
『はい!』
縮地を使い飛び込んで行ったりゅとの後を追う二人。
『へー、結構速いなあいつ。タマモ、見えたか?』
『飛ぼうとした動作まではね。今のこの目じゃそこまでが限界』
そう言ったあとタマモ達は刀を拾うとゆっくりと歩きながら三人の後を追う。
樹海の中から早速激しい戦闘の音が聞こえる。斬撃の音ではない。けたたましい程の打撃音!
ガンッ!!ドゴンッ!!っという金属同士がぶつかる様な衝撃音が続く中、大きな何かの落下音も付随して聞こえてくる。
『あぁ、あいつの武器は錫杖だったか。あれ~?あいつ仕切りに斬るって言ってなかったけ?』
『えぇ、確かに言っていたわ』
薄ら笑いを浮かべるナムチに真顔で答えるタマモ。
二人は樹海の外から観戦を始めた。
『りゅと!!』
『りゅとー!!』
りゅとに遅れ、おじさんとあちも樹海に飛び込む!
激しく折れ曲がった樹木たちに蜘蛛の巣が大量に絡みつき垂れ下がっている。覆われているはずの空が綺麗に見渡せる程に周囲の木々はなぎ倒されていた。その中心部で錫杖を構え全身を蜘蛛の体液と絡みついた蜘蛛の巣で酷く汚れたりゅとが立っている。
『りゅと!無事か!』
『とりあえず…ここに居る目ぼしいでかいヤツらは、叩き落としときましたよ、、ハァ、ハァ…』
(息が上がっている、この瞬間にどれだけの攻撃を…)
『いま結界を張る!』
おじさんが片手で印を結ぶ。
『咲き誇れ!破邪蓮華!』
りゅとの身体を中心として大量の蓮の花が大地に浮かび上がり小さな蟲たちは散り散りに逃げていく。
地面に落ちている大蜘蛛たちが蓮の花にせり上げられるが発火はしていない。この大蜘蛛達の中には悪魔の力を保持してる蟲は居ないみたいだ。
『りゅと!蓮の花の範囲内は全て結界だ!!』
坂巻が叫び伝える!
なるほど、連続で縮地を放ち熱くなっていた身体の熱が引いていく。こいつは助かる!
ブシュゥーーーー!!!!
突然何かの発射音が四方八方から飛び交うように聞こえてくる!
床に這いつくばっている虫の息の大蜘蛛たちが蜘蛛の糸を射出し続ける!
それは三人を覆い尽くすように張り巡らされ何かを形成していく。
『トリカゴ!?』
その形を見たあちが思わず口にした。
円柱にドーム状の屋根で囲われ、さながらトリカゴを彷彿とさせる蜘蛛の糸の牢獄に三人は閉じ込められていた。
『あんた達何しにここに来たのさ!ここは私の住処!ミュリンの巣窟だよ!わざわざこんな所まで私を倒しに来たって言うわけ?どんだけ野蛮なのあんた達人間ってやつはさー!私はちゃんと約束を守ってあんた達の村には二度と近づいても居ないってのに…斬って燃やして私を殺しましたよね~?それでもまだ気が済まなかったのかしら??』
トリカゴの屋根の上に突如として現れたミュリン。
タマモの言った通りミュリンは生きていた!
ミュリンは嫌らしい笑みを浮かべながら尚も続ける。
『あ~、そっか!私の言葉を受けてくれて食べる気になったのかしら?私がススになっちゃって食べ損ねたから大蜘蛛を食べにこの巣窟までやって来たって事??それなら食べられてあげちゃおっかなぁ~お 嬢 ちゃ ん!』
『タマモ、あいつさっきミュリンって言ったよな?』
『そうね』
『どうする?タマモ、止めるか?』
『待って、もう少し様子を見てみたいわ』
ミュリンの名前を聞き直ぐに刀に手を添えたナムチを引き止めるタマモ。
『おチビちゃん聞いてるの?前にも言ったわよねぇ?私は生きる為に!食べる為の狩りをしていただけ!何も理不尽なことはしていないの!百歩譲ってあんたたちの村に手を出した事を罪とするならば、あんたに一度殺された私は制裁を受けたはず!違う?』
『…』
『理由も話した!命乞いもした!約束もした!制裁も受けた!!それなのにあなたはまだ私を食べる為でもなく、トドメを刺しにわざわざ家まで押し掛けてきたって事?ただの殺人鬼?やっぱりあんたが本物の化け物なんじゃなくて?どーなの?ねぇ?どーなのさ?』
『うぅ…』
反論できずに下を向くあち
その目から涙が溢れ出る。
『うるせーよこの野郎』
『あら?こっちのおチビは随分口が悪いのね?野郎じゃなくてお姉様でしょ?育ちが悪い子はお姉さんあまり好きじゃないのよね。お仕置が必要かしらね?家まで来られて暴言吐かれてさぁ、これって私が手を出しても正当防衛ってやつになるんじゃな~い?』
『お前、蜘蛛女なんだろ?食べる食べねーとか関係ねぇよ。お前が生きてると安心して暮らせない人がたくさんいるんだ。だから俺がお前をぶっ殺す』
『はぁ?酷くなーい?二度と襲わないって言ってるじゃんか!!』
『信用出来ないから殺すんだよ!めんどくせー。俺ルールでむかついたからぶっ殺す』
『クソガキが…俺ルール???人間ってのは本当にとんでもねぇなぁああああ!!』
『あ?わかったわかった。じゃあお前のルールに従ってやるよ』
そう言うとりゅとは地面に転がっている大蜘蛛の節足に錫杖を突き降ろした!
