祭りと憑き物たちのお手伝い
昨年の倍にもなる人出となった会場は賑やかなことこのうえない。スピーカーから響く音楽に合わせ、魚屋のお兄さんが叩く太鼓で盆踊りの輪も笑顔で溢れている。
屋台の方も評判は上々。さもありなん。商店街の店々が用意した材料はどれも各店自慢の逸品揃い。それを熱々作りたてで食べられるのだから、味は保証付きである。しかも今日は屋台券での引き換えができるとあって、焼きそば、たこ焼き、お好み焼きと、どれも行列の途切れない盛況振りであった。
ーー
しかし人混みにはどうしたってトラブルがつきもの。会場の一角では早くも迷子らしい子供が目に涙を溜めていた。
(櫓の十時方向、単独のお子様を発見。至急確保して下さい)
目目連の指令を受けてすねこすりが出動。人混みの足元をするすると抜けて目標へ到達すると、わざと姿を見せて子供の足元へ擦り寄る。
「わぁ、猫ちゃん?あれ?違う?」
さっきまでの涙目も忘れて笑顔ですねこすりを撫でるお子様。
(こっちは大丈夫。親御さんの方よろしくね)
(了解しました。ちょうど今子供を探しているお母様を見つけました。座敷童子、誘導お願いします)
(了解なのよ)
あとは同じく姿を現した浴衣姿の座敷童子が、思わせぶりな手招きで母親を子供のところまで連れて行けばミッション完了。
「あっ!いたっ!良かったぁ。もうっ、お母さん本当に心配したんだから!」
「お母さんごめんなさい、あのねでもね、一人ぼっちのとき、フワフワの猫ちゃんみたいなお友達が一緒にいてくれたの。可愛かったんだよ?」
「あら、そうなの?もうこの子ったら人の気も知らないで。でも……そう言えばお母さんも不思議な女の子にここを教えてもらったの。もしかしたらお祭りの神様だったのかも知れないわね」
ーー
かと思えば今度は屋台ちかくで一騒動の気配。
みんなが屋台券で楽しく買い物をしているその足元の影から百々目鬼の腕がにゅっと伸びる。
(祭りなら銭のやり取りもあるかと思いきや!なんだいあの紙っ切れは!ピロリン、シャランよかいいとしても、ありゃ紙幣ってヤツですらないじゃないのさ!)
こんなところでまさかの防犯効果を発揮する屋台券。しかし百々目鬼はいきりたつばかり。
(ふんっ、まぁいいさ。それでもみんな懐に財布は持ってるだろう?こうなったらそいつをちょいと……)
(おまわりさーん)
(こっちです)
(捕まえて)
櫓のみならず屋台の設営、安全にも目を光らせていた家鳴たちにより、祭り会場を監視していた鴉天狗へ速やかに通報がなされる。
(またお前か。擦りなど許さん。こっちに来い)
平和はこうして守られた。
ーー
花火大会は楽しく和やかに進んでいく。そんな中、しばらく姿を見せていなかった佐伯と水上が装いをあらためて再び会場に現れた。
「なんだか恥ずかしい!」
「そうですね、でもこんな機会も滅多にないですから」
今の二人はなんとも艶やかな浴衣姿。商店会とも付き合いの深いクリーニング店常連のご婦人のご厚意で、準備がひと段落したところで浴衣への着替え、着付けまでしてもらったのである。
「やっぱりお嬢さんたちに着てもらうと浴衣も喜ぶような気がするわね」
(あたしのコーディネートが光るわぁ、着物憑き冥利ってやつね)
夏空の下、祭り会場でもひときわ華やかな二人は商店街のお歴々にも大好評だ。
「いやぁ、嬢ちゃんやるな」
「こりゃいいもん見たわ」
おじさんたちの褒め言葉に照れまくる二人。
運営側の面々も大いに楽しむひとときとなった。
ーー
(いやぁ、いい祭りじゃ、ふぉっほっほっ)
櫓の天幕の下では、いつの間に入り込んだのか半被を纏った大狸が赤ら顔を綻ばせて酒を呑んでいた。
(みんなが笑顔で楽しんどる!きれいどころまでおる!これこそ祭り!ここはちょっと盛り上げてやろう!)
気分が乗ったのか、大狸は半被を半脱ぎにしてやおら腹鼓を打ち始める。
ドン、ドン、ドンドコドン
ドドン、ドンドン、ドンドコドン
途中にカッ、カッと縁打ち代わりの笑い声を入れながら踊り始めると、櫓を中心に花火祭り会場へ大狸のとる音頭が響き渡る。するとどいうことか、元々賑やかではありつつも、屋台をみたりおしゃべりに興じたりして思い思いに過ごしていた花火客が、太鼓の音に釣られて次々と盆踊りの輪に加わり、会場はさらに陽気に盛り上がり始めた。
(ちょっと!なにやってんの!あれ?神社のチンジュウ様?)
途中で気づいたすねこすりが声をかけるも、
(おぉ、けむくじゃら、久しいのう!祭りじゃ祭りじゃ、お前さんも踊れ)
珍獣呼ばわりも気にしないご機嫌振り。まぁ、何か悪さをしているわけでなし、それになんだかすねこすりも楽しくなってきた。そのまま一緒に踊っていると、家鳴や目目連、座敷童子までもが集まってきた。
(盆踊りか!)
(せっかくなら)
(ぼくらも踊る!)
(わたくし手足はありませんが、精一杯瞬きます!)
(まったく、みんなしょうがないのよ)
せっかく音頭をとってくれるならと、結局天幕の下、憑き物たちもひととき盆踊りを楽しんだのであった。
ーー
大いに盛り上がる会場も、そろそろ日が傾いて夏の青空がオレンジ色に染まり始めてきた。
連なる提灯の灯りが眩しく見える。
もう少ししたら、川辺の草むらから虫の声も聞こえてくるだろう。
そしてそんな夕暮れの始まりのなか、向かいの川岸では職人さん達の手によって打ち上げ花火の準備が進められていた。
楽しかったお祭りもそろそろ終盤。メインとなる花火までもう少し。




