#26 認識違い
セオリはタツキに視線を送る。
タツキと目が合う。これだけで十分にセオリが何か動きを起こす意思表示は伝えられた。
『失礼致します。初めまして!上杉隊長とお呼びして宜しいでしょうか?』
『ええ、勿論。初めまして。この軍の隊長を務めさせて頂いてる上杉摩利と申します。宜しくお願い致します』
『私はこの村での巫女修行をしている者です。セオリとお呼びください』
『巫女?』
『え?あ、はい。まだまだ駆け出しですので巫女には見えませんものね!』
そう言ってセオリは上杉隊長に笑いかける。
『隊長は今、隊の指揮中です。雑談等はお控え願いたい』
割腹のいい隊員が割って入りセオリの会話を制止する。
手で押しのけられた訳では無いのだが上杉隊長とセオリの間にねじ込むように身体を入れて遮った。その割腹の良すぎる肉体の壁に押され双方ともに身体ごと引き離される。
『ぐっ、蓮見、、邪魔だ』
押しのけられた上杉はとても不満げに声を荒らげる。
『ふぅ、、』
セオリもやれやれとため息を漏らす。
『この村には幼きにして治癒術の優れた巫女がいると報告を受けていたのだが、、?この者がその幼き巫女なのか?』
上杉が遠藤一佐に問いかける。
『あ、いえ。その巫女はあちと言う名のもっと幼い子です。この方は私も存じ上げてございません』
『あちちゃん、その巫女は今は外出中です。私はその代理としての巫女です。』
セオリが代わりに答える。
『この者はワシが正式に巫女として奉職に携わせておる。この者の発言はワシに変わる物として扱ってくれるかのぉ』
雪舟が蓮見に圧をかける。
『神官殿承知致しました。では巫女殿どうぞ続きを』
『はい、この村の巫女として私から一つ。ここは双山村です。軍の私有地ではございません。緊急避難としての一時滞在や応援要請であれば快くお受けも致します。しかし、一方的に神の神託だ!だけで好き放題されても困ります。しかも我々には我々の崇める神が既におりまして、その神から我々には何も神託は降りておりません故』
『で、貴方は何が言いたいので?』
上杉がセオリの話の真意を問いかける。
『私がこの村の巫女である事をあなた方が知らなかったように私達もあなたが隊長である事や、神の神託により行動されてる事を先程言葉として聞いて認識しただけ。その様な者に従う者はここにはおりません』
『貴様っ!』
蓮見がセオリの態度や物言いに怒りを表し掴みかかる!
セオリは直ぐさま伸ばしてきた手を取り手首を捻り地面に誘導させる様にねじ込む。
『ぅっ!!』
手首を庇い自らの身体を前転させる蓮見
ドサァァァ!!
蓮見の2m近い巨体が地に沈む。
『ガハッ、、こいつ、、』蓮見
『ほほう、、』上杉
『あなたが女の私を弱いと認識し誤った行動をとったが故の顛末がこれです。何卒、認識を見誤ること無きように』
『我々、軍が神の信託の認識を誤っていると?』
『そうではないです。あなた方が崇める神の神託をどう認識しどう行動するかは貴女方が決める話。しかしそれがこの地でという話であれば私どもの意向を汲んだ上で行動するのが筋かと。今のこの世はかつての世界ではございません。法も秩序も無ければ軍だという理由のみで従う理由もございません』
『言うでは無いか』
『今あなた達が設営しようとしてる場所、初めから開けた土地であったと認識されてらっしゃる様なので』
『何?』
『私達が生きる為に田畑を作るため整地した場所です。そこに貴女方が土足で足を踏み入れてると申しております』
『なるほど、それで君は怒っていると。私が色々と認識を見誤ってると言いたいのだな?拓けた土地と誤認しヘリを着地させ拠点作りをしてしまってると。正常な認識が出来てない者共の指示を聞く気にはなれないと』
『ええ、そうですね』
『ふふっ、ならばそれはお前自身の誤認でしかない』
『!?』
『私は田畑を避けてここを選んだ訳ではない。田畑があろうとここにヘリを止めていた』
全員に緊張が走る
『元々、私達への配慮は持ち合わせていないと?』
『他意は無いが神の神託に従ってるまでだよ』
『残念ですが分かり合えないようですね』
悲しそうに答えるセオリ
『いや?そうではないぞ』
上杉は楽しそうに言葉を返す。
『私はお前を気に入った!軍という看板を私はいつの間にか表に掲げ威圧し軍に従えと無言の圧を掛けていたことに気付かされたよ!』
『え?』予想外の言葉に戸惑うセオリ
村人のみならず軍の隊員も驚いた顔で上杉を見る。
『よし、この軍という組織は今を持って解体する!』
『なっ!』団員達が動揺し顔を見合わせる。
『このバッジももう要らん』
上杉はそう言うと階級を示したバッジをもぎ取り投げ捨てた。
『将補のバッジを、、、!!』
隊員達の顔がひきつる!