グシャッ!!
あちを指差しりゅとは言う。
『こいつはなぁ虫は嫌いだから食べれねーんだよ。さっきも虫だけは嫌って散々わがまま言ってたヤツなんだ。だからあちはお前を食わねぇ、けど安心しろ。俺がお前を食ってやるよ。俺はお前を食う為に殺す。お前は俺に食われる為に殺されるんだ。お前のルールでな!』
切り離された節足を拾い上げりゅとはそれを噛みちぎりミュリンの前でムシャムシャと食べて見せた。りゅとの口から大蜘蛛の体液が零れ落ちる。
『こんのぉおおおお!!化け物があああああ!!!』
ミュリンの身体から大量の大蜘蛛たちが湧いてくる。腹を空かせた大蜘蛛たちの口から唾液が滴り落ち頭上より降り注ぐ!
ジュワァ、、、地面に落ちた蜘蛛の唾液が溶解反応を起こし煙が上がる!
(酸?毒!?)
坂巻が即座に反応し、杖を投げ置き両手で印を結ぶ!
『壱の鳥居!顕現!』
蓮の花が消えると同時に地面から巨大な鳥居が迫り上がり蜘蛛の巣で出来たトリカゴを突き破る!左右に割れたトリカゴが傾きバランスを崩したミュリンと大蜘蛛たちは倒れかかったトリカゴの側面に捕まり落下せずに耐えている。
『降臨せし!八咫烏!!』
この期を逃すまいと坂巻は畳み掛けるように印を結ぶ!
『邪を祓い清めし滅せよ!』
空から白く光った八咫烏が降臨し鳥居の上に舞い降りる!
そしてミュリン達をそのクチバシで激しく啄む!
『ちぃーーー!!』
ミュリンは何とかクチバシを躱すが大蜘蛛達は次々と捕食されていく!全く予想すらしていなかった高位祓い術の攻撃を受け苛立ちを隠せない!
『ヒューッ!上位結界と霊鳥降臨の複合術かよ!こいつはすげーや!けど、このままミュリンの奴を殺しちまうかも知れねえぞ?』
ナムチが坂巻の祓い術に感心する。
『弱い者は負け強い者が生き残る。それが今の世界の唯一のルールでしょ?』
『まぁこれはこれで見応えあっからいいけどさ』
ナムチは地べたに胡座を組み完全に観戦モードに入った。
『おのれぇ、、』
(何だこの強力な術を使う祓い師は…こんなヤツがあの村にいたなんて聞いてない!!嫌だ!私はまだ死にたくない!!絶対やられない!!殺す殺す殺す!コロス!!!)
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
ミュリンの身体が瞬く間に異様な姿へと変化していく。
『え、村で見た時の大蜘蛛と違う…』
全身を黒い毛で覆われ、長い角の生えたに鬼の様な顔に鋭い顎が生え足の先端は鎌の刃となりギラついている!
ミュリンがが八咫烏にまとわりつく様に覆い被さる。
八本の節足の鎌が八咫烏の羽根を切り裂き鋭い顎の中から槍と化した舌が突出し身体を突き刺していく!
『不味い!!』
坂巻の顕現した八咫烏が為す術もなく蹂躙されかかる。
鳥居や八咫烏の出現に見とれしまっていたりゅとが我に返る!
『縮地飛翔っ!!』
ザッッ!!
