表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一人暮らしにつきものの憑き物  作者: ぴよ
第一部 一人暮らしと憑き物

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/30

一人暮らしと家鳴

ほんの数年前。

そう、彼女がこの部屋に引っ越してきた日のこと。


その頃、家鳴たちはまだただの音だった。


ぴし。ぱき。ぎし。

入居者を怖がらせるのが役目。

夜中に梁を鳴らし、風もないのに壁を軋ませる。


今回の入居者は若い女。

一人暮らし。

絶好の相手。


(いくぞ)

(よし)

(今!)

……ぴし。

一人きりの部屋に、小さく音が入り込む。


――無反応。

黙々と段ボールを開けている。


……ぱき。

続けて微かに鳴る音。


――無反応。

真剣にモニターを組み立てている。


ぎし。

割とはっきり音を立ててみる。


――無反応。

「うーん、このネジどこだっけ」

説明書と格闘している。


怖がらない。一度も。


「配線はOK、回線も繋いだ……、あとはそれから……」

小さな声で何かをいいながら、粛々と作業は続いていく。


どうやらいつもとは勝手が違うらしい。

だが、まだ、これからだ。


ーー


夜。


部屋が暗くなる。

機械や配線いじりも終わったらしく、入居者の娘もリビングにいる。

(さぁ、ここからが本番だぞ。)

家鳴たちは梁を震わせるべく気合いを入れた。


ぎしっ。

不気味に、重々しく梁が鳴る。

どうだ、びっくりしたか、怖いだろう。


だが、その瞬間。モニターが光った。

娘の視線は画面にくぎ付け。

鮮やかな画面。タイトルロゴ。オープニングテーマ。音楽が部屋に満ちる。

家鳴もまた、一瞬、鳴るのを忘れた。


そして。ゲームが始まる。

バシュッ。

ドッ。

シャララ。

ザッ。

スタッ。


音が、弾ける。


攻撃。防御。魔法。走る音。跳ぶ音。着地の音。

多彩で、リアルで、すべてが、はっきりしている。

しかも、音の向こうには冒険がある。緊張がある。達成がある。


家鳴たちは、目的を忘れて梁の奥からモニターを見つめた。

(……すごい)


自分たちは、ただ鳴らすだけ。

意味もなく、理由もなく。怖がらせる、それだけ。

でもこれは違う。


音が、物語になっている。


その夜。梁は鳴らなかった。代わりに。モニターの裏で、家鳴たちが感動に身を震わせていた。


ーー


翌日。


彼女が出かけると、家鳴たちはこっそり居間に鎮座する大きなモニターに近づいた。

コントローラーをつつく。テレビ台を震わせる。スピーカーに触れる。


ゲーム機のボタンに触れてみる。微弱な振動と共に、


(……!)


画面がついた。

家鳴は、梁や天井を鳴らすことしかできない。でも。もしかしたら。これなら、自分たちでも、この世界の音を鳴らせるのではないか?


ぴ。


決定音。

(……できた)

それが始まりだった。


ーー


佐伯は不思議に思っていた。

引っ越し直後、誰もいない部屋で音がすることがあった。

びっくりして飲みかけのコーヒーをこぼしたこともある。

なぜか、最近、それが気にならなくなった。


最近、気付いたことがある。

自宅でのゲーム中、時折リプレイボタンが勝手に押されることに。

ロード時間がなぜか短いことに。

絶妙なタイミングでスキルが出ることに。


何かが、これまでと違う。

でも彼女は思う。

「今日、調子いいな」


家鳴たちは梁の奥で笑う。

もう怖がらせるつもりはない。

怖がらせるより、一緒に冒険する方が面白い。

だから今夜も。


ぴし。それは、催促の音。

(続き、続き)


彼女は知らない。


自分がこの部屋で新しい生活を選んだ日、同じく、自分の生き方を選び直したものたちがいることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