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公爵令嬢アリアの不敵なシナリオ  作者: ぽかぽか


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9/12

9.

 夜の港には、重たい潮風が吹いていた。

 人気の少ない倉庫街。

 昼間は交易で賑わうその場所も、深夜ともなれば静まり返っている。

 けれど、その一角だけは違った。

 薄暗い倉庫の中では、数人の男たちが慌ただしく木箱を運び出している。


「急げ。今夜中に終わらせるぞ」


 苛立った声を上げたのは、隣国の伯爵だった。

 机の上には帳簿や書類が散乱している。

 その時だった。


 ガンッ!!

 突然、倉庫の扉が勢いよく開かれる。


「動くな!」


 鋭い声と共に、クラウスたちが一斉に踏み込んだ。


「なっ……!?」


 伯爵の顔色が変わる。

 逃げ出そうとした商人たちを騎士たちが取り押さえていく中、フィデルは素早く机へ向かった。

 散らばる書類を確認し、目を細める。


「……ありました」


 ホルスト公爵家の印章。

 裏取引の記録。

 不自然な金の流れ。

 探し続けていた証拠だった。


 その瞬間、静まり返った倉庫の奥から、ゆっくりと靴音が響く。

 カツ、カツ、と一定の音。


「やあ、伯爵……素敵な夜だね」


 暗がりから姿を現したのはライアンだった。

 伯爵の顔から血の気が引く。


「な、ぜ……お前がここに……」


 ライアンは小さく笑う。


「少し、君に聞きたいことがあってね」


◇◇◇


 その頃、アリアは自室で静かに紅茶を口へ運んでいた。

 窓の外はすっかり夜が深い。

 揺れるランプの灯りの中、ティーカップを置いたアリアは小さく息を吐く。


「……そろそろ始まった頃かしら」


 緊張していないわけではない。

 けれど不思議と心は静かだった。

 ここまで来たのだ。

 あとは信じるしかない。


 ふと窓の外へ視線を向ける。

 遠く離れた港町。

 今頃、フィデル達が動いているはずだ。

 そして……ライアンも。

 アリアはそっと目を伏せた。


「どうか……無事に終わりますように」


◇◇◇


 同じ頃。

 ホルスト公爵の屋敷では、重たい沈黙が流れていた。


「……連絡が遅いな」


 低い声が部屋へ落ちる。

 机へ肘をつきながら、ホルスト公爵は苛立たしげに指先で机を叩いた。

 港へ向かった者から、まだ何の報告も来ない。

 その時だった。

 慌ただしく扉が開く。


「公爵様!」


 現れた使用人は、顔を青ざめさせていた。

 ホルスト公爵はゆっくり顔を上げる。


「……何があった」

「港の倉庫が……押さえられました」


 その瞬間、ホルスト公爵の表情から、初めて余裕が消えた。


◇◇◇


 夜明け前の空気はまだ冷たかった。

 静まり返った廊下で、テオドールは窓の外へ視線を向ける。

 遠く、空がわずかに白み始めていた。

 やがて背後からクラウスの声が響く。


「準備は整っております。いつでも」


 テオドールは静かに目を閉じた。

 長かった。

 けれど、ようやく終わる。


「……行こう、クラウス」


 ゆっくりと振り返る。


「決着をつける」


 その言葉と共に、一行はホルスト公爵邸へ向かった。


◇◇◇


 重々しい扉が開かれる。

 まだ朝も早い時間だというのに、屋敷の中はどこか慌ただしかった。


 突然現れた騎士たちに、使用人たちがざわめく。

 その中央を、テオドールは真っ直ぐ進んでいった。


「これはこれは……朝早くからどうされましたかな、殿下」


 応接間へ現れたホルスト公爵は、いつも通り穏やかな笑みを浮かべていた。

 だが、その目だけは鋭く細められている。

 テオドールは静かに書類を机へ置いた。


「西側交易における不正取引、裏資金の流れ、隣国貴族との非公式取引——全て証拠は揃っている」


 空気が張り詰める。

 ホルスト公爵は書類へ視線を落とし、そして小さく笑った。


「……何かの間違いでは?」

「港の倉庫から押収した帳簿です。関係者の証言も取れております」


 クラウスが静かに告げる。

 その瞬間、ホルスト公爵の表情が僅かに歪んだ。


「……まさか」


 低い声が漏れる。

 そこで初めて、公爵は部屋の後方に立つ人物に気づいた。

 淡い青のドレス。

 静かにこちらを見つめるアリア。

 ホルスト公爵は目を見開く。


「……君か」


 アリアは何も言わない。

 ただ静かに視線を返すだけだった。

 その沈黙が、何より雄弁だった。


 ホルスト公爵はゆっくりと拳を握り締める。


「まさか……最初から……」

「ホルスト公爵」


 テオドールの低い声が響く。


「貴方を、王家への反逆及び不正取引の罪で拘束する」


 部屋の空気が一気に張り詰めた。


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