#11 僕らの想い
俺は選抜隊には入ってない。危険区域に向かう皆の安全を祈り待つことしか出来ない。歯痒い。
俺に何か出来ることは無いのか?俺に何が出来る?何も出来ない。剣があったとしても剣道少年止まりの腕で猪とすらまだ戦った経験もない。弓も引けない。
緊急時に笹岡さんの様に迅速な判断や行動が取れるだろうか?判断材料にする知識や経験も無い。師匠のような強さも無いし、あちのような治癒能力も無い。
祠の前で自責してるだけ、まるで神への懺悔のようだ。
『よう、りゅとくん』
『ん?峰岸さん??』
『ちょっと散歩してたら目に入ってね』
『選抜隊会議お疲れ様でした』
『俺はただ話を聞いていただけ。疲れてなどいないさ』
不完全燃焼しているかのように感じる。
『お前は凄いよ』
『えっ?』
『俺はさ、弱虫なんだ。会議とかでさ自分の意見を出すのは勿論、討論とか以ての外だよ、、』
『いや、生きるか死ぬかの会議なんだから思った事は言わないと?』
峯岸さんがクスッと笑う。
『りゅとくんさ今のこの変わっちまった生活どう思う?』
『どう思うって、元の世界と比べ文明も退化してるし食料含め物資不安に怯える状況はどうにかしなきゃいけないって、、』
『そうだねぇ、大きくざっくり客観的に考えたらそうなるか、俺さ世界が変わっちまった時、ちょっと嬉しかったりもしたんだよね!ローンも無くなったし仕事もしなくて良くなった!俺は仕事でたまたまここに来ててさ。運が良かった!この集落は食うには困らない。外敵も今のところは侵入して来てない』
『は、はぁ、』
『携帯やパソコンを触れなくなった事への禁断症状みたいなやつはさ、1週間もしたら無くなった。俺は酒もタバコもやってなかったし、グルメでもないしね』
『この選抜隊ってさ、俺は繰り上げ選出なだけなんだよね。雪舟さんや笹岡みたいに仇討ちとか正義感も強くないし、村田みたいに親戚を助けるとかの使命感もない。あちちゃんみたいなチート能力も持ってない。滝くんが死んじまって繰り上がっただけなんだよ』
『りゅとくん、前の世界でアニメ見たりゲームしてたりしたよね?』
『してましたね』
『なら解ると思うけど、、俺はMOBキャラなんだよ』
そう言って大声で笑い出す。
『主人公枠でも無いし人数合わせの登場人物!その結末のセオリーは?』
『呆気ない死に役、、』
『そうなんだよ!!マジでやってられないよな』
峰岸さんは笑い続ける。
『まぁそれは冗談だとしてもさ、俺は死ぬことよりここで嫌われることの方が怖い』
笑いが止まり真剣な顔になる。
『空気を壊したり水を刺したり、りゅとくんが最後に
雪舟さんと討論になったような真似は俺には出来ない』
『集落の外は危険区域、人間関係気まずくなっても逃げる場所なんて無いんだよ。元々暮らしてた皆と違って俺は部外者だ。30人ちょっとの世界でさ、腰抜けだと思われたり使えないやつだとレッテル張られたりしたら嫌だし。明らさまなイジメはしてこないとは思うけどさ。見限った人達からの視線って見られてる側には良くわかるんだぜ』
『前の世界で俺はそれを良く知っている、世界が代わって俺は運良く狩りの能力を身につけた。狩猟班ってだけで皆が頼りにしてくれる』
言ってる事は確かにわかる。
『MOBキャラって、、峰岸さん狩猟班なんだから俺なんかと違って戦闘とかも出来るんですよね?』
『出来ないよ』
『え、?』
『俺の狩猟能力はさ、笹岡みたいに猪や鹿と真っ向から戦える能力じゃなく、罠の設置での狩りだからね』
『!?』
『落とし穴やおびき寄せだったり、魚網の設置とかそういう知識がすぐ思いついて実際に道具の具現化が得意って言えば伝わるかな』
『理解できました』
『だからさ、危険区域内で突発的な戦闘になったところで俺は戦えない。雪舟さんが命懸けで護ると公言してるのもあちちゃんだけだっただろ?人が独りで複数護るなんてのはドラマや映画の中だけの話でさ、笹岡や村田なんかはいざとなれば弓を打ちながら距離を開けて逃げ切る事とか器用にやれそうだけどさ、俺は、、』
地面に腰をおろし頭を抱える。
慰めの言葉なんて出てこない。俺も何も出来ないから同意してしまっている。俺と峰岸さんとで違うのは危険区域内に向かう者と外野で見守る者との違いだ。
サッカーのPK戦で立候補ではなく6巡目7巡目に呼ばれる選手の気持ちとかと同じだろうか。シュートが得意なメンバーが出尽くし、予期せぬ出番が自分に引き当たる。相当なプレッシャーと外す結果ばかりを見てしまう絶望感。
俺は偽善者なのだろう。何とかして峰岸さんを励ましたいと思った。この場の空気だけでも変えてあげたいと思った。頭をフル回転させて出任せの言葉をただただ繋ぐ。
『峰岸さんって罠が得意なんですよね?さっきの会議の時に聖地の力はバリアでは無くて虫除けスプレーだって例えてましたよね?』
『ん、ああそうだね。思わず出た独り言だったけど聞こえちゃったか、、』
『バリアとまでは行かなくても師匠とあちがスプレーを撒いて進む中で地中の虫の地雷を踏むケースや危険種との遭遇とかって偶発じゃなくて、それを前提としてこちら側が先手を取れるような罠!一緒に考えませんか??
