#20 何者でもない私
3人が山へ修行へと立ってすぐ、あちは巫女装飾を纏い神楽殿へと来ていた。
部屋の中央で正座をし瞑想する。
シャンッ!
正座をしたまま鈴を鳴らす。
暫しの沈黙の後、部屋の中をチラッと見渡す。
シャン、シャン、シャーン!
目を瞑り、静かに語りかける。
『おば様、見ていらっしゃいますよね?』
神楽殿の中には誰も居ない。妄想相手に語り掛ける独り言のような行為をあちは続ける。
(ふぅ、、、)
『仕方ありません、、では』
シャンシャンシャン!!シャンシャンシャンシャン!!
シャーーン!シャーン!シャーン!シャーーーーン!!
『おーばーさーまーっっっ!!!!!!』
『っっっるっさああああああい!!!!やかましい!!!』
『良かった、やっぱり見てたんですね!』
何処からともなく聞こえる声に淡々とあちは会話を返す。
『何故、妾がそちを見てる事を知っておる?』
『あの日の事、ずっとずっと沢山考えたんです。おば様、私の舞を褒めてくれました。他の方の舞と比べた話を聞かせてくれたり、次は私に裸で踊れと仰ったり、、舞を見るのがとてもお好きなんだなぁって直ぐに気づきました』
『ふむ、それで?』
『そこまで舞を見るのがお好きな方が、私の舞を見てとても良かったと褒めていらっしゃるのなら、途中から見始めた舞なら次回は最初から見せろと仰るんじゃないかなぁって、神楽舞をしっかり全部見終わったから次は別の踊りを見てみたいって思われたはずだって考えました。』
『なら、最初からもし舞を見れていたのだとしたら踊る前からたまたまご覧になられていたか、何かのきっかけ、何かの通知に気が付かれて私を見てくれたんじゃないかなって、私が全力の想いを込めて鈴をならせばおば様に鈴の音が届くんじゃないかなって!!』
『なるほどね、、とりあえず先に1つ言っておくわ。おば様はやめなさい』
『では、どうお呼びすれば??』
あちはニコッと笑いながら問いかける
『、、、ふぅ、。おば様呼びも妾が文句を言いに来るんじゃないかとの口実の1つかぇ、まったく、、』
『まぁ良い、妾の名は太陽神アマテラスじゃ、好きに呼んでかまわぬ。おば様以外で、な?』
言葉尻の語尾が強くなる
『では、アマテラス様!私めのお呼び出しにお応え頂き感謝致します!』
そう言ってあちは正座のまま深々と頭を下げる。
『次に会うのはそちが成長し裸踊りを見せる時じゃと言っておいたはずじゃがの?まぁ前回と違い今は声だけじゃ、妾を顕現させられた訳では無いからのぉ』
『裸踊りの予定はございませんっ!』
あちは強気にきっぱりとお断りを入れる
『予定は未定じゃ、妾は勝手に楽しみにしてるでの。それにソチは炎の化身じゃ、嫌でも脱ぐことは増えてしまったはずじゃしのぉ、クスッ』
抗えるわけもないとアマテラスはほくそ笑む
『そのお話を少しお聞かせ願いたく、お呼び立てさせて頂きました。アマテラス様はこう仰いました。元々私は半神でさらに別の力があり、それを解放すると』
『解放して下さった力が炎の力、あの炎の力は神の力に他なりません!人智を遥かに超えた力です。なのできっと私は半分の神様の2つ分を持っていて、1人の神様みたいになったのかも知れないって、、』
『なるほど、、ソチは思った以上に賢くもあるようじゃの。しかしその考えは間違いじゃ。ソチは半神のままじゃの。半神の力を幾つ重ねた所で、易々と神にはなれぬ』
『そうなんですね!!良かったです!!』
(!?)
残念がると思っていたがこやつ喜んだ?
