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世紀末な後始末  作者: 柊隼凌
第2章 新たな世界
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24/28

#24 旅支度

双山村 南西部 小麦畑傍


タツキは危険区域に足を踏み入れた。


日中の木漏れ日の光で樹海の木々や植物たちの鮮やかな緑が映える。

植物がたくさん茂り、獣や虫、鳥などの鳴き声があちこちから聞こえてくる。


普段人々が足を踏み入れられない危険な場所だとは思えない雰囲気。だがここは紛うことなき危険区域、油断はならない。タツキは身を引き締める。


危険区域とは聖地の持つ神の庇護の届かない地区。

かつて時の神クロノスが神の奇跡を発動し1000年の時間経過を施し、そこに生息する動物、虫、植物などもそれに応じた変化や進化を遂げた。更に女神の女王ヘーラーによる魂の融合にて生命を宿した新種がたくさん産まれ、その環境で生き残ったのは巨大化、凶暴化した獣や虫たち、それらの存在が人々の恐怖の権化ではあるが当然そうは至らなかった生物達も数多く住んでいる。


タツキは耳を澄ます。


『樹海に住む生き物たちと会話出来れば早かったんだけどな。仕方無い』

タツキの獣交信能力ちからは友達となり得る生き物のみが対象となる。その対象については非常に曖昧ではあるが恐らくペットになり得るかどうか。その辺だろうと何となくタツキは理解した。


手頃な木に登り口笛を鳴らす。

ピューーーーー!!!!


鳶が頭上で旋回する。

タツキは西を指差すと鳶もそれに合わせ飛行して行く。

スルスルっと気から降り足早に樹海から戻り報告を待つ。


暫くし鳶がタツキの元に戻ってくる。右腕を空に向かって掲げ鷹匠の様に受け止める。


『危険な場所に飛ばせてごめんな。お前が見たものを教えてくれ』

鳶の頭を軽く撫で、タツキはおでこを鳶の頭につける。


(小さい集落、管理区の大外あたりに繭の残骸、人もいるな、、集落の外に蜘蛛の巣窟、、)


『ありがとう。助かった!』


タツキは村の住宅地へ戻る。途中すれ違う住民達は明るく振舞ってはいるがその笑顔はどれも作り笑いに見える。皆、不安を抱えつつそれを押し殺してるようだ。


家に戻り報告するタツキ。


『やはり西の集落にはまだ人は居る。集落内に繭の残骸繭にされたであろう人達の安否は不明。そして集落の外、割と近くに蜘蛛の巣窟があるのを見つけた』


『!?』


『蜘蛛女の拠点かもな!師匠!行っていいか?』

『まだ待てりゅと』

『むぅ、、』


『生存者の救助及び蜘蛛の巣窟の対処が早急なのは間違い無いのじゃが、、』

『俺達が動くことでさらなる報復への不安や恐怖を煽りかねない』

タツキが先読みし答える。


『うむ、村人にとってワシたちは期待の戦力でもあり火種の不安でもある』

『は?』

不満を募らせるリュト


『蜘蛛女がこの村へ来た理由は仲間を殺られた仕返し、あちへの報復じゃ』

『!?』

(わからなくも無い、、仲間がいたのなら当然か、、)


下を向くあち。


『けどそれってさ、うちの村の全員が報復の対象になり得る訳で。当然それって相手目線での脅威に映るヤツ。ムカデ戦で言えばあちや師匠、タツキに峰岸さんとかさ!』


『その中で圧倒的な存在感を放ったのは誰じゃ?』


『くっ、、』

(炎化したあちは遠目で見ても目立つ。話題の中心になるのはあちしかいない、、)



『それなら尚更俺達であちを守るべき!あちが救ってくれたと感謝するならまだしも、あちが居るからまた狙われるって不安になってあちを煙たがるのは論点がズレすぎなんじゃねーのか?救ってくれた人が狙われてるなら全員で盾になりたいって気持ちにならないのかよ!』


『それが出来るやつはおるか?虫と対峙し戦い生き残れる者がこの村に何人おる?』


バンッ!

