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公爵令嬢アリアの不敵なシナリオ  作者: ぽかぽか


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2/12

2.

 その理由を、私はすぐに知ることになる。

 王子妃教育を受けるため、週に一度、王宮へ通うことになった。王子とのお茶会は月に一回だ。


 王宮はどこまでも静かだった。

 磨き上げられた床には窓からの光が反射し、行き交う侍女や騎士たちも無駄な音を立てない。

 豪奢な場所のはずなのに、不思議と息苦しく感じる。


(ここは、とても冷たい。なんだか気が抜けないな)


 ある時、お茶会に向かう途中。

 曲がり角の向こうから厳しい声が聞こえてきて、思わず足を止める。


「殿下、そのような振る舞いでは周囲が不安になります」


 そこにいたのはテオドール殿下だった。

 人の気配に気づいたのか、殿下がこちらへ視線を向ける。


(目が合った……)


 気まずくなって、私は慌ててその場を後にした。


 お茶会の席は中庭に用意されていた。

 色とりどりの花が咲き、噴水の水音だけが静かに響いている。


 本来なら穏やかな時間のはずなのに、私は落ち着かなかった。

 挨拶を交わした後も、気まずい沈黙が続いていた。

 何か話さなきゃと思うのに、考えがうまくまとまらない。

 ちらりと殿下を見ると、また目が合った。

 彼は、困ったように微笑む。


「アリア嬢、このクッキーはね、美味しいんだよ」


と、用意されていたお菓子を勧めてくれた。


◇◇◇


 その夜、私は昼間のことを思い出していた。


(今日は失敗してしまった)


 うまく話せなかったし、きっと変に思われただろう。

 だけど……王妃に大切にされていると聞いていたから、もっと自由な人なのかと思っていた。


 けれど実際のテオドール殿下は、私と同じように周囲の期待に縛られているように見えた。

 初めて会った時、あの瞳が少しも笑っていなかった理由を、私はようやく理解した気がした。


◇◇◇


 その日はいつもより早く授業が終わったので、庭園に寄ってみることにした。

 花を見ているとどこからか聞き覚えのある声が聞こえた。

 そちらに目をやるとガゼボに人影が見えた。


(えっ!あれって……)


 そこにいたのはテオドール殿下とセドリック殿下だった。二人は何やら楽しげに立ち話をしていた。

 今まで二人が一緒にいる所を見たことがなかった私は、とても驚いて動けなくなってしまった。


 そんな私に気づいたセドリック殿下が軽く会釈をして去っていく。

 代わりにテオドール殿下がこちらに歩いてくる。


「やあ、アリア嬢。今日の授業はもう終わったの?」


とにこやかに話しかけてくれた。

 

 その後、場所をいつもの中庭に移し、少し話をすることになった。


「あの……ごめんなさい……少し、驚いてしまって」

「何に?」

「お二人がとても仲が良さそうに見えたので」


 殿下は少し目を丸くした後、困ったように笑った。


「ああ……弟とは普通だよ。周りはそう思っていないようだけどね」


 少し間を置いて、殿下は静かに続けた。


「それに……僕は王になりたいわけでもないしね」 


 最後の言葉は、風に紛れてしまいそうなほど小さかった。

 けれど、その横顔は、少しだけ寂しそうに見えた。


 私は、なんとも言えない気持ちになった。

 テオドール殿下は、私が思っていた以上にずっと冷静に、自分の立場を見ている。


◇◇◇


 それからも、王子妃教育とお茶会は変わらず続いた。

 最初はぎこちなかった時間も、いつしか穏やかなものへと変わっていった。


「もうすぐ学園が始まりますね。殿下は生徒会に入られるのですか?」

「ああ、そうなると思うよ。君に手伝いを頼むこともあるかもしれないな」

「ええ、もちろん、その時は協力いたしますわ」

「いつもありがとう」


 殿下が優しく微笑む。


「今日は風が気持ちいいですね」

「そうだな」


 そう言って殿下は視線を落とすと、手帳に何やらスケッチを始めた。

 私もまた読みかけの本を開いた。

 静かな時間が流れる。

 私はこの時間が割と気に入っていた。


 そして婚約して七年。


 テオドール殿下は、信頼に足る人だった。

 私の意見を頭ごなしに否定することはなく、いつだって一人の人間として尊重してくれる。


 恋愛感情とは少し違うのかもしれない。

 けれど殿下となら、この先も穏やかにやっていけるのではないかと、最近はそう思えるようになっていた。



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