芸術とスポーツと食欲と辻褄合わせの秋
「早苗ちゃん!今週末から連休だよ!栗拾い楽しみだね!」
会社のお昼休み。いつものように二人でランチの最中、佐伯が話題にしたのは週末に迫った九月の大型連休、いわゆるシルバーウィークのこと。今年は土曜、日曜とうまくつながり、佐伯と水上はなんと五連休の予定だ。
「えぇ、でもハイキングの他にも、まだ計画はありましたよね?」
そう、佐伯と水上が実行中の『どんとこい!秋計画』だが、実は座敷童子と目目連がこっそり書き足した美術展や、家鳴たち希望のゲームなど、まだやりたいことはいっぱいだ。
「じゃあさ、五連休の計画を立てようよ!『どんとこい!秋計画 ~五連休完全制覇編~』!美術展もゲームもハイキングも栗拾いも全部達成しちゃおう!」
「先輩またそうやって一度に全部詰め込もうとして。でも、計画を立てるのには賛成です」
そんな話をしているうちにお昼休みも終わりの時間。この続きは終業後ということに。その後、二人はつつがなく仕事を終え、佐伯の部屋へ移動した。
「それでは、第二回『どんとこい!秋計画会議~五連休完全制覇編~』を開催します!」
テーブルの上には例のルーズリーフ。 その横には水上が用意したカレンダーと付箋。 さらに佐伯がどこかから引っ張り出してきた色ペン一式。
「まず、日程を決める前に各イベントの確認をしよう!」
「そうですね。じゃあハイキングですけど、行き先も決まってますし、日程さえ決まれば観光農園の予約も問題なさそうです」
「いいね!目玉イベントだし、これは最終日かな?」
「いえ、日曜日の筋肉痛を思い出してください先輩。ここは教訓を生かして、最終日以外の日にしましょう。翌日の休養日はセットにしてください」
「筋肉痛対策?いるかな?」
「絶対に必要です。マストです」
(それと、熊対策だけはしっかりね)
すねこすりは未だに熊が気になるらしい。だが、とりあえずハイキングは問題なさそうだ。
ここで梁が、ぴし、と鳴る。
(ゲームは?)
(耐久!)
(完全クリア!)
「では次のイベントは……あれ?新作完全クリア耐久ってこれ何のゲームのこと?」
「え?書いたの先輩じゃないんですか?」
「早苗ちゃんかと思ってた」
二人は顔を見合わせる。
梁が黙る。
思惑どおりゲームの話題になったものの、どうも雲行きがあやしい。
(詰めが甘いのよ、これは却下かしら?)
(えっ?)
(うそっ?)
(やだっ!)
座敷童子の言葉に動揺する家鳴たち。この連休は、他の予定やイベントに押し流されてゲームはできないのか?
「ん~、まぁ、それはどっちでもいいや!じゃあゲームはこれから選ぶとして、丸一日ゲームっていうのもいいよね!」
「そうですね、eスポーツの秋っていうのも現代的でいいかもしれないです」
佐伯のポジティブかつ大雑把な性格のおかげでゲームの日も一日確保され、ほっと胸をなでおろす家鳴たちであった。
「じゃあ次のイベント……に行く前に!大事なこと忘れてたよ早苗ちゃん!」
「え?なんですか?何かありましたっけ?」
突然騒ぎ出す佐伯に戸惑う水上。一体どうしたのだろう?
「早苗ちゃん!栗だよ栗!ハイキングでは栗拾いもします!したがってハイキングのあとに栗ご飯の日が必要です!」
「あぁ!そういうことですか。わかりました。ではイベントを一つ追加しましょう」
「ふぅ、あぶない。せっかく採った栗を味わえなかったら意味がないもんね!ついでに他にも美味しいものをそろえてまたパーティーにしよう!」
どうも食べることに関しては抜け目のない佐伯。食欲の秋は既に十分堪能したはずだが、まぁ、何度味わっても悪いことはない。
「ハロウィンは来月だから五連休からは外して……そうすると最後は美術展だね!これも丸一日あれば大丈夫かな?」
「いえいえ、先輩。せっかく美術展に行くなら、何も知らずに行くよりも予習をしてからの方が絶対に充実します。前日をその日にあてましょう!」
これは座敷童子と目目連が書き足した候補だが、もともと水上も興味があったらしくその点は問題なかった。ただ、前のめりな水上に今度は佐伯が若干困惑気味である。
「えっと......早苗ちゃん?予習って何すればいいの?」
「それは何を観にいくかによりますが、絵を観にいくならジャンルの歴史と時代背景を押さえて、メインとなる画家についても調べておくといいですね。そういった予備知識があるとないとでは……」
「おっと!わかった!わかったよ早苗ちゃん!そしたら悪いけど、何を観にいくかと予習の内容についてはお任せしてもいい?わたしよくわかんないから」
「もちろんですよ先輩!じゃあ、前日からお泊まりさせてもらって予習して、美術展は朝からゆっくり夕方まで楽しみましょう!」
(ありがたいけど、思ってた以上の熱量だったのよ……)
(何の展示を選ぶのか、予習内容も含めて、わたくしも楽しみです)
これで五連休中にやりたいことは出揃った。あとは日程をどう組むかである。だがここで気が付く佐伯と水上。
「ん?これって、一日足りなくない?」
「あれ?そうか、栗ご飯の日を追加したからですかね」
「えーっ!でも絶対いるよ!?栗ご飯食べたいよ!?」
「じゃあ、ゲームの日をキャンセルします?」
「うぐぐっ、それも嫌だっ……」
「それと、忘れてましたけど大掃除もするんでしたっけ?確か?」
なんということだ。五日もある連休をフルに使っても二人にはまだ足りないらしい。さらに大掃除まで追加となり、『どんとこい!秋計画~五連休完全制覇編~』は早くも暗礁に乗り上げる気配を見せ始めた。
ーー
「栗ご飯は譲らないよ!」
「美術展の予習も削れませんからね」
(あぁ、もう、喧嘩しないのよ)
予定の選別でヒートアップする二人に、座敷童子がおろおろしている。
(ゲームはいつでも出来るよね)
(おい!)
