#19 裏山頂での試練
『開始じゃ』
最後に低く強い声で開始の合図を伝えると老婆は姿を消した。
未だこの老婆の正体は不明、目的は俺達の修行との事だが大元の目的は不明。だが俺達をずっと見ていたと語り、細かい描写や指摘までしてくるその老婆の話に虚言は一切感じ取れなかった。
『さて、覚悟を決めるかの、、』
『はい』
雪舟の言葉にタツキが静かに応え小屋の隅に纏められてた手荷物の中から白い棒を大切に拾い上げる。
『待てい!』
老婆が姿を現す!
『ヒッ!』
俺は思わず声をあげた。この老婆の姿は迫力が強い。
驚き動きが止まるタツキ
静かに見守る雪舟
『話に夢中で忘れておったわ、のぉ、東の龍よ』
白い棒に向け語り掛ける老婆
『修行にお前が付いちょると邪魔だでよぉ、護られてたんじゃ本末転倒じゃけぇ暫く消えて貰おうかの』
タツキが警戒し白い棒を後ろ手に回す。
『心配するでない。と言ってもこやつが1度決めた事に反し素直に差し出す訳も否か』
そう言うと老婆は自らの髪を1本引き千切り息で飛ばす。その髪と白い棒が引き寄せるように融合し、大薙刀に姿を変える。
『お主からタツキを説得せい!』
大薙刀が光を纏い、喋りだす。
『やれやれ、人の子らよ此度は厄災続きで大変じゃったな、我は稜神山麓の湖の主である。我は龍なり。石碑の封が解かれた今、我を縛る物は無し、我の力欲すなら強く義を持ち願いたもう、、』
『もぉええ!わかりにくいったらありゃしないよ!!キントキ!じゃないタツキ!そういう事だから解ったね?こいつは一旦没収ざね』
老婆が指をひょいひょいと動かすと大薙刀は自らの意思でタツキの手から離れ老婆の前で浮かび止まる。
それを老婆は握ると小屋の窓を開け外へぽいっと放り捨てた』
チユィイイイイイン!!!ズドーーーーーンッ!!!
何かが高速で落下し墜落したような音
大薙刀はとんでもない速度で音を立て景色の揺らぎを突破し裏山頂から表の世界へと一瞬で理すらも打ち消し稜神山の麓、元いた石碑のすぐ側に落下。勢い止まらず地中へと潜っていった。そして激しく噴泉が噴き出した!後に稜神温泉と呼ばれ親しまれる名所となる。
『何が起こった!?今のタツキの投擲よりも速いんじゃゃないか、、?』
『いや、そもそも投擲なんてしてなくて投げ捨てただけでああなるなんて、』
唖然とする2人
『まさに神の業じゃな、、』
『水差して悪かったの!ほらお主ら行っちぇこい!』
地獄の山修行が始まった。登頂後に直ぐさま下山、それを100回やれとの事。初日3人は下山しきれずに野宿となった。
『師匠、、俺達生きて帰れますかね?』
『帰らねばならぬ!』
『やるしかないです』
空腹なのも忘れて倒れるように睡眠を取った。
翌朝、師匠に叩き起され下山を開始、5時間ほどで滝に到着。足の指の皮は裂け肉が見えそうだ、
3人は倒れ込み滝つぼに顔をつっこみ久しぶりの水分を摂る。
『生き返る、、』
涙が溢れる
『タツキ!りゅと!』
師匠が叫ぶ!
『治っとる、、足の怪我も疲労も、筋肉の痛みも全てじゃ!』
『ホントだ、、』
老婆は何も説明してくれなかったがこの滝の水には強烈な治癒効果があったらしい。当然表側の山には無かった効果だ!