テーブルを叩くリュト


『戦えぬ者たちから見れば正直蚊帳の外の思い。村の皆はまな板の魚のようにいつ包丁で卸されるかを神に委ねるしか出来んのじゃ。何かあったらまたあちが救ってくれると思うよりも、またあんな目に会うかも知れないという恐怖の方がどうしても勝ってしまうのじゃ。気丈に明るく振る舞うのがやっとなんじゃろな。その姿はワシらからの視点だとぎこちなく映る、、』


『くっそぉおおおお』

拳を振りあげようとするリュトをなだめるセオリ


『セオ姉はどう思う?』


『んー、私は他の村人よりここに居る皆との距離が近いからね。皆が危ない時は私はいつでも盾になれるよ、それについては怖くは無い。けどね』

『ん?』

『父や母の事を考えたら怖いよ。私が目立つことをして父や母が標的になるかも知れないって視点で考えてしまうと怖い』


『けど俺たちが戦わなくったって襲われる可能性はあるじゃん?東の集落は実際に襲われてた訳だし、、』


『人は弱いんだよ。過ぎた過去よりこれからの未来を怖がるの。静かに暮らしたい。狙われたくない。ってね』


『俺が下手に暴れたらまた恨みを買うから怖いと、?』


『おかしい話よね。動かずいたって安心なんの保証なんて無いのにね。けど弱者はこう思うの。静かに暮らしてれば災いは起きないかも。私たちは狙われないかも。敢えて目立つことをする必要は無いのかもってね。それこそ毎日神に祈りを捧げていれば神様が救ってくれる。勇者が助けに来てくれる。』


ギリッ 歯ぎしりの音がする。


『ごめんね、りゅと。原因はきっと私、、』

静かに口を開くあち


『お前何言ってん、、』


『きっとね、私は変身しちゃう能力ちからだからさ、人の姿じゃなくなるでしょ?ムカデも変身した。蜘蛛女も変身した。私も、、だから皆からしたら私の事も怖い、、』

涙で言葉が詰まる。


『は?一緒だって言うのか!!?あちと?あいつらが?』


『仲間だと思われてるわけじゃない』

タツキが諭す


『じゃあ何でっ!!!!』


『人智を超えた力、姿。人はそれを恐れる。かつては空に走る稲妻にも人々は、、』

雪舟も静かにリュトを説き伏せようとするが


『うるせーよ!!!俺はあちの話をしてるんだ!あちを怖がるのなんて絶対おかしいだろっ!!!』

言葉を遮り声を荒らげるリュト


『りゅと君の言いたい事もわかるし、村の皆の気持ちもわかる。私には分からない事なんだけど強い人には、、』セオリも宥める為に必死に言葉を紡ぐ


『最初から強いやつなんて居ないっ!!』


静まり返り皆息を飲む。


『私さ、じっちゃんやりゅと、たっちゃんの誰でも、誰か一人でも修行で、、ヒック、、変身できるち、、力を授かって帰ってきてくれないかな、、、って、、ごめん、なさい』


泣きじゃくるあち


『村の皆も怖いかもだけど、あちちゃんが1番怖がってるのにね。自分が自分で無くなったかも知れないって、それを共有出来る人も居ない、、』

咽び泣くセオリ


『りゅと、お前から見た俺って強いか?』

『何だよ急に、、俺が稽古で勝てたことないんだから強いに決まってるだろ』


『お前が強いと思ってくれてる俺だって弱い心があるんだ。だから龍神様の石碑を砕いてしまった。今まで護られ助けられ感謝し続けてた石碑を、不安や恐怖、今現在の願いを聞いてくれなかったというたったそれだけの事で。お前が強いと言ってくれる俺だって状況によっては弱くなる、』


『守神とはのぉ、人の弱い心までも許し護るから守神なんじゃ、皆の弱さも受け止めた上で護る。りゅと、わかるな?』


皆何の話を一生懸命聞かせようとしてるんだ?

強い弱いなんてどーでもいい。感情でムカつくかどうかなんだ!理屈じゃねーんだ!あちが悲しんでる!泣いてる!それが今の答えだろ!


言いたかった言葉を我慢した。

今ここにいる皆が悲しんでるのは解ったから。


(じっちゃん、タツキ、どーしたらいい?あちはどーしたい?セオ姉ぇはどーなれば怖くない?俺は、、どーしたい??)


