#3、いれぎゅらー
天界とは神々と天使が住む国、元は何も無い無の世界。現存する神でさえも原初の神が誰なのかは把握できずにいたが些細なことを気にする神は無く、それぞれがそれなりの人生ならぬ神生を謳歌していた。とある神が宇宙を作りゼウスが地球を作成し、その統治管理を妻のヘーラーに委託したとされていた。実際のところは神のみぞ知る話である。人々が提唱する神話と真実との相違も問題ではなく、真実とズレていようが人々の関心が集まり、承認欲求を満たせれば良いのであった。
神々は下界での各宗派それぞれに確執などが産まれぬよう、神々同士の横の連携を深めるために下界の各地方に合わせて神々を支部化させ、不定期での対面集会や思念伝達会議を行い情報交換、天界の維持管理などに務めていた。
支部は現在5つ、総支部となるギリシア支部を筆頭に、エジプト支部、メソポタミア支部、北欧支部、アジア支部。余談だが総支部は4年に1度くじ引きで決めている。
〈天界 黄金宮〉
りんごの木の下で寝ていたヘーラーが目を覚ます。
『お目覚めでしょうか?ヘーラー様』
その傍らにはイーリスが座っていた。
『随分長く寝ていたようね。さすがにあの量の転移は私の能力でも少々無茶をしてしまったようですね。転移後の魂達は無事に依代に収まりきったのかしら?』
『はい、ヘーラー様がのんびり寝ている間、私がちゃぁんと観測してましたので、、ちょっと寝不足です』
『何かトゲがあるわね、、まぁいいわ。状況報告してちょうだい』
『了。まず天界及び魔界の魂の現在の収容数は全体の6割程度に抑えられました。収容手続き待ちで並んでいた魂達も全て下界へ転移完了、計画通りです。』
『1つ危機は乗り越えましたね。(支部長の満期前に不祥事を起こすなんて絶対に嫌よ)』
『転移後の魂の依代先についてですが戦争被害にて亡くなった約62億の魂と元々収容済みであった魂との総計が約100億。その内の8割が計画通りに昆虫、魚、鳥等の各卵と発芽前の種子に転移成功です。残りの約20億の魂は人外への転移を拒み、生存している人類の魂たちと合併致しました』
『え、、?魂って合併出来ちゃうの?』
『出来ちゃいました』
『出来ちゃいましたって、、ごほん、ま、まぁ一応計画通りね!概ね!!』
『それとイレギュラーな例も起きまして、、具体的な数は不明なのですが各地に散らばる神器宝具の中で御神体と呼ばれ祀られていた幾つかの武具が依代としての条件を満たしていたらしくその武具に転移を成功させた魂たちもいるみたいです』
『まさか!御神体は神にとっての依代にはなりますが魂の移転先になった事例は一度も、、』
『まさにイレギュラーな事態が起きちゃいました。神を依代にした状態の神器防具って神に匹敵する力を出せましたよね?ただ転移した魂は神では無く人です。人の力を引き出せたところで人は人ですし、その場合はどうなるのやら、、』
『!?!!、イーリス、、ちょっとこちらへ来なさい。もっと近く!』
イーリスの耳元でヘーラーが囁く
『イレギュラーの話は支部会議は勿論ですが金輪際他言無用です、、』
『ヘーラー様、、取引をしましょう!私、専用の依代を下界に作っていただけますか??』
『下界に依代を?』
『はい!下界の監視のお仕事をしてた時に食べてみたいものや行ってみたい場所、生で見たいものとかたくさん!!!』
『、、その話はまた改めてゆっくり話しますから、、』
『約束ですよ!』
満面の笑みで飛び跳ねるイーリスとため息をつくヘーラー
『そろそろ支部長会議の時間ね』
鏡を見てメイク直しをするヘーラーの後に周りヘアセットを整えるイーリス
ヘーラーがハンドベルを鳴らす。5つのモニターに各支部長の姿が映る。
『全員揃っていますね。それでは臨時支部長会議を始めます。ではここからは私に代わりイーリスより始まりの経緯から現在までの状況報告を致します。イーリス、お願いね』
『かしこまりました』軽く頭を下げるイーリス
下界での戦争の急激化により予想外の死者数増加により天界及び魔界での魂収容数オーバーフローが起こり、魔界設立始まって以来の脱出成功者を許すという失態。オーバーフローへの緊急処置として約100億の魂の一斉転移を完了させた事、また人類滅亡対策として神器宝具の封印解放、聖地の庇護システム最大レベルでの使用許可までを既に実行してある旨が報告された。
『イーリスありがとう。ではここからは今後の我々の動き方についての話になります』
