一人暮らしと座敷童子
今回の入居者は、少し変わっていた。
引っ越してきて最初に整えたのが、キッチンでもなく。ドレッサーでもなく。寝室でもない。
ゲーム環境だった。
モニター。ゲーム機。スピーカー。配線は完璧。ケーブルは美しくまとめられている。
当然、オンライン環境もばっちりだ。
座敷童子は、そっと腕を組んだ。
(……優先順位がおかしいのよ!)
座敷童子は家に憑く。居心地が悪ければ、居続けられない。部屋が荒れれば、力も落ちる。
せっかく若い娘がやってきたのだ、女同士、気が合うようなら少しは幸運をくれてやろうかと思っていた。
……なのに。
梁の奥では家鳴がはしゃいでいる。
ぴし。ぱき。
(そこ!今のコンボ良かった!)
(怪異の矜持はどうしたのよ!)
ため息。
ーー
今回の入居者は家事が下手くそ。
自炊はしない。冷蔵庫の中は飲み物ばかり。朝は洗濯機の前で大騒ぎ。
「なんで水出ないの!壊れた⁈」
壊れてなどいない。蛇口を開けていないだけ。仕方なく、こっそりひねってやる。水が流れる。
「あ!直った!すご!」
ゲーム機にはあれほど詳しいのに、他はまるでポンコツ。
食事はお惣菜やお弁当ばかり。段ボールはまだ隅に積まれている。
でも。なぜか楽しそう。
「なんだかこの部屋快適〜。ここにして良かった〜」
座敷童子は、顎を上げる。このわたしがいるのだもの。当然よ。
ーー
ただ。不思議なこともある。
あの娘は、掃除だけは丁寧。部屋は雑然としたままなのに、でも、綺麗。
「片付けは進まないけど、お部屋は大事にしないとね。埃は駆逐だ!」
……わかってるじゃない。
床を拭く。棚を拭く。窓も拭く。埃が消えるたびに、部屋の空気が澄む。座敷童子は、少しだけ居心地が良くなる。
ーー
しかし、何事にも限度というものはある。
ある日、どうしても我慢ならなくなった。気になりすぎる。
(なんなのよ、あの山積み段ボール!)
気にしないようにしてたが、"片…付けて…お願い…"と声が聞こえてくる気がする。怪異でもないのに。
(ええい!なるようになるのよ!)
開ける。畳む。収納する。整える。整列。
勢いで手をつけて、流れのまま加減を忘れ、気が付くころにはすべて片付いていた。
やり切った。完璧。
だがさすがに気づく。やりすぎたかもしれない。
ーー
帰宅した娘は、部屋に入ると一瞬足を止めた。
開封されずに積まれたままだった段ボール、出しっぱなしの生活用品、雑然とおかれたままになっていた諸々がすっきり無くなっている。
それどころか、たたまれた段ボールはきっちりとまとめられているうえ、不用品まで整理されていた。
「あれ?片付いてる!」
きょろきょろと部屋を見渡し、クローゼットを開けて整理された荷物を確認し……
「やるじゃん、わたし!」
まさかのセリフを言い放った。なんなら胸を張ってすらいる。
座敷童子は、固まった。
(……あなた、どこをどう見て自分の手柄にしているの)
でも。嬉しそう。
部屋を見回して、にこにこしている。
「やっぱりここ好き〜」
座敷童子は小さく息を吐いた。もういいわ。仕方がない。
この部屋は、わたしの縄張り。
そしてあの娘は――同居人としては、まぁ、ギリギリ及第点。
手間はかかるけれど。居心地のいい部屋は、わたしが維持してやるのよ。
梁の奥で家鳴が笑った。
ーー
静かな夜。部屋の空気がやわらぐ。
彼女は知らない。快適さの理由を。
なぜ段ボールが減ったのか、誰が蛇口がひねってくれたのか。
でもきっと。明日もこの部屋で、
「なんか快適〜」
と笑うだろう。
それでいい。座敷童子は、笑うに笑えない。けれど。少しだけ、誇らしい。




