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一人暮らしにつきものの憑き物  作者: ぴよ
第一部 一人暮らしと憑き物

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8/30

一人暮らしと目目連

会社の天井には、目がある。

会議室の壁にも。給湯室の小窓にも。コピー機の隙間にも。


こんにちは。目目連です。


白沢さまの命で、少し前からこの会社に常駐することとなりました。

本編から置いていかれている感がある?いえいえ。ご心配なく。

わたくしの本質は“見ること”。

見守ること。観測すること。それが役目です。


寂しいとか、ありません。


ーー


佐伯様は今日も無事に出社しました。最近はお元気な様子。でも、無理をしがちなのは相変わらず。

エレベーターで欠伸。デスクでこっそり栄養ドリンク。

全部、見ています。


すねこすりが足元をうろうろ。あの子は佐伯様が気に入ったようで、自宅の外へもついてきているようです。

……まあ、外出時の補助は必要でしょう。

仕事上、情報共有はします。

ええ、しますとも。そういえば、その際に聞きました。

どうやら自宅には、家鳴。座敷童子などがいらっしゃる。そして、白沢さまも出入りしているとか。


……。


いえ。寂しいとか、ありません。


わたくしは会社担当。住み分けです。合理的判断。適材適所。白沢さまのご判断は常に最適。疑問などありません。


ありませんが。

自宅にも出入りしている、と。

……頻度は?週に何度ですか。

いえ、ただの確認です。業務連携のため。情報精度向上のため。


寂しいとかではなく。断じて。


給湯室の窓が、じとっと湿る。

「あれ?今日なんか窓、結露すごくない?」


違います。

湿度管理の問題です。


ーー


昼休み。


佐伯様はデスクでお弁当。スマホを見て、少し笑う。

誰かからのメッセージ。すねこすりが、ぴょんと膝に乗る。

楽しそうですね。ええ。良いことです。守護対象の情緒安定は重要。


重要ですが。


……。


こちらにも一応、目は多いのです。

壁一面。天井一面。ブラインドの隙間。全部、目です。見ています。ずっと。


なのに。


誰とも目があうことはない。まあ、当然です。見えませんから。見えないのが我々。

寂しいとか、ありません。


ーー


就業時間を大分過ぎて、


「はぁ〜、やっと終わった!」

(今日はもう帰ろ〜)

帰宅する佐伯様の後ろをすねこすりがついていく。


他の方々も仕事を終え、だんだん人が少なくなっていく。最後の一人が出ていき、扉が閉まる。オフィスに夜が降りる。


無音のオフィスで、コピー機のランプが瞬く。


本日のわたくしのお仕事もこれで終了。

だから、これは本来必要のないこと。

特に意味はないのです、ほんの少し魔が差しただけ。


目目連は窓から遠く外を見遣った。

ほんの少しだけ、自宅の様子を、遠くから、うっかり、こっそり伺ってみる。

そして、見る。

梁が鳴り、座敷童子が台所で働く。すねこすりは変わらず娘の足元で丸まっている。白沢さまが微笑む。そんな部屋の様子を。


ーー


……にぎやかですね。


会社の蛍光灯が、ちか、と瞬いた。


違います。

これは電圧の問題。

寂しいとかではありません。


目目連は、泣きません。

泣く機能はありません。


ただ、ただほんの少しだけ、ガラスに結露が滲んだのは、あの部屋とオフィスの温度の違いのせいということで。

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