#30 素敵な景色
双山村の親善試合が終わりその足で雪舟たち数名は蓮見の見舞いも兼ねて神社の拝殿を訪れた。
拝殿の奥に敷かれた布団の上で寝ている蓮見の様子を見ながら手前側の畳20畳ほどのスペースに腰を下ろし打合せを始めようとしていた。
『蓮見、体調はどう?』
マリが横になっている蓮見に声をかける。
『あ、マリさん。俺、俺、、』
涙ぐむ蓮見
『何も泣くことないよ。蓮見は私の為に怒ってくれただけよね。大丈夫。わかってるよ』
『うっ、、うっ、、、』
泣き続ける蓮見。
『セオリ、蓮見は私の事になると見境が無くなる節はあるんだけど、本当は優しい良い奴なんだ。許してやって欲しい』
『私はもう試合で全てを終わらせたつもりです。今後のお付き合いに関して何のしがらみもありません』
『そう、ありがとう』
マリは蓮見が運ばれてからの一部始終を穏やかに話し説明した。そして蓮見にも上官部下ではなく友としての関係を約束した。
その話を聞き終わった蓮見は起き上がりセオリの前に立ち正座をする。
『セオリさん、頭に血が登っていたとはいえ大変失礼を致しました!!』
土下座をする蓮見
『蓮見さん!もうやめてください!それに私やりすぎちゃったみたいで、、、こちらこそごめんなさい!!』
勢いよく土下座を返すセオリ!そして距離を謝り蓮見の後頭部におでこを強打する!
ゴチンッ!!!!
『んが、、!?』
『はぅっ…!!』
悶絶する2人を見て苦笑いをする一同
『さて、一区切りついたところで、、マリ。神の啓示の事聞かせれてくれるかの?』
静かに頷くマリ。表情が険しくなる。
『取り急ぎの話として手短にお伝えします。私に届いた神の啓示は【天狗在リシ村の南東災ヒ来タル 汝向カウベシ】という内容にて授かりました』
『災い、』
目を細くさせ、前のめりになるセオリ
『過去に私が授かった神の啓示は3回。1つ目は私の能力に関する内容。2回目は軍が拠点としていた南東沿岸部の島内での大量の昆虫達からの襲撃を知らせる内容。そして3回目が東の集落への災いの啓示』
『ワシらを東の集落へ向かわせたのも啓示によるものじゃったのか』
『はい、ただ啓示を受けたからとは言わず、私が啓示の示す内容に沿う形での行動。隠さず言葉にするのなら実験です…。3回目の啓示は【東ノ龍嘶ク時災ヒ訪レン 森ヲ照シ 導ケ】と』
『なるほどの。その啓示じゃと直接的な指示には受け取れんし信憑性を確かめる上でも大々的に神の啓示が降りた!と発表する事も難儀じゃろうて。そして今回4回目の啓示では具体的にそこに行けと受け取れる。果たして南東にどの様な災いが来るのか、こればっかりは蓋を開けなきゃ分からぬか、、』
『あ、1つ、、神の啓示は私の能力に関する事以外は概ね物事が起きたのは七日後。ですので本日を1日目と数えるならば明日よりの六日後にきっと何かが、と私は思ってます』
『あの二人が不在のタイミングを見計らって何者かが動いたか。何にしても降りかかる火の粉は払わねばなるまい。笹岡くん峯岸くん早急に決戦日までに南東にて戦闘が起きる事を見越した準備を頼む』
『了解です!』
『宜しく頼む。それからマリ、軍としてではなくこの村を救うリーダーとして今後の指揮を全権お主に委ねたい。やってくれるか?』
『やります!やらせてください!』
『早速今この場で何か指示あれば出してくれるかの』
『はい、まず南東での戦闘は避けられないと予想し…』
チラッとセオリに目を向けるマリ
『南方に広がる田畑を潰し、そこに防衛壁を設置するのが最善かと。全住民の最終防衛拠点はこの神社になります』
『田畑を…潰す?』
不快感を表に出すセオリ
『当初私たちは村の皆様のお力を借りずに南東のみでカタをつけようとしておりました。なので防衛線を南東の平地に設置せざるをえませんでした。しかし私達もこの村の仲間だと言って貰えた以上、私は敢えて遠慮せずに田畑全てを犠牲にする提案をします!非戦闘民を北西に集め、中央部から広く防衛線を張らせて貰えれば戦闘員の被害を減らせるかと、、』
『ちょっと待ってマリ!あなたはむしろ村に配慮しすぎたせいで最前線で野営までしようとしてたって事なのね!!私、何も知らずに酷い事をあなた達に、、』
『詳しく説明する時間もなかったし何より巻き込みたく無かったんだよ、ごめん』
話を続けるマリ
『軍に残っていた銃火器は拠点防衛戦の際に使い切ってしまいました。次に戦闘になる時は戦える者が最前線に立ち、真っ向から迎え撃つ。これしか対抗手段はありません。援護射撃として弓やスリングショット等での参加可能者がいらっしゃれば、、死を覚悟の任意参加となります』
笹岡が拳を握った後に手を挙げる
『双山村からの人員は俺がまとめて報告するよ』
『笹岡さん、助かります…』
『南東方面に向けての防衛壁や作れるだけの対抗手段の準備は原田くんに指揮して貰います』
『言われなくてもそのつもり。もう構想は練ってある!そして俺も前線に立たせてもらう』
『俺も前に出る!』
蓮見も同意する
『脅威が現れた時、私が前に立ちます。あとの援護は各々での判断に委ねるとしか、、』
