#12 東の集落
泣き止んでからも手をつないだまま家へと帰る。
『2人とも遅かったなーおかえりー!』
師匠の声にハッとし2人同時に手を離す。
つないだままだった事に今気づく。あちは下を向きながらご飯の支度するからと早足でその場を去る。
『お、お風呂炊いてきまーす!』
居た堪れずに外に出る。ドラム缶の下に薪を組み種火を投げ込み、火吹き棒に口をつける。
『ふ』
息を吹きかけたその瞬間、ドクンッと鼓動が大きく鳴る。まずい!!!直感で息を止める。
『ゴ、ゴホッゴホッ、、ぅぅ、、』
無理やり閉めたせいで気管が苦しい、、
ヤケに身体が熱い、一旦火種から離れよう。
ザッ!!ガンッ!!メキメキ、、
『ガハッ、、』
目の前が白くなる、衝撃で息は止まり軽い脳震盪まで起こしたらしく倒れ込んだ事に気づくまで数秒が経過。
あ、あれ!?
師匠とあちが玄関から飛び出すっ!!
俺を見て2人とも声が出せないでいる。
俺は風呂から5m程離れた家の壁にめり込むように倒れていた。外壁の木材は割れ、内壁の土壁も崩れかかっている。割れた木材で腕からは出血もしていた。
『ちょっと!!!りゅとーーー!?!??』
あちが駆け寄る。
意識は戻っていたので軽く手を振る。
『なんか、、自分で突っ込んだみたい、、』
『どーゆーこと!?とりあえずすぐ手当するね!』
拝殿に連れてこうとするあちを制しし肩を借り家に戻る。
『ちょっと出血が派手だっただけでそんなに大袈裟な怪我じゃないはずだよ』
治療を拒む俺への不満さと心配の混じった顔であちが頬を膨らませる。
『何があった?』
興味津々な師匠
『風呂を炊く時に前と同じ事が起きる感覚を覚え慌てて息を止め火種から離れようとし、横にすっと移動したら、壁に当たってました、、』
『すっとであの距離を?草履の紐もブチ切れておったぞ、、』
たしかに足の指先が痛い。
『それはきっと縮地、、じゃな』
そう言うと師匠は足早に部屋から出て行った。引き戸の音がしたので出掛けたのだろう。
『包帯巻き終わったよ!他に痛いところは?』
『ん!大丈夫!ありがとね!』
目が合うや否や目を逸らす2人。
『ちょ、ちょっとじっちゃん見てくるね!』
出ていこうとした時に師匠が戻ってきて鉢合わせあたふたするあち。
『天狗様について書かれた文献じゃ、ただこれについては文献ごとに諸説も変わるし、一重に天狗様とまとめる事も出来ず最上位の大天狗を始めとして色んな説が書かれておってな。脚色有りきの文献も多いとはワシも思ってはおるのじゃが、、』
『ありがとうございます!事前に知っといた方が良さそうなので頭に叩き込んでおきます!』
発動条件に関しては未だに謎である。
文献によると、、
・神通力が使える。
・空を飛べる。
・風、火、神などが操れる。
・団扇その物に力がある。
・縮地でワープできる。
・武術の達人である。
等など文献毎に内容も異なるし胡散臭い匂いがぷんぷんしている。
けど、縮地と火を操るってのは実際に体験はした。
使い方は不明だけどね。
自由自在に使えるようになれば晴れて俺もチートクラスに、、!などと夢見る癖は幼い頃から変わっていない。今に始まったことでは無い。詠唱して魔法陣を空間に積み重ねるような魔法使いになれる可能性も諦めてはいないんだ。いやほんとに本気なのさ。
けど、今の俺はちょっと考えが変わったかも知れない。俺の夢を一切諦めても構わないから。今の家族の3人がずっといつまでも仲良く暮らせますように。
ペタペタペタペタ
豆柴のペとがちょこんとあちの膝の上に座る。
(ごめん、お前を入れて4人だったよ)
食事中、腕の痛みはすっかり消えていた。聖地に感謝!
当面の風呂炊き当番からは除名され、代わりに風呂の掃除当番を任命された。
翌朝、ドキドキしながら朝稽古に参加するも縮地は出せず。集落内のお供え物の入れ替えを兼ねてランニング。今朝は早くから集落中がバタバタしているのが気になった。
家に帰り雑巾がけをし、天気が良いので家族全員の布団を干した。その後小麦の収穫の手伝いをし竹や木材の運搬も手伝った。空き時間には横笛を吹き、夕飯用の魚を釣りに行く。
この川を渡った先に見える樹海、その奥に小さな集落があり人が住んでいる。天狗山の北側や西側にも人々が暮らしてる。軍はこの集落のもっと南側の海の近くにあるらしい。
結局魚は釣れずに帰路に着いた。
干しておいた布団を取り込む。集落の周りには杉林もあり花粉が多い。布団に付着した花粉を払おうと団扇を取り出し丁度いいのがあったと思いながら花粉を払う。
ブォン!!!!
布団が物干し竿を支点としてグルンと回る。
『わっ!?』
恐る恐るもう一度
ブォォォン!!!!
布団が勢い良く回った!!結構な強風を出せた!
目に入った風呂場に向け団扇を仰ぐ
ブォン!!!
カタカタカタカタ
風は吹いたが強風止まり竹の囲いが揺れる程度。
嬉しいような悲しいような。
石像の団扇が現実化してからと言うもの、不思議現象への耐性が強まり多少の事では驚け無くなっていた。最近は自分が天狗の何かを受け継いでるのだと自覚?自認?すらしている。
真意は不明だがあちから貰った腰巻で団扇と横笛をぴったり身体に付けた状態を続けてるせいだろうか。急に色々と変化が見え始めてきた。
丁度あちが神楽殿から帰ってきた。決行日も近い為か今日は巫女衣装も着込んでいた。
『おーい!あちー!おかえりー!』
あちに手を振ると遠目から手を振り返しこちらに駆け寄ってくる。
『団扇ー!少し使えるようになったよー!』
あちに向けて団扇を仰ぐ。
ブォン!!!!
