秋の夜長と待ちきれない二人
課長と主任が改めて提案してくれた衣装案。その中から最終デザインを決めるまでに、四人は数回のお昼休みを費やした。その翌日からは、ベースとなる服や小物の調達のために、主任に手伝ってもらって終業後に何軒もの店をはしごした。素材がそろうと、今度はどこを加工し調整するのか、実際に着てみたうえで細かくチェックしていく作業が待っていた。こうして、慌ただしい秋の数日はあっという間に過ぎていったが、本番を数日後に控えたところで、突然佐伯と水上だけ仕事がなくなってしまった。
『ここまで来れば残りは製作側の仕事だから。激太りとかしなければ、二人は気楽に待ってていいよ~』
『本番前に最終チェックと調整をさせてもらうんで、衣装ができたら改めて連絡するっす』
確かに、あとは実際にハサミや針、ミシンを扱う作業になる。佐伯と水上がいたところで素人はかえって邪魔だろう。それでも、自分たちが着る衣装にもかかわらず完成まで何もできないというのは、なんとも心苦しく、そして手持ち無沙汰であった。
「ううっ、落ち着かない。このままだと帰ってゲームしても集中できなさそう。どうしよう。なんか緊張してきた」
「先輩、気持ちはわかりますけど、緊張するのは早すぎます」
久々に二人だけのお昼休み、むしろいつも通りのはずのランチで、佐伯はなんとも情けない顔をしていた。
「ねぇ早苗ちゃん、今日お仕事終わったらうちに来ない?お泊まりは無理でも少しお話ししようよ」
「いいですね。実はわたしもちょっと落ち着かなくて。先輩の部屋なら気も紛れそうですし」
一人でそわそわするより、二人でわくわくしようということで、今日は佐伯の部屋に集合することが決まった。
――
終業後、佐伯の部屋へ向かう前に、二人はデパ地下へ立ち寄った。夕飯用にいくつかお惣菜を購入する予定だが、お腹周りに気を付けてなるべくヘルシーにまとめなければならない。それに明日も平日、仕事があるのでお酒もなし。そのかわりにちょっと贅沢なジュースなどを選んで、今日の買い物は終了。
「うふふ、だいぶ早めだけど前夜祭気分でヘルシーパーティー!」
「今日はデパ地下で買い物にして正解だったかもしれませんね。商店街だと誘惑が多そうですから」
商店会のイベントのために商店街に行かないというのは本末転倒かもしれない。しかし、各店の皆さんには申し訳ないが、美味しそうなものを勧められても今日は断ることしかできない。冷やかしになってしまうくらいなら、ハロウィンが終わってからまた思い切ってパーティーをすればいいだろう。
そうして買い込んだ夕飯とともに、二人が佐伯の部屋に到着する頃にはもう日が暮れていた。この秋の計画を考え始めた頃はまだクーラーをつけていたというのに、季節が進むのは早いものである。
早速電子レンジでお惣菜を温め、お皿に盛り直してテーブルに並べ、グラスにジュースを注げば用意は完了。
「それじゃあ、決戦のハロウィン当日に向けて!かんぱーい!」
「かんぱーい!」
(うん、栄養バランスもいいし、糖質と脂質は控えめ。これなら合格だわ、二人ともえらいのよ)
(ここにきてまた走らされるのは勘弁してほしいですからね。当日までウエストはキープしていただきたいものです)
座敷童子が献立を評価すれば、ほっとしたのか呆れているのかため息をつく白沢。
(油断と)
(慢心は)
(ダイエットの敵!)
(別に二人とも太ってないよね?)
(確かにそうですが、わたくし、今問題なのは変動そのものではないかと思います)
家鳴たちは無責任にもっともらしいことを言い、すねこすりは今日も優しく、目目連が言うことは正しいが無神経だ。
しかし、まったくもっていつも通り。二人に憑き物たちの声は聞こえなくとも、この部屋の空気はいつもと同じ。
「当日は何時に起きる?メイクも着替えもいつもより時間がかかるよね?」
「そうですね。でも集合時間は午後ですから、逆算してもいつも通りで十分ですよ」
「晴れるといいよね!」
「予報は……先輩!『秋晴れとなるでしょう』だそうです!」
「課長たち、今も衣装を作ってるのかな?」
「そうだと思います。お二人には足を向けて寝られませんね」
「お礼はどうしたらいいと思う?スイーツとかかな?」
「あの二人ならお酒をごちそうするのがいいんでしょうけど……それだとわたし、ついていけないかも」
「優勝できるかな」
「どうでしょう、でも、きっと大丈夫ですよ」
思いつくことを次から次へと口にする佐伯につられて、水上も一緒になってあれこれと考える。
二人で話していれば、落ち着かなさは不安ではなく楽しみで塗りつぶされていく。
「あっ、でも衣装が完成しても、わたしたちステージでは立ってるだけじゃだめだよね?」
「……確かに。ファッションコンテストですから、衣装だけでなく見せ方も必要かもしれません」
「早苗ちゃん、最初はモデル歩きするって言ってたよね。しかもヒールで」
「ちょっと先輩!あれはただのアイデアじゃないですか」
「でも、本当に必要かもよ?じゃあ、今から練習しよう!」
「衣装もないのにですか?」
「いいのいいの!気分が大事!ほら、早苗ちゃん見てて!」
佐伯は突然立ち上がると、つま先立ちで短い廊下を玄関前まで歩いて行った。そこでくるりとターンをし、リビングまで戻ってくると、腰に手を当てて謎のポーズを決める。
「どう!格好いい?」
「んー、歩き始めは泥棒みたいで、戻ってくるときはブリキの兵隊みたいでした」
「えーっ、早苗ちゃんひどい!じゃあ次は早苗ちゃんがやってみて!」
「いいですよ。わたし、結構ヒール履き慣れてますし」
(早苗も言うようになったのよ)
(あまりに的確な表現に、わたくし感心してしまいました)
(まっすぐ歩いて)
(くるっとターン)
(転んだら減点ね)
(コンテストって、そういう採点方法なの?)
(お?早苗さんはなかなか堂に入った歩き方ですね)
落ち着かなくて集まったはずが、いつの間にか見よう見まねのモデル歩き大会になってしまった。
衣装はまだ完成していない。けれど、二人の気持ちはもう、ハロウィン当日のランウェイを歩き始めているようだった。