口篭るマリ
『ワシとタツキとマリの3人が最前線じゃ。もし現れた敵が人型だった場合、原田くんと蓮見くんは速やかに下がれ』
蓮見と原田は互いを見、口を紡ぐ。
(あれ?セオリの名は挙がってない、、)
マリは少し疑問に感じたが女性だから前線に出すわけないか、と自己完結し気持ちを飲み込んだ。
『さてと今日はもう遅い。休むことも重要な準備の1つじゃ。マリ、明日から人型との戦いを想定した戦闘訓練をしようと思う。宜しく頼む』
『願ってもない!宜しくお願いします!』
6日後に訪れるであろう災いに向け、双山村一同の戦いへの準備が始まった。
《 双山村より北西方面 樹海内 》
ジャラランッ ジャラランッ
りゅとが錫杖を鳴らしつつ、あちと樹海内を北西に向け進んでいた。
真っ直ぐ西に行きたかったのだが足がついてはいけないと北側から迂回する事にしていた。
『りゅと!なんだか虫さんたち全然襲ってこないね??』
『この錫杖の音に影響されてるんだとは思う。裏山での修行の時も錫杖を鳴らしながら山を往復したんだけどそれは熊や蛇を離れさせる為に使ってたんだよ。この錫杖にはきっと天狗の力が込められてるはずだから何かしらの神聖な力が備わってるんじゃないかなぁ』
古びれてた錫杖が横笛を吹いた事により綺麗になり、しかも仕込み刀二本もついた状態にグレードアップしたのだから神々しい効力がついていて当然だ!確信は無いがそう思う!
『へぇー、何も考えてなさそうで色々考えてるんだね!』
『うるせーよ、、あ、それとね』
『ん?』
『錫杖の音だけじゃなくて、あちの存在そのものが邪気を退けようとする力を持ってるんだとも思ってる』
『そうなの?鈴も持ってきてないし祓い具も使ってないんだけどな?』
『俺さぁ昔っから【蚊】が大っ嫌いでさ、こういう森の中とかって嫌でも蚊に刺されるじゃん?』
『私も蚊は嫌い!あれ?ずっと樹海の中を歩いてるのに私ちっとも刺されてないかも?』
『あちさぁ、多分だけどこの世界になってから一度も蚊に刺されてないんじゃないかな?』
『え?あ、、言われてみると随分刺されてない気はする、、』
『俺は特に蚊に敏感でさ、寝る時とか蚊の羽音が聞こえたら見つけて潰すまで寝れなくなるんだよ。だからこそすぐ気がついたんだけどさ、あちといる時は絶対に蚊に刺されないって!何でだろうってずっと考えてたんだけど、それも神聖な力の作用なのかもなぁ』
『え?そうなの!?』
『うん、部屋で1人の時は刺される。あちが疲れて俺の部屋で寝ちゃった時とかは刺されない』
『ほぇ~?』
『ムカデとの戦闘作戦の時に峰岸さんが言ってたんだ。祓い具や祈祷をしていると虫除けスプレーみたいに効果が広がるって。その時にあちと居ると蚊に刺されないってのが俺の頭の中で合致してさ』
『ぷっ、虫除けスプレーとか本当例え方がおじさんみたい!』
『何にしても虫が寄ってこないのは俺にとっては最高だよ!』
『私すごい??褒めて褒めて~!』
『あち、これは遠足じゃないんだぞ?全く、、』
『え~?だってりゅとは私の事絶対に守るんでしょ?危険がないなら遠足と変わらないもん!』
『はいはい、、守りますよお姫様っ』
『ぶー、何よその言い方ぁ!!この、この~』
ポカポカポカポカッ
『ねぇ?りゅと?』
じゃれていたあちが突然辺りを見回しだす。
『ん?どうした?トイレか?』
『違いますっ!!あのね、何か甘い匂い、、』
『甘い匂い?』
クンクン、確かにほのかに匂いがする。
身近でよく嗅いだことのある香りのような、、
『花か!!』
『花の匂いがするね!!』
匂いのする方に進路をやや変え進みだす2人
『匂いが強くなってきた!』
『そこの茂みの先かも!』
ガサガサガサ
『…おおー』
茂みを抜けるとそこには一面に黄色い花が咲いていた。
『うわぁ~、綺麗~!!』
『樹海の中にこんな花の自生地があるなんて、、』
『黄色い海を見てるみたい、、』
風に揺られた花びらが波のようにゆったりと大きく揺れていた。
『りゅと!これタンポポだよっ!!』
『え??タンポポ!?デカすぎじゃない?』
『でっかいね!!』
りゅと達が花に近づくとそこに居た蜂や蝶たちがワラワラと離れて逃げていく。
『本当に私たち虫除けスプレーみたい、、』
『だろ?』
二人は花の目の前で立ち止まる。
『本当にデカイな、俺らの胸の高さまであるよ』
『私は顔しか出ないよ、、まぁりゅとは下駄履いてるしね!』
(こいつぅ、、)
『りゅと!見て!あそこ!綿帽子!!』
『おお、綿帽子もデカイな、、』
タンポポの花の上によじ登り、飛び跳ねながらはしゃぐあち
『凄い凄い!トランポリンみたーい!』
確かに一輪の花のサイズが1人乗り用のトランポリンとほぼ同じサイズだ。
『あんまりはしゃぐと危ないぞ~、虫除けスプレーじゃ効かないような大型や凶悪化したヤツらが突然来るかも知れないんだからさぁ、、』
フラグである。
ブゥゥゥン、、
『羽音!?』
目を凝らして辺りを見ると黒いモヤが目に映る。そしてそれは段々と大きく粒だっていき、その黒いモヤの正体が蜂の群れなのを2人は認識する!