ミュリンめがけて飛び上がり、化け蜘蛛になったミュリンを下駄で蹴り飛ばす!!
ドゴンッッ!!
外殻に大きな凹みを作りながらミュリンは八咫烏から引き剥がされるように宙を舞う。
カチャン!空中で錫杖から仕込み刀を抜き放つ!!
りゅとはそのまま身体を翻し鳥居の上に着地すると共にすぐさま次の攻撃へシフトする!
『鎌鼬!!』
両手に二本の刀を構え、縮地を利用した高速の突進斬撃だ!
バキバキッ!!
斬ったというより叩き折るような形で化け蜘蛛の節足が二本落下していく。そして水泳のターンのようにミュリンの身体に縮地での神速の蹴りを叩き込む!
『縮地っ!』
ドッゴーンッッ!!
ミュリンの身体が激しく吹き飛び地面に落ちるが勢い止まらず木々たちをなぎ倒していく!
空中でりゅとは垂れ下がる蜘蛛の巣を上手く利用し地面に着地すると共にさらに追い打ちをかける!
『鎌鼬・渦っ!!』
両足を交差させた状態で縮地を放つ!
ザッ!ギュインッ!!
身体を一気に回転させながら二本の刀で倒れている化け蜘蛛の背面や腹、節足など身体中を巻きこみ切り刻む!
ズバババババッッ!!!
角や節足の多くが捥がれ、頭部、腹部、至る所に深い裂傷が切り刻まれた化け蜘蛛がのたうち回る!
『ぎゃあああああああ!!』
タッタッタッタッタ!!
あちが全力で駆けていく!
『あ…あちちゃん…』
連続して大技を出した坂巻は片膝をついた状態で息を整え鳥居を維持するのが精一杯となっていた。
坂巻の眼前を駆け抜けるあちの姿が巫女服を着たまま炎状態の姿へと変化する!
『なっ!?身体変化…しかも自然エネルギー体にだと?』
『術ではなく自らの身体で…初めて見たわ…』
驚くナムチとタマモ
『炎の顕現!?あちちゃん回復だけって、、』
笑みが消えるナムチ、目を見開くタマモ、そしてあちの燃えあがる姿に驚愕する坂巻。
『焼き尽くせ!五行の炎っっ!!』
あちの右手の五本の指の炎がいっそう激しく燃え上がりミュリンの身体を炎で覆い尽くす!叫ぶ間もなく瞬く間に化け蜘蛛の姿は燃え上がりススとなり消えていく。
坂巻の顕現した鳥居の庇護効果があるものの三人とも息を切らしており全力を出し切った様子が見て取れる。
パチパチパチパチ
『思ったよりやるじゃんか』
ナムチが不満げに拍手を贈る。
『まだよっ!!』
タマモが叫ぶと同時にりゅと達三人は身構える!
樹海での開戦直後にりゅとがたたき落としたはずの地面に転がっている1匹の大蜘蛛がカタカタと身体を震わせながら起きあがる!
『瞬間転移よっ!』
タマモが思わず声を張り三人に伝える!
大蜘蛛は黒い禍々しい炎を纏いながら半人半蟲の姿に変わる!
怒りに我を忘れたミュリン。人型の姿のミュリンの頭部からは禍々しい角が生え六本の節足と二本の人の足、全身黒紫一色の異形な姿で復活をした。辺り一面の温度が急激に下がっていく。
『おのれぇ…クソガキ共ぉ、コロスコロスコロスコロスッ!!!』
キュゥゥゥゥーーーーーン!!!
甲高い音が響き渡る!纏っている黒い炎が圧縮されていく!
『!?、、広範囲攻撃が来…』
叫んだタマモが言い終わる前にナムチがタマモの襟袖を鷲掴みにし自身の背後へと引き込む!そして腰に添えていた刀を抜き放ち上段に構える!その表情には一切の余談も許されない状況が見て取れる。
りゅと達三人にタマモの声は聞こえたが対応出来るまでの思考と行動が間に合わない!
『死ねぇえええ!!黒炎爆怨殺っーーーー!!!!』
圧縮された黒炎が一気に解放され、辺り一面を冷やしていた熱が一気に高温に跳ね上がり爆風に変わる!一瞬でその場の全てを飲み込む炎と化す!
『神元流・初太刀!刹那!』
ズバーーーン!!!!
ナムチの振り落とした刀が向かってきた黒炎を真っ二つに斬り落とし消滅させ二人の身体の脇を爆風が吹き抜けていく!
