#14 人ならず物
榊の葉は順調に植えられていく。丁度中間辺りに辿り着いた時に笹岡さんが叫ぶ。
『羽音が聞こえる!左側から大きく聞こえてくる!右側も警戒態勢を取れ!』
指示出し直後に笛をつけた矢を放つ!
ピーーーー!!!
外にいる峰岸さんへの合図だ。1回で飛行種の接近。2回目はトラブル発生と決めてあった。
1回だな!全員構えろ!飛行種が来る!撃ち落とすぞ!
侵入口のど真ん中にバリケードの壁を作りその手前側に白いシーツの幕を張る。裏側から発電機に繋いだ照明でシーツを照らすと同時に別回路のスイッチもONにする。
バリケードに当たりその場に落下する予測位置に巨大な槍を突き刺す木造兵器をセットする。
予定通りに巨大化した蜂やアブなどが飛んでくる。
距離にして手前20m位から異変を察知するかのように飛行種が旋回をする。予測通り祈祷者の強い神聖力のある奥側のルートを嫌い全て峰岸たちの待ち構える入口側へと飛んでくる。そこで榊の葉の列が途絶えるルートがあり吸い込まれるように流れてくる。
昆虫類の行動パターンは規則化してるケースは多い。
迷路に入れられたダンゴムシは必ず右、左、右、左と交互に向きを変えて進む。これを交代制転向反応と呼ぶ。危険区域外の生物が本能的に神聖力を嫌い避けるであろう反応を利用した作戦が見事にハマった。
旋回してきた飛行種がバリケードに触れた瞬間
バチバチバチバチーーーーー!!!!!
青白い閃光が走る!ただのバリケードでは無く電気を流してあったのだ!
バリケードの下に落下した飛行種に餅つきのように巨大な槍が何度も振り落とされる!
ザクッ!グチャッ!
面白い位に撃ち落とされる飛行種たち
『見たか!飛んで火に入る夏の虫、餅つきならぬ虫つきマシーンを添えて作戦だ!!』
峰岸さんが歓喜の雄叫びをあげる!!
俺も両手をあげて喜んだ。
危険区域の奥から狼煙が上がる。無事たどり着いた時の合図だ!歓声があがる!
あとは1度こちら側に引き返し入口付近の榊の葉を繋ぎきれば結界の完成だ!!
入口側付近に飛行種の死骸の山が出来た。追撃の虫の動きも途絶えた。戻って来る潜入班の姿も目視で確認できた。大木さんが手を振っている。
ここからはウイニングランだと誰かが叫んだ!
峰岸さんが近くの人と握手やハイタッチをしている。
バキッ!!
『ギャッ!』
手を振っていた大木さんが横に倒れる。潜入班の皆が振り返る。笹岡さんと師匠が武器を構える。
2人が構え切る前より速く俺の足は反応していた!
ザッ!!!ドスンッ!!
『グォッ、、』
鈍い音がする。縮地を使い飛び込んだ俺の右膝が何者かの腹に突き刺さった。人影が後ろに後ずさりする。
『命中!!』
俺は何者か分からぬ相手を見たまま威嚇する。
『大木さん無事か?』
呻きながらも大丈夫と声がする。
『入口まで走れ!!』
笹岡さんが非戦闘員の3人へ指示を出す。
村田さんが大木さんに肩を貸し、その場に残りたそうにしているあちの手を引き入口まで走り出す。
縮地とは言え長い距離を飛んだせいか終速は落ち、着地先の様子が良く見えたおかげで確実に膝をぶち飲めた。これは想定外のラッキーで俺はあちの近くに飛ぶ事しか考えてもいなかった。
俺の前に師匠が躍り出る。
『よくやった!下がれ!』
相手にか俺にか聞きたかったけど一旦下がってあち達の様子を伺う。無事にみんなの所に戻れていた。
『お前、、タツキか!?』
弓を構えた笹岡さんが謎の人物に声をかけた。
『くっ、、』
膝蹴りの入った腹を押さえながら苦悶の表情を浮かべる若者の姿。
『なるほど、人の姿をしているが悪魔が憑依してるって事か』
『お前、何を言って、、、』
『聞いてた通りだぜ、戸惑ってる演技で油断するとでも思ったか?』
ガッ!カキーーーーン!
金属同士のぶつかり合う音が響く!