『なるほどのぉ、限界からの超回復の繰り返しで筋力などの基礎体力の向上をさせるおつもりみたいじゃの』
『これならやれそうだな』
拳を握るタツキ
『辛いけど、やるしかない、、』
俺は完全に苦しすぎて泣いていた。途方もない数の往復、辞めるつもりは無いんだけど、辛すぎて涙が止まらなかった。
師匠が俺の手を取り、タツキの手を上に充てがう。その上に師匠は自らの手を置き言う。
『ワシらは1度あのムカデに殺された。何度刀を撃ち落とそうとワシはあやつに笑われるだけの力しか無かった。悔しゅうてな。あの祖母君が教えてくれたもう1つの魂?その魂にも申し訳なくワシは堪らないのじゃ、このままの力でまた異形と戦い笑われながら死ぬのはごめんじゃ』
『俺は、龍神様へ報いる為に、、』
(あれ?俺は何の為に?確かに負けたり殺されたのは悔しい。けど誰かに負ける事や死ぬ事は必ずある事だ。この3人の中で1番弱い俺に不満も無い。家族や仲間を守る為?確かに守りたいし守れる力はあれば欲しい。けど他に強い人が守ってくれてもいい。前の世界でも警察や法律とかに守られながら皆も生きていた。本当に守られてたっけか?法律は本当に正義だったか?警察は?あれ?なんか違う気もする。俺は今何を考えてる?俺は何の為に今ここにいる?)
激しい疲労もあり頭の中を疑問が駆け巡る
(ヒーローって何で戦うんだ?人の為だよな、見ず知らずの他人の為に戦えるのか俺は?ムカデと戦った時は目の前で知ってる人達が殺されそうになってたから戦えた。目の前であちや師匠たちが殺されるのは見たくないな。あちは皆の死を見たんだよな。あいつは凄いよな。あちに守って貰えばいっか。いやそれはかっこ悪い。うん、かっこ悪い。そうか、俺はかっこよくなりたい訳ではない。けどかっこ悪いのが嫌なんだ!この先強くなってヒーローになりたいとかでは無い!けど、この空気感で諦めるのはかっこ悪い!)
『俺は、、、かっこ悪いのは嫌だっ!!!』
(老婆にはおれの魂には何もついてないと馬鹿にされた。老婆の目は節穴だな。俺の魂には厨二魂があるじゃないか!他人に褒められるような理由なんざ持てないけど流れに任せて生きて、その状況でかっこ悪くなる事を極力避ける!俺の生き方はこれでいい!)
こんな理由で俺はようやく吹っ切れた。
3人がそれぞれ己の決意と向き合ってから修行に対する熱の入り方も変わった!
5往復目、足の指の皮が硬質化し血が出なくなる。
10往復目、下駄を靴と同じ感覚で普通に歩けるようになる。
20往復目、下山時は早足で降りられるようになる。
28往復目、登り坂も苦じゃなくなる。
37往復目、2m程度なら飛び降りて時間短縮を覚える。
55往復目、下山が楽しくなる。
73往復目、登りも走りながら進める。
96往復目、ウサギ跳びで登頂成功。
『終わったあああああ!!!』
『やったああああ!!』
『ワシもまだまだやれるもんじゃのぉ!』
3人で輪になり喜びを分かちあった!
『遅かったのぉ、待ちくたびれたわい』
久しぶりに老婆が姿を見せた。
『今までのは準備運動じゃからの、本番はここからじゃわかっちょるかの?』
『はい!』『うむ!』『ふぅ、、』
『この準備運動で主らに験力が備わった』
『げんりょく??』
『験力とは神通力、霊力、祈祷力、超身体能力、超精神力などの総称じゃ。細かくは説明せん。身体に聞け』
頷く一同
『ではここからは修行では無く試練じゃ、タツキは小屋を出て西に200歩進んだ場所にある杉の木で答えが出るまで寝そべっておれ。では行け』
不安ながらも従い出ていくタツキ、俺にグーサインをしてから向かっていった。
『雪舟はここから南側に700歩進んだ先にある小さな湖がある。そこに答えが出るまで潜り続けろ。心配せんでも呼吸は出来るように設定しておる。では行け』
『御意』
師匠は静かに向かっていった。
『最後にりゅと』
『はいっ!』
『お前にはこれをプレゼントじゃ!受け取れ』
老婆が髪の毛を千切り息をかける。
俺の目の前に綿あめのようなふわふわが現れる。
ズンッッッ!!