『私、あれからずっと不安で、、私、人じゃ無くなっちゃったんじゃないかって、、それだけがずっと心に引っかかってたんです!!』
『そ、そうか、、良かったの?』
『はいっ!!』
暫しの沈黙
『ん?』アマテラス
『ん?』あち
『他には、、?』
『ありません!』
『え?』アマテラス
『え?』あち
『そ、それだけを聞くために妾を、、?』
『はい!』
満面の笑みのあち
『いやいやいやいや、おかしいじゃろ?神様って本当に居たんですね!とか、あの力の使い方を知りたい!とか、ウヅメの事を聞きたい!とか、妾が言うのもおかしいのじゃが他に聞かなきゃいけない大事な事がもっとあるじゃろ!!』
『え?特にそーいうのは考えた事も無かったですよ?私は巫女ですので神様がいらっしゃる事は当然だと思ってましたし、この世界になって私自身が人の怪我や病を治せるようになって、前までの常識が無くなったと言うか、、あとよく分からない人の話とか興味無いんですよね私、私って親に捨てられたらしいんですけど、、その両親達のことも興味なくて、、』
あちは申し訳なさそうに笑った
『コホンっ、、ま、良いじゃろ、?とりあえずソチに一つだけ教えないといけない事がある』
『えっと、?何でしょうか??』
『神を気軽に呼びつけることは不敬じゃぞ!』
『呼びつけたわけではございません。見てらっしゃると想いお声がけしてみただけです!アマテラス様の姿もここにはありませんし!』
『まったく、やれやれじゃがこれがウヅメの血を引いた娘じゃと思えば当然か、、先の事を考えると頭が痛く、、妾はもう寝る、』
アマテラスの気配が消えていった
『よし!私は人間のままだ!!やったやったー!』
神楽殿を勢いよく飛び出しはしゃぐあち
『あ!あちちゃん居た!!おーい!!あちちゃん!』
自警団の村田が探していたあちを見つけ呼びかけた。
『あれ?村田さん!村の警備中?お疲れ様です!私に何か御用でしたか??』
『いや、実はね。村の南西側に小麦畑があるだろ?あの小麦畑からもう少し西に進んでった村の外れに女性が倒れてるんだよ!』
『女性?倒れてる?ではもう拝殿への運び込みは済んでるって事ですよね?私すぐ言って治療しま、、』
『いや、まだ倒れてるままなんだよ』
『え?どーして?』
『何か地面に引っかかってるようで男2人がかりで抱き起こそうとしても持ち上がらない。女性は気絶してるだけで息はちゃんとしてる!意識はまだ無いから何処の誰かとかはまだわかってない』
『西側に倒れてたって事は西の危険区域の外の集落から辿り着いた方の可能性が大きいですね!動かせないのなら私が現地で治癒してみますので村田さん案内してください!』
『あちちゃん!こっちだ!』
2人は村の南西に向かう、慌てて走っていく2人を追うように手の空いてる数名も駆けつける。
『いた!』
南西の小麦畑を抜けた先の平地、そこから先の危険区域までは50m程度の安全マージンスペースを空けてある。
そのスペース内、危険区域から約20mの辺りにその女性は倒れていた。数人の野次馬を掻き分け中に入る。
女性の傍らには自警団の大木さんが見守っていた。
『お!あちちゃん!よく来てくれたな!』
ぱっと見恐らく白いワンピースを着込んでいて山や樹海に入るような格好はしていなかった。
女性の身体がビクッと動く
『巫女、貴女が噂の巫女様ね』
その声とともに20m先の危険区域から何かが飛び出す!
ビュビュビュっっ!!!
白い糸のような液体のような何かが複数本、人だかりに向かい飛んでくるっ!あまりにも突然で誰1人反応が出来ていない。
『うわああああ!』
『何これ?ベタベタして、取れない!』
そこに居た全員に白い何かが付着する。そして物凄い力で引きずられて行く!
『こ、これは、、』
あちの身体を狙ってきた白い何かは身体につく寸前に跳ね返るように四方に飛び散った。
(粘着液!?)
野次馬に集まっていた村人たち全員が白く伸びた糸のようなものに引きずられながら危険区域内に取り込まれる。
倒れている女性に対し身構えるあち
『貴女!!何をしたっ!!』
女はスクッと立ち上がり衣服についた土を払う
『何をしたっ!ですって?んー、、そうねぇ、、狩りをしてるだけよ?』
ニコッと笑ったその女は足元から白い何かを危険区域内の木に向け発射、そしてその糸を巻き取るように女が一瞬で木元まで移動した。
そして振り返りあちに向かって大声で語りかける。
『こんなに早く会えるとは思わなかったわ~!貴女がフレルティ、ムカデを倒した巫女様ね!』
『!?』
『虫たちが教えてくれたのよ~、ムカデさんが死んじゃたぁって!うふふふふっ』
『お前は何者だ!ここで一体何をしてる!皆を返せ!』
毅然とした態度であちが叫ぶ!
『そうね~、狩りはしたものの、今わたしお腹もすいてないのよねぇ、いいわ、少しふたりでガールズトークでもしましょ』
女はあちにウインクをし、両手をさっと左右に広げる。
女の両脇に先程連れ去られた村人たちが白いロープのような物でぐるぐる巻きにされた状態で危険区域沿いの木から吊り下げられた。
『わたしは蜘蛛、蜘蛛女のミュリン、改めまして宜しくね、巫女のお嬢ちゃん!』
『蜘蛛?蜘蛛女!?』
『そう、そうなのよぉ、最初はわたしも嫌だったのよぉ。特に自己紹介の時ね。自分で蜘蛛女って言うのほんっと最悪って思ったわ!でも意外と慣れちゃうのよねぇ、あ!人間に自己紹介したのは初めてよ!それに蜘蛛の身体も気に入ってるのよねぇ~』
あちはムカデの事を思い出す。男が突然巨大化しオオムカデになった事。こいつもきっと姿を変える。そしてこいつはオオグモになるはず、、と。
あちの額から冷や汗が流れ落ちる。まずい、今の私は鈴も持っていない。どうすればいい?私に何が出来る?