タツキから打ち込んだノーモーションの突きを雪舟が刀で弾き返した!
『この初見殺しの突きを交わすかよお!クソ悪魔め!』
そのまま後方にバク転し白い棒をを構えるタツキ。
『一体何がどうなって、、』
狼狽える笹岡、そこに駆け寄る人の影!
『予期せぬ事態が起きたら撤退だろ?笹岡』
ポンっと肩を叩き話しかけてきたのは峰岸だった。
『あちちゃん達、非戦闘員は全て区域外に避難完了だ。壁役のお前も下がる番だ!』
『あぁ、だが、あいつは、、東の集落民のタツキだ!俺のよく知る奴だ、、』
『それを含めて予期せぬ事態ってやつだ。指示役権限で命令する。下がれ!』
峰岸から命令されたのは初めての事だった。むしろ俺の命令をただ聞き、的確に良い仕事をこなしてくれる部下のような存在だった。こんなに堂々と意見を言える奴だったんだな。笹岡は自身の人を見る目の無さに失望しながら弓を構えたままジリジリと後方に下がりだした。
『笹岡!前方の警戒解除、左右側面、後方に注意を払い全速力で下が、、、』
指示を出す峰岸の言葉が止まる。
頭上を何かが飛び越えていく。タツキだ!
白い棒を突き出すフェイクを雪舟に入れつつ、その棒を雪舟の足元の地面に突き刺し一気にジャンプし雪舟と峰岸の頭上を飛び越えた!
ガキンッ!!鈍い音が響き渡る!
頭を棒で叩かれた笹岡がドサッと倒れる。
『あんたの弓は邪魔だったんだ、ここで寝ていろ。まずは1人』
『さ、笹岡ー!』
まさかの攻撃に思わず声を出す峰岸。
タツキが白い棒を峰岸に向け構え直す。慌てて雪舟が峰岸の前に入り込みポジションを入れ替える。少し離れた場所で戦闘の流れの速さに取り残されてるリュト。
あち達は区域外から固唾を飲んで見守る。
『たっちゃん?どうして、、?』
見覚えのある姿にようやく気づくあち。
全員が次の一手を警戒し膠着状態に入る。
タツキは構えていた白い棒をクルクルと回し始めた。
バトンを回すかのように正面や左右に支点を変えながらタツキの身体を中心に白い棒がビュンビュン音を鳴らし始める。物凄い棒捌きだ。
『滝さんの姿が見えないな、、』
独り言のように呟く。
必死に打開策を考えようと頭の中をフル回転させる峰岸。
雪舟は黙って構えたままタツキの一手一足から目を離さない。
『あんた東の集落の人なんだろ?俺たちは、、』
棒を激しく旋回させてるタツキには縮地で飛び込んでの一撃など試すことも出来ない。食らわす前にあの棒の打撃が当たるはずだ。リュトはタツキに会話を試みる。
『黙れよ、悪魔』
会話を遮るタツキ。
(さっきからずっと悪魔、悪魔と連呼している。俺達を悪魔だと躊躇なく決めつけている。決めつけ過ぎている)
『雪舟さん、これは恐らく洗脳だ。彼には言葉は届かない』
『うむ、、』
峰岸は雪舟に指示を出す。
『俺に考えがある。暫く彼の相手をし、この場に惹き付けておいてください!頼みます!』
聞くと同時に雪舟が右足を派手に前方に1歩踏み込む。
タツキがビクッとしながらも腰をやや落とし迎撃体勢を強める。
峰岸は雪舟からの返答が来るのを待つつもりもなく俺に駆け寄る。
タツキは雪舟から視線をズラせず耳だけで移動先の状況を意識。
達人同士が相対すると撃ち合いになんかまずならない。間合いの探り合い、最初の一手でどちらかが倒れる事になる。手に持つ獲物の長さはタツキの方が長い。
タツキの間合いの1歩外で雪舟が僅かな姿勢の入れ替えや切っ先をズラし挑発し続ける。
峰岸は小声でリュトに何かを耳打ちする。頷くリュト。
峰岸が雪舟の後方に走り出す!雪舟の後方5mの辺りでタツキの方に身体を向け、背中に背負った弓を取るようなモーションを見せながら叫ぶ。
『貰ったー!!!!』
叫びと同時にタツキの棒が前方の地面に刺さり雪舟の頭上を飛び越える!
