#16 戦いの後
あちを除く全員が状況をまだ掴めていないでいた。
意識を回復した時間にラグもあり、反応はまちまちである。
『あちちゃんが燃えてたと思ったら急に裸に、、』
『あちちゃんがアイツを倒してくれた!!』
『気づいたら周りにみんなが居て、、』
『地形が変わりすぎててどこに居るのかわからなくなった、、』
俺の記憶だとこうだ。
目の前にオオムカデとなった化け物がいて、じっちゃんが吹き飛ばされた直後に俺に向かってきて、、
俺は足をもぎ取られ、失神、、してたはず。
で、何故か意識が戻って早く立って戦わなきゃ!って思って周りを見たら野球場1個分くらいのもぎ取られたような地面の上に俺がいて近くに炎の化け物!!って焦りながらよく見たらあちで、なんちゃらなんとかの火みたいな事を言いながら下にあった人見たいなのを燃やしてて、、
点々と周囲から集落の皆が集まってきてその中心にはあちがいる。みんなボロボロの散弾銃でも食らったような衣類を纏い、中には手で隠してる人もいる。
中心で豆柴のぺとを抱きシーツに包まって泣きじゃくるあちがいる。
『あち、、俺たち、、勝った、んだよな?』
『うんうん』
泣き続けるあち。
その会話を聞き皆も口々に
『勝ったのか、』
『生きてた、』
『死んだつもりでいたよ、』
『良かったー!!』
言葉を出せず嗚咽しながら喜び泣く者もいた。
身体に痛みなども一切ない。僅かに残った衣類は血まみれになっているのに怪我もない。はっとして団扇と横笛に手をやる。ちゃんとある!良かった、、
その後で右足を見る。まだ傷跡がある。やっぱり夢じゃない。くっついてる、、
不思議なことに腰巻は汚れさえあれどほつれのひとつも無い。
周りの人も同じ状況らしく怪我を負ってるものは1人も居ない。傷跡を残したのは俺だけだった。
『あち、りゅと、無事で何よりだった、、』
師匠が周りを気にせず泣いている。
村田さんと大木さんは肩を組み、正座したままのタツキの肩に手を置く笹岡さん。
その近くで大の字で空を見上げてる峰岸さん。
(よく分からないけど、、俺たちは生きてる、、)
涙が溢れて止まらない。
皆も涙でぐちゃぐちゃの顔で笑い、称えあい、歓声をあげた!!
寝そべる峰岸さんに数人が飛び乗って称える!
『本当にやりやがったなお前ー!』
『いい指示だったぞ!』
『何か見方が変わっちゃうじゃんかー!』
『重い重い、、潰れる、、』
『カハッ、、』
絶体絶命からの状況からの奇跡的な生還の喜びに皆が浸っていると
『ちょっと悪い!行くところがある!』
笹岡さんがタツキの手を引きえぐられた大地を抜けながら東へと向かう。
『そうだ!俺たち東の集落の皆を助けるためにここに』
周りには榊の葉も四方に設置した祭場も跡形もなく消えていた。
危険区域内の樹海であっただろうこの場所は左右に大きく樹海を分断した管理区となった。
『じっちゃん、結界の為の祭場や榊の葉も消えちゃったけど、、たぶんここ居住区と同じ雰囲気になってる気がする』
あちが師匠に告げる。
『そうじゃな、結界を張ったと言うよりこれば浄化じゃな!これでワシらと東の集落の皆が自由に行き来出来るはずじゃな!ワシも今すぐ奴らを追い東の集落へ向かう、あちとりゅとは皆を連れて先に集落へ帰り今一度怪我人がおらんかの確認をしてくれ、そこの足腰立たないで寝てるやつも忘れずにな!』
師匠が指さす先には峰岸さんがいた。
傍に駆け寄り手を引っ張り起こす。
『すまん、、立てない、、』
『え!?峰岸さん怪我治ってないんですか!?』
『いや、、』
『ん?』
『今更なんだけど思い出したら自分の行動した事がどれも恐ろしくて、、今頃になって腰が抜けちゃっみたい、』
皆が大爆笑する。
記憶のある限り振り返ってみても俺の企画は土台にはなったのかもだけど、予想を遥かに超えた危機的状況を何度も打開したのは峰岸さんだ。心の底から尊敬する。この凄く弱虫でとても素直な大人を。
『もう、、怪我してないのに自分のした事で足腰立たなくなるほど震えるだなんて、、カッコつかないヒーローですね!』
峰岸さんを家に送り届け、あちとも合流し共に家に帰る。たくさん話を聞きたがったのだが風呂を沸かしてる間にあちは寝てしまった。
俺は手ぬぐいで団扇と横笛を巻き頭の上にくくりつけてから風呂に入った。
『あちの能力のお陰で身体の疲れは取れてるみたいだけど、精神的な疲労がやばいなぁ、、疲れたぁー』
そのまま寝そうになり慌てて風呂を出て、あちを起こそうとしたけどやめといた。起きるまでそっと寝かせておこう。テーブルにうつ伏して寝てるあちの寝顔を見ながら眠りについた。
ドタドタドタドタ
(ん?何だ?騒がしい?)
