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一人暮らしにつきものの憑き物  作者: ぴよ
第五部 秋の風と憑き物

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秋のグルメと歩数計

本日は土曜日、時刻は午前十時二十分を少し過ぎたところ。


「うふふ~、うふっ」


先日、デパートでの買い物の際に話していた通り、佐伯は今日、水上とハイキング前の足慣らしにウォーキングをする約束をしていた。

待ち合わせ時間より早く駅前に到着した佐伯は、何度もしゃがんでは靴紐を結び直し、数歩歩いては戻り、また歩いてみる。下ろしたてのトレッキングシューズに包まれた足を左右交互に眺めては、一人悦に入っていた。


「すみません先輩、お待たせしました」

特に遅れたわけではないが、先に到着していた佐伯を見つけた水上が小走りに駆け寄ってくる。


「あっ、来た!早苗ちゃんちょっと並んで並んで!」

なぜか到着したばかりの水上と横並びに立つ佐伯。


「うふふふ~!お揃い!ねっ!」

同じデザインのトレッキングシューズを履いた足が四本並ぶ。その光景に表情を緩めた佐伯は、満面の笑みで水上を見上げた。


「もう、先輩ったら……。でも、こうして見るとやっぱり可愛いデザインですね」

水上も自分の足元を見つめ、どこか照れくさそうに笑みをこぼした。


「でしょでしょ!それにこの靴、意外と街コーデにも合うよね!わたしはワイドパンツと合わせてみました!早苗ちゃんのロングスカートも可愛い!」

「スニーカーよりちょっと大きめのシルエットですけど、足元が強調されすぎないのがいいですよね。わたしも気に入ってます」


山へ行く前から満足そうな二人であるが、今日はまだ落ち合ったばかり。今日はこれからどんな予定が?


「さあ、可愛い靴が揃ったところで!『どんとこい!秋計画』、本日のミッションは『トレッキングシューズの足慣らし散歩』!そしてメインテーマは……『秋スイーツ巡り&旬の食材・大買い出しツアー』!早苗ちゃん、準備はいい?」

「はい、もちろん。どんとこいですよ」


そう、今日はこれから街歩きはもちろんのこと、同時にランチとスイーツを楽しみ、その後お馴染みの商店街で買い物をして、夜は秋の食材で宴会をしようという計画である。


(ランチにスイーツは楽しみだけど、商店街のお買い物が要注意なのよ。前回のおでんみたいなことは全力で避けるのよ)

(了解です。わたくしもしばらく大根からは距離を取りたいところです)


本日、佐伯の影から二人を見守るのは座敷童子と目目連。今回は大丈夫だと思うが、季節感を無視した夏のおでんの前科をもつ佐伯を監視するために同行してきたのだ。


「街歩きも買い出しも良いですけど……先輩、その腰の歩数計は?」


水上が目ざとく見つけたのは、佐伯の腰につけられたデジタル歩数計であった。


「フフフ、よくぞ聞いてくれました早苗ちゃん!これは本日の『免罪符』です!」


「……免罪符、ですか?」


「そう!……早苗さん、今日は秋のグルメを満喫の予定でしたね?」

「はい」


「しかし同時に!いっぱい歩くことにもなるはずですね!」

「えぇ」


「つまり!『今日はいっぱい歩いてカロリーを消費するから、どんなに秋の味覚を食べても実質ゼロカロリー!』な日なのです!」


「んん?」


「そしてこれは!その主張を押し通すための客観的データ採取装置なのです!」


「なるほど、全く論理的ではない言い分ですね」


水上は呆れたように肩をすくめたが、その口元は可笑しそうに緩んでいる。


「で、その『免罪符』の目標値は?」

「ふふふ、目指せ一万五千歩!これで秋の味覚たちは、どれだけ食べても全部『なかったこと』になるのだ!」

「目標だけは立派ですね。よし、それじゃあ歩数を稼ぐために、少し遠回りして最初の目的地に行きましょうか」

「おー!」


こうして始まった秋の散歩ツアー。ピカピカお揃いのトレッキングシューズたちは、足音も軽く街の中へ踏み出したのだった。


ーー


お互いの足元を褒め合いながら、まず向かったのはパスタランチが人気のイタリアン。二人のお目当ては季節の食材を使った限定メニューである。


「ちょっと早めに来たのにもう満席だ!?」

「わたしたちが第一陣みたいですね」


さすがの人気店。開店前に到着した甲斐あって運よく待たずに席に着いた二人だが、店の外には既に入店待ちの列が出来ている。


(結構な人数なのよ)

