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世紀末な後始末  作者: 柊隼凌
第1章 赤の巫女
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10/31

#10 街道設置作戦

翌朝、起きると師匠とあちの姿はなく部屋でテーブルにもたれかかったままの俺がいた。

まだ半分寝ぼけながらも服を着替え顔を洗いに外の井戸に向かう。水道機能が完全に失われた今となると田舎に残されていた過去の遺産のありがたみを痛感せずに居られない。


『あ、りゅと!おはよー!』


やや遅れてあちも自室より顔を洗いに来た模様。

俺の顔を見るなりあちが笑う。


『あはははは、りゅと!顔にすっごい跡がついてるよー

ー』


家の窓に顔を映すが解像度が低く良くわからない。

あちに聞くと恐らく横笛の跡なんじゃない?って、あぁ、テーブルにうつ伏して寝てたからだな。


『そんなに笑うことないだろー』

『ごめん、ごめん』


何気ない日常の会話は癒される。


御社殿で既に神への祈祷をしていた師匠に挨拶し、境内の清掃を済ませ、3人での朝稽古。


あちは少女ながらも流石に師匠の孫だ、なかなか様になっている。けど、この身体の前の俺は剣道場に通っていた事もあり、あちの相手をする分には余裕を出せる。

涼しげにあちの打ち込みを捌く俺にあちは少し不満そうな顔をする時もあるが、蛇に咬まれた後のあちは自身の弱さと前向きに向き合えてるらしく俺との模擬戦も指導を受けてる生徒として真摯に向き合ってくれるようになったのがよく分かる。あちにとっての良いターニングポイントだったのかも知れないな。


反して師匠は強すぎる、、師匠は別にムキムキボディなどでは無い。このお年の世代の割には長身で180cm位の痩せ型だ。木刀を打込みにいくと弾かれるのではなく流される。そして向き合ってみると良く分かるのだが間合いを掴めなくさせられる。派手な動きが無いくせに柳のようにかわされる。


『よし、ここまでじゃ』

『ありがとうございました』

『ありがとでしたー!』


『あち、踏み込みのキレも良かったしすっかり良くなったみたいで良かったよ!』

『うん、もうすっかり本調子だね!』

『2人ともまだまだじゃ、調子に乗るで無い!』


先送りされてた危険区域への街道設置。そろそろかも知れないな。


『そろそろ朝食にしようかの』


傍らに布で包んで置いといた団扇と横笛を拾う。


『肌身離さずって言うのも中々手荷物としては厄介だねー』

『まぁそうだねぇ、普段は2つを纏めて握れば片手は使えるし重くは無いから常に持ち運びはしてるんだけどね』

『ふーん、そっかぁ、、』

『無くしたら片腕じゃでな、、』

『…。』


朝食を済ませると暫くは各自での行動になる。翁は基本的には御社殿に居て、たまに怪我をして訪れた人へ祈祷を捧げたりしながら本殿、拝殿内の手入れや祓具の作成、まとまった数になればその祓具にも祈祷をしていくのだそうだ。


あちは専ら神楽殿での舞の練習、こんな世の中になる前の年末年始のシーズンはいとこのお姉さんやバイトの高校生たちとお守り作りをして楽しかったという思い出話を聞かせてくれた事もあった。けど俺からは踏み込んだ質問はずっと遠慮してて、、あちの両親とか、いや、やめとこう。


俺はと言うと団扇と横笛の効果?何が出来る道具なのかを知るきっかけになればと、出来るだけたくさん色んな事に触れ合いたいと思い午前中はあちの神楽舞の練習を見学させて貰いにここ神楽殿にお邪魔していた。


『なんか、女子の部屋に遊びにあがったような感覚で、、目のやり場に困るな、、』

『なにそれー、へーんなのー!適当に座って見ててくれていいからね!』


あちは神楽殿の中央に立ち、姿見を設置してある壁と向かい合い舞の動きを細かくチェックしながら練習していた。初見の俺からすると練習なんてレベルじゃなく、発表会のソロライブを見てる気分になり横笛を縦に持ち振りたくなったが怒られそうでやめといた。