強めの風があちに届く。
フワッ
『キャーーー!!』
袴がめくれ上がる。
『ま、薪拾いに行ってきまああああああす!!!』
1歩踏み込んだ足にとんでもない力を感じる。
ザッ、、バコーーーーン!!!
風呂場に突っ込み竹の囲いを破壊しつつ勢い止まらず中のドラム缶まで押し倒す。
怒った顔で駆けつけてきたあちにしっかりと3回踏みつけられた後に手当を受ける。
手当を終えたあちは、りゅとなんて知らなーいと吐き捨てどこかに出かけてしまった。
トントントン
誰かが引戸を叩く音がする。
『上がらせてもらうよー』
ん?師匠やあちでは無い、聞き覚えのある声。
『よぉ、変態くん!』
『峰岸さん!?ちょ、、変態って何ですか、、』
『あちちゃんから聞いたぜ?集落中が結構準備でバタバタしてるっていうのに、誰かさんはスカート捲りをして喜んでたって訳だ』
『ち、違いますっ!不可抗力ですっ!!!』
『いいから、いいから!起き上がるなって傷口が開いても知らねーぞ?』
『峰岸さんだってからかいに来る暇があるんじゃないですか、、!』
『ばーか、俺は見舞いだ、ほらよ』
峰岸さんが山葡萄を取ってきてくれてた。
『え、あ、わざわざすいませんでした』
『なーに、資材集めしてたらたまたま見つけたからついでにな。ところでお前、団扇使えるようになったんだって?』
『え、あーまぁ、強風止まりでスカート捲り位しか役に立ちませんけどね!!』
『わっはっはっは!最高じゃんか!』
『やっぱり見舞いじゃなくてからかいに来たんじゃないですか、、』
『りゅと、実際の風の強さを教えろ』
その場の空気が一変する。
『今日試した限りですけど、布団を数m飛ばせる程度の風なら吹かせられるかと』
『そうか、それだけ聞ければ十分だ。お前はこのままちょっと眠っとけ、じゃあまた夜更けにな!』
峰岸さんは満足そうに帰っていった。
一方その頃、東の集落
『くっそぉ、、、滝さん達はいつになったら、、』
『ああは言ってくれては居たけどよぉ、あの虫だらけの樹海を超えてくるのはそれこそ死ぬ覚悟で来なきゃだろうからな、、』
『そんな事はわかってる!』
以前、調査として3人で訪れた日からまもなくして東の集落は突然の山崩れで騒然としていた。
幸いにして怪我人は愚か僅か数mのズレにより家屋への被害も無かった。だが崩れた山にすっぽりと洞穴が出来ていてそこから吹き出る異臭の影響か住民達の健康状態が悪くなっていた。
『タツキ!落ちつけてって、、騒いだところでどーにもなりゃしねぇよ、、』
『姉さんは昨日から視力も無くなって歩くこともままならねぇ、このままただ救助を待っててもジリ貧だ!せめて樹海じゃなくて平地でさえあったら、俺が虫ども追い払って救援呼べに行けるって言うのに、、』
ガンッ!!
タツキが石碑を殴りつける。
『バカ!お前、そんな罰当たりな事するんじゃねえよ!』
『こんな石碑祀ってたって神様なんて助けてくれねーじゃねぇか!守り神だなんて話もきっとただの迷信なんだ!』
ここ東の集落とは天狗山と対をなすようにそびえる稜神山の山合に面した小さな集落だ。天狗山のある地区は山から南側に向けて広い平野が広がり農業も盛んだ。対してこちらは北側に稜神山、東側に海、それと挟まれるように湖がある。山は起伏が激しく、海も荒い。湖には海水が流れ込んでいて飲水には適さない。2箇所の井戸と貯水池が枯れると絶望的な環境ではあったのだが山から取れる水晶やトパーズ、湖からは塩湖と真珠、海からもカニやエビ、アワビなども採れるなど勤務地として多くの人が働きに来る場所ではあった。タツキたちはごく少数の居住民で大停電の後この場所に取り残されていた。
山合に密集された住居のすぐ側に高さ2m超の白く長い石碑が立っておりこの土地の守り神として古くから祀られていた。
タツキは小さな家に父母と姉の4人で住んでいた。
天狗山と稜神山の間にある危険区域は元々川沿いに街が形成されていてそこにあった高校に通う2年生だった。部活は陸上部で全国インターハイにも選出される高飛び選手として注目もされていた。
『ただいま、、今日も救援隊の姿は見えなかったよ』
『滝くんたちは帰ったあとにすぐこの集落に山崩れが起きた事を知らないはずだからな、また来るとは約束して帰っていったがいつになるか、、』
『ダメ元であげた狼煙もこの風の強い地区じゃ高くまで立ち昇らないものね、、』
父も母も精神的にかなり弱気になってきている。
『たっちゃん、、』
『姉さん!!無理せず!俺が何とかするから心配せず横になってて!』
2つ上の姉のセオリは会話するのもやっとの状態まで衰弱していた。
『天狗山の神社知ってるだろ?姉さんがバイトに行ってたとこ!あの神社内は回復効果が高いってこの前来た宮司様が仰ってたからさ、必ず俺が連れていくから!』
『懐かし、、あちちゃん、元気だったら、いいね』
セオリは弱々しい声で従姉妹のあちとの想い出を思い返しながら呟いた。




