#15 優しい光
ただただ立ち尽くす者、防空壕に身を潜め震えるもの、腹ばいになりながらも逃げ出そうとする者
この場からの生還をイメージなんて出来るはずも無かった。
しかし必死に抗う者たちもいた。
雪舟が狂ったように連撃を撃ち込む。フレルティの身体がザクッザクッと音を立てながら切断される。切り離されポカンと空いたその空間に直ぐに虫達が集まり修復されていく。切断。修復。切断。修復。繰り返される無情。
じゃれついてくる猫を窘めるようにフレルティはニコニコ笑う。
樹海の入口付近ではあちがタツキの頬に手を当てながら泣いている。
峰岸は1人冷静に見ていた。もはや総崩れの陣形。泣いているあち。腰を抜かしている村田。立ち尽くす大木。
意味がないことを悟ってるであろう雪舟の連撃。
手をこまねいているリュト。
峰岸は見ていた。
そして聞いていた。
聞き漏らさなかった。
フレルティの語った一言一言を聞き漏らさなかった。
あいつは確かにこう言っていた。
〈結界、面白い、不完全、惜しかった、助かった〉
助かったと奴は言った!!!
泣いているあちの背中に手を当てる。
『動かないで、そのまま聞いてくれ。大丈夫。ゆっくり深呼吸しよっか』
優しい声で語りかける。緊迫した中での落ち着いた優しい声にあちの涙が引いていく。
『結界を完成させる。手前の榊の葉が埋まれば祭場の四方が結ばれ結界が完成する。間違いないね?』
『うん』
『榊の葉そのものと言うより神聖力の回路が繋がれば出来ると俺は思ってる。榊の葉の足りない手前のエリア、そこにあちちゃんの祈祷範囲が届けば回路は繋がる。どう思う?』
『!?、、わからない、、けど、、やるっ!』
『分かった。君は強いね。僕なんかよりずっとね。最大に神聖力をあげるためにはやはり侵入してからの祈祷かな?』
『祈祷より、私が舞う方が強いはずです。巫女は祈祷より舞に重きを置いてますから』
『このまま中に入れば舞えるかい?』
『ん、、あっ、鈴、鈴が欲しいです』
『大木が抱えてる鈴か、、わかった。俺が必ずあちちゃんに渡すから。信じて』
峰岸はスクッと立ち上がり樹海の入口に立ち両手をあげる。
『降参ー!降参だー!!』
フレルティがニヤリと笑う。
『無理無理、勝てっこない。あんたみたいな存在に人が勝てるはずなんてない。頼みます!配下でも奴隷でも何でもいい!命令があるなら言ってくれー!』
大木に視線を送りつつフレルティと大木の間に割って入るように位置を変える。手を上げ諦めたポーズをしたり前に出して媚びへつらったり、、その間に右手を後ろ手に回し大木へハンドサインを送る。
1度大木に向かって指を指し人差し指と親指で輪っかを作る。続いて親指を立て左側へ2回揺らす。
建設班の大木にはピンと来なかった。が、何か指示が出たのはわかる。すぐ近くにいた村田がハンドサインを見逃さなかった。大木に擦り寄ると背中の鈴を外す。
峰岸はフレルティに媚びへつらいながら派手なアクションで入口の中央付近に戻る。
『うおおおおりゃーー!!』
雪舟が大きく刀を振りフレルティに斬りかかる!
ブゥゥーーン、ドサッ
(ん?師匠の斬撃が大振りになってる)
違和感を感じるリュト
振りかぶって叩きつける刀が勢い余って地面に切っ先を撃ち落とす。斬る為の振り方では無い!
(これは陽動だ!何か時間を稼いでいるのだろうか?)
察した俺は縮地で区域内中央へ飛ぶ!フレルティが俺に意識を変える。
『空間移動、、では無いようですね。超瞬足での踏み込みだけでこの距離を?貴方、何者ですか?』
俺はこれ見よがしに背中から団扇を抜き、両手でフレルティに見せつけるように構える。
『俺は、天狗だ!!!』
『は??』
フレルティの表情が変わる。
『天狗、、聞いた事はありますね。東洋の、、まぁいいでしょう。その羽付き棒で何かするおつもりですか?斬撃で傷一つつかない私に』
『我が神通力の力を見よ!!』
思いつきの口上を吐き出し、派手に舞うように団扇をゆっくりと下から上に、上から脇に、フレルティの視線を引き寄せるように動かしていく。
『神風!!!!』
団扇をフレルティに向け大きく一気にひと振りさせる!