スクッ

立ち上がるリュト


『俺は村を出る』

『!?!!』驚く一同

『何で!!』叫ぶあち


『足りねぇ頭で考えた。シンプルに行くことにした!蜘蛛の巣窟を排除する!けどそれをやるのは村の部外者がしてくれたら皆は余計な心配が増えない。だったら俺が部外者になればいい。西の集落で派手に暴れて俺にだけ注目を集める。そしてしっかりその後の形跡も派手に残しながら双村山から遠ざかり化け物みんな俺が引き受けてやるよ!』


『この、、バカッたれ、、』

雪舟の怒鳴りを遮るようにあちの手が先に動く!


バッチーーーーン!!!

リュトの左頬が打たれる!


『バカーーーーー!!!!!』

涙を零しながら目を見開きリュトを睨む。


『皆を守るにはそれしかねーだろ、、』

『だったら私も一緒に行くっ!!!!』


皆が固まる


『お前の事も守りたいから独りで行くのに連れてったら意味ねーじゃねぇかよ、、』

苦笑いをするリュト


『治癒も出来ないくせに守るとかカッコつけないでっ!!独りで戦って怪我したらどーするの!?村の外じゃ治癒の恩恵も無いんだよ??死んじゃうんだよ??』


目も鼻もぐちゃぐちゃのあち


『死なねーよ!』

『死ぬもんっ!』


『守る守る言うんだったら私も連れてって最後まで私の事守りなさいよっっ!!!独りで行こうとするなんて、、大っ嫌いっ!!!』


家を飛び出るあち



皆、ため息を付くがリュトの気持ちもわかる。他の策が思いつかない自分自身へのため息だろう。



『どうしましょう?』セオリが封を切る。


『ごめん、探して連れ帰る』

リュトが後を追う、


『師匠、何をするにしても蜘蛛の巣窟はほっとけない。もし卵でもあって大量に増えでもしたら、、決断を』


(ワシはこの神社の宮司、ワシが村から離れることで聖地に何か作用し神の庇護が弱まる様な事になったらそれこそ取り返しがつかん。タツキには父や母、姉がいる。そうなるとリュト、、あちがそれを許さんか、、)

決断出来ずに肩を震わせる雪舟


『ふぅ、、、タツキ、すまんが村の全周囲に脅威が無いかの情報さぐれるかの?可能なら定期的にな』

『問題無いです。村の皆に俺の能力(ちから)を見せてあげて常に監視範囲が広がったと安心させましょう』


『頼む、頼りにしておる』


『セオリ、お主を戦場に出すわけには行かん。村の中で皆の支えとなっとくれ』

『はい、承知致しました』


スクッと立ち上がる雪舟


『可愛い息子と娘に旅をさせろとは言ったものじゃが、旅先が地獄かも知れないのに行かせられたものか、しかしあの子達の授かった能力ちからはまさに神に愛された子達とも言えるしな。あの二人の強さを信じきれてないのがワシの心の弱さ。ワシが負けっぱなしで皆に強くなれと願うのがおこがましかったな。ふぅ、、あの二人に任せるぞ!』


『え!?』セオリ

『し、師匠!?』タツキ


『誰かがやらねばならぬ。悔しいがあやつの言う通り敵を排除しつつ村の安全を願うなら、あの作戦しか無いかも知れんと思ってしまったわい、、戦力を2分するなら神の庇護にて回復できるワシらと、火の力で治癒力を高めたあち。その二者で庇護の中と外とで別れる。ワシらは村を死守。あの子達に攻撃の一手を委ねる!』


ズズーッ


お茶を飲み干す雪舟


『村は残ったワシらが全力で護る』


『ふぅ、、あの2人に付いて旅のできそうな子を探ってみますよ師匠。そうすれば離れていてもお互いの意思疎通も可能になるかと、、』


『ほほぉ、それは有難い話じゃ。セオリ、お主の弟は便利じゃのぉ、わっはっは』


雪舟が無理して笑う気持ちを汲み、和かな雰囲気に乗っかる姉弟


タタタタタタッ

『バカあちどこいった~?』


神楽殿を覗くがあちの姿はない。クソッどこだよ、、

直ぐに探し始めたから管理区外には行けてないはず。


りゅとは近くの木をスルスルっと登り神楽殿の屋根に飛び乗り周囲を見渡すが姿が見えない。


団扇を一振


ブォン!


