秋の味覚食べ尽くしパーティー
シンクの横には秋茄子、舞茸、玉ねぎ、栗かぼちゃ、そしておまけでもらったむかご。魚屋で受け取ってきた秋鮭や戻り鰹は冷蔵庫に収まり、きれいな焼き目のついた秋刀魚も、あとでグリルで温めなおされるのを待っている。
「とりあえずお野菜を洗って、できれば切るところまで頑張ろう!」
ただいま、キッチンでは佐伯が買い込んだ野菜たちを洗っている。水上は先にシャワーを借りて汗を流しているが、戻ってきたら、あとの調理を引き継いでくれるらしい。
野菜たちをきれいに洗い終わり、次は包丁の出番。色よく張りのある秋茄子はヘタを取り縦に割る。ホイル焼き用に玉ねぎを切り、舞茸を手で割くとふわっと秋らしい香りが立った。
「うっ……か、固い!でも負けないっ!」
栗かぼちゃには少し苦戦したが、なんとか半分に切り、食べる分だけを一センチほどの薄切りに。
まな板の上で包丁が小気味よく鳴り、ボウルに落ちる野菜が軽い音を立てる。
本来ならもう少し時間がかかりそうなところだが、佐伯の影で奮闘する座敷童子のおかげで、あっという間に下ごしらえは進んでいく。野菜たちは、あとは焼くなり、蒸すなり、茹でるなり。すっかり調理の出番を待つばかりとなった。
「あれ?おお!わたしったら手際がいい!」
(毎度のことだけど、よく自分の手柄にできるわね?)
(そう言いながら……)
(毎回、結局……)
(手を出しちゃうんだからなぁ)
座敷童子の愚痴に家鳴たちがつぶやくが、
(今日はいいのよ。ご褒美だもの)
都合がいいのはどちらだか。言い訳をしつつも手を止めない座敷童子。そこへ、佐伯に気を遣ったのか、思ったより早くシャワーを終えた水上が戻ってきた。
「先輩、シャワーありがとうございました。次どうぞ、料理は交代しますよ」
「早苗ちゃんありがとう。でもちゃんとドライヤーで髪を乾かしてからでいいよ!風邪ひいちゃう!」
洗面所に戻された水上が濡れ髪にドライヤーをあてる音が聞こえ始めると、座敷童子の手伝いはさらに加速した。
(だったら、秋茄子は焼き浸しにできるように、今のうちにお出汁も引くのよ)
(ちょっと……もうその辺にしておきなよね)
(これはもう性格ですね。わたくし、見守ることにいたします)
すねこすりと目目連にまで言われ肩をすくめる座敷童子。出汁のよい香りを満足げに確かめたところで、ようやく手を止めたのだった。
――
「それじゃ今度はわたしがシャワー!早苗ちゃん、お料理任せちゃってごめんね。でも期待してる!あとはよろしく!」
パタパタと浴室へ消える佐伯を見送り、今度こそ水上がキッチンに立った。
「下ごしらえはほとんど済んでますね。それじゃあとは腕によりをかけて……あれ、むかご?」
よく見ると八百屋さんでおまけにもらったむかごが手つかずで残っていた。水上にとっても初めて扱う食材だが、これはどう調理したらいいものか。
「たしか、八百屋さんは『きれいに洗って塩ゆでしたらいいつまみになるよ』って言ってましたね」
それなら簡単にできそうだ。念のためスマホでもレシピを確認していざ料理スタート。
まずはむかごの下処理から。ざるを使って丁寧に洗い、アク取りのためにしばらく水にさらしておく。続いて、秋茄子と栗かぼちゃを調理していく。佐伯が切っておいてくれた秋茄子と栗かぼちゃをフライパンでじっくりと焼き上げ、焼き目がついた秋茄子は出汁に浸し、栗かぼちゃには軽く塩を振った。
フライパンを片付けると、アクを取り終わったむかごをいったんざるに上げ、いよいよ鍋に水を張り、塩を入れて茹でていく。
「もういいかな?茹で加減は……えいっ、味見しちゃえ」
柔らかくなったむかごを口に入れると、ホクホクとした食感がたまらない。
「んーっ!美味しい!」
「さっぱりした~。あっ!早苗ちゃんずるい!」
ちょうどシャワーを終え、髪も乾かして戻ってきた佐伯に見つかってしまったが、水上は笑いながら、佐伯の口にも一つ放り込んでやる。
「ふわっ!むぐむぐ、美味しい!」
「これでおあいこですね。それじゃ、あとはホイル焼きを仕上げて、秋刀魚も温めたら完成です」
「やった!よしっ、じゃああとは一緒にちゃちゃっとやっちゃおう!」
ここからは二人で並んでお料理の時間。広げたホイルに玉ねぎ、舞茸、秋鮭、バターを載せてきれいに包んだらオーブントースターへ。魚屋さんで香ばしく焼いてもらった秋刀魚もグリルで軽く温める。しばらくすると、溶けたバターと焼けた舞茸の豊かな香りが部屋いっぱいに広がり、グリルでは秋刀魚の脂がじゅうっと音を立てる。
「んーっ!たまんない!わたしテーブルにお刺身とお酒出してくる!」