舞を見ながら手持ちぶたさから横笛に息を吹き込むがやはり笛の音はならない。口の形を窄めたり上下の唇をややずらしてみたりなど色々試しながら見学していた。


『ふ~、ふ~』

『がんばれー、りゅとー!』


踊りながら鏡越しに俺をちらちら見ながら応援してくれて何かほっこりした。


『俺が綺麗に吹けるようになれば、あちと組んで舞と笛の音のシンフォニー発表会とかやれちゃうじゃん!』


シンフォニーって言葉の意味をよく理解せずに使ってみた。雰囲気的にはズレてないはずだ!


『神楽舞は神様に捧げる舞だから発表会みたいに軽く披露しちゃったら罰当たりになっちゃうよ、、』

『そうなのか!?残念、、』



舞の本番は神楽鈴(かぐらすぐ)と言うたくさんの鈴をつけた棒を持って踊るのだそうだ。試してはいないが祈祷のように癒しの能力(ちから)がありそうとの事だけど怪我人の横で舞うのは不謹慎な気がして試せずにいるらしい。


『よし、ちょっと通しで本気でやるね』

そう言ってあちの表情が変わる。真剣や熱心のような熱さとは違い、澄んだ視線で安らかな顔つきに変わった。

妙に引き込まれる。流動的で女性的なしなやかな身のこなしで神楽殿内の空気が変わるのがわかる。マイナスイオンで満たされていく感覚。


『はい、おしまーい』


その声でいつもの空気にパッと切り替わった。


『すごく良かった!別人みたいだった!』

『なんだとおおおおお』

ポカポカポカポカ


『冗談冗談!!でもなんかずっと見とれちゃってたよ』

『そ、そっか、ありがと』

そう言ってあちは照れくさそうに顔を横に向けた。


1度お昼を食べに戻り、午後からこないだ集めてきた榊の葉を全て拝殿に並べ祈祷を捧げる師匠のお手伝い。


程なくして無事に榊の葉全てに祈祷完了。早めに終わったので師匠と宝物庫の整理。何かに触れる事で能力(ちから)が開花するかも知れないと書物や貴重そうな品を掃除ながら触っていく。が、反応は特に無し。夕刻に家に帰り3人で食事の準備をする。


『カレーとかラーメンとかハンバーグとかまた食べたいよねぇ、』

あちが塩のみで味付けする雑炊を作りながらボヤくが

無い物ねだりだと自己完結して天井を見上げる。


ここでの食事はほぼ毎日在り来りな物になる。幸いにして集落で米と小麦は取れるので白米やパンもどきは食べられる。あとは川魚と山で取れる山菜やキノコなど。鶏と牛は飼われていたが食べるとそれっきりになるので卵と牛乳の為に我慢。鹿、猪、兎が捕れたら集落の皆で分け合うのでそれがたまに口に出来るご馳走って事になる。調味料はほぼ塩味。大豆が手に入れば醤油とかも作れるらしいけど予定無し。活動エリアの拡張は皆の念願なのだ。


『じっちゃん、、私そろそろ行けそうだよ!』

『そうじゃな、集落の皆も期待して待ってるでな。明日選抜隊員を集めて作戦会議を開かねばな。りゅと食べ終わったらで構わぬのだが、すまんが回覧板で明日の10時に社務室にて打合せと呼びかけてくれんか?』

『師匠了解!今から行ってくる!』

残りを一気に口に掻き込み俺は家を出た。


《翌 午前10時 社務室》


『皆、集まってくれてありがとう。そして待たせたのぉ』

『おっし!』『やるかぁ!』『やりましょう!』

一同から声が上がる。

選抜隊は師匠とあち、笹岡さんと狩猟班から村田さんと峰岸さんの5人に決まった。

俺はこの会議にお茶を入れる給仕役として参加させて貰っていた。


司会進行は師匠だ。


『予定通り集落を出て東側の川を渡った先にある集落に向かう。東の集落は居住区内に川が無い、井戸や貯水池が枯れると全滅の恐れがあるから安全路を確保し女子供の安全を確保しつつこちら側に全員を移住させる計画となる』

