秋の商店街と大買い出しツアー
「先輩、まずはどこから行きますか?どこのお店も旬の食材を前面に押し出して、のぼりまで立ててますよ」
「いいねいいね!今日は美味しいものいっぱいの予感だよ!ここはまずメインを決めにお魚屋さんから行こう!」
(秋といえば秋刀魚かしら?)
(そうなると大根おろしが欲しいですね。はっ!大根!?)
(そうだったのよ!でも、大根もさすがにおろしたら黙るんじゃないかしら?)
憑き物たちの夏のトラウマはさておき、まずは旬の魚を見に行こう。
「へい、いらっしゃい!この時期は美味い魚が目白押しだよ!お?佐伯さんか、今日もおでん?」
「違うよ!今日は秋の味覚食べ尽くしパーティーなの」
「先輩、いまだにおでんの印象が拭えてないみたいですよ?」
「あっはっは、冗談冗談。それで秋の味覚だっけ?なら一押しはやっぱり秋刀魚かな。でも、今日は脂の乗った戻り鰹も入ってるよ。鮭もいい時期だし、きのこと合わせてホイル焼きなんか最高だよ!」
「うわぁん、美味しそう!全部食べたい!」
「先輩、全部は無理です……とは思うけど、確かにどれも魅力的ですね」
うんうんと唸って悩む二人に魚屋のお兄さんがあっさりと言う。
「別に悩まなくとも全部食べたらいいよ。パーティーなんだろ?焼き秋刀魚一尾、戻り鰹の刺身二人前なら用意しとくから、あとで取りに来なよ。秋鮭だけは帰ってから野菜と一緒にホイル焼きにしたら?」
「やった!それでお願いします!」
「ありがとうございます!それじゃ後でまた来ますね」
なんと魚だけで三種類という贅沢さ。今夜のパーティーは盛り上がりそうだ。
――
「次は八百屋さんだね!」
「秋が旬のお野菜というと、茄子にかぼちゃ……あとは何が出てますかね」
「もう、行って聞いちゃおう!」
今夜のメインが決まって意気揚々と魚屋を後にした二人。次は秋刀魚や鮭に負けない旬の野菜である。
「いらっしゃい!今日は二人で買い物かい?」
「そうなの!秋の味覚食べ尽くしパーティーだよ!お魚屋さんに焼き秋刀魚と鰹のお刺身、頼んじゃった!鮭はホイル焼きにするんだ!」
「そりゃ豪勢だ。鮭のホイル焼きなら舞茸に玉ねぎも入れると美味いな」
「あっ、舞茸!それいい!」
「あとはやっぱり秋茄子。それから栗かぼちゃなんかも、甘いから焼くだけでもご馳走だよ」
「先輩、食卓がどんどん秋色になりますね」
「それと、秋刀魚には大根おろしが欲しいところだが……」
(ダアァァァ……イイィィィ……)
八百屋の言葉に反応し、店先に並べられた大根の中から不気味な声が響き始める。
(むっ、とうとう来たわね……)
(秋刀魚には大根おろし、確かにっ……しかしっ)
「魚屋に焼き秋刀魚と刺身を頼んだんなら、大根おろしと刺身のツマも一緒に用意してくれるだろ」
(コオォォ……ン?)
