憑き物たちと秋の装い
「ねぇ早苗ちゃん?こんなのどう?」
白いシーツを頭から被った佐伯が、その場でくるりと回ってみせる。
「先輩、ただシーツを被るだけなのはどうかと思います」
連休後の辛かったダイエットをどうにか乗り切った佐伯は、週末に水上を呼び出し、早速次の楽しいイベントに向かって動き出していた。
「いいと思ったんだけどな?インフィニットドレスみたいなシーツお化け。じゃあ早苗ちゃんはどんな仮装を考えてるの?」
「そうですね。わたし背が高いので、さらにヒールを履いてモデル歩きをする八尺様とかどうでしょう?」
「八尺様って何?」
「あぁ、審査員にもわからない人がいそうなのでこれは没で」
(八尺って、かなり大きいよね?)
(二メートルを軽く超えます。わたくし、再現のためにはヒールより竹馬が必要かと愚考いたします)
(それってもう)
(仮装というより)
(大道芸じゃない?)
すねこすりと目目連の考察も、家鳴たちの感想ももっともではある。が、それはさておき、二人は今、十月末に開催されるハロウィンイベントに参加するべく衣装の選定中。
しかし、どうやら二人が目指しているのは可愛さでもリアルさでもないらしい。
これにはちゃんと、というか、それなりの理由がある。
――
そもそもの発端は、佐伯が仕入れてきたイベントの情報であった。
「早苗ちゃん!わたしたちのハロウィンデビューにピッタリのイベントがあるの!商店会でコンテストやるんだって!」
「商店会ですか?普段からお世話になってますし、協力できるなら願ってもないですけど?」
「んふー!じゃあ決まりね!エントリーしておくから!」
秋の行楽シーズンも終盤。どうせならここにもひとつ客を呼べる催しを――と、商店会はハロウィンイベントの企画に乗り出していた。
まずは子供向けに商店街巡りのお菓子付きスタンプラリー。仮装してもしなくても参加OK。無難で楽しく可愛らしい。そこまでは良かった。
そこから、大人も参加させようとの意見で出来上がったのが、どういうわけかモンスターファッションコンテストというお馬鹿、いやお化け企画。
なぜかこの企画が佐伯の琴線に触れ、水上は巻き込まれることになったのだ。
――
「モンスターのファッションコンテストなんだから、モンスターなりのおしゃれが必要だと思う!」
妙なこだわりを発揮する佐伯だが、では、モンスターなりのおしゃれとは?
「たとえばドラキュラ伯爵は元から正装してるけど、今のトレンドを考えたらマントはもっと軽めのデザインがいいと思うの」
「なるほど。じゃあ、おしゃれなゾンビだったら、ダメージジーンズに安全ピンで留めたパンクなシャツを合わせるとかですか?」
(ドラキュラ伯爵にもゾンビにも会ったことはないけど、おしゃれにコーディネートしてもらえるなら喜ぶんじゃないかしら?)
(でも二人が着るんなら、やっぱりもっと可愛いのがいいんじゃない?)
おしゃれという時点で座敷童子は乗り気の様子だが、先の二案はすねこすりには不評のようだ。
その後もいろいろと案は出てくるものの、実際に着たいかとなると、なかなかしっくりくるものがない。
(朝夕ランニングに付き合わされ、ようやく二人のダイエットも成功したというのに。問題だったスカートは履かず、今度は仮装の相談ですか……)
(しかしわたくし、お二人はそのおかげでたいていの衣装は難なく着こなせるのではと思います)
嘆く白沢と慰める目目連。だが、座敷童子は白沢の努力よりも他の部分に興味を覚えたらしい。
(怪異がおしゃれするって、なかなかいいアイデアなのよ。ちょっと白沢、あんたは普段スーツ姿だけど、他の衣装はないのかしら?)
(何を言い出すかと思えば……怪異によりそれぞれではありますが、わたしのこれは人の世に馴染みやすいようにそう見せているだけ。実際に洋服を着ているわけではありません)
白沢が素直に答えると、それがいらぬ波紋を呼んだ。
(えっ?それって……)
(童話の……)
(裸の……白沢様?)
(違うよ。あれは見えないけどちゃんと服を着てるんでしょ?着てないよりいいんじゃない?)
(実際に裸体か、実質裸体と変わらないか。わたくし、どちらにしても破廉恥かと……)
事実を説明しただけでひどい評価だ。
(ほほぅ……あなたたち、自分はどんな姿なのか考えてからものを言ったらいかがでしょう?これはお説教が必要ですか?)
(((ごめんなさい)))
(えへへ、ごめんね)
(大変に失礼をばいたしました)
神獣の威厳はどうにか保つことができた。
が、白沢の受難はこれでは終わらない。
(ふふーん、なるほど。それなら白沢様?そのお衣装はいくらでも変えられるのね?どんなお洋服も、なんならお着物も自由自在?)
(あ……いえ、そこまで便利なものでは……)
(じゃあどこまでならできるのかしら?試してみたいわ?まずはカジュアルな服装を見せてちょうだい?ほら、早く)
――
そこからは座敷童子の独壇場。次から次へとリクエストが止まらない。
秋らしいカーディガンを羽織ったビジネススタイル。これは間違いないわね。
タンクトップとシアーのシャツに、ワイドパンツで色気のあるカジュアルスタイル。これもいいわ。
軽めのニットにスラックス――いや、ここはチノでも合うのよ。
作務衣もお着物もさすがに似合うわぁ。
はっ!白沢様なら大陸の古い衣装も知ってるのではなくて!?
これを好機とばかりに着せ替えを楽しむ座敷童子。その勢いから逃げ切れず、白沢はされるがままである。
(ねぇ、白沢様?わたし、とっても楽しいのだけれど、怪異を知り尽くした神獣様なら、もしかして西洋のドレスを着た幽霊にも、なんなら騎士様や魔法使いなんかにもお詳しいのではなくて?)
(確かに知識はありますし知り合いでもありますが、もうこのあたりでやめませんか?)
(まぁっ!わたし、あのドレスにずっと憧れてたのよ!早く着替えて!早く!)
(待ちなさい!わたしはドレスは着ませんよ!)
(鎧もローブも!王族の戴冠式の衣装も見たいのよ!)
(落ち着きなさい!!そもそもそれはわたしが着てみせる必要がない!!)
ハロウィンの衣装選びという本題からすっかりかけ離れ、今日この部屋では、暴走する座敷童子と神獣白沢の攻防の方が盛り上がってしまった。
(いいなぁ、僕も仮装してみたい。あっ!河童がいいな!)
(そのフワフワの毛を緑色に染めるのですか?わたくし、それはちょっとおすすめいたしかねます)
まったく収拾がつかない怪異たち。結局、佐伯と水上の衣装も決まらないまま、秋の夜は更けていくのであった。




