みじん切りとおでん種と大爆発
日が長くなったとは言え時刻はすでに夕方。商店街の皆さんのおかげで買い出しは大満足の結果だが、しかしパーティを開くためにはまだ準備と下拵えが待っている。
「煮込むのは明日でいいけど、今日のうちにおでん種を作って、大根も下茹でしなきゃ!よし!やるぞ!」
腕まくりでやる気十分の佐伯。その後ろには襷掛けで決意顔の座敷童子。サポート役の目目連。あととりあえず待機中の家鳴。すねこすりは食材のチェック中。
(乗りかかった船なのよ、こうなったら全力でやるのよ!)
(手は出せませんがわたくしもお手伝いいたします)
(料理はちょっと……)
(邪魔しないようにする)
(応援してるね)
(お魚と昆布の匂いと...…ねぇ、なにこの変な大根?)
それぞれ若干の温度差はあるが、おでん製作総力戦のスタートである。
ーー
まずはさつま揚げ用の野菜をみじん切り。
ごぼうも笹掻きやらごぼう天用やらに切り分けて水に晒しておかねばならない。
トントントントン、トントントントントントン
「うー、終わらない……。これどのくらい細かくすればいいの?」
(口当たりを考えて出来るだけ細かく、サイズもそろえるのよ)
(観測の結果……残念ながら粒度はまちまちのようです……)
延々と野菜を刻む、刻む。
佐伯が刻んだ不揃いな野菜を、こっそり刻み直す座敷童子。ついでにごぼうの笹掻きやら何やらまでやっておく。キッチンにはしばらくまな板を鳴らす包丁の音だけが響いていた。
「うあーっ!切り終わった!よしっ、次!」
次はおでん種用に山芋を摺り下ろして、すり身とあわせる。
「痒い!山芋痒い!」
(あぁっ、かぶれちゃうのよ)
そこにカタカタと音をさせて震えるキッチンの戸棚。
「あっ、お料理用のビニール手袋があったんだった!よし!これで痒くない!あぁ、でも今度はすべるぅ」
(へへっ)
(ちょっとだけ)
(お役立ち)
家鳴のフォローでどうにか進む作業。
その後はすり身と混ぜたり、みじん切りの野菜を入れたり。
「おお!山芋と混ぜたら一気に生地っぽくなった!おでんって本当にお魚なんだ!」
今更な感想を挟みつつ、やっとのことで数種類のおでん種のもとが出来上がった。
さて、お次は成形と揚げの作業。
平たい楕円に、棒状に、小さなボール状に。
大量のおでん種をこねこね、ペタペタ。
「んふっ、楽しい」
(あらそう?良かったのよ。それにしても意外と器用ね)
(わたくし、今日初めて安心感を感じた気がします)
ちょっと一息つけたかと思う憑き物たち。だがそうはいかない。
成形したおでん種は揚げなければ。
「そーっと入れて、くっつかないように……」
(気をつけて、火傷しないようにするのよ)
「うふふ、茶色くなってきた……アチっ!跳ねた!あぁっ!なんでこんなにふくらむの!?ギャー!爆発した!」
(キャー!案の定なのよ!)
(油の温度が高すぎます!火を止めて!一旦火を止めて!)
慌てて火を止め、爆発したおでん種は回収。飛び散った油を拭き取り、改めて揚げ方をスマホで確認。
「そっか、温度が大事なんだ。フムフム」
目目連が出来るだけ分かりやすく、かつ安全に配慮したレシピを厳選して表示したおかげで、残りのおでん種はなんとか爆発を免れた。少々不揃いではあるもののこんがり色付いた手作りのおでん種が並ぶ皿。無事に揚げ終わったおでん種たちは、粗熱をとってから冷蔵庫へ。
ここまででかなりの時間がかかった。しかし今日の下拵え、メインはこれから。そう、今からいよいよ大根の下茹でに入るのだ。
ーー
「もういい時間だけど、これだけはやっておかなくちゃ」
佐伯クエスト下拵え編も山場。
揚げ油の処理も終えて鍋も洗った。すっきりと片付いたキッチンに、新たに現れたのは本日の真打ち。
まな板の上には立派な大根が丸々一本。青々とした葉を茂らせた堂々たるその風格。
(さぁ、逃げも隠れもしない!むしろ主役として調理されるなら本望!思い切りよくバサっといってくれい!さぁさぁさぁ!!)
(まな板の上でも暑苦しいのよ)
(わたくし、やっぱりこの方苦手です)
しかし放っておいたらうるさいことこの上なさそうな化け大根。佐伯も主役と認めていることだし、仕方がない、調理を始めよう。
「まずは葉を落として……」
(そうそう、青みを嫌わず葉の根元をぎりぎりから落として下され。おっと!葉は捨てずに刻んでじゃこや胡麻と一緒に炒めれば立派なご飯のお供になりますぞ!)
「皮は……、ピーラーで剥く?えっとえっとスマホ先生!」
(まずは葉側から2〜3cmの厚さに切り分けて下され!根側は後日、大根おろしにしていただければ重畳!切り口はキッチンペーパーで包んでくれるとありがたい!)
「そっか、まずは切り分ける……と、えっとこのくらい?まぁ、食べやすい大きさってことだよね!」
ざっく、ざっく。
頭の部分の他、いかにもおでんといった円筒形の大根が六つ、佐伯の手によって切り分けられる。
(ぐふっ、うおっ、なかなかの太刀筋っ!おかげで見事なみずみずしい断面!これならば我が身も美味しいおでんになれるというもの……)
(さすがに切り分けられるとダメージがあるらしいのよ)
(それでもうるさいです。わたくしこの方苦手です)
「それで?今度こそ皮剥き?厚めにぐるっと?うそ、難しっ!」
(さすがにこれは難易度が高いのよ?ちょっとお手伝いしないと)
(あぁ、そういうところが……いや、わたくし特に思うところはありません)
結局甘やかしがやめられない座敷童子。
おかげで切り分けた大根のうち半数以上はとても綺麗に桂剥きされた。ついでに面取りをして隠し包丁まで入れていたのもご愛嬌。
「さぁ、いよいよ茹でていくよ!」
(下茹では水から、そこに生米を一掴み一緒に入れて30分ほど煮て下されば、この大根もう思い残すことなど……。あっ、改めて出汁で煮る際は1時間ほどかけていただくと芯まで味が沁みますぞ!」
(もう、自分で勝手におでんになってくれればいいのよ)
(わたくし、この方がどの段階まで喋り続けるのか気になってきました)
(食べられたいのか?)
(珍しいよね?)
(これ、お腹壊さない?)
(ずっとしゃべってるよね)
化け大根の熱いキャラクターに疲れ気味の憑き物たちだが、佐伯が粛々と作業を進めてくれたおかげで今日のタスクはこれで完遂。
佐伯クエスト、下拵え編も完全攻略!
「よしっ、これなら早苗ちゃんびっくりしてくれるよね!うふふ!明日も仕上げ頑張るぞ!」
やり切った満足感にご満悦の佐伯。確かに今日はよく頑張りました。残りは明日の仕上げとパーティー本番。憑き物たちも優しい笑みで、ベッドに向かう佐伯を見送ったのであった。