』
『!?!!』
『俺一人じゃ思いつきませんが、峰岸さんなら何か閃くかと、、俺、このまま何もしないで観戦者になるの嫌なんですよ!』
地べたについた両手を見ながら峰岸さんが沈黙する。
『地中の虫、飛んでくる虫、、想定外のエンカウントへの先手、、』
地面に落ちていた枝を拾い、峰岸さんが地面に何かを書き出す。
『おびき寄せか、、』
暫しの膠着状態
『ふっふっふ、峰岸さん、先にアイデア思いついちゃったかもです!』
『何!?ちっ、、言ってみろ!』
『さっきの軍の資料聞いてて考えてたんですけど夜中は危険種の活動は減って、樹液や花蜜を餌にしてる種が多いって言ってましたよね?それってカブト虫やクワガタとかの巨大化とかも居そうですよね?』
『お、おう。居そうだな、、』
『俺が子供の時って事前に木に蜜を塗っといて夜に集まってきた所を捕まえてたんですよ!』
『いやいやそんなの俺もやってたから!』
『危険区域に事前に立ち入って蜜を塗るのは危険なので木に蜜を塗ったものを準備します』
『ほう?』
『それを夜に投げ込みます』
『随分焦らすじゃないか?』
『こう言うのは少しづつ言うのが鉄板です!』
『うるせー!早く続けろ!』
『その木にはロープを巻き付けといて、抱きついてきたカブトやクワガタに引っかかるように細工して貰います。さらに2本のロープを付け1つは小麦粉の入った麻袋を縛り付けます。もう1本のロープには重しを付けるので飛んでも近場ですぐ落ちる。それを奴らは何度も繰り返します』
『危険区域の入口に祭場を設置し祈祷すれば虫除けスプレーが近場だけでも広がっていくと思うのでカブトやクワガタは必死に飛ぼうとします』
『そうするとどうなると思います?』
『小麦粉がばら撒かれそれを虫の羽根で空気中に攪拌され結構な広範囲に火種が出来るって事か、、』
『ご名答っ!そこに火矢を打ち込めば粉塵爆発どっかーんです!!』
『確かにそうすれば樹木や草木なんかも吹っ飛んで拓けた状態になり視認もよくなる。爆発音で地中に隠れた奴らも出てくるだろうし上手く行けばダメージも与えられるかもな』
『ここまでが第1waveです』
『こいつ、、』
『第2waveは当初の予定通り左右で進んでもらうのですが入口から10m付近までは榊の葉を植えないで進みます。爆発音や光に反応した飛行種が左右から集まってくると想定します。飛んできた飛行種は向かって来るとしても1度は祓い効果に気づき旋回するはず、奴らは体当りしてくるわけじゃなくて対象の付近を飛びながら狙いを定めようとしますからね。』
『ふむ、』
『榊の葉で作った壁に気づき左右どちらかに避けるはず、奥側には祈祷により強い虫除けスプレーが撒かれてるはずなので手前側に急旋回するはず。途中で榊の葉が無くなるのですが今度は目の前に祭場があり更に急旋回を余儀なくされます』
『元来た方に戻るか榊の葉を植えてない入口付近に残してある通り道を選ぶ可能性が高いです』
『祭場と祭場の間に白いシーツの幕を張って軍から貰った発電機と照明器具で灯りをつけ、強制的に虫を引き寄せます』
『!?!!』
『そこに魚網でも仕掛けといて羽根に絡ませれば飛べなくなるので、飛行種が地面に落ちる』
『トドメとしてブランコの原理で作る大木の槍でもぶち込んでやれば巨大化してるとは言え行動不能にさせられるのでは??』
『りゅと、お前、、』
『どうです??俺の企画案は!細かい修正や罠の工夫等は峰岸さんの能力と非戦闘員の建設班や農業班のお手伝いも有りきとしての企画ですけど、まぁ集落の全員協力で進められたら!!』
さぁ峰岸さん!俺を褒めてくれたまえ!