「お願いします。それじゃわたしは残りのお料理の盛り付けしておきますね」
さぁ、いよいよパーティーの始まりである。
――
いくつもの秋の味覚が並び、贅沢に整ったパーティーのテーブル。ホイル焼きにした秋鮭の赤、栗かぼちゃの黄色、出汁に浸かった秋茄子の紫。味わう前から目にも楽しい、秋色の食卓である。
さあ、いただこうかというところで、佐伯が何やら得意げにキッチンから戻ってきた。
「じゃじゃーん!早苗ちゃんこれ見て!」
「なんですか?あっ、徳利とお猪口!どうしたんですか、それ?」
「えへへ、買っちゃったー。でもこれ、どれも一個100円なの!」
先月のおでんパーティーでは湯呑みやコップでお酒をいただいたが、実はその時、ちょっとだけ物足りなさを感じていた佐伯。
そんなとき、会社帰りにたまたま寄った100円ショップで食器コーナーを見かけ、そこでいかにもな徳利とお猪口を見つけたのだ。
「へぇ、100円でも十分雰囲気ありますね」
「でしょ!じゃあこれに酒屋さんで買ったこの『ひやおろし』を……」
よく冷えた四合瓶から徳利へ酒を移し、今度は徳利からお互いのお猪口へ酒を注ぐ。
「それじゃ!秋の味覚食べ尽くしパーティー、無事の開催を祝して……」
「「かんぱーい!!」」
まずはひやおろしを一口。
「あ、美味しい!」
「すごく飲みやすいですね」
「まろやかで、ふわっと甘い〜」
「本当に。角がないってこういうことなんですね」
ゆっくり酒を味わってから、二人はおもむろに戻り鰹の刺身を一口。そしてまたひやおろしを一口。
「これかーっ!」
「確かに美味しい!口の中が秋です!」
酒屋さんに教えてもらったとおり、肴を一口、酒を一口。ひやおろしと秋の味覚の相性のよさに感動する二人。
(わたくし、口もないのに味見したくなってしまいます)
(季節を味わうなんて、風流なのよ)
(秋刀魚と鮭ときのこと……あとバターも、いい匂いがいっぱいだぁ〜)
(むかごって?)
(豆かな?)
(お芋?)
すねこすりは部屋を満たす秋の匂いにうっとり。家鳴はむかごの正体が気になるらしい。
(お料理は少しずつ取り分けてあるから、今日はわたしたちもささやかにパーティーなのよ)
座敷童子のおかげで憑き物たちもパーティーに参加できるらしい。すねこすりと家鳴たちは大喜びである。
パーティーは最高のスタートを切ったようだ。
――
「早苗ちゃん!秋茄子の焼き浸しとっても美味しい!」
「栗かぼちゃもほくほくで、甘くて美味しいです」
あれを一口、これを一口。合間にお猪口でひやおろしをきゅっと一口。
「秋鮭と舞茸の香りが鼻に抜けてくぅ〜」
「両方の旨味を吸った玉ねぎとバターの甘さも最高ですね」
「早苗ちゃん、この秋刀魚味が濃厚だよ!」
「その脂をひやおろしがさっぱりと流してくれるのもたまらないです」
商店街で集めた秋の味覚たちは、二人の期待を大きく上回る美味しさだ。
ランチやカフェ、ウインドウショッピングに川沿いの遊歩道。商店街でのやり取りなど今日一日を振り返りながら、パーティーの時間は進んでいく。
「今日も一日ずっと楽しかったね!」
「そうですね。わたし思ったんですけど、今日のMVPは新しいトレッキングシューズじゃないですか?」
「あ、本当だ!これは今度のハイキングも期待できちゃうね!」
食べつつ、飲みつつ、話しつつ。楽しく美味しく過ごしているうちに、あれだけあった料理もあとわずかとなってきた頃、
「あれ?あっ!早苗ちゃん!ひやおろしの香りが!」
「えっ?あ、少し濃いというか、深いというか?」
パーティー中にわずかに温度の上がったひやおろし。これが『香りが立つ』ということなのだろうか。
「ここはもう一度!」
「そうですね!それじゃ!」
まずはひやおろしを一口。ゆっくりと香りを楽しんだら、戻り鰹のお刺身を一口。そして再びお猪口を傾ける。
「んー!最高!」
「本当に美味しい!」
「これはもう、秋の味覚食べ尽くしパーティーは?」
「はい!文句なく大成功です!」
(良かったわね。いいパーティーになったのよ)
(秋、美味しかった〜)
(むかごって……)
(結局……)
(豆なの?お芋なの?)
(それでは最後にわたくしから。本日の総摂取カロリーは……)
(ちょっと目目連。そういうのを無粋っていうのよ。今日はもう数字は忘れなさい)
酔いもまわって上機嫌の二人は、ハイタッチなどして満面の笑顔。その影では憑き物たちもマイペースながら楽しんだようだ。
ちょっぴり足りなかった歩数も、ゼロにはならないカロリーも、今日は全部無かったことでいいだろう。
実に良い秋の休日であった。




