秋のスイーツとカフェの歩み
歩数を稼ぎつつ次の目的地であるカフェへやってきた二人。だが、案の定というべきかなんというか、そこで見たのは店の前にずらりと伸びる長蛇の列であった。
「やっぱり飛び込みでの入店は難しいですね。残念ですけどテイクアウトの列に並びましょうか」
わかってはいたがちょっとだけ残念そうな水上。そこに佐伯がドヤ顔でサプライズを投下した。
「ところがどっこい!実は予約をしてあります!早苗ちゃん、今日はちゃんとお店でスイーツだよ!わたしったら出来る女!」
「えっ?先輩!ありがとうございます!実は前から気になってたんです!」
佐伯のおかげでスムーズに入店でき、気になっていた店に初めて足を踏み入れた水上は大興奮。期待に違わず、いわゆる純喫茶の風情を感じさせるレトロな空間は好みのど真ん中であった。
席に通され、オシャレなインテリアを眺めていると、ほどなくして白シャツにカフェベストを合わせた店員がにこやかに注文をとりにやってきた。二人が揃って注文したのは秋限定の『和栗と紫芋のモンブランパフェ』。セットのドリンクに佐伯はお店のオリジナルブレンドコーヒー、水上はほうじ茶ラテを選んだ。
満席の店内から察するに頼んだ品々が届くには少し時間がかかりそうであるが、
(あら、いいセンスね。雰囲気があるのよ)
(暖色の照明も目に優しいです。セピアな灯りとでも言うのでしょうか)
長い年月を渡ってきただろう憑き物たちからも高評価な店内は、眺めているだけでも飽きが来ない。
(ほぅ、なかなか見る目があるではないか)
まさかそこに、こんな声をかけてくるものがいるとは、憑き物たちも思っていなかったが。
――
(今でこそこれほど繁盛しておるが、この店も少し前までは時代に取り残されて長い間寂れておってな。いっときは閑古鳥を放し飼いにしとるような有様であったよ)
(あら、そうなの?でもそれって、言いかえれば長い歴史のあるお店ってことなのよ)
(そうですね。それにわたくし、一度は寂れたお店を復活させたというなら、本当に見事なことだと思います)
(うむ、やはり物がわかっとる。どうだ、少しこっちで話をせんか?連れのお嬢さん方もまだしばらくはここにおるだろう。良ければぱふぇを奢るぞ、どうだ?)
不思議なことに、先程まで大きな花瓶や古い珈琲器具が飾られていたはずのテーブルがいつの間にか片付けられ、そこに現れた席から話しかけてきたのは、古風な仕立てながらしっかりと手入れをされた三つ揃いに身を包み、ピンと跳ね上げた口ひげの両端を指先で整える老紳士であった。
(いいのかしら?それじゃ遠慮なく)
(わたくし、パフェは食べられませんがおしゃべりには参加いたします)
まるでオーナーのような振る舞いのこの老紳士、どうやらこの店に縁のある怪異のようである。店を褒められて機嫌が良いのか、わざわざ椅子を引いて座敷童子に席をすすめてくれた。
(ありがとう。見かけの通り本当に紳士なのね)
(いやいやこれくらいのこと。さぁ、ぱふぇと紅茶も用意した。良ければ味わってみてくれ)
佐伯と水上には悪いが、お先にパフェを堪能する座敷童子。おもてなしのお礼とそれなりの興味もあって話に付き合ってみたところ、なんとこの老紳士、厨房に祀られた三宝荒神様のご加護が姿を成し、創業以来この店を見守り続けてきたかまど神であった。
(このあたりに人が集まって街の体裁が整い始めたころ、洋食屋として開店したのがこの店の始まりでな。おかげでわしもこの通り洋装姿だが、その店はずいぶん長く営業しておったよ。)
(ほほう、もとは洋食屋さんだったのですか。わたくし、そのころのお店も見てみたかったです)
(良い店であったよ。洋食などまだ珍しい時代ではあったが、来た客はみな美味しいと笑顔になって帰ってくれた。しかし店主も年をとって店を閉じることになって、今のような喫茶店になったのはそのあとじゃな。これもまた長年街の人々に愛されて繁盛しておったが......)