『ミツバチの群れだ!しかも大型化してるやつ!!』
『りゅと!?』
あちが不安そうに振り返る
『言わんこっちゃない、、』
りゅとは背中に回した団扇を取り出しミツバチの群れに向かって構える。
『仕方ないなぁ、これでも喰らえ!』
『つむじ風っ!!』
複数の小型の風の渦がミツバチの群れに向い飛んでいく!
バサバサバサバサー
その渦にミツバチたちは吸い寄せられグルグルと回転し、次々と落下していく!
『つむじ風からの~烈風!!』
天狗の団扇から強烈な風が吹き荒れる!
ブオオオオオオオンンン!!!
花の上に落下し目を回している蜜蜂達が一斉に元来た方向へ吹き飛ばされていく!
『うわぁ!見てりゅと!綿帽子が空にっ!!』
『、、、素敵、、、』
さっきまで蜜蜂に怖がっていたあちは、トロンとした表情で空に舞うたくさんの白い綿帽子を眺めていた。
『丁度いい!あち!飛ぶぞ~!』
『え!?』
あちに駆け寄り腰に手を回し、ひょいっと抱え込む。
『きゃっ』
『あち、ちゃんと捕まってろよ~』
『縮地飛翔っ!』
『え!?!!』
ビュウウウーーーンッ!!!
『ひぃぃぃーーーーっっ!!!』
りゅとは上空高くへ一瞬で飛び上がり狙っていた綿帽子を片手で掴む!
『あち!目を開けてみろよ~』
『うわあああああ!!すごい!すごいすごい!!』
空に浮かぶたくさんの綿帽子と共に心地よい風に運ばれながら空を泳いでいく。
暫く無言でそのキラキラした景色を2人は堪能する。
『ねぇりゅと?私たち戦いに向かってるはずなのにさ、何だか、楽しいね』
脇に抱えたままのあちが綿帽子に目を奪われながら呟くように言った。
想えばこの世界に来てから次々と不思議な体験や恐ろしい体験、辛い修行や試練など怒涛の毎日でこんなにゆったりと綺麗な景色を眺めている時間なんて無かった。
あちと2人で見ているこの景色は一生の想い出になりそうだな。何からしくもなく感動していたかも知れない。
1人まだ感傷に浸っていると突然あちが大声をあげる。
『りゅと!あそこ!人っ!人がいるよ!!!』
『え!?嘘?どこ!?』
『あっち!』
あちが指を指す!
確かに人だ!しかもあの姿、頭には菅笠、白衣にお袈裟!
元の世界のテレビとかで見たことある!お遍路さんスタイルだ!!
この手の姿の人を見ると何故か悪人に見えない件があるな!
『あち!降りてみよう!』
『うん!』
りゅとは優しく空に向い団扇を扇ぎながら高度を下げていく。
『おーーい!!』
『お~い、上だよ~!』
2人の呼び声を聞き、お遍路さんが空を見上げる。
『え!?なになに??人?空から人ーー!!』
思ったよりもいいリアクションだ!
『あち、降りるね!』
綿帽子から手を離す!
『あ!!』
『わっ!』
ドテッ 着地失敗
『あいたたたたた、、』
『もー!りゅと!下手くそ!』
『え、、子供!?』
着地失敗地点へと心配し駆けつけてくれたお遍路さんは2人の子供を見て驚きを隠せない。
『どーも、こんにちは』りゅと
『えと、こんにちは』あち
挨拶をしながら顔をあげるとそこには
人の良さそうな30代に見える男性のお遍路さんが立っていた。
『おじさん、、?』りゅと
『おじさんだ!』あち
果たしてこの【おじさん】は何者で、何をしにこんな樹海を独りで歩いていたのか、、次回に続く!