『重っっっ!!!』
『鉄下駄じゃ、ギャハハハーー!!』
(嫌な予感が電流のように駆け巡る)
『お主は今からそれに履き替えて天狗山往復300回じゃ!早よ帰って来いよぉ?んじゃぁの!』
シュッ
老婆は消え去った
『エグい、、タツキは寝るだけ、師匠は呼吸ボーナス付きの潜るだけ、、、ちきしょー!!!やってやるよっ』
100回達成を経験したせいか不思議とやりきれる自信はあった。
甘かった。重し付きで下山は楽だろうと思っていたのだが着地の時に岩は欠け石は砕け土にはめり込む。何度も転び、何度も足を引っこ抜き四苦八苦しながら下山達成、足腰の痛みが酷い。癒しの滝でフル回復させ直ぐに登山開始、鉄下駄を每歩持ち上げないと進めない。下山みたいにショートカットも出来ない。初日の登山達成までには1週間位かかった。
『あ、ヤバい、そろそろ食わないと死ぬ、、』
山の中でも人は食わないと死ぬ。虫や蛇、カエルも食べなきゃ生きていけない。けど倫理的な観点と言うのか分からないけど脳みそは食べたくないと主張する。何せ生で食うことになる。
空腹だからでは無く、死にたくないから食べた。
どれくらいの時間が経ってるのかも分からない。裏山頂には季節は無さそうでずっと夏だった。昼夜も無い。
往復回数を数える為に滝の傍の地面に書いていた正の字も途中で書き足すのを辞めた。無我夢中で繰り返した。
歩けるようになり、走れるようにり、飛び回れるようにもなった。
縮地を1度試した事がある。足の指がもぎとれトラウマになってからは使ってない。
永遠とも感じる登頂下山をとにかく繰り返す。
何度も!何度も!何度も何度もー!
そして、遂に
『ふむ、達成できちゃのか、出来ないと思っちょたがな!ギャッハッハ!』
(諦めて良かったんかい、、)
忘れかけていた老婆が姿を見せた。
『さて、お主はここからが本番じゃ!』
『え!?鉄下駄は、、?』
『凧上げ前の土台作りじゃな』
(山姥どころか鬼婆じゃんか、、)
『早速と行きたいところじゃが、、雪舟、戻ったか?早かったの!』
『師匠!!』
小屋に雪舟が帰ってきた!
『目付きが変わったのぉ、悟りは開けたようじゃな』
『脳内に戻って来いと聞こえたので戻りました』
『運も良いらしいな、それは神の信託じゃ。お主の帰りが遅れておったら村は全滅してたかも知れんわい』
『村が、!?』
すぐに下山しようとする雪舟を引き止める老婆
『せっかちじゃのぉ、まだワシからお主に修了証書を渡せておらん』
『修了証書?』
『これを持っていけ』
老婆の千切った髪の毛がふた振りの刀に変わる。
『その太刀は切れぬ物が斬れ、切れる物が斬れぬ刀。神刀雲切り。そしてこの脇差は魔を滅する宝具、今際の剣じゃ』
『祖母君、感謝します!』
『麓まで下りれば勝手に表に出れる、それとこれも持っていけ』
そう言って雪舟に包袋を渡す。
『祖母君、こちらは?』
『主と住んどる嬢ちゃんに渡しちょくれ。わしゃ元巫女じゃでな、こう見えて下界での3代目でのぉ、初代巫女様にはしごかれまくったわい、ギャハハハーー』
『祖母君は巫女様でおり申したか、ワシの孫娘にも会ってご指導願いたいくらいじゃ。祖母君には大変お世話になり申した。1度ゆっくりお茶でも飲みながら祖母君のお話をもっとお聞かせいただくまでは死ねなくなりましたな、、わっはっは。ではまた戻って参ります!それでは!』
そうして雪舟は山から飛び降りるかのように下山して行った。