(やめてよ!)
(ゲームの日はいる!絶対!)
すねこすりの不用意な発言に噛み付く家鳴たち。
(なんだか混沌としてきました。わたくしはどうしたら)
手のない目目連もお手上げの様子。
二人と憑き物たちが、それぞれに睨み合ったり頭を抱えたりしていると、ふいに窓の外からため息まじりの声が聞こえてきた。
(まったくあなたたちは、一体何をしているのですか)
水上がいる時は気をつかって姿を現さないようにしている白沢だが、珍しく険悪な空気をはらみ出した佐伯の部屋の様子に、仕方なく声をかけたらしい。
(遊びの予定で揉めるなど、それで楽しみが減っては本末転倒でしょうに)
(出たわね白沢。じゃあどうすればいいのよ?)
座敷童子の問いかけに、予定のリストとカレンダーを一瞥した白沢がこともなさげに返す。
(ハイキングの翌日をゲームか美術展の予習にあてなさい。それと、栗ご飯はいつの夕飯でもいいのでは?)
はっとした目目連がカレンダーを見直し、座敷童子が予定のリストを確認する。
(いけます!これなら全予定が消化できます!まず一日目は……)
目目連が予定を組み始め、それを聞いた座敷童子がペンをとる。
(付箋に予定を書いて、バレないようにカレンダーに雑に貼って……出来たのよ!)
ぐぬぬと顔を突き合わせている佐伯と水上。その間のテーブルで、ペンや付箋が不自然に動く。それがひと段落したところで家鳴たちがカタカタと揺らす。気付いた二人が目を落とすと、いつの間にかカレンダーの上に付箋がペタペタと不規則に貼られ、それがよく見ると理想的な予定になっていた。
一日目:ハイキング
二日目:休養+ゲームの日
三日目:美術展の予習+栗の下ごしらえ
四日目:美術展+パーティー
五日目:大掃除
「おぉ?これなら全部できちゃう?」
さすがに違和感を覚えた水上が部屋を見回すが、そういえばここは佐伯の部屋だったと納得した。
「なるほど、これなら無理はなさそうです」
「でも、早苗ちゃんうちに三泊になっちゃう。いいの?」
「え?三泊どころか、連休中はずっとお世話になるつもりでした。ご迷惑ですか?」
「ご迷惑じゃない!いいの!?やったー!」
先程まで睨み合いをしていたとは思えないほど仲の良い二人。あれはただの戯れ合いだったらしい。
(良かったのよ、いつも通りの二人なのよ)
(さすが白沢様です。わたくし感服しました)
(ゲームの日!)
(無事に!)
(確保完了!)
(よし、あとは熊対策だけだね)
憑き物たちも笑顔に戻った。やれやれと首を振る白沢も、ほっと安堵の表情である。
(しかし、この部屋に警戒も緊張も必要なくなったせいか、早苗さんはわたしたちのことも気にしていないようですね)
(確かにそうね。あまり露骨でなければ大丈夫みたいなのよ)
(それならわたしも、時々ならお邪魔できそうです)
(前にも言ったけどここは生活圏なのよ。神獣クラスが頻繁に顔を出すなんて……と言いたいところだけど、今回は助かったのよ。まぁ、たまにならいいわ)
(ふふ、お役に立てて何よりです)
こうして常駐ではないものの、今後は白沢も顔を出しやすくなった。
さぁ、週末からの五連休。『どんとこい!秋計画』はうまく運ぶのか。実に楽しみである。




