秋風と残暑と待ち侘びる面々
皆様、変わらず拙作にお付き合いいただき誠にありがとうございます。
第五部は少し早めながら秋のお話しとなります。
とはいえまだまだ暑い最中、少しずつでも季節の空気を感じていただけたら幸いです。
またしばらく、よろしくお願いいたします。
まだまだ残暑厳しい九月の上旬、暦の上でならもう秋だというのに、照り付ける日差しはいまだに容赦なくアスファルトを焼いている。
「まだまだ暑いよねぇ……」
エアコンの効いた室内、冷たい麦茶を片手に窓の外を眺めながら、佐伯はため息をつく。
だが、この暑さにうんざりしているのは、人間だけではなかった。
窓から差し込む日差しに家鳴たちが目をしばたたかせる。
(夏が……)
(しつこい……)
(ま……眩しい……)
座敷童子は縁側──ではなくフローリングの窓際にぺたりと座り、外を見つめる。
(秋風、待ち遠しいのよ……)
すねこすりも照り付ける日差しにうんざりの表情。
(こんなの夏じゃん)
目目連はうらめしげに窓の外を眺める一同に注意喚起。
(みなさん、窓際は紫外線が強いです。お気をつけ下さい)
秋を待ち侘びているのは、人間も憑き物も同じだった。
ーー
ピンポーン
(おや、いらっしゃったようです)
そんな気怠るい午後の空気を、来客を知らせるチャイムがひととき振り払ってくれる。
「あっ!来た!早苗ちゃんおかえりなさーい!」
「先輩、ここはいらっしゃいじゃないですか?それにしても暑い……すいませんお邪魔します」
玄関の扉からムワッと流れ込む熱気とともに、コンビニの袋を下げた水上が入って来た。
「あんまり暑いから途中でアイス買ってきちゃいました。一緒に食べましょう」
「やった!ありがとう早苗ちゃん!」
ウキウキとアイスの入った袋を受け取る佐伯の後についてリビングへ、ハンカチで汗を抑えてエアコンの冷風を浴びる水上。
「暑い中来てもらってごめんね。でも、どうしても見てもらいたいものがあって、ジャジャーン!」
リビングのテーブルに水上専用のコップで冷たい麦茶を出し、続けて佐伯が並べたのは何やらびっしりと書き込まれた数枚のルーズリーフであった。
もみじ狩り、芋掘り、栗拾い。テニスにサイクリングにハイキング。
今はまだ何をしに出かけるにしても早く、そして暑すぎるが、どうやらこれからやりたいこと、その計画をひたすら書き出したらしい。
「ね!ね!秋は楽しいこといっぱいだから、今から何するか厳選しておかないと!あと美味しいもの巡りもしたい!」
「うわぁ、すごい数。確かに厳選しないと冬にはみ出しそうな勢いです」
夏の終わりの花火を観た直後から、佐伯の脳内は既に秋のレジャーにまっしぐら。やりたいことが多過ぎてパンクしそうな頭を整理して、かつ一緒に計画することで水上をしっかり巻き込もうという算段である。
「というわけで!第一回『どんとこい!秋計画』!イベント厳選会議を始めます!」
「先輩?このもみじ狩りとハイキングとトレッキングって同じことじゃないですか?」
「あっ、本当だ!いっぺんに出来てお得だね!」
「この『美味しいもの巡り』のモンブランのお店、私も気になってました」
「でしょでしょ!じゃあこれはマストってことで……」
「えーっと、これなんですか?大掃除?」
「あっ!ごめん!それはやらなきゃいけないことリストのやつ!混ざっちゃった……」
(あら……むしろ大歓迎なのよ?)
(うわ、これ本気だ)
(心なしか……)
(目が光ってる?)
(こ、怖い……)
座敷童子の本気に家鳴やすねこすりが後ずさる一幕などを挟みつつ、佐伯と水上は秋の計画について楽しげに話しを進めていく。限られた週末、そしてメインとなる連休の予定を埋めていくのは、とても楽しい時間である。
(美術展にも行きたいわね……)
(目を楽しませ、教養にもなる。わたくしもその案賛成です)
(ずるいぞ!)
(だったらゲームも!)
(新作完全クリア耐久やりたい!)
秋と関係があったりなかったり、憑き物たちの手でこっそりと書き足される候補などもありつつ、秋の計画は詰められていくのであった。
ーー
そうして過ごすこと数時間。お土産のアイスも食べ終わり、気がつけば窓の外はすっかり夕暮れのオレンジに染まっている。
「あ、空が綺麗ですね」
「本当だ!ちょっと窓開けてみようか!」
カラカラと窓を開けて外の空気を部屋に入れてみると、いつの間にか気温も落ち着いていたらしく思ったほどの暑さは感じない。
「少しずつ、秋になってきてるよね」
「えぇ、楽しみですね」
ベランダに出た二人が夕空を見上げたその時、すうっと風が吹いてきた。
心なしか軽く澄んだ風が、居残っていた暑さを吹き流していく。
(あ、風だ……)
(これって……)
(秋が来た!)
(いい風ね)
(気圧、前線の位置、これから涼しくなると思われます)
(やっときたね)
二人の間を吹き抜けたその風は、今年初めての秋風。
二人と憑き物たちは、その風を目を閉じて味わい、思わず笑みをこぼすのであった。