ブゥオオオオオオンンンン!!!!
地面から土煙が立ち上がり強風がフレルティ目掛け走っていく!
髪や衣服が後方に激しくなびく!フレルティは身体を持ってかれそうになり片足を下げ半身になる。その隣にいた師匠は刀を持った腕を顔の前に回し、砂埃から目を守るようにして両足を大きく開きその場に踏ん張る。
風は2人を通り越し樹海の入口まで抜けていく!
シャランシャランシャラン!!
風で鈴が揺れる!
入口には神楽鈴を両手で持ち毅然とした姿で立つ少女がいた!
鈴の音が鳴ったと同時にあちの身体から光の波紋が広がり四方の祭場に光が差す。そして水槽に水が満たされていくように結界内の空気が涼しく浄化されていく!
『ギャッ』
フレルティの身体が青白い炎に包まれる!
『こんな脆弱な結界なぞで私をやれると思うなよおおおお!!』
血相を変え怒号を響かせる!
腰を落とし、両手を握りしめ身体中に力を込める!
『ウオオオオオオオオオオオオアアアーーー!!!!』
凄まじい咆哮をあげ青白い炎を吹き飛ばす!
辺りに転がっている虫達の死骸がフレルティの身体に吸い寄せられるように集まってくる。
『ウオオオオオオオオ!!!!!』
着ていた衣服が破れ巨大化し異形な姿へと変貌していく
『ム、、ムカデ、!?オオムカデ、、、俺は頑張った。やり尽くした。流石にもう無理だ、万策尽きたよ、、』
峰岸は天を仰ぎ脱力しその場にしゃがみ込む。
ドカッ!!!!!
『グハッッッ』
オオムカデの尻尾で雪舟が弾き飛ばされ樹海の木に激突する!
上体を起こすと身の丈8mを超えそうな程の大きさだ。
『ゴホゴホッ、、ガハ、、、』
口から血を吐き出す雪舟
『何本か肋骨を持ってかれたわい、、』
高く持ち上げた頭部には鋭く大きな顎が2本恐ろしく光る。
その頭部が恐ろしい速さでリュトに襲いかかる!
(やばいっ!!)
『縮地っ!!』
横っ飛びをするリュト!
ブチンッ!!!!!
『ぎゃああああああああああ!!!』
鮮血が飛び散り、地べたを転げ回るリュト
右足がもげ大量の血を流しながら痙攣し出す。
『ははは、、、終わりだ、、』
大粒の涙を零す峰岸。
シャンッ!!!
強く凛々しい鈴の音が鳴る。
絶望し項垂れる峰岸の少し先には結界内に立つあちがいた。
目の前で明らかな致命傷を負ったであろうリュトを目の当たりにし溢れんばかりの涙を貯めながらも決して流さずに耐え、震える足に爪を立て、強く噛みしめた唇からは血が滲み紅を差したかの様に見える。
あちは深く静かに息を吸う。
すぅぅぅ。足の震えが止まる。
シャン!シャン!シャン!シャーーーン!!
鈴の音が樹海全てに届くように強い音で鳴り響く!
華麗に舞いながらあちは唄い出す。
『月も日も 空に光が あらざれば 何処を神の 宿とたずねん、』
澄んだ真っ直ぐな声、柔らかくしなやかで優しい舞。
暖かな力が皆を包み込むように結界を埋め、その不思議な力は結界の外へも溢れ流れていく。
『バ、、バカなあああああ!!!』
オオムカデの身体が硬直し崩れ始める。
雪舟の青ざめた顔に血の気が戻り、リュトの右足の出血が弱まっていき痙攣が止まる。
あちの舞の力は結界内のみに留まらず区域外にいた集落の皆の怪我を癒し、恐れを取払い、勇気づけて行く!