『絶対にやり遂げる!!』


村田さんの親族も東側に居るらしい。決意した目をしている。


『以前、ワシと笹岡くんと滝くんの3人で往復し、滝くんを亡くしてしまった。行きは無事に3人で辿り着けたが帰りに巨大化した昆虫に襲われた話は前も聞かせたから知っておるじゃろ。その時は生々しい話などは避けて話したが危険区域に向かう皆には詳細を伝えねばならん』

『あち、聞く覚悟はあるな?』

『うん、大丈夫』

『ワシらを襲って来たのはダンゴムシを巨大化させたような外見でな、ワシらが真上を通るのを待ち構えて土の中で潜んでおった。体長は約2m。何匹おるかもわからん。ワシと笹岡くんが生きてるのは正直たまたまじゃ。滝くんが犠牲になった事で奴らの標的から一時的に外れ逃げ切る時間が出来ただけ』


生唾を飲む音がする。


『対峙した時の有効手段は不明。打撃や斬撃は奴の外殻を通らんかった。いつ襲われるかわからん状況下でその攻撃を躱し、逃げ切るしかないという結論に至っておる。故にあの日以降危険区域内への立ち入りを禁じておった』


静かすぎて皆の心臓の音が聞こえてきそうだ。


『危険区域は無視してワシらだけで生き抜くことは不可能では無い。幸運にも山と川が安全圏にあるからの』

『くっ、、』


村田さんから思わず声が漏れる。


『しかしワシらだけが良ければそれで良いなんて決して思わん。無策で死にに行くのは馬鹿じゃが、やれる事があるのに目を瞑るのは卑怯者じゃ』


笹岡さんが大きく頷く。


『あいつの死を無駄になんてさせない。あの日俺たちは東の集落の状況を見てきた。皆、なんとかギリギリで暮らしてる状況だった。俺たちのように恵まれた環境では無く子供たちからも笑顔は消えていた。男連中だけならこちらに来れるかも知れない。けどそんな事出来るはずもない。滝はアイツらに必ずまた助けに来るから待ってて欲しいとあの日約束したんだ!絶対俺は榊の街道を繋いで見せる!』

『もちろんだ!』


村田さんが激しく同意する。


『では、軍のまとめた今の世の状況及び危険区域内での基礎知識と注意項目をまとめた物を読み上げるからしっかり聞いて欲しい』


『まずはざっくりと今の世は残された人類の住む居住区と危険区の2通りで分けられる。居住区には必ず神に纏わる施設や由来する地域、神聖な物に守られておる。言わば聖地じゃな。聖地内は治癒効果と魔除けの2つの力が働くと想定される。危険区域の生息してる殆どの新種系は聖地に足を踏み入れたケースはまだ聞かれていない。聖地の魔除けの範囲は不明じゃが空と地中を含めた円形状の効果だと推測される』


『続いて危険区域内について、危険区域には新種の生物の巣窟となっている。巨大化、凶暴化、中には魔物、魔獣と言わざるを得ないような生物の目撃例が増えている。聖地に近い場所には昆虫系が多く住み、聖地から遠ざかるほど異形化傾向あり。』


『聖地近くでは基本的には昆虫に準ずる対策が比較的有効である。昆虫系の中で主な危険種は蜂やトンボ、アブなどの常時飛行種、蜘蛛やカマキリ、蟻地獄などの狩猟種』


『昆虫系は痛覚も持たない。打撃や斬撃で致命傷を与えられたとしても行動不能に陥らない。頭を切り離しても攻撃が止まらない。銃火器で蜂の巣にするか、行動不能になる迄攻撃を入れ続けなければ倒せない』