団扇で生み出した上昇気流を利用し御社殿の屋根上まで一気にジャンプ!


『見つけた』


ストンッ

まるで小さな木の枝が落ちたかの様な小さな着地音


『こんな所にいたのかよ、あち』

『うるさい、、』


御社殿裏の小さな祠の前


『俺が悪かったよ、ごめん。』

『何の悪かったなの?何をごめんなの?』

『独りで行くって言って悪かった。お前を護るって言えなかった事がごめん、、』

『ふーん、、で、どーするの?』


暫し考えるリュト


『俺と、、一緒に。俺と一緒に行こう!あち!』

『最初っからそう言いなさいよ、バカ、、』



リュトの指先を静かに握るあち


ゲコッゲコッ


祠の上に乗っていたカエルが鳴いた。

頬を物凄く膨らませてよろけている。


『ぷっ、、』

『あははは!』


思わず吹き出す2人、あちの目はすっかり泣きすぎで腫れていた。


『支度、しなきゃだね!』『あぁ』


『私、お着替えして荷物取ってくる!準備できたら拝殿に集合で!!』

『おっけー!じゃ、またあとでな!』


ボロボロになっていた山伏衣装を脱ぎ、あちが縫ってくれた甚平を着て腰巻に団扇と横笛。

そして下山の時からずっと履きっぱなしにしてた鉄下駄をまじまじと見る。


脳内に熱血青春物のBGMが流れそうになり慌てて両手で掻き消すように頭の上をわしゃわしゃする。


『いやいやいや、確かに血反吐吐いてど根性論の修行や試練だったけどそんなにいい想い出の回想シーンになんてならないからっ!!足の指もげた時のフラッシュバックしか浮かんでこないんだわっ!!』


誰に言うでもなく心の底からの声を口に出す。


(けど大切な下駄には違わない。これはあそこに戻して置くか)


『あ、あれは持っていこう』

山伏修行で付けていた手甲を手に取る。


リュトは草履を履き下駄を手に持ち、小さな祠の前に戻ってきた。


『何だかここで一緒に祀ってあげたらいいかなって思ってさ』


ゲコッゲコッ


鉄下駄の上にカエルが乗る


ゲコッゲコッ、ピョーン!


カエルがふいに真上に飛び上がるとその姿が老婆に変わる。


『カッカッカッカー!中々に良い心掛けじゃな』


この声は、、、


『クソ、、ばぁちゃん!!』


『お主、ちゃんと聞こえたからな。覚えとけよ?』

『ヒィイイイイ、、』


『それはそうと天狗山から離れるようじゃな』

『さすが地獄耳、いや地獄目の方かな、、、』


『りゅとよ、お主は覚えておらんと言ったがお前を十の歳まで育てたのはワシじゃ。タツキのように血を分けた息子とは違うがのぉ、こんなワシでも母心ちゅうやつはまだ残っておってな』

(まじか、、ここは母さん!とでも言って泣くべきか、、)

『山から離れたらもう目でも耳でも追えんくなるからの、最後の餞別じゃ持っていけ』


老婆がそう言うと祠の下の台座がカタカタと揺れた。

『開けてみよ』


祠を脇に置き、台座の蓋を持ち上げる。

そこには真っ赤な一本歯下駄が置いておる。


『天狗山の裏山頂で育った万年杉、いわゆる霊樹となった杉を1本丸々凝縮して作った下駄じゃ、軽くしなやかで衝撃吸収力が抜群、強度も高く自己再生機能も併せ持つ優れものじゃ!!』


『おおおおおおおおお!!!!』

『履いてみろ』


確かに軽い!軽くジャンプして着地の感触を見るとソールにエアーでも入ってるかのような心地良さ!


『歯の高さは5cm、鼻緒には神龍の髭にワシの髪の毛を編み込み結っておる』

『ゥゲ、、、』

(あちの髪の毛と嫁姑問題みたいにならなければ良いけど、、)


『それを履いたところでタツキより全然ちびっ子なのは変わらんけどのぉ!ギャッハッハッ!!』


『このババァ、、』拳をプルプルとさせるリュト


『んじゃの!親より先に死ぬでないぞ!あでゅー』


『ツッコミ要素が多くてツッコめん、、』


そしてリュトは拝殿へ入りあちの到着を待つ。


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