どれくらいの時間が経っただろうか、目を開けるとそこにはあちの寝顔がある。良かった。
起こさないようにそっと家を出る。
そこには数人の大人がなにやら騒いでいる。
『急げ!毛布も持ってこい!』
『寝板でも何でもいい!』
1人に声を掛ける。
『何事ですか?』
『東の集落に行った笹岡が戻ってきてな。病人が数名いて自力で歩けないから救助で人手が欲しいってよ!』
潜入作戦時に皆が見せた緊迫感のある顔では無かったが、緊急行動している事はよく分かった。
『りゅとー?』
あちが起きてきた。
『ちょっと東の集落へ行ってくる!あちは寝てていいからね!』
『何かあったのね?教えて!』
あちに事情を話す。
『私も行く!』
そう言ってあちは何やら力を入れる!
『あち?どした?』
『あ、何でもない!羽根が出るかもと思って、、』
『ぷっ』
『何よーーー!』
恐らく使えるはずの能力を扱えないその気持ちは良く解る。
10人ほどの大人と共に東の集落へと向かった。
数時間前に戦ったあの場所に着く。
地形の変化は当然まだそのままだが危険な気配は全くない。
『行くぞ!』
荷車3台に寝板や毛布、シーツを積んだ物を押しながらみんなで元危険区域を進行する。
元危険区域を無事に抜け距離にして恐らく8km位、東の集落までは起伏のある場所もあるが橋や臨時の通行路として板を設置する等整備してあり、通行はさほど悪くなかった。
集落に辿り着くと10件にも満たない家屋の中心にやや広めの集会所として使ってる家がありそこに皆集められていた。
一足先に戻っていた笹岡さんや師匠、タツキの姿も目に入る。床には5人、寝かせられている。
師匠は先の戦いで祓具を全て消費、紛失をしていて、その足でここに来ていた為に満足な祈祷は行えておらず、皆と一緒に救援を待っていた。
タツキが近づいてくる。
『本当に済まなかった』
土下座をし謝罪する。
俺が殴り掛かるんじゃないかと心配する周りの気配を感じつつ
『貴方も被害者だったのは理解できてますから謝らないでください。まずは患者様をお運びし話はまたのちほど!』
タツキも縦に首を振る。
集会所の外でみんなが運び出す準備をしている。
『ちょっと私に診させて』
あちがそう言うと、ただの子供としか思って無かった数人は驚き、他の数人はあちを知っていて両手を合わせ感謝する人もいた。
翼こそ出なかったがあちが両手を翳すと赤い波紋が出てベールのようになり、患者たちを包んでいく。
『す、凄い、、』
『神、神の奇跡だ、、』
口々に感嘆の声が上がる。
寝てた全員が全回復をしたのだが、あちは疲労でふらついて倒れそうになったのをリュトが慌てて支えた。
『やったー!全員治ったー!!』
周りから大きな拍手や歓声、すすり泣く声で溢れる。
『患者は居なくなったがこのまま全員で天狗山の集落に出発するぞ!荷車が丁度空いたからお年寄りや重い荷物あれば乗せてくよー!』
『あち、今のは何かの病気だったの?』
『んー、、多分病気とは少し違いそう、感覚でしか分からないけど汚染を浄化する感じだったと思う』
『汚染、?』
『真意は分からないけどあのムカデ野郎が山崩れ跡に空いた洞穴から出てくる臭気が原因とは言ってたよ。また騙されてるだけかも知れないけど、、』
2人の会話を横耳にしていたタツキが会話に申し訳無さそうに参加する。
『たっちゃん、案内して』
『あぁ、ここのすぐ上なんだ。落ちてき土砂がすぐ近くにあったろ?奇跡的に家屋や人には当たらなかったけどほぼ真上から落ちてきて、そこに洞穴が、』
あちと目を合わせ家を出て山を見上げる。
『洞穴、、どこだ、、?』
『え?すぐ見えるでしょ』
不思議そうにタツキも出てきて指を指す。
『ほらあそこ、、、あれ!?無い!?』
洞穴が無くなっていた。
タツキの母が出てくる。
『色々大きな音がしたり揺れが続いたから地震なのか爆発の振動なのか良く分からなかったけど家の上でまた山崩れがあったのかも?』
元々洞穴だった場所には確かに見覚えの無い岩や土砂の山がある。
『ん?』
その数m上の方で何かが光った!
『!?!!ぁああああ、、』
突然泣き出すタツキ、道無き崖を急に登り出す。
『!?たっちゃん!どーしたの!』
あちが声を飛ばす!
無言で必死に駆け上がっていく!
タツキがたどり着いた先には洞穴の数m上にある岩肌を砕いて刺さる大薙刀があった!
泣きながらも渾身の力を込めて引き抜くタツキ、大薙刀が白い棒へと戻っていく。
白い棒を大事に抱え持ち降りてきたタツキは皆へ説明を
した。操られていた事。人同士で戦い怪我をさせた事。オオムカデとの戦いの事、そして大薙刀を投げた話。
『あの時投げた大薙刀がムカデを倒すだけじゃ無くてあの洞穴を塞ぐためにここまで、、』
みんな息を飲んだり神に感謝をしたり謝罪をしたり、、
その内の1人から声が上がる。
『岩肌を砕き洞穴を塞ぎ、また我々をお助け下さったに違いないっ!!やっぱり守神様だったんだ!!』
『そうだ!そうに違いない!』
『龍神様は裏切ったワシらを見捨てなんだ、、』
大泣きをする一同
それから皆で砕け散った石碑を拾い集め出来る限り綺麗に重ね積み上げお供え物をし、師匠とあちが祈祷を捧げる。白い棒を含め祈祷はしたのだが流石にここに祀ったまま置いていくのは危険と判断し皆で手を合わせ必ず御守りし続けますのでお預からせて下さいと報告した、
今出来ることはここまでしかないと師匠が皆を説得し一同総出で天狗山の集落へ出発した。
白い棒はタツキが持ちなさいと師匠は言ったのだが、恐れ多くて無理だと断るので結局師匠が今は預かっている。
その道中でタツキの傍には常に笹岡がいて慰め励ましていた。
あちと師匠はタツキの父母と姉のセオリと6人で固まるように歩いていた。その後ろを俺は歩いた。
堂々と後ろを歩いたのだから盗み聞きとは違うはずだ!と自分に都合の良い解釈をし聞き耳を立てた。
主な会話の内容は正月のバイトなどの想い出話やお互いの近況報告。仲がいいのは間違い無さそうだったのだが全員が何処か辿たどしい。何か遠慮してるというか一線を引いているような感じがした。
天狗山の集落に着き、神社の社務所を始めとして一旦寝れる場所としてそれぞれの家や空き家などを貸し出した。食事として炊き出しも行った。
タツキの家族は社務所で寝る事になった。
その日は皆それぞれ色んな事があったこともあり今後の計画などの話はせず家族や仲間と今を生きてる喜びを交わし合いそれぞそれが眠りについた。
翌日、朝から色々あった。
滝さんの話になりセオリさんが号泣したり、あちの炎の身体の話や峰岸さんのヒーロー談、白い棒、ムカデの話、とにかく話さなければいけない事や聞きたい事などが無数にありすぎて収集が付かなくなっていた。
優先されたのはセオリさんを始めとした滝さんのお墓参り、あちも釣られて号泣してた。
次に優先する事になったのは謎のムカデ男の出現の話だ。何が目的だったのか、何者?あいつは人なのか?何処から?当然疑問しか出てこない。ただ確実に解った事がある。人ならざる者の存在。危険区域以上の脅威に手を打たねばならない事。そして、その対処法が未だ未知なる神の力に頼り縋るしか道がない事。




