秋深し 隣にいるのは 頼もしき友
佐伯、水上、アパレル企画課長、そして主任。
四人で始まった食事会は、主に後者二人のせいで混沌を呈していた。
「今回のコンセプトならさ〜。ある程度、デザイン上の制約も受け入れないとさ〜」
「だから既製服ベースには反対してないじゃん!ただ、表現が狭まったら意味ないっつってんの!」
「その表現がコンセプトに反してるって言ってんだけど?ていうかコンセプト理解してる?わかってないんじゃないの?」
ちなみに、これは上司と部下の会話である。
「早苗ちゃん、この生春巻き美味しいよ?」
「先輩、この状況でよく食べられますね?」
「あのね?今のうちなの。あとで絶対こっちにも火の粉は飛んでくるの。あと、課長はお酒が好きだから、覚悟した方がいいの」
「ごめんなさい。もう帰りたいです……」
佐伯のいう通り、コンセプトの徹底重視を説く課長は、渇いた喉を潤すためといいながら早々に入れた焼酎のボトルを空にする勢い。
部下でありながらまったく遠慮のない主任も、次々とビールジョッキを取り替えている。
最初はこうではなかった。二人が自分たちの描いたスケッチを取り出す、それまでは。
――
そもそも同じフロアで仕事をしてきた仲である。席についてひと通りの挨拶が済めば、話題はすぐに衣装の話となった。
「いやぁ、久しぶりに面白そうな話でワクワクしちゃう!全力でやるから、二人もよろしくね〜」
「あたしも久々に服作れるって聞いて楽しみにしてます。よろしくっす」
そこからは食事をしながら、改めて佐伯と水上のイメージや仮装案を確かめ、それを二人が咀嚼する時間となる。
ある程度まで認識の共有ができたところで、課長が衣装のプランについて説明を始めた。
「これはお昼休みにも言ったけど、二人が目指してるのは単なる仮装じゃないよね?あくまで『現代を生きるモンスター』をテーマに、それをスタイル、ファッションに落とし込もうっていう試みなわけだ」
「アプローチとしては別に目新しくもないけど、それをハロウィンの仮装でっていうのは興味ありありっす」
さすがプロの視点と技術の持ち主たち。こんな人たちに協力してもらうなんて、商店会のイベントでは反則扱いではないのか。
「あの、えっと、あくまで商店会のイベントなんだけど……プロに頼んでもいいのかな?」
「それに、材料費とか製作費とかはどうしたらいいんでしょう?」
「商店会イベントなら、逆にレギュレーションもないでしょ?」
「さすがに材料費は出してもらうよ。でも、頼まれ仕事でもなし、今回の手間賃はあたしらのお楽しみ参加費ってことで相殺でいいんじゃない?いいよね課長?」
「いいね、じゃあそういうことで」
(なんだ、いい人たちだね)
(チームで一つの目標を目指す。わたくし、こういう展開は結構好みです)
服飾のプロの後押しもあり、これなら問題なく参加できそうだと胸を撫で下ろす二人。
「そしたら、まずはいくつかラフを考えてきたから見てくれる?マイナーなモンスターだと審査側にも客側にも受けが悪そうだから、いわゆる定番で考えてみたよ。単独ではわからないのに、二人が揃うと答えが見えてくる。そんなイメージだね〜」
そう言いながら課長が取り出したスケッチは、魔女と黒猫、ドラキュラとコウモリ、若干マイナーでも墓守とブラックドッグといった定番かつコンビとなるものを意識して描かれていた。
「おぉ、普通におしゃれな二人なのに、並ぶと意味がわかる!」
驚きと感激に目を見開く佐伯。その反応に対抗心を刺激されたのか、主任も慌てて自分のスケッチを取り出した。
「あたしも定番モンスターってとこと、二人で完成なのは同じ。でも、衣装テーマは二人とも揃えてみたっす。一人ではモンスター性が薄いのに、あえて別ジャンルを並べるとテーマが浮き出る的な感じで」