各支部長はいずれも静かに聴いている。
『まずはこれ以上の人口減少は絶対に避けねばなりません。が、核兵器の使用により広範囲の地表及び海域全体の核汚染がひどく人類の繁栄する環境としては劣悪な状況です』
北欧支部から怒声が響く
『ぶっ壊してしまえ!!ラグナロクを発動せよ!!』
興奮して割って入った雷神トールを北欧支部 支部長のオーディンが諌める。
『信仰心エネルギーを集めるために各創造神達が色々な物を生み出したが、、正直ゼウスの創ったこの地球は絶妙な位置取りをキープ出来たお陰で信徒となる人類の繁栄力が優れておる。易々と破壊は出来んよ。悪かったなヘーラー続けてくれ』
ヘーラーは軽く頷き話を進める。
『土壌汚染問題につきましてはギリシア支部に時間操作を使える者がおりますのでこちらで担当致します。生還者の追跡は既にアヌビスに動いて貰ってるのでエジプト支部にお願い致します。その他の支部に置かれましては聖地庇護範囲内での人類の復興支援及び範囲外に発生するであろう魔獣、魔物の調査観測場合によっては討伐をお手伝い頂きたいと思っております。
『人外への魂の転移、、面白いことになりそうですね』
アジア支部 シヴァがほくそ笑む。
『尚、暫しの期間、緊急対策処置として下界での活動範囲は管轄制度を一旦無くし全エリアを許可とします。何か起こるか我々神でも予測不能です。目的は地球の維持存続、人類の復興、そして信仰心エネルギー回収量の回復作業です。皆様宜しくお願い致します』
臨時での緊急思念伝達会議はほどなくして終わりとなった。
『お疲れ様でしたヘーラー様』
『まだ休む暇はありません。イーリス、取り急ぎ土壌及び海域汚染回復作業に入ります』
ヘーラーがハンドベルを鳴らす。
『お呼びでしょうか?ヘーラー様』
時を司る神 クロノスである。やや長めの黒髪、貴族風な髭を生やしている。ワインとかが似合いそうだ。
『知っておるかと思うが下界全域での核汚染が深刻な問題なっておる。其方の時間操作で修正は可能か?』
『ふむ、例えば核ミサイルの使用前に戻し汚染されてない時期に戻すという事でしょうか?』
『さようじゃ。核ミサイル使用前もしくは戦争開始前?其方の力なら簡単じゃぞ?』
『確かに造作もなく戻せます。が、しかし、』
『なんじゃ?』
『時を戻したとて、その後すぐにいまの状態に戻りますな。時を戻したとてその後に起きる事が分かっている出来事自体を止めることにはなりません。では戦争そのものを無くせるか?答えは否、多くの人々の思いやきっかけ出来事、タイミング、世界情勢、、何がきっかけとなって戦争に繋がるか、何をもってすれば止められるかの判断は我々でも無理でしょう』
ヘーラーの表情が曇る。
(まずい、支部会議で大見得を切ってしまった。。今更、時の操作では無理でしたとは言いたくない)
『な、なら、時を加速すればよい』
『巻き戻しではなく加速ですか、、!確かに加速であれば何の事象も起きておりませんので核汚染を回復させる事は可能ではあります、が、加速中に何かしらの事象により人類の滅亡または地球上の消滅等が起きる恐れがございます、、』
『、、、。』ヘーラーが肩を落とす。
『時の加速の範囲を地球上の無機質なものに限定すれば?』イーリスがりんごの木を軽く叩きながら続ける。
『有機質、生命体は時を止め、無機質な物のみに限定して加速させれば危険はないのでは?!』
ヘーラーが目を輝かせる。クロノスはため息をつく。
『土壌のほとんどは有機質です。。』
『、、、。』
ヘーラーの目が死んでいる
『か、加速中に地球の危機や人類滅亡のきっかけを作りそうなのは人類のみですし、結果がどうなるかはもう分かりませんが人類のみ時を止めその他を加速させてみます』
クロノスが半ば投げやりに協議を終わらせた。
そしてすぐさま神の奇跡を祈り出す。
『アクセラレーション オブ タイム!』
クロノスの全身が一瞬光を放ち、すぐ収まった。
『ヘーラー様、加速完了です。恐らく約1000年程進んだかと思います。では私はこれで失礼致します』
クレームは一切受け付けませんと言い放ちそうな視線を送りながらクロノスは帰って行った。
『…。』
『ヘーラー様、1000年ですって、、』
『イーリス少し寝ましょうか』
『そうですね、また起きたら考えましょう』
2人は仲良くりんごの木の下で眠りについた。




