いつもの二人と真夏のおでんパーティー
ゴオォォッ
エアコンが冷風を吐き出し続けている。
ただいまの室温18度。
グツグツグツグツグツ
キッチンからリビングのカセットコンロに移されたおでん鍋からは湯気が立ち上る。
(むぅぅん!沁みてきたぞ!これは大分沁みてきておるぞ!)
(あら、まだ元気にしゃべってるのよ)
(切られて煮込まれてもこの暑苦しさ!わたくし、なんだか癖になってきたかも?)
太陽も大分西に傾き、日差しの強さもそろそろ和らいできた。すでにパーティーの準備は万端。佐伯はリビングと玄関を行きつ戻りつ、ソワソワしっぱなし。
ピンポーン♪
「来たっ!」
即座にオートロック解除。
待ちきれない佐伯は玄関を出て部屋の前へ。
「あっ、先輩。お出迎えですか?ありがとうございます。なんで捻り鉢巻?」
「いらっしゃい早苗ちゃん!待ってたよ!入って入って!」
何故か鉢巻姿の佐伯。さらにその大歓迎振りにちょっと戸惑いつつ、玄関をくぐって部屋に入った瞬間。
「お邪魔します、って?え!寒い!え!?」
「イヒヒヒヒ!早苗ちゃん!リビング!リビングに行ってみて!」
「え?リビング?えっ、お鍋?あっ違う!すごい!おでんだ!」
水上のビックリ顔に、してやったりと会心の笑みを浮かべる佐伯。
「今日のテーマは"真夏のおでんパーティー"だよ!エアコンで冷やしたお部屋で熱々おでん!座って座って!」
「すごい!あっ、もしかしてこのおでんって?」
「そうだよ!わたしの手作り!いっぱい頑張った!」
「すごい!本当にすごいです!」
水上の賛辞に目一杯胸を張る佐伯。そう、この瞬間の為に昨日から頑張って準備したのだ。
しかもこれで終わりではない。最高の滑り出しを決めた佐伯クエスト、メインステージはこれから始まるのだ。
ーー
エアコンがフル稼働する部屋の中、長袖のパーカーを着込んで佐伯と水上が席に着く。
「よーし!早速食べよ!早苗ちゃん何からいく?」
「えーっと、じゃあさつま揚げと、つみれとこんにゃくお願いします」
「はいよっ!ほいほいほいっ!お待ちっ!」
「あはは、本当におでん屋さんみたい。でもこれ全部手作りですか?」
「そうだよ!ムフー!」
「さつま揚げも?」
「うん!」
「つみれも?」
「うん!!」
「こんにゃくは?」
「それはスーパーで買いました」
きれいに落ちがついて二人で大笑い。佐伯も自作のおでんをいくつか皿にとったら、まずは冷蔵庫にあったビールで乾杯。キンキンに冷えた部屋で熱々のおでんをつまみ、これまたよく冷えたビールを飲む。
「うはーっ、最高!そうだ!今日は飲み物にもこだわったの!ねぇ、これ見て!」
「日本酒と、ワイン?ですか?」
「酒屋さんに選んでもらったんだけどね!日本酒はこっちの金物屋さんがくれたチロリで熱燗にも冷やにもできるの!ワインもおでんに合うやつなんだよ!」
「へぇ、本格的ですねぇ。それじゃあ食べながら早速熱燗作ってみましょうよ。」
「いいねいいね、お姉さんいける口だね!」
酒を入れたチロリをおでん鍋の端にかける。温まったらこれでキュッといこう、冷やも試そう、ワインも開けたら飲み過ぎかしら?まるで呑兵衛のような会話をわざと楽しんでみたりしながらパーティーは進んでいく。
ーー
「そろそろ大根もいい感じかな?」
(うむ……、同じ鍋で共に煮られた同志たちと、我らを繋いだ出汁、どちらの旨味もしっかり芯まで沁みましたぞ。おでんの主役などと粋がっておったが、一人では到底辿り着けぬこの境地。おでんの大根としてこれ以上の出来はない。さぁ、ご賞味あれ……)
(あら、なんだか神妙だけど、食べられる直前までしゃべるのね)
(あぁ、これで終わりなのですね。わたくし、なんだかしんみりします)
(そうか?)
(どうだろう?)
(ちょっとわかるかも)
(んー、ちょっと味見してみたい)
憑き物たちの反応はまちまちだが、いよいよ化け大根、実食のときである。
皿にとった大根にちょっと辛子をつけ、よく煮込まれた茶色の身に佐伯が箸を入れる。一口分をきりわけるとゆっくりと口へ。
(むぅぅん、本望……)
(あぁっ!化け大根殿!わたくしあたなのことは忘れない!)
「んーっ!美味しい!早苗ちゃんも食べてみて!」
「本当によく沁みて、大根も甘くて、これは傑作ですね」
二人が大根を絶賛する。
そうか、美味しく出来上がったんだ……。一抹の寂しさに、目目連は悲しげに目を伏せた。
(そうそう!ゆでたまごもそろそろいい感じになってますぞ!この鍋の我が友たちはみな傑作揃い!どんどん味わってくだされ!さぁさぁ!!)
(えっ!?)
驚きに目を見張る目目連
(そんなことじゃないかと思ったのよ。たぶん最後の大根がなくなるまでしゃべる気なのよ)
美味しく煮られた化け大根はまだまだ元気そう。おでんの主役はパーティー終盤までお付き合いしてくれそうだ。
ーー
チロリで温まった熱燗を二つの湯呑みに分けて、二人は二度目の乾杯をする。
「おいしーっ!」
「温まりますねぇ」
酒屋の社長に教わった冷やも試して味の違いに盛り上がり、餅巾着のもちの伸びに一笑い。飲み過ぎかといいながら結局ワインも開けて、ごぼう天をつまみに和と洋のペアリングに舌鼓を打つ。
いいのだ、明日もお休みだし、水上は今日はお泊まり。少しくらいならお酒を過ごしても大丈夫。
やりたかったことが全部叶い、水上も笑顔で楽しんでくれている。昨日からの準備も楽しんではいたが、これなら大変な作業をこなした甲斐もあったと佐伯は上機嫌。
水上も今日のパーティーの趣向を大いに楽しみ、商店街を巡って繰り広げられた冒険譚を興味深く聞きつつ、自分を迎えるためにこれだけの用意をしてくれた佐伯に改めて感謝を感じていた。
「ねぇ早苗ちゃん」
「はい?」
「真夏のおでんパーティー、成功だよね?」
「はい!大成功です!」
佐伯クエスト、完全クリア。
水上のお泊まり歓迎から始まった佐伯の計画は、商店街のみんなの協力と、憑き物たちの手助けを得て無事に実を結び、最高の結果を残した。
ーー
「ところで先輩」
「ん?」
「おでんすごく美味しいです!……美味しいんですけど、これ、お鍋にまだ半分以上残ってますよね?」
「え?あ、ウインナー追加しちゃった!」
「先輩!夏場のおでんは”一晩鍋のまま放置”が一番危ないんですよ!このままだと明日には全部ダメになっちゃいます!」
「あぁーっ、おばちゃんたちが言ってたのってこっちのこと!?」
このあと、慌てておでんをタッパーに入れて冷蔵庫へ移したり、明日の朝昼メニューをおでんリメイクにするべくレシピを検索したり、わたわたと片付けする羽目になったのはご愛嬌。
結局笑顔で、楽しいお泊まり会であった。




