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ラーメン伸びるっすよ


俺がカラスのうるさい鳴き声で再び目を覚ましたのは、太陽が真上に登りきった時だった。


「ふぁぁぁ……よく寝たな」


ぐぅぅぅ。派手にお腹が音を立てる。


「まずは朝ラーメンにするか。ま、もう朝じゃないけどな」


俺は窓から通りを眺める。2階の窓からは通りに並ぶ市場がよく見えた。

ほとんどの店が暑くなる前に店じまいをはじめている。ラーメン屋台は、まだ幟を立てている。


「よっしゃ、まだスープあるな」


ふと、下を見ると馬車に乗った商人が横切っていく。


「やあ、元気っすか?」


俺が声をかけると、彼はこちらに振りむいた。


「今日も良い『コームギ』持ってきましたよ」

「そりゃ楽しみっすね」


彼は笑いながら去っていった。

彼の死に顔は何度も見た。


「まずはラーメンだな」


俺はラーメン屋台の暖簾をくぐった。


「お、兄ちゃんいらっしゃい」

「残りのスープ全部くれ」

「それは無理だ」

「え? 何杯分残ってるの?」

「5杯だ」

「ならいけるよ」

「そうじゃねぇ、このあと客が4人くるから、兄ちゃんの分は1杯だけだ」

「客は早いもの勝ちじゃねぇ?」

「基本的にはな」

「じゃあ5杯くれ」

「いやいや、基本的にって言ってますやん」

「基本的なルールは守りなさいよ」

「屁理屈は相変わらずだな」

「屁理屈じゃない、これは理屈」

「それが屁理屈」


俺たちが押し問答している間に、4人組のお客がやってくる。

男、女、娘、息子。

よく知ってる顔だった。


「なんだ、なら1杯で我慢するよ。店長、早く言ってよね」

「いや、そうじゃなくても我慢しろや」

「いや、彼じゃなきゃ我慢しない」

「こっちが作らなきゃ食べられない」

「そんなことしたら、王宮から『コームギ』を卸すのをやめる」

「汚ねえな、権力の私的利用甚だしいぞ?」

「そのために文官になったんだ」

「どんな動機だよ、ほらラーメンできたぞ。兄ちゃんにはチャーシュー、めんま、のり、玉子マシマシにしといたから勘弁してくだせい」

「なら許す」


俺たちは大笑いした。

4人組も笑っている。少年の無邪気な笑顔が眩しかった。

彼らは俺がお世話になった門番の家族だ。

彼の遺体に縋り付く3人の姿は忘れられない。


「今日は非番なんすか?」

「さっきまで当番でした」

「ああ、だから今なんすね」


俺はラーメンを啜る。

娘が上品に食べようとラーメンと格闘している。

この子が連れ去られた後どうなったかは分からない。


「ま、全て無かったことっすね」

「何の話だい?」


店主が不思議そうに聞く。

彼は拷問されてもラーメンの製法を白状しなかった。


「いや、ラーメンの作り方くらい喋っちゃえよ」

「だから何の話だよ」

「いや、こっちの話っす」


俺はラーメンを啜る。

うまい。

これが日常の味だ。

この日常がもう少しで崩れていく。

あと少し……。


俺たちの後ろを早馬が駆け抜けていく。


「あれ? どうしたのかな?」


門番の彼が反応する。


「ラーメン伸びるっすよ」

「まあ、そうだね」


彼はラーメンを食べながらも、さっきの早馬が気になっているようだ。

さっきの早馬は、王国の見張り出城が陥落した知らせだ。


俺はラーメンを一気に食べきった。


「ごちそうさん。」

「毎度、またきてな。」

「おう。」


俺は酒場へと足を運ぶ。

このあと、王城から俺の家に急使がくるはずだ。俺はそれを回避しなければならない。


「らっしゃい、随分と早くに来るね?」


酒場の店主が陽気に迎えてくれる。

彼の死に様は6回見た。


「強い酒くれ。今日は休みだからな、飲みつぶれるんだよ。」

「あいよ、ちょうどさっき今年のいいやつが入ったんだよ。ついてるね。」

「ツキじゃないよ、馬車が来るの見えたからね。」

「なるほどね、積荷の種類は王城なら分かりますもんね。」

「そのために文官になったからな。」

「全く、権力の私的利用ですな。」

「ま、やりたきゃみんなもやりゃあいいんすよ。」


店主は笑いながら、琥珀色の酒をグラスに注ぐ。


「ボトル置いてってね。」


店主はやれやれといった表情をしながらも、ボトルを置いて立ち去った。


あと20秒くらいかな?


酒場の扉が勢いよく開いて、脳筋騎士長が入ってくる。


「ここに居ったか、城にまいれ、最高会議だ。」

「議題は何っすか?」

「さあな?よく分からんが、会議らしい。」

「でも、公爵が来るのに時間かかるんじゃないっすか?」

「まあな、でも、公爵が来るより前に会議を進めるらしいぞ?」

「へえ、ま、飲んでからで良くないっすかね?」

「だよな。親父、1杯くれ、エールだ。」

「騎士長、エールより、これどうぞ。」


俺は琥珀色のグラスを騎士長の前に滑らせる。


「今年の傑作らしいっすよ。」

「お、いいな。」


騎士長は一気にグラスを飲み干す。


「くぅぅぅ、沁みるねぇぇ」


俺はすかさず、グラスに酒をなみなみ注ぐ。


「ボトル1本、俺の奢りです。」

「なに、いいのか!」


騎士長はグラスを飲み干してから、瓶に口をつけて直接飲み始める。


「これで、明日までは稼げると……」

「ん?何か言ったか?」

「いえ、こちらの話っす。」


俺は店主に声をかけた。


「店主、俺はちょっと出かけるけど、騎士長に好きなだけ飲ませてあげて、代金置いとくから、足りない時は後で払うからつけといて。」


俺は1デナリ硬貨を10枚置いた。


「こんなに?」

「サービスしてあげてね。」


店主はニコニコしていた。


さて、今度はどこで分岐させるか。

俺は酒場を出て王城の方に歩いて行った。


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