倒れていたタツキの目が覚める。倒れる前の記憶はある。目の前には忌まわしい異形のオオムカデと対峙して舞を踊るあちがいる。あちの舞が心に直接教えてくれた。
全てを理解した。
俺は誑かされていた、、踊らされていた、まんまと嵌められた。
悔しさと情けなさ申し訳なさで胸が焼ける。
(騙されたとは言え石碑を砕いてしまった。もう東の集落の俺たちはダメだろうな)
傍らに落ちていた白い棒が静かに光り出す。
あちの舞の庇護効果により本来の姿へと戻っていく!
(こ、これは、、石碑の中にあった支柱の棒が、、)
タツキの脳内で龍神の咆哮が聞こえる。
『龍神様、俺の命を捧げます!砕かれた怒りは俺の身体を八つ裂きにして目玉をくり抜いてくれて構わないっ!今この時、一瞬だけその力をお貸し願いたいっ!!』
白い棒が青みを帯びて光り形を宿していく。
大型の長い柄の先端に三日月型の刃が煌めく!!
大粒の涙を流してタツキが叫ぶ
『龍神様!感謝します、、!!』
側頭部の痛みも消えている。舞の影響か力も漲っている。
『うぉおおおおおおお!!』
重量級の大薙刀を激しく旋回させる。
回す!回す!ブンブン鳴ってた音が次第に変わる。
フィィィイイイイインン!!!!!離陸前のヘリコプターのプロペラのような音がなりオオムカデに風の渦が伸びていく!
しかし、激しい遠心力により次第にタツキの身体がブレだし風の渦がオオムカデを捉えきれない!
『俺が支える!!決めろ!タツキ!!』
頭からの出血で血まみれの笹岡がタツキの背後から腰紐を握りしめ腰が浮かないように抑え込む。
ブレが止まり風の渦がオオムカデの頭部を捉える!!
『撃てえええええ!!!!』
『うおおおおおおお!!!!!』
光の矢のように放たれた大薙刀が風の渦の中を一線する!
ズドンっっっ!!!!
オオムカデの頭部が弾け飛ぶ!!!
残された上体が倒れかかりそうになるが持ちこたえる。
弾け飛んだ頭部のあったところにフレルティの上半身が生えてくる!
『ヤッテクレタナァァ、ニンゲンドモノブンザイデエエエ!!!!』
もはや声では無いのかも知れない樹海がまるでスピーカーになったようなボリュームで響き渡る!!
『ミチヅレニシテヤル!』
フレルティが一言発した直後、頭部のみを失ったオオムカデの身体が細かい礫となり四方八方に炸裂した!
ドカーーーーーーーーン!!!!
ガガガガガガガガ!!
爆発音と共に無数の炸裂弾となり飛び散ったオオムカデの身体が周囲の全てを貫通していく。
リュトも雪舟も峰岸も笹岡もタツキも、、人の形をしていなかった。。下半身を失って倒れているフレルティを中心としてその周囲には肉片や虫達の死骸の破片、根元から残っていない樹木たち、、地面にも無数にえぐられた跡が残っている。
まさに地獄絵図だった。
そこに残されたのは光に包まれた少女と胸から下を失い転がるフレルティの姿。
ガシャーーーン
鈴が地面に落ちる。
神楽舞を踊りきったあちは膝から崩れ落ちる。
鈴の音も唄声も止まり辺りは一気に静まり返る。
大粒の涙を流しながら
『、、ん、、じゃっ、、、た、、、、みん、な、、、』
夜明けから始まった戦闘は2時間ほどが過ぎ、朝日はすっかり上がりいつもの朝が来ていた。
それから程なくしてどこからともなく飛んできた鳥の鳴き声、川の流れる音、暖かい日差し。
どんなに絶望していても、絶対に収まることの無い悲しみを受けても、世界は残酷だ。慰めてくれもしないし雨を降らせて一緒に泣いてくれもしない。
あちは近くに落ちていた刀の破片を拾い、一気に自身の首元に押し付けた。白い肌の首筋から真っ赤な血が流れ落ちる。
『待て』
声とともにあちの身体が動けなくなる。
『汝、見事な舞であったぞよ。妾としたことがすっかり見とれておったわ。ウヅメの下品な踊りとは違って幼さとは裏腹に凛としたその表情、儚さや悟りきったようなその視線も中々に良かったぞよ』
身体がピクリとも動かせられない。背後からの声。
『ウヅメの娘よ、何を泣いておるのじゃ?妾を見惚れさせる程の舞を踊りきったと言うのに、、まだ満たされぬというのか?』
(さっきから何なの?良かった?何が?一方的に好き勝手な事言って、、何故私を止める?1分1秒でも早く死なせて、、お願いだから、何も考えたくない、全て忘れさせて!今すぐこの世界から消えさせてよ!!私にはもう何も無い。じっちゃんも笹岡さんも峰岸さんや村田さん、たっちゃんもみんなみんな死んじゃった、、大好きだったあの人もっっ!!!)