『させねーよ!!』
空中でタツキがニヤリとしながら上段から棒を峰岸に向け振り落とす!
ドカッ!!!!!
『ッッ、ガッ、、』
白い棒が峰岸の頭を捉えそうな僅かなギリギリのタイミングでリュトが縮地でタツキに体当たりをした。リュトの頭がタツキの側頭にぶち当たり空中でバランスを崩した両者が地面に落ちる。
ドサッ!
『いてててててて』
頭を抑えるリュト、タツキは地面に倒れている。カウンターで脳を揺らされ気絶している。
リュトに駆け寄りグータッチを求める峰岸。
『無茶させてくれましたね』
はにかみながらグータッチを返すリュト。
緊張を解き刀を下げる雪舟
笹岡を助け起こす村田と大木。
気絶しているタツキから急いで白い棒を取上げ後ろ手に両手を組ませ紐で縛り始める峰岸。
『目が覚めて洗脳が解かれるかはわからない。拘束したまま様子を見ましょう』
ようやく皆に安堵の表情が浮かぶ。倒れたタツキを峰岸が担ぎ、全員で区域外で待つみんなの元へと戻り出す。
『、、!?!!』
突然の寒気が全員を襲う
区域内の奥から何かが近づく
パチパチパチパチ
拍手をしながら何かが近づく
バトラー服姿の異国の男性の姿が目に入る
『素晴らしいバトルショーが見れました。なかなかに楽しかったですよ』
右手の人差し指を上に向け、その指先をゆらゆらと揺らす。何か小さな虫達が指の周りに集まるように群がって飛んでいる。
ドクンッ
俺の心臓が知らせてくれる。こいつは危険すぎる。
構えつつ峰岸の背中を押し区域の外へ迎えと言わんばかりに強く押し込む。雪舟の額から冷や汗が落ちる。
俺は雪舟の横で背中の団扇に手を回しいつでも抜けるようにしつつ目を凝らし奴を注視する。
『私はフレルティと申します。どうぞお見知り置きを。とは言ってみたものの直ぐに私の人形に変える予定ではありますが、、』
ニヤリと笑う。
恐怖のプレッシャーを感じ逆に異国の男性に切り込もうと駆け出す雪舟
『全員!逃げろおおおおおおおお!!!!!』
雄叫びのような命令を下しながら雪舟から全身全霊で斜め上段から刀が走るっ!!
ビュンッ!!空を切る刀の音
僅かにだけ身体をずらし斬撃を交わすフレルティ
『いいですねー中々に速い斬撃です。貴方も只者では無さそうじゃないですか』
『君も人ではない動きをしてましたしね』
フレルティの視線が俺に刺さる。汗が一気に吹き出るのがわかる。動けない。
『私は南の樹海を任されておりまして、この可愛い虫たちの管理者です。可哀想に、、そこら中に死骸が、、不公平だと思いませんか?』
姿勢を変えずにフレルティが語りかける。
『ふむ、結界を張って樹海の通り道、、面白い事を考える。惜しかったですね。不完全だったみたいで助かりましたよ、、』
間合いの距離内にいる雪舟が二撃目の横払いの斬撃を入れる。避けようとしないフレルティ!
バサッ!
刀がフレルティの左脇から右脇へと通過する!
(入った!!)
決まったと思った直後に失敗した事を思い知らされる。
『無駄ですよ』
刀が通過したフレルティの身体は確かに切断されている。雪舟の刀は斜め上空に突き上げられ見事な斬撃の撃ち終わりの姿勢のままだ。
切断面で何かが動く!
ザワザワザワザワ
『虫っ!!』
リュトは思わず声を出す。
切断された上下の身体で虫達がザワついて細かく動いている。
『私は虫の化身、この身体は虫の集合体です。1つの個体ではありませんから斬撃が通ったところで数匹の虫が命を落とすだけです』
目の前の雪舟を無視するように語り続ける。
『とは、言え。貴方の斬撃、少しビリビリしますね?神官ですか、、、少し厄介ですね』
フレルティが手で払うかのように手刀を雪舟の頭部に向ける。
『ぐっ、』
ギリギリで交わし距離をとる。
『反応もいい。更に欲しくなってきましたよ』
フレルティは戦闘を楽しんでいた。
誰しもが絶望を感じずにはいられなかった。




