騎士長、あんた借金あるよね?
「たとえ国が滅びようとも、我が国の名は永遠に残る事になるのだ!」
騎士長が声を荒らげる。机を叩く音が大広間に響いた。
これは一緒。
「何を言ってるのか全く分かりません。」
俺はため息混じりに返した。
ため息吐かなくても良い気はするが、とりあえず一緒。
「なぜ貴様は分からんのだ! 媚びへつらい生きる事に何の価値がある!」
はい、来ました同じ質問。
「1日1デナリとして、1年で365デナリっすね。」
「貴様、また屁理屈を!」
屁理屈だよねぇ〜
腹立つよねぇ〜
「なら勝手に死ねばいいんじゃね?」
「!?」
脳筋共の視線が俺に突き刺さる。
毎回、毎回、脳筋の反応は扱いやすいね。
「貴殿が名誉ある死を望むのを止めはしないっすよ?ただ、国民を巻き込むのはマジ勘弁っすね。」
「国民もみなが私と同じ気持ちだ!」
「統計とったんですか?」
この脳筋がそんな事するはずがないっすけどね。
「そんなものなくとも目を見れば分かる!」
分かったことは一度もないけどな。
「なら聞きますけどね、私の目は何と言っているか分かります?」
「ふん、戦は怖いと言っておるわい」
「はずれー、ラーメンは豚骨が一番だなぁでした。」
ガタッ、と激しい音がした。
騎士長が剣に手をかける。
「貴様、その首いらんとみた」
「いや、首はいるでしょ?」
騎士長は剣を抜き放ち、金属特有の重い音を立てて俺の首筋に刃を当てる。
俺は、深く息を吐き出した。
「騎士長、あんた借金あるよね?」
騎士長の顔に動揺が走る。
「そ、それがどうした!」
「国が無くなれば良いと思ってません?」
「お、思っとらんわ!」
俺たちの会話を聞いていた公爵が口を開く。
「騎士長よ、座りなさい。貴殿の発言に対する信用はたった今をもって地に落ちた。」
騎士長はガックリと項垂れて、剣を床に落とした。
騎士長は剣を拾い上げもせずに、椅子にもたれ掛かるように座った。
俺は意気揚々と10人会議の部屋を後にし、大広間の扉を開けた。
待ちくたびれた顔をした帝国の使者が、不機嫌そうに俺を睨みつける。
「おい、待ちくたびれたぞ。で、結果はどうなったんだ?」
俺は大広間の扉を閉じて、内鍵をしっかりと閉めた。
「さて、まずはお昼を食べません?」
グゥゥゥ、と使者のお腹が派手に鳴った。
使者は顔を真っ赤にする。
「大丈夫っす、自分は文官なんで、何も聞かなかったし、知らなかった」
「……かたじけない」
よし、これで交渉が有利になった。
俺は大広間にあらかじめ隠しておいたラーメンスープを取り出し、カセットコンロで温め始める。その間に、もう一台のカセットコンロに火をつけ、麺を茹でるためのお湯を沸かした。
使者は見たこともない光景に、目を白黒させている。
「こ、これは一体……」
「カセットコンロっすよ」
「カセットコンロ?」
「火をつける道具っすね」
「それは、分かるが、いかように火をつけているのであるか?」
「カチッ、シュー、ボッ、っすね」
「はぁ……」
「詳しく説明してもいいんすけど、たぶん理解出来ない力っすよ」
使者はゴクリと唾を飲み込んだ。
どうやら、勝手に何か恐ろしい超テクノロジーだと勘違いしているらしい。
同じ反応だな?
出来上がったラーメンを二人で啜る。
あまりの美味さに、使者は国の威信も何もかも忘れて、一心不乱に麺を啜っていた。
初めてだとそうなるよな。
使者はスープを飲み干す。
そのジャストタイミングで、俺はぼそっと呟いた。
「皇帝がラーメンに興味ありますよね?」
使者の手が小刻みに震えだす。
「皇帝は、今回の事を知ってるんすか?」
使者の手の震えが止まらない。
「もし、開戦したら我が国は真っ先にラーメンの製法書を焼きます」
「それは! それだけはやめてくれ!」
「だって、しょうがないじゃない?」
「何とか、何とか穏便に!」
「将軍さんに伝えてよ、ラーメンで出世しようとしたら、ラーメンで首が飛びますねって」
「無理だ、そんな事を伝えたら、私の首が飛びます」
「だよね〜知ってる〜」
使者は青い顔で俺を見つめていた。
「この事実は俺しか知らない。でも、殺そうとするなよ?」
使者は、腰の剣にかけていた手を慌てて下ろした。
「考えることはいつも一緒なのな」
「いつも?」
「ま、それは置いといて。豚骨ラーメンの書を譲ってやるから包囲をといて帝国に帰れと将軍に伝えろ」
「と、豚骨を!?」
「そう、豚骨」
「秘伝じゃないのか?」
「秘伝だよ。日本語から、ようやくこっちの言語に写本し終えたところ。今のところ、世界で一冊」
「一冊……」
使者は無言で深く頷いた。交渉成立だ。
俺は完璧な外交成果を胸に、意気揚々と大広間の扉を開けた。
――ザシュッ。
あれ?脳筋はいないよな?
俺の腹から剣が飛び出している。
何とか振り返ると、使者が剣を俺の背中に突き刺していた。
なんでさ?
……。
……。
鳥のさえずりが聞こえる。
俺は三日前の朝の、自分のベッドの上で目覚めた。
「えぇぇなんでぇぇぇ負け確イベントじゃないよなぁ……」
とりあえず、俺は二度寝した。