(そのあと寂れたって言ってらしたわね)
(うむ、まぁ仕方のないことではあるのだがな。世間というのはその時代ごとに、安さを求めたかと思えば派手さや高級品を持て囃したりと忙しい。それについていけなければ、昔ながらの喫茶店などあっという間に客足が減って開店休業の日々よ)
(もったいないことですねぇ)
(じゃがな、時代は巡るとは本当のことらしい。少し前に洋食屋のひ孫にあたる娘が店を引き継いだのだが、古い趣きを残しつつうまく店を切り盛りしてくれて、今ではこの店の古さが良いと客が来てくれる。ありがたいことよ)
この店が歩んできた歴史、その話をまさにその店内で聞けるとは、なんと贅沢なことか。
(素敵なお話を伺ったうえにパフェまでご馳走になって、わたしったら得のしすぎかしら?)
(いやいや、年寄りに付き合ってもらってこちらこそありがたい。ここは人の客こそ多いが、話のできるお仲間に会うことは珍しくてな。良ければまた遊びに来ておくれ。席なら空けておこう)
思わぬかまど神のもてなしのおかげで、憑き物たちは大変有意義な時間を過ごさせてもらった。
――
かまど神に礼を言って戻ってみると、佐伯と水上もまた幸せなひとときを味わっている最中であった。
「うわぁぁ……!和栗の濃厚な甘みと、紫芋の滑らかな口当たりが絶品……!」
「上の和栗ペーストはもちろん、中の玄米フレークのサクサク感も最高ですね……!」
うっとりとパフェを堪能する二人。秋を濃縮したような一口のあと、合わせて頼んだドリンクがまた最高のマリアージュである。
「コーヒーの苦味が舌に残った甘さを洗い流して……これ無限に食べられちゃう!」
「ほうじ茶ラテの微かな渋味も、この濃厚な甘さにすごくマッチしてます。あぁ、食べ終わりたくない……」
その影の中で目目連は二人の歩数を確認する。
(あぁ、えぇっと、これ発表していいんでしょうか……現在の歩数、およそ四千二百歩)
(残念だけど、食べたカロリーに対して消費カロリーが圧倒的に追いついてないのよ)
(ご、ご安心ください。カロリーの消費効率はともかく、お二人の情緒は著しく安定しております、はい)
憑き物たちによる冷静なデータ分析が影で交わされているとは露知らず、二人はスイーツを存分に楽しみ、大満足でカフェを後にしたのだった。
ーー
「なんて幸せな時間だったんだろう……はぁん」
「パフェも美味しかったですけど、あの素敵なお店の内装に落ち着いた雰囲気……ずっと入ってみたかったんです。先輩、本当にありがとうございます」
「えへへ、サプライズ大成功!今日の計画は順調に進んでるね!それじゃただいまの歩数は……へ?4,253歩?」
「……先輩、目標の三分の一にも届いてませんね」
順調と言ったそばから計画の一部に破綻が見え始めてきたが、それでへこたれる佐伯ではない。
「だ、大丈夫!まだ時間もあるし……そうだ!帰りは商店街まで歩こう!よし、そうしよう!」
「まぁ、元々新しい靴の足慣らしが目的の一つでしたからね」
「よーし、レッツゴー!」
(二人とも元気ね。若いってうらやましいのよ)
(おや、お疲れですか?見た目は誰よりも……いえ、あなただって十分お若いですよ)
(あら、ありがとう。余計なことを言わないって大事なことよ)
甘味の補給も済んで元気な二人はまだまだ歩く。さぁ、次は商店街である。