『飛行種及び狩猟種は日中型が多いので夜間の方が比較的安全である』

『危険区域内での神聖具や神聖儀式は有効ではあるが効果範囲は狭まり弱まる』


『纏めるとこんな感じじゃな』

『そしてワシと軍とで考えた街道設置についてじゃが、簡単に言えば街道そのものを結界化させ恒久的に効果の持続を狙う。昆虫系の多くは人類を好んで捕食してくる訳ではなく基本的には従来の昆虫同様に捕食対象の基本は樹液や花蜜、小型の昆虫となってると考える。人を襲う事に執着してるわけではないのでわざわざ聖地にまで活動範囲を伸ばす必要がないので危険区域内に留まっておるというのが推論じゃな』


『、、聖地や結界は侵入を防ぐバリアでは無いがそこに好んで近づいては来ない。虫除けスプレーみたいなものか、、時と場合によっては侵入は可能、、』

近くに居た峰岸さんか、ボソボソと独り言のように呟いている。

分析とか理論的に考えてるのか、好戦的な人が多い狩猟班としては異質なタイプなのかもな。


『では段取りと役割を説明していくのでしっかり聞いてくれ。まずはこちら側の危険区域入口となる位置の左右2班に別れ祭場を設ける。そして祭場から真っ直ぐ危険区域内に進みつつ榊の葉を等間隔に植えていく。左右の先導としてワシとあちが祓い棒を振りながら前進するので村田くんと峰岸くんで榊の葉を地面に刺しながら着いて来てもらう。笹岡くんにはワシとあちの間で全方位確認をして貰いたい』


儀式に集中して周りの警戒が出来ない2人や榊の葉の植込み作業でほぼ下しか見れない2人。その4人に代わって全方位確認か、、。


『人数を絞ったのは虫を刺激する可能性を下げる為と万が一の戦闘になった時に戦える者としてあち以外を選出しておる。前回のワシらの失敗はワシが戦闘員としての参加だった事。祓い具では無く剣を構えておった。それと駆け抜ける手段をとった為に返って虫たちを刺激させたと考えておる。』

『なるほど、、』

『今回は戦闘前提ではなく神聖儀式に注力を注ぎ、虫たちの捕食対象にならないようにする。開始時刻は夜明けと共に行う。月明かりのみではさすがに進めず、日が昇りきってからじゃと飛行種や狩猟種の活動時間にさし当たるのでな。懸念は夜間の虫同士の争いに巻き込まれる可能性と活動予定外の危険種との遭遇、最も注意すべきなのは昆虫類以外の生物との遭遇じゃがな、、神に祈るしかあるまいて、、』


『結局は神頼みか、、』

峰岸さんの口から溢れたセリフを俺がかき消すように割って入る。


『ちょ、神頼みって、、それだと危険すぎる!あちは戦闘員でも無いじゃないですか!!!』

『あちはワシが命を掛けて護る』

『それは希望であって確実な根拠なんて無い!!だから以前犠牲者が出たんでしょ!!!』

『前回とは違う!戦闘ありきで駆け抜けるのでは無く、慎重に祓いの儀式をしながら虫を寄せ付けないように進む!!それでも万が一の時はワシが盾になる!!!』


物凄い迫力の師匠に俺はそれ以上何も言えなくなった。


『他に何か質問や意見はあるかの?』

今の空気で発言できる人なんてそうはいない。


『では決行日は3日後の満月の夜に集合し夜明けと共に決行とする。では解散じゃ』


不安要素、未確定情報、未知の領域、話しを聞けば聞くほど不安や恐怖、嫌な予感しかして来ない。けど、やるしか無いのは解る。本来生き物とは弱肉強食だ。食うか食われるか。その概念のど真ん中に行くのだからノーリスクの手段なんて無いのだろう。。一同はそれぞれに支度を始める。武器の手入れ、祓い具の準備、家族友人との時間に使ったり。


俺は1人御社殿裏の小さな祠の前に立っていた。


最後まで読んで頂きありがとうございます!

次話も頑張ります!

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