『お見事、、助かったわ』
タマモがナムチに感謝を告げる。
ナムチが切り裂いた一角のみを残しミュリンの全周に展開された黒炎は全ての物をなぎ倒しつつその残骸を燃やしていた。
『冷たい炎からの高圧縮爆発術、、』
『おもしれー奴らだったけどな…』
周囲に燃え残る黒炎からの煙と爆風による土煙が混ざり合い周囲の視界が閉ざされる。
ゴホッゴホッ…
少女の咳き込む音が微かに聞こえる!
『変化解っ!!』
タマモの姿が半獣の妖狐に変わる!!
切れ長で美しいタマモの目の色が紅く染まりその瞳孔は縦にスリッドの入った狐の目となっていた。
タマモはその目で樹海の中を刮目すると黒炎を放ち燻っている大蜘蛛の先にその蜘蛛の三倍はあろう大きさの巨大な亀の姿が目に入る!
『は?何よこの亀……』
全てを消し去ったつもりのミュリンは呆然とする、、
『破邪!魔蛇!封~荼羅ああっっ!!(はじゃ!まじゃ!ふう~だら)』
その亀の奥からリズミカルで楽しそうに術を唱える声が聞こえると共に巨大な黒い大蛇が甲羅の中から飛び出しミュリンを一口に飲み込み甲羅の中に戻って行く。
『これは一体…』
今まで冷静に構えていたタマモが額から汗を垂らし、長剣を握る手も微かに震えている。
『じっとしてろ!』
正眼の構えで刀の切っ先を亀に向け足場を確認するように戦闘態勢を取るナムチ!
『ゴホッゴホッ…』
『はっはっは~!困っておったじゃろ?ちびっ子よ!』
周囲の黒煙はほぼ消え失せ視界がはっきりと見えてくる。
『キュ、キュエーン様…』
キュエーンの姿を見たあちは一言名前を口にして気を失い倒れ込む。
『あちちゃん!りゅとくん!』
坂巻は霊力の殆どを使い切りふらふらになりながらも倒れかかるあちに駆け寄るが間に合わず、地面に倒れたあちを抱き起こし治癒術を施しながらりゅとの安否確認の為、視線を送る。
立ち尽くししたままのりゅとは目の前で気を失うあちの姿を見ていたものの、悔しさがそれを大きく勝り刀を握りしめたまま震え泣いていた。
キュエーンが巨大な亀を撫でるとその姿は消えてなくなり、障害物の無くなったその場に6人の男女の姿と燃え尽きた後の荒野が広がっていた。
『こ、こいつはつえーぞ、、』
武者震いをしながらも構えたままのナムチが独り言のようにタマモへと危険を伝える。
『そこの狐っ子!』
『え?あ、はい!』
不意に呼ばれ素直に返事をしてしまうタマモ
『そうじゃ!お主じゃ。ここはお主の見せ場なのかと思って、わっちは静かにしとるんじゃがの?その長段平は見掛け倒しなのかの??』
(ハッ…いけないっ!急がないと!)
タマモはナムチの前に踊り出てその手に持つ長い刀の柄と鞘を交互の手で持ち身体の前に縦で構える!
そして黒炎の範囲外となり残った樹海を見回したあと
『妖術・心斬り一刀!!』
鞘から刀を1cm程度抜き、すぐさま納刀する!
カシャン!!
『ふぅ…ご指示ありがとうございます。失念しておりました故、、』
タマモは謎の女性の計り知れない強さに気づき、丁重に礼を伝える。
『はっはっは!見事で便利な術じゃのぉ。お主はいま三本か!三本でその術を習得しとるとは驚きじゃのう!世の中には不思議な事が多くて困っちゃうのじゃ!はっはっは!』
『キュエーン様、助かりました!!感謝致します。』
坂巻が礼を告げる
(タマモさんが何をしたのか気になるが…今はいい)
『お前に感謝される覚えは無いぞ?わっちはそこのおチビちゃんが困ってたから救援に来ただけじゃ!で、またおチビちゃんに亀を選ばせようと思ったのじゃが…寝てしまってるようじゃな…残念じゃ…』
『申し訳ございません』
律儀に謝る坂巻
『また縁があれば会えるかもなぁ!ではさらばじゃ~』
一面燃やし尽くされた元樹海の荒れ地をそそくさと北の方角へ帰っていくキュエーン様の背中にはマンガ肉が括り付けてあった。
『タマモ、あの肉は何だ?』
『さあね、知らないわよ!』