(今回は難を逃れたみたいなのよ)
(わたくし、ほっとしました)
「じゃあ、大根以外の秋のお野菜ください!」
「ちょっと先輩、そんな雑な頼み方はダメですよ」
「いいよいいよ。じゃあ秋茄子、舞茸、栗かぼちゃに玉ねぎっと。あとこれおまけのむかごね。きれいに洗って塩ゆでしたらいいつまみになるよ」
「やった!八百屋さんありがとう!」
「毎度あり!そうだ、パーティーなら酒屋さんにも寄っていきなよ。きっと社長が待ってるぜ」
八百屋さんでもよい買い物ができた二人。大根を回避し、メニューも無難なところに落ち着いて憑き物たちも胸をなでおろしている。さぁ、最後は八百屋さんのアドバイスに従って酒屋さんへ向かおう。
――
「おっ、きたきた。待ってたよ佐伯さん」
「本当に待っててくれた!?なんで今日来るってわかったの?」
「ちょっと先輩、失礼ですよ。社長さんお世話になります」
「あはは、いいんだよ水上さん。実は金物屋さんから聞いてさ、きっと来ると思ってたんだよ。今夜は秋の味覚でパーティーだって?」
(商店街のネットワーク、侮れないのよ)
(こういうのが昔ながらの良さというんでしょうか。わたくし、ほっこりいたします)
「そう!秋刀魚に鰹に鮭でしょ、それから茄子とかぼちゃと……あ!むかごもあるんだった!」
「おぉ、そりゃ本当に旬の美味いものオンパレードだ。だったら今夜のお供はこいつだな」
そう言って社長さんが冷蔵庫から取り出したのは日本酒の瓶。
「酒にも季節があってな?これは『ひやおろし』って言うんだ」
「ひや……おろし?」
「聞いたことはありますけど、飲んだことはないです」
「春に搾った酒をひと夏寝かせて、ちょうど飲み頃になった秋だけの酒さ。角が取れて丸くまろやかになって、秋刀魚にも戻り鰹にもよく合う」
さすが酒屋さん、そして商店街。なんとお酒にまで秋の味覚があるとは。勧めてもらわなければ出会えなかったであろう一品に、佐伯と水上は興味津々だ。
「おぉ……秋限定だ!」
「これは気になりますね……」
「肴を一口、ひやおろしを一口……もうこれだけで秋ってもんだよ」
「一本下さい!」
「毎度あり。こいつはもう十分冷えてるから、最初は冷たいまま、あとは少しぬるくなって香りが立ってくるのも試してみるといい。今夜はご馳走だな」
――
魚屋、八百屋、酒屋と巡り、最後に再び魚屋へ。秋の味覚を目いっぱい抱えた二人は、ようやく佐伯の部屋へ帰ってきた。
(まぁ、少し多めだけど常識の範囲なのよ)
(今回はおかしな食材も混ざっていませんし)
座敷童子と目目連が懸念していた佐伯の突発的な発想も、暑苦しい大根との再会も無事に回避できた。それどころか、今日のメニューはなかなか魅力的である。
(おかえりなさーい。わっ、すごい荷物)
帰ってきた二人の足元で買い物袋の匂いを確かめるすねこすり。
(おつかれさん)
(ん?腰になんかついてる?)
(これなんかのゲーム?)
家鳴たちは佐伯の腰の歩数計が気になるらしい。
「いやー、よく歩いた!今日は頑張った!早苗ちゃん汗かいたでしょ?先にシャワー浴びてきなよ。その間にわたしお野菜切っておくからさ。ね?」
「そうですか?ありがとうございます。それじゃ交代でその後の調理は任せてください。ところで先輩?」
「へ?な、何?」
「歩数計、さっきチラッと見てましたよね。結局何歩でしたか?」
「あれ?あぁ、歩数計ね?えっと……」
(足りなかったのね)
(いいところまでいったとは思いますが、おそらく)
「えっと、あの、えーっと……」
腰から外した歩数計をじっと見つめ、もじもじ、もたもた。
「い、いちまん……」
「いちまん?」
しばらく躊躇ってからがっくりと項垂れた佐伯が発表したのは、
「14,767歩……でしたぁぁ」
「あー、あと233歩ですか。惜しかったですね」
「うわぁん、あとちょっとだったのにぃ」
「まぁ、先輩。今日は後半、お買い物した荷物も持ってましたし、おまけして達成ってことでいいんじゃないですか?」
「え?本当!?いいの!やったー!ゼロカロリー達成だー!」
「いや、そもそもそれは……まぁいいです。それじゃあパーティーの準備、頑張りましょう!」
「おーっ!」
(ゼロカロリーって何のこと?)
(気にしないでいいのよ)
(これからまた食べるならカロリー収支はプラ……いえ、二人ともよく歩きました、はい)
(そうね、その通りなのよ。さ、パーティーならちょっとお手伝いしなくちゃ。二人にご褒美なのよ)
よく分かっていないすねこすりをあしらい、最後に失言しかけた目目連を黙らせて、座敷童子は腕まくりをしてキッチンへ向かうのであった。