『なああああ!将補だと!?!!』
峰岸が口をあんぐりとさせ今にも倒れそうだ。
『なぁおい、ショウホってそんなにすげーのか?』
笹岡が峰岸に問いかける。
『すげーどころじゃねーぞ!有り得ないんだよ将補なんて!!3歳児が東大理IIIを首席で卒業しました!って事よりすげーかも知れん、、』
『そりゃすげーわ、、』
周囲のざわめきを他所に上杉は続ける。
『そうだな、ついでに上杉の名も捨てるとするか。減りに減った人口で苗字があっても煩わしい。私は今日から只の摩利だ。いいな、お前らもそう呼べ』
『な、、、、!?!?』
『神の神託を聞いたのは私だけ。その私が立場を利用し軍を率いてたようなものだ。悪かったなお前たち。』
『そ、そんな、、』
『私は個人的に我が神を崇め、我が神に従う。軍は今この時を持って解散だ。お前たちも好きなように生きろ。』
『私はこれからも隊長について行きます!!』
『私も!!』『隊長、、いやマリ様に着いていきます!』
隊員達から次々と意思表明が上がる。マリから離れようとする者は1人もいなかった。
『さて、セオリ。話の続きをしようか。私は個人的理由で自身の神に従いここに居る。田畑の件は悪かったな。設営場所は田畑を避けさせて貰う。ヘリも移動させよう。しかし私はここに残る。法も秩序も無いのだから私がここに勝手に住むことも構わぬだろ?』
『全くあなたって人は、、あなたが幾ら1人だと言い切ったところであなたのお仲間さん達はあなたに着いて行くと言う。』
『それは各自で決めたことだ!私は知らぬ!』
『隊長、、』『そんなぁ、、』
寂しがる隊員たち
見かねた雪舟が口を挟む
『集団とは導く者が居るから成立する。ウエス…んんっ、マリよ、こやつらは軍の上司としてではなく人として着いてきたいと言いよる。この場に連れてきたお主が責任を持つのが筋じゃろうて。そしてセオリ。村民を代表として胸のつかえが取れる物言いを代わりに言わせて済まなかったの』
『ふんっ』マリ
『いえいえ』セオリ
『いまこの村には約50人の村民が居る。そして新たに来た人数も約50人。総勢100人の集まりとなった訳じゃ。法も秩序も無いが集団には集団のルールは必要じゃ。生きていくには共同生活をし助け合い譲り合い、強い者が弱い者を護り、互いに手に手を取り合う為の導く存在が必要となる。それが異なる2つのグループとして対立するのは非常に残念な事じゃ。今ここで誰がこの100人を導く導き手として相応しいのかを皆が納得する形で決めたらいいじゃろ』
『話が長い』マリ
『それはどの様にお決めになられるのです?』
マリの言葉をスルーしセオリが雪舟に問う。
『既に双方の導き手となる存在が居るじゃろ、何も1人に絞れとは言わん。双方からリーダーとなり得る者、自薦他薦問わず選出し100人を納得させれば良い。どんな方法でも良いぞ?演説、特技披露、人気投票、真剣勝負でも構わぬ』
『ふふ、それは余興として面白そうだな。神の神託とは言えただ待つのみではつまらないと思っていた。隊員、いや元隊員の中にも私に一泡吹かせたいと腹に一物抱いてる者も居るかも知れないからな!あっはっは』