(ざっと見たところ……三十分待ちといったところでしょうか)


これは長居をしてはまずいと、二人は早速ランチをオーダー。さほど待たずに運ばれてきたのは、評判どおりに旬の食材がたっぷりと使われた二皿であった。


まず、佐伯の前に季節のきのことベーコンのクリームパスタが。

続いて水上の頼んだ秋鮭とほうれん草のペペロンチーノがテーブルに並ぶ。


「秋と言えばきのこクリーム!でも早苗ちゃんの秋鮭も美味しそう……」

「先輩、シェアしましょう。わたしもきのこクリーム食べたいです」


(シェア!仲良しだからこそできる女子ランチの醍醐味なのよ!)

(そういうものですか?ちなみに両メニューのカロリーは……いえ、なんでもありません)


少々忙しなくもあったが、期待通りの美味しさ、かつテーマ通りの秋らしいランチは二人のお腹も気分も十分に満たしてくれたようだ。

カロリーについては……まぁ、目目連にならって触れるのは避けておこう。


「美味しかったー!大満足!」

「本当ですね。ランチだけで秋満喫の気分です」

「あっ!うそうそ!今日はまだいっぱい遊ぶんだよ?満足じゃないよ?」

「ふふっ、分かってますよ先輩。ところで今の歩数は?」

「えっと……ま、まだ始まったばっかりだから!」


佐伯は歩数計の表示を両手で隠し、そのまま逃げるように歩き出した。

「さぁ、次の予定に行こう!」


まだまだ時刻は昼を過ぎたばかり。歩数ももっと稼がなければ。散歩とグルメの両立ツアーは始まったばかりである。


ーー


ランチの腹ごなしも兼ねて、二人は今優雅にウインドウショッピング中。そもそも今日二人が落ち合ったのは山ではない。足慣らしを兼ねて街に出掛けようと、オシャレで流行にも敏感なショップが立ち並ぶ、近隣では定番のお買い物スポットに足を伸ばしたのであった。


「ねぇ、早苗ちゃん。もう冬のコートが出てるよ」

「そういうものなんですよ、先輩」


(ファッションは何よりスピードなのよ!)

(では、わたくしも来夏に向けてサングラスなど……)

(それは早すぎなのよ)


……ファッション業界の時の流れは置いておくとして、そんな中二人はある店舗の一角に設けられた特設コーナーで足を止めた。


「かぼちゃ?こうもり!ハロウィンだ!」

「十月末の一大イベントですから。それにしてもオーソドックスでいい雰囲気のコーナーですね」


キャラもの趣味寄りなんでもありになりつつある日本的ハロウィン。しかし先取り命かと思われたこのファッション最先端ショップが打ち出しているのは、意外にも懐かしさすら感じるモンスターたちがメインの世界観であった。


「ドラキュラ伯爵のフリフリシャツ!可愛い!」

「このストールもペイズリーかと思ったらお化け柄ですよ?欲しいかも?」


(悔しい!わ、和柄はないのかしら?)

(目玉がモチーフのネクタイがありました!)


「ハロウィンの仮装って楽しそう!」

「わたしもやってみたいです!計画追加ですね」


盛り上がる佐伯と水上。西洋の怪異に押されて一喜一憂する憑き物たち。結局購入には至らなかったが、『どんとこい!秋計画』にハロウィンの追加が決定された一幕であった。


ーー


しばらく見るだけショッピングを楽しみ、ぐるぐる歩き回った二人だが、


「ただいまの歩数!んー、3,852歩!あれっ、意外と少ない!?」

「ショッピング中は足を止めることも多いですから、どうします?スイーツは諦めますか?」

「いや!諦めたりしない!そういえばそろそろ……あっ、早苗ちゃん!早く次のお店に行こう!」


何やら時計を気にする佐伯に促され、次のお目当てへ向かうことにした。


「そうですね。人気店ですからお店には入れないだろうけど、噂のモンブランをテイクアウトするんでしたよね」


こちらもやはり人気のお店。路地裏にある隠れ家風だが、数々の雑誌、SNSで紹介されている有名カフェである。本来ならとても飛び込みで入れるようなお店ではないのだが、


「ん〜、それは行ってみないとわからないよ?さぁ行こう行こう!」

「えっ、ちょっと先輩?待ってください!」


浮かれた足取りでスタスタと先を歩く佐伯を追い、水上も慌てて後に続く。

スイーツを目指して二人はまだまだ歩く。さぁ今日のツアー、お楽しみはこれからだ。

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