こちらはまた違ったアプローチ。シックとカジュアル、クラシックとパンクといった異なるジャンルでありながら、デザインやシルエットを部分的に共有させることで、並び立って初めて同一のモンスターを連想できるようにしている。
「すごい……デザインってこんなことまでできるんですか?」
スケッチを見つめる水上に満足そうな主任だが、そこに課長が意見を差し込んだ。
「デザインはいいし発想もいい。でも、コンテストではちょっと分かりにくくない?あと、ジャンル違いの衣装に共有デザインを取り込むとすると、どっちにも特別感が出過ぎなのよね〜」
「確かに、アイコニックなパーツの作製とかシルエット調整とかの手間は必要っすね。でも、そこに手を掛ければ逆に分かりやすくもできるし、イベント衣装なら許容範囲っしょ?」
「うーん、それはそうなんだけど、イベント性に寄りかかるの?普通に生活してるモンスターだったら普段着にそんな手間かけなくない?」
「コンテストだし、普段着じゃなくて勝負の一着ならどうっすか?」
「え、それ何のための勝負?意味わかんない」
「はぁ?勝ちにいくんでしょ?腑抜けてんすか?」
「おぉ?そっちこそゴール見失ってんぞ?」
激論のスタートと同時にお酒と追加のおつまみを注文する課長と主任。
こうして、佐伯と水上はしばらく黙々と生春巻きを食べることになったのだった。
――
「佐伯ちゃんと水上ちゃんだって嫌じゃない?キメキメでドヤ顔のモンスターなんてさぁ〜。そんなのやらされたくなくない?」
「二人に自分の意見を押し付けんなよ!それにビシッと決めて何が悪い?コンセプトはもちろん大事だけど、それって普段着しばりってことじゃないっしょ!」
お酒の影響もありつつ、課長と主任の話は二人に絡みながらも続いている。
激しい言葉の応酬に、慣れない水上はまるで自分が責められているかのような落ち着かない気持ちでいたが、その背中に温かい手のひらが当てられた。
「早苗ちゃん、大丈夫?この二人……というか、うちの会社の人たちって、一生懸命になると声が大きいんだよねぇ。ふふっ、子供みたい」
安心して佐伯の顔を見返す水上。
頼もしく頷いたあと、佐伯は立ち上がり、おもむろに口を開いた。
「二人とも聞いて!わたしと早苗ちゃんはこのチームで優勝を目指します!……でもみんなで楽しくやりたい!ケンカするほど仲が良くっても、ケンカはしちゃダメなの!優勝目指して頑張るぞ!おーっ!」
何か重要なことを言うような顔をして、何の解決にもなっていないことを堂々とのたまい、あげく勝手にまとめた。
よく見ると、真っ赤な顔をした佐伯の手元には、いつの間にか課長が入れたらしい焼酎の水割りが。背中に置かれた手が温かかったのは、もしやアルコールのせいなのか?
「あはは、何それ。でもわかった!主任のイメージもだいぶ掴めてきたし、あとは任せておきなさいな!」
「あたしの方もコンセプトとの落とし所が見えてきたんで、課長と二人でもう一度デザイン案詰めてきます。よろしくっす!」
「ありがとう!じゃあ、よろしく!」
「えっ?あっ、よろしくお願いします?」
(はっ?今ので何か決まったの?)
(いいえ。ですが、なぜかきれいにまとまったようには見えました)
水上と憑き物たちの困惑をよそに、三人はなぜかハイタッチまで始めている。
結局、今日の顔合わせは互いのこだわりを擦り合わせるための場となったらしい。おかげでプロ二人は方向性を共有できたらしく、ここからのデザイン出しや衣装製作は問題なさそうだ。
課長と主任にとってはいつものことのようだし、佐伯と水上は頼もしい仲間を迎えられた。
モンスターファッションコンテスト。二人はどんな衣装で、何のモンスターになるのだろうか。ハロウィン当日が楽しみである。