『そぉんな怖い顔しないでよぉ、言ったでしょ?わたしは狩りをしてた・だ・け』
女から殺意は感じない、友達と話すかのように語りかけてくる。
『さっきこの先の別の集落でたくさん食べたから今はとっても満足してるの!欲を言えばデザートが食べたいんだけどさぁ、ケーキとかプリンとかこの世界には無いし、ほぉんと最悪ぅ~』
『お、お腹が空いてないのなら皆を返してよ!』
『それはダメよぉ、このまま取っておいてお腹がすいた時に食べるんだからぁ、あ、食べるって言ってもね。わたしの場合は吸うんだけどね!』
『こいつらの身体に私の体液をちょっと流し込むとねぇ身体の中から少しずーつ溶けていくの!それをチュウチュウチュ~ってさ!キャハハハハ』
あちの全身に怒りが込み上げてくる。
『返して、、』
『はぁ?無理よ~無理無理~』
『返せ、、』
『い・や・で~す!』
『返せええええええ!!!』
あちの全身が炎に変わり身につけていた全てが焼失する。立っている足元の地面が焦げフツフツと音を立てる。
『きゃああああ!すっごぉーい!これが虫たちが言っていた炎の化け物ね~、こっわ~い』
あちがゆっくりと前進する。
『あなたおバカなの?そのままこっちに来てご覧なさい?わたしが焼かれて死ぬ前にあなたの大切なお友達たちから死ぬことになるんだけど~』
あちの足が止まる。
(わたしは自分の力の出し方を知らない。怒りでまたこの身体になれたから戦えるけど、、赤い翼の出し方はわからない。この身体の炎に巻き込んで皆を私が焼いてしまうかも、、焼かれたらみんな一瞬で、、)
『そうそう、そこでいい子にしてなさい!わたしはお嬢ちゃんみたいな化け物と戦いたくないもん』
(化け物、、)
『わたしはさ、生きる為に狩りをして食べてるだけ!あなたもそうでしょ?あなたは昨日何を食べたの?魚?猪?兎?わたしは人間、食材が違うだけなのよ~。あなたは猪や兎の仲間たちから怒られたり恨まれたりしてるの?目の前で襲ってたら助けようとしてくるかもだけどさぁ、基本この世は弱肉強食でしょ?わたしだってそう。わたしは食べる以外で殺したり襲ったりする趣味は無いの!あなたが私を殺して食べるっていうのなら好きにされても文句は言えないけどさぁ、あなたはわたしを殺しても食べないのよね?それってさぁ命を弄ぶ冒涜なんじゃないのぉ?わたしさぁ昔からあんた達みたいな正義感ぶってるやつ嫌いなのよね!!警察とか教師とか学級委員とかになるやつ~?』
あちは何も言い返せない。
『むかぁしさ家族旅行中に豚さんや牛さんを乗っけたトラック見たことがあってさ~。パパに聞いたらさ、あの豚さん達は可哀想だけど今からお肉屋さんとかに売られに行くんだよ~って。その時はさ、わたしも可哀想ーって泣いたり怒ったりしたけど、、結局わたしたちって臭い物に蓋してさ、自分だけは殺してない、悪いことはしてないって言い聞かせて、何食わぬ顔で美味しい美味しいって。泣いて怒った数時間後にハンバーグ美味しいね!って笑ってるのよ、、あなたも同じよ?』
『私は、、、』
『違うの?違うって言える?言えるわけないわよねー!みんなみんな食べる為に殺す!わたしもそう!あなたもそう!同じくせに今だけは別とか自分ルールで正義面するやつらってムカつくのよ!!』
ボっ、、
あちの炎化した身体が元に戻りそのまま膝をつく
『あらあら?人の姿に戻っちゃったわねぇ!っていうかさぁどっちがあなたの本当の姿なのか知らねぇ??あなたも自己紹介の仕方を考えたらどーう?わたしは蜘蛛女だけど、、あなたは炎の化け物ってとこかしらね?あーはっはっはっはー!!』
ピクッ,,,
『私は、、』
(確かに私も毎日何かの生き物を食べている。直接は殺してないけど殺してるんだ。人間だけを殺して食べないで!って言うのは確かに虫が良すぎる話。けど、けど、、村の皆がむざむざ殺されて食べられそうになってるのを指をくわえて見てなきゃいけないのかな、、この人は食べる為に人間を狩っただけという、、この人を殺すと言うことはこの人の仲間?たちから見たら理不尽な事で私の事を化け物として見るはずで、、私とあのオオムカデは同類項、、?私は神様になって無かったけど人では無くなったの?化け物なのかな、、)
『私は、化け物なんかじゃ、、』
あちは言い切ることが出来ずにいた。




