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一人暮らしにつきものの憑き物  作者: ぴよ
第四部 ご近所と憑き物

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エアコンとチロリとおでんつゆ

翌日、眠い目をこすりながらも佐伯は元気に起き上がる。


「パーティー当日!よしっ!今日もやるぞっ!」


今日はおでん作りの肝、出汁を引く予定。そして忘れてはいけないゆで卵。どちらも夏場は傷むのが早いから気をつけろと商店街のお歴々に言われて、作業をパーティー当日に回したのだ。それに乾物屋のおばちゃんからは昆布や鰹節の使い方もしっかり聞いてきた。


「アドバイスのおかげで美味しいおでんができちゃうもんね!それと今回のミソはこれ!」


佐伯はクーラーのリモコンを手に取って、温度も風量も最冷、最強に設定。涼しい部屋で夏おでんは本気だった。


そのまま朝の支度を済ませ、さぁ仕上げにかかろうと昨日買ったばかりのおでん鍋を取り出す。すると、金物屋さんでつけてもらったおまけが入っていた。


「あっ、チロリ!」


そういえば昨日はおでんの材料で頭がいっぱいで、パーティーの飲み物までは用意できていなかった。せっかくおまけにもらったのならチロリは絶対使いたい。それに合うお酒も商店街で選びたい。幸い今日はまだ時間があるし、思い立ったら即行動。佐伯はすぐにお出かけの準備を始めた。


ーー


「この時期におでんに合う酒を聞かれるとはねぇ。金物屋やら米屋やらから聞いてはいたけど、あっはっはっ佐伯さんらしいや」


辿り着いた酒屋さんで、社長さんに大笑いされている佐伯。


「そんなにおかしいかな?夏のおでん?」


「いやいや、悪い。おかしかないよ。ただもしかしたらうちにも来るかなと思ってたら本当に来たから面白くてさ。ま、お詫びにおでんに合いそうな酒を見繕ってやるよ」


なんと、酒屋の社長みずからおでんに合う酒をピックアップしてくれるらしい。


「チロリを使いたいなら日本酒だな。普通なら熱燗だが、ただ夏場のってんなら逆を試してみてもいい。」


「へぇ、逆って?」


「例えばチロリを氷水につけて冷酒にすると、この夏真っ盛りでもキリッと冷やした日本酒が楽しめる。燗でも冷やでも、酒は辛口の純米酒あたりがおススメだな。」


「おぉ!チロリで冷やすの!なんか楽しそう!」


「あとは、チロリは関係なくなっちゃうけど、良く冷やした白ワインもなかなかいい。すこし味がしっかりしてるほうがおでんとの相性もいいだろうな。せっかくだ、ちょっと試飲してくかい?歩いてこれるご近所さんの特権だ。」


「え!いいの!やった!」


気前よく試飲用にいくつかの酒瓶やボトルを開けてくれた社長。佐伯と一緒になってこれがいい、あっちも捨てがたいとパーティーを彩るお酒を選んでくれた。結局、社長に勧められたとおりの日本酒と白ワインを四号瓶で一本ずつ購入。


「ありがとう!これでお酒もばっちり!」


「おぅ!楽しいパーティーになるといいな!ここらの店の連中もみんな楽しみにしてるよ。夏のおでん、上手くいったら今度来たときにでも教えてくれよ」


なんと、佐伯の夏のおでんパーティーはいつの間にか商店街中の注目を集めていた。これは気合が入るというもの。こうして思わぬところで発生したサブクエストも無事クリアした佐伯。購入した酒瓶を大事に持ちながら、ルンルンと自宅に戻っていった。


ーー


自宅に戻った佐伯。扉を開けたところでぶるりと身震いをする。


「寒っ!すごい寒い!エアコンすごい!」


朝からガンガンにかけた最冷、最強のエアコンは部屋を思い切り冷やしてくれていた。これなら熱々のおでんも美味しくいただけそう。佐伯は目論見がはまりそうでムフムフ笑いが止まらない。


「よーし!それじゃ今度こそお出汁をひこう!……っとそのまえにちょっと長袖羽織ろう」


(うぅぅ……寒いのよ)

(窓も結露しています)


(梁が冷たい……)

(壁もひんやり……)

(おでんで暖まりたいよぅ……)


(ちょっとベッドでお昼寝してくる)


憑き物たちが冷え切っているが、そこは夏のおでん計画のため、もう少し我慢していただこう。


さぁ、気を取り直して今度こそ仕上げの作業に入る。

おおきなおでん鍋に水をはり、昨日買ってきた昆布を一枚いれる。しばらくは火をつけずにこのままにするので、その間にゆで卵を作る。佐伯は水から茹でる派のようだ。


「おでんのおつゆに~、たまごって最強だよね~、わたしは半熟派~、おいしくな~れ~♪」


妙な鼻歌を歌いながら、鍋の中の卵をときどき転がす。沸騰してからさらに5分ほど茹でたら水にとって冷やしておく。


「よしっ、たまごOK!じゃあ今のうちにリビングの用意をしておこう。早苗ちゃんの席はここで、クッションおいて、あ、長袖パーカーも貸してあげよう!サイズ合うかな?」


まだちょっと気が早いような気もするが、佐伯はウキウキとリビングにパーティー会場をセッティングしていく。テーブルには金物屋さんで買ってきたガスコンロを設置して準備は万端。食器類はさすがに水上が来てからでいいだろう。

その後、水上のお泊り用の布団をチェックしたり、洗面台やお風呂の掃除をしたりで時間が過ぎていく。


「よしよし、そろそろ昆布もいい感じかな?じゃあお出汁本番行ってみよう!」


昆布からしっかり旨味がでたころ合いで、いよいよ出汁を引き始める。

「まずは弱火で、ぷつぷつしてきたら火を止めて昆布は出番終了。そしたらかつお節を入れて、濾して……」


乾物屋のおばちゃんに教わったとおり、しっかり丁寧に出汁を引く佐伯。お醤油、みりん、塩で味を調整したらおでんつゆの出来上がり。


「そしたらいよいよおでんの煮込み開始!まずは大根とゆでたまご!」


(待ちに待った最後の出番!うむ、このつゆなかなかの出来栄え!これで煮込まれ食されるのなら、この大根もう何を思い残すこともない!!)


(出たわね化け大根)

(おぉ、一晩たっても暑苦しい、わたくしちょっと楽しくなってきました)


現在時刻は午後三時を少し回ったところ。このあと大根とたまごの様子をみながら、水上の到着にあわせておでん種も入れればおでんは完成だ。


「よしっ!これでほとんど準備完了!早苗ちゃんびっくりするかな?喜ぶかな?」


あとはもう待つだけ。パーティー開始までもう少し。

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