秋のあれこれと憑き物たち①
【その一 かまど神の新作ぱふぇ】
九月の後半、祝日が続く時期をシルバーウィークなどと呼ぶらしい。連休ともなれば街に出てくる人も増える。
ありがたいことに、ここのところ店は繁盛しているが、せっかくの商機を見逃すようではまた閑古鳥が巣をかけかねない。
これは、さらなる集客を目指して何か考えた方が良いのではないか?
そういえば、先日の座敷童子はぱふぇを奢ってやったらいたく喜んでいた。
連休中にまた来るかもしれん。やはり新作ぱふぇを考案しておこう。
季節をテーマにしてもいいが、栗のぱふぇはすでに店で出しておる。ならば今回は、店の歴史をテーマにしてはどうか。目目連もかつての洋食屋を見てみたかったと言っておったしな。
では、洋食屋の頃と喫茶店の頃、それぞれ甘味として出しておったプリンとコーヒーゼリーを主役に、甘さを抑えたチーズクリーム、それからスポンジを層にして。
ふむ、なにやらプリンアラモードかケーキのようになったな。まぁ、見た目がぱふぇなら良かろう。
――
「古い物を押し付けちゃってごめんね。まぁ、親孝行と思ってたまに着てくれたらいいから」
「何言ってるのよお母さん。これ本当にステキ。大事にするからね」
シルバーウィークのある日、上品な着物の母娘が店に訪れ、その傍には着物憑きもいた。
(なんと、そちらも座敷童子の知り合いと?)
(えぇ、あの子も先日こちらに?あら、そうだったんですねぇ)
(ははは、これも何かの縁じゃろう。ちょうど新作のぱふぇがあるのだが、試してもらえんか?)
(いいんですか?それじゃお言葉に甘えていただこうかしら。んん!とても美味しいわぁ)
かまど神が声をかけると、着物憑きは座敷童子と知り合いであった。早速新作パフェを振る舞い、その後は共通の知人の話や、それぞれが見守ってきた人々の思い出を語り合い、しばし楽しいひとときを過ごした。
怪異にもパフェを振る舞ってくれるカフェの話は徐々に広まり、以来、店の隅には、ときおり人には見えない客の姿も増えたという。
【その二 柵の向こうの栗の楽園】
いない!うちの子たちがいない!
ある日、山では血相を変えて猪が子供を探し駆け回っていた。
いつも母のそばを離れず、足元をうろちょろとしていた子供たち。
最近体も大きくなってきたとはいえまだまだ子供。それを、まさか見失うなんて。
必死に探しつつ山の麓まで降りてきたところで、農園の柵を潜り抜けたらしい我が子たちの足跡を見つけた。
この向こうに入り込んだのか。
母猪は、ためらうことなく柵に突進し、ワイヤーを引きちぎって我が子を探しに農園の中へと入り込んだ。
――
母鹿は目を疑った。楽園を囲む柵が開いている。
山の麓にはたわわに実をつけたたくさんの果樹が生えた楽園があると聞いたことがあるが、今までそこに入ったことはない。
山の仲間たちは、あそこは人間が多くて危ないとも言っていた。
だが、今目の前にその楽園への入り口がある。
ちらりと我が子を見ると、好奇心を隠せないわくわく顔。
念のために周囲の匂いや足跡を慎重に調べてみれば、先に猪の親子たちも入っていったらしいことがわかる。
抗いがたい魅力に、鹿の親子もまた、楽園を囲む柵の内側へと踏み入っていった。
――
入り口から深く入り込まずとも、地面にはいくらでも栗が転がっていた。
イガのついた栗は食べにくいが、転がり出た中身もたくさん落ちている。山とは違い丸々と太った美味しい栗。鹿の親子は夢中になって栗を食べていたが、その美味しさのせいか、気づくのが遅れた。
栗の木の枝をかき分けた先に、人間がいた。
しかも目が合った。
本来ならすぐに逃げるべきところ。
だが、その人間は持っていたのだ。
イガから取り出された、大粒の栗が詰まったバケツ。
ごくりとのどが鳴る。人間はバケツを抱きしめた。
「だ、だめだよ、これはわたしが拾った栗だから!」
じりじりと近づく。その分人間も後ずさる。
妙な緊張感が漂い始めたそのとき、
ドドドドッと地響きが聞こえてきた。
――
あんたたちっ!勝手にこんなとこに入ってっ!
危ないからダメだっていってあったでしょうっ!
母ちゃん!ごめんってば!
わーっ!帰る!帰るから!
いやーっ!怒らないで!
先客の猪親子がまとめて走ってきた。
驚いた人間はバケツを放って逃げていく。
散らばる栗。
帰ると言っていたのに栗に飛びつくうり坊たち。
それを見た子鹿まで、母鹿の制止を振り切って駆け出してしまう。
まったく、あの子ったら。
そう思いながらも、母鹿も地面に散らばった大粒の栗から目を離せなかった。
あと少しだけ。ほんの一つだけなら……。
あんたたちっ!いい加減にしなさいっ!!
そこへ轟く母猪の一喝。これには全員がびくりと固まり、その後大きな母猪に追い立てられて、揃って一目散に山へ逃げ帰ることとなった。
――
後日、楽園の柵は強化され、うり坊たちでも潜り抜けられないようになってしまった。
母猪は一安心。母鹿は反省。
安易に人間の領域に入り込めば、いつ危険な目に遭うか分からない。
今回は何もなかったからいいが、改めて子供たちにも言い聞かせねば。
ただ、母鹿は思う。
私も初めて入ったけれど、あそこでは、本当に美味しい栗がいくらでも食べられた。
楽園というのは、本当だったのだなと。
【その三 鈍臭タヌキ、名を改める】
(大成功だよ!やったねタヌキ!)
(お見事です。あなたに頼んで良かった)
(や、やりましたぁ!ご案内できましたぁ!)
――
ウフフ、ウフフフ。
あんなことが、あたしにできたなんて。
今でも思い出す、あの日のこと。
あたしはあの人たちを無事に案内したのです。
その後は長老様にも褒めていただいて、木霊さんたちにも『すごいね』とお声がけいただき、我がタヌキ生で最高の時間でした。
栄光の余韻に浸って、仲間たちにもいっぱい自慢しました。
……しましたけど。
まさか、こうなるなんて。
(大タヌキ様、どんぐりが足りません)
(大タヌキ様、うちの巣が雨漏りしてます)
(大タヌキ様、大タヌキ様!)
どんぐりなら、東の尾根の先にまだあります!
雨宿りはしばらくあたしの巣でどうぞ!
あとはなんですか!みなさん順番で!
なぜかみなさん、大きいだけで修行中のあたしのことを頼ってくださる。
でも、ちょっと、だいぶ大変。
――
皆さんの要望や希望を伺って過ごして、ときどきは木霊さんにも相談したり。
そんなある日に知りました。
(なんで大タヌキって呼ばれるか?)
(だって、あんたやるじゃん!)
(案内ゲームの勝者だからね!)
へっ?大きいからじゃないのです?
(違うんじゃない?)
(頼りになるから?)
そうなのです?
う、う、嬉しい!
(違うなら訂正しとくね)
(じゃあ、修行中だし)
(新しい名前は……)
えっ?
――
それからしばらく後、この山には時折、迷い人を案内する狸のようなもののけが現れるとの噂が立った。
そのもののけは、どれほど頼られるようになっても決して偉ぶらず、逆に大仰な呼び名をつけられることを嫌ったという。精進を重ねる心を忘れぬその姿勢から、後には
『見習いタヌキ』
の名で、鎮守として祀られることとなり、今も親しまれている。
しかし、何の見習いなのか、もしくはタヌキの見習いなのか。
その点は、資料不足により不明である。