『随分粗い企画書投げてくれるじゃねーか、、節々に不確定要素も詰まってるし、20点だな!』
『ええぇぇぇ、割といい作戦だと思ったのにな、さすがに幼稚過ぎましたかね、、』
『点数は20点だが、こんなにワクワクするのは久しぶりだよ!俺がきっちり練り直して100点の企画に仕上げてみせるさ!』
『おおおぉぉ、、、』
あとは任せました峰岸さん!!勢いで閃いた事たくさん話せば何か一つくらい採用されるかもと淡い期待はしてたけど、、結果オーライ!!
落ち込んでた峰岸さんも何か目的できたみたいで良かった。っていうか俺自身も何かしら頑張らないと、、
『りゅとー!!』
あちの呼ぶ声がする。
『おーい!こっちにいるよー!』
小走りであちが目の前まで来る。
『ここに居たのね!りゅと!目を閉じて!』
『ん?』
『いいからいいから!はーやーく!』
何のことか分からないけど素直に目を閉じる。
『開けていいよー』
パッと目を開くとあちが俺の前に何かを差し出している。風呂敷の包みだ。
『えっと、、開けてみて良いのかな?』
『うん!』
あちに団扇と横笛を包んだ荷物を渡し、風呂敷の包みを受け取った。
開けると中には編み物?赤いマフラーが入っていた。
『手編みのマフラーか!上手だね!ありがとー!!』
季節は夏だったがちょっと早めのサンタさんって奴かな?と割り切って素直に喜んだ。
『ぶぶー、夏なのにマフラーなんて渡す訳無いじゃない!りゅとって天然ー』
『え?だって手編みだし、長いし?』
『腰巻きよ!』
あちがゲラゲラ笑っている。
『こんなごっつい編み方のマフラーなんて無いから!編み方よく見てよ!』
編み方?
『あ!これってしめ縄と同じ?』
『正解!』
『清めた麻で織り込んであるの、あとねちょっと気持ち悪かったらゴメンなんだけどさ、、』
『ん?』
『私の髪の毛も少し織り込んである、、』
『え!?呪い、、』
ドスンっ!
横っ腹にあちの回し蹴りが入る。
『自分で言うのキモイから嫌なんだけど私には巫女の能力があるから、お守り代わりで入れてあるの!!』
『りゅとデリカシーない!バカ!最低ー!』
『ごめんてー!パッって思いついて口から出ちゃっただけだよ、、』
『ふんっ!』
『付けてみていーい?』
『お好きにどーぞ!!』
見事にふくれっ面である。
『これでいいかな?』
『ま、悪くはないわね!』
『あち、ほんとにありがとー!一生の宝物にするね!』
『べ、別にそこまでしなくていいけど、、』
『って言うかさ、巻いて終わりじゃないからね?』
『ん?』
『じっとしてて』
そう言ってあちは横笛を腰の横に、団扇を背中に刺してくれた。
『これで両手も空くし肌身離さず持ってられるでしょ?色はりゅとの目の色に合わせたのよ!』
『おおおおお!あちすごい!天才!!!』
『ふんっ!呪いの腰巻ですけどねー!』
暫くはこのネタで虐められそうだ、、
ふいにあちが俺の服の袖を掴む。
『今度の危険区域でさ、私が死んじゃってもこの腰巻きがずっとりゅとを護るからさ、、なぁんてね』
冗談のように纏めたが、袖を持つ手が震えていた。
袖からあちの手を解き、ぎゅっとその手を握りしめる。
『俺も一緒に危険区域入る。だから大丈夫!榊の街道完成させてふたりでまた手を繋いで帰って来よう!』
あちの目から涙が溢れ出る。
『私、、ずっと怖くて、、りゅと、、、えーーーーん』
もう片方の手を俺の肩に置き、おでこを胸につけあちは泣きじゃくった。俺のもう片方の手はあちの頭を優しく撫でていた。




