メダルの山と大きなお世話
「早苗ちゃん!まだ右!もうちょっと、あ、そこ!」
「えーと先輩、次は奥行き見てください!どのくらいですか!」
クレーンゲームの前で声を掛け合う女子二人。
水上はどうしても欲しい縫いを見つけたらしく、さっきから真剣そのものでクレーンを操っている。
そして、同じフロアではまだ小学生の男の子がガラスに囲われたメダルと向き合っていた。
思わぬ幸運で数枚のメダルを手に入れた男の子。しかし、とうとうコツを掴んだのか、その後は自分でメダルを上手く落とし始め、手持ちは増えず減らずの時間が続いていた。
(うーん……)
(もっと一気に……)
(ガバッと落とせばいいのに)
メダルがある間は男の子の視線はメダル落とし機から離れない。手を出すわけにもいかない家鳴たちはだんだん焦れてきていた。
しかし、メダルは尽きなくとも終わりはやってきた。男の子の荷物からタイマーのアラームが鳴ったのだ。
「あ、帰んなきゃ!」
アラームを止めた男の子は、残ったメダルと荷物を持って、カウンターへ向かうべくメダル落とし機から視線を外した。
そのとき
(チャンス!)
(よしっ!)
(今だっ!)
まったく空気を読まない家鳴たち。
もうメダルを落とすことが目的になっている。
それが今度は大量に落としてやろうと三体がかりで揺らしたものだからたまらない。
ジャラジャラジャラジャラッ
盛大な音を立てながら、まるで中身を全て吐き出すかのような勢いで落ちてくるメダル。
突然かつあまりのことに、男の子は床に出来た小さなメダルの山を見つめたまま驚きに固まってしまった。
不自然な音に店中の視線も集まってしまった。様子を見に来たスタッフも、その現場を見ては眉間に皺を寄せざるをえない。
「君、ちょっとこっちに来てもらえるかな?」
「違いっ、違いますっ、僕なんにもっ」
焦ってしどろもどろの男の子。
「あの!すいません!その子もう帰るところでしたよ!」
「台からも離れるところだったと思います」
たまたま近くのクレーンゲームで遊んでいた佐伯と水上が、アラームの音に気づいて男の子のことを見ていたと弁護する。スタッフも別に子供をいじめたいわけじゃないが、しかしあまりにも不自然な状況に戸惑い気味。
そこに、
「まぁまぁ、お姉さん方もこう言ってるし、問題ないでしょ。」
いつからそこにいたのか、ゲームセンターの名前の入ったストラップで社員証を首から下げた、恐らくスタッフの上役であろう小柄な男性が声を掛けてきた。
「あれ?エリアマネージャー?今日いらしてたんですか?」
「うん、まぁたまたまね。君ここはもういいよ。機械側のトラブルかもしれないし、後は任せてくれていいから。」
男性に言われたスタッフは、心なしかほっとした顔をしてその場を離れていった。
「君、今日は運が良かったね。そういえばもう時間だったんでしょう?気をつけて帰ってね」
男性は、男の子にも説教らしいことの一つも言わず、優しく頭を撫でて帰してしまった。男の子は男性と佐伯、水上にぴょこりとお礼をしたあと、走っていく。
「お姉さん方もありがとう。皆様、お騒がせしました。」
他の客にももう問題はないと告げ、男性はことを納めてしまう。
「はぁ、良かった。でもあの子きっと怖かったよね。大丈夫かな?」
「そうですね、嫌な思い出にならないといいですけど」
「ははは、お姉さん。あの子はきっと怖かったでしょうが、これも経験ですよ。怖い思いをしたから、これからは都合の良いことに慎重になれる。でも、まぁ懲りずにまた遊びに来て欲しいですね」
二人の会話を聞いていたのだろう、これまたいつの間にか床のメダルを回収し、筐体に戻してからメダル落とし機の手入れを始めていた男性がそう言う。
そして続けて、周りには聞こえない声でこう呟いた。
「親切と余計なお世話は違うものだよ。特に賭け事ではね。」
メダル落とし機の影、呟かれた先にひとかたまりで隠れていた家鳴たちはビクリと震えた。
恐る恐る見返した男性はこちらを見ていなかったが、筐体のガラス越しに見えるその手の平に、家鳴たちを見据える目があった。
ーー
帰宅した家鳴たちを迎えたのは、呆れ顔の座敷童子と額に青筋を浮かべた白沢であった。
(お前たちは一体何度同じ誤ちをくりかえすのか!お前たちが会ったあれは手の目です。彼が見かねて出て来てくれたから良かったものの、もう少しで小さな子供に冤罪をかぶせるところだったんですよ!お前たち自身だって、イカサマや不正の監視を得意とする彼に悪質と見られなかったから良いものの、下手をすれば道祖神か天狗あたりに突き出されてもおかしくなかったんです!だいたい普段からお前たちは……)
盛大に雷を落とされて小さくなる家鳴たち。お説教はまだまだ終わりそうにない。
一方水上は、上機嫌で自宅の玄関を開けるところだった。
荷物を置き、そのままサイドボードへ向かう。
「ただいま」
朝と変わらずそこにいる木彫りのこけしにいつもと同じように声をかける。ただ、今日は続きがあった。
「一人じゃ寂しいんじゃないかