一人暮らしと目目連
会社の天井には、目がある。
会議室の壁にも。給湯室の小窓にも。コピー機の隙間にも。
こんにちは。目目連です。
白沢さまの命で、少し前からこの会社に常駐することとなりました。
本編から置いていかれている感がある?いえいえ。ご心配なく。
わたくしの本質は“見ること”。
見守ること。観測すること。それが役目です。
寂しいとか、ありません。
ーー
佐伯様は今日も無事に出社しました。最近はお元気な様子。でも、無理をしがちなのは相変わらず。
エレベーターで欠伸。デスクでこっそり栄養ドリンク。
全部、見ています。
すねこすりが足元をうろうろ。あの子は佐伯様が気に入ったようで、自宅の外へもついてきているようです。
……まあ、外出時の補助は必要でしょう。
仕事上、情報共有はします。
ええ、しますとも。そういえば、その際に聞きました。
どうやら自宅には、家鳴。座敷童子などがいらっしゃる。そして、白沢さまも出入りしているとか。
……。
いえ。寂しいとか、ありません。
わたくしは会社担当。住み分けです。合理的判断。適材適所。白沢さまのご判断は常に最適。疑問などありません。
ありませんが。
自宅にも出入りしている、と。
……頻度は?週に何度ですか。
いえ、ただの確認です。業務連携のため。情報精度向上のため。
寂しいとかではなく。断じて。
給湯室の窓が、じとっと湿る。
「あれ?今日なんか窓、結露すごくない?」
違います。
湿度管理の問題です。
ーー
昼休み。
佐伯様はデスクでお弁当。スマホを見て、少し笑う。
誰かからのメッセージ。すねこすりが、ぴょんと膝に乗る。
楽しそうですね。ええ。良いことです。守護対象の情緒安定は重要。
重要ですが。
……。
こちらにも一応、目は多いのです。
壁一面。天井一面。ブラインドの隙間。全部、目です。見ています。ずっと。
なのに。
誰とも目があうことはない。まあ、当然です。見えませんから。見えないのが我々。
寂しいとか、ありません。
ーー
就業時間を大分過ぎて、
「はぁ〜、やっと終わった!」
(今日はもう帰ろ〜)
帰宅する佐伯様の後ろをすねこすりがついていく。
他の方々も仕事を終え、だんだん人が少なくなっていく。最後の一人が出ていき、扉が閉まる。オフィスに夜が降りる。
無音のオフィスで、コピー機のランプが瞬く。
本日のわたくしのお仕事もこれで終了。
だから、これは本来必要のないこと。
特に意味はないのです、ほんの少し魔が差しただけ。
目目連は窓から遠く外を見遣った。
ほんの少しだけ、自宅の様子を、遠くから、うっかり、こっそり伺ってみる。
そして、見る。
梁が鳴り、座敷童子が台所で働く。すねこすりは変わらず娘の足元で丸まっている。白沢さまが微笑む。そんな部屋の様子を。
ーー
……にぎやかですね。
会社の蛍光灯が、ちか、と瞬いた。
違います。
これは電圧の問題。
寂しいとかではありません。
目目連は、泣きません。
泣く機能はありません。
ただ、ただほんの少しだけ、ガラスに結露が滲んだのは、あの部屋とオフィスの温度の違いのせいということで。