『ふむ、汝、面白い魂をしているな。ウヅメの血を引くだけでも既に半神、、さらにあの子の魂まで、、それにここに残存する魂達、、汝ら何の因果で引き寄せ合うのじゃ?汝の舞が如何に優れておったとは言え、妾を下界でここまで顕現させるのは不可能、こやつらと汝の魂の共鳴が神の奇跡を発動させたのやも知れんのう。。』
(やめて!!もうやめて!!私に話しかけないでっ!!やだ!!もう嫌なの!!)
『ふむ、そろそろ時間じゃのう、汝に見せてもらった舞の礼をせねばな。ウヅメに遠慮して抑え込んでいるもう1つの汝の魂を解放してやろう。そしてここでくすぶってる魂達を導いて見せよ。なんせ汝同様に面白い奴らがおるからのう』
『天命により目覚めよ、世の理それさえも癒し、全てを滅する炎よ。闇夜を照らす赤き両翼を持つその魂を解放せよ!!』
『天照・千輪光!!!!!!!』
白すぎる白い光があちの魂を包み込み、全身に赤い糸が巻きついていく。やがてそれは繭になり、真っ赤な光が弾け飛ぶ!!
『こ、これ、は、、、』
繭の中から真っ赤な両翼を顕現させたあちが現れる。
巫女装飾を纏い、髪の毛から足の指先までが全て炎となったあちの姿がそこにあった。
『あとは汝自らの力で願いは叶えられよう。次会うときは汝も幼き少女から成人し身体の成長も進んでいよう。ウヅメのような裸踊りを見せて貰っても良いかもな、』
笑いながらそう言い残し謎の声は居なくなった。
そして炎の化身と化したあちは上空へ舞い上がり、荒野と化した辺り1面を赤い炎の翼で包み込む。そのまま地上に降りたつと包まれた翼が赤い玉となり一気に周りに散らばった。
飛び散った赤い玉は遠く離れた樹木や大地にこびり付いた肉片の一つ一つ取り残すことなく吸着し互いを寄せ合い、徐々に人型に戻っていく。
あちは脳内で再生された声をなぞる。
『癒しの翼、、』
あちが呟く
人型となり倒れ込んだままの人々にあちの身体から燃え上がる炎が再度翼へと具現化し優しく撫でていく。
全ての命が息を吹き返し立ち上がる。
『ウググググ、、、』
下半身を失ったフレルティにはまだ息があるようで恨めしそうにあちを睨見つけている。
そのまま腕だけであちの足元まで這って行きあちの袴の裾を握りしめる。
あちは右手の指を広げフレルティに翳し脳内の言葉をなぞる。
『焼き尽くせ、五行の炎!!』
あちを構築している炎の性質が癒しの炎から滅する炎へと変わり、巫女服と共にフレルティの身体が消し炭になり消えていった。
と、同時に意識を回復させたその場の全員が一糸まとわぬ姿の、、厳密には辛うじて巫女服の燃えカスのススのみで隠されたあちの姿を見て呆然とする。
『ワンッ!ワンッ!』
いつの間にか駆けつけてきた豆柴のぺとが近くに落ちていた飛行種撃退用の照明を当て使っていた白いシーツの切れ端を咥えてあちに届ける。
『ぺ、と?、、、、、』
あちの前でしっぽを振り喜んでるぺとと自身の身体を数回見返す。
『な、な、な、なななな、きゃーーーーー!!!』
堪らずしゃがみこみ両腕で諸々隠しつつペとの口からシーツを奪い身体に充てがう。
顔を真っ赤にして恥ずかしさとそれを超える嬉しさで溢れる涙を隠さずに飛び切りの笑顔であちは言う。
『みんな、、おかえり!!!!神様、、ありがとう、、ほんとに、ありがと、、けど、、神様のバカぁぁー!!!』