上機嫌なマリ
『これは支配者を決めようって事ではない。立候補しない者を除け者にするものでも無い。人には向き不向きがあるからのぉ。支える事が得意な者、縁の下の力持ちを好む者は静観するも良し。自らの主張を積極的にしていきたい者は立候補、神輿に担ぎたい相手が居る者は推薦。対戦したい相手が居る者は指名すれば良い』
『俺は笹岡を推薦する』峰岸が手を挙げた。
『な!?てめぇ、、なら俺は峰岸を推薦するぜ!』
『ふぁっ?そんなんありかよ!』
『わっはっは、何なら二人で手合わせしても良いのじゃぞ?』
『演説します、、』『俺も、、』
笹岡、峰岸、推薦により参加決定となる。
『俺はそこのアンタに立ち合い希望するぜ、』
蓮見がセオリを指差す
『ふぅ、仕方ないですね。お相手致します』
蓮見、セオリ、参加決定。
『うーん、私に手合わせ希望はいないのー?』
マリが全員を見渡す。
『セオリは取られちゃったからなぁ、、』
『あら?私にご希望でしたらお受け致しますよ?』
『蓮見と戦わせた後に勝っても嬉しくないからなぁ、じゃあ双山村で1番強い人が相手してよ?私も1試合してからセオリとやってあげるわ』
『結局やるのね』セオリが笑う
『私の相手は、、ずっと静観決めてるそこのイケメン君かな?隠しててもバレバレよ?』
セオリがタツキの顔を覗き込む。
『1番強いのは俺じゃない』
『え?』
タツキが雪舟を指差す。
村人全員が頷く。
『え?』
マリがセオリに目を向ける。静かに頷くセオリ。
『神官様が人として指導者的立場なのは察していたけど、正直強さの指針である闘志を全く感じないのだけれど、、』
『ほっほっほ、皆に持ち上げられとるじゃけだよ。まぁ朝稽古として剣道の先生程度にはやれるかもじゃて希望であればお受けするまで』
『まぁいいわ、どうせ余興だし』
マリは次戦でのセオリに意識を向ける。
『タツキは出んのか?ワシが推薦してやろうか?』
『俺は出ませんよ。リーダーとか向いてませんし』
『余興は多い方が盛り上がるだろう、原田!私がお前を推薦する。そこのイケメン君の相手をしろ』
『えぇ、マジっすかぁ。やりたくないなぁ』
隊員の中で一際背の高い隊員が頭を搔く。
『マリとしての個人的な命令だから断りたきゃ断れ』
『そんなん余計断れないっすよぉ、んじゃそーゆー事でイケメン君よろしくね!』
涼しい顔してタツキを指名する原田、参加決定。
『以上で良いかの?』
全員が頷く
双山村第一回、無差別級主張の宴が開催される!
第一演目、笹岡、峯岸、2名の演説
第二演目、手合せ
1試合目-セオリVS蓮見
2試合目-雪舟VSマリ
3試合目-タツキVS原田
エキシビション-セオリVSマリ
『では、会場は旧東の集落との架け橋となった樹海跡地とする。野球場より広いスペースになっとるからのぉ』
皆、いつの間にか殺伐とした空気を忘れ、この世界での初となるイベント開催に心踊らせていた。
果たして勝利は誰の手に!そして上手くまとまる事が出来るのか!答えは神のみぞ、、知る?
『では全員このまま出発じゃ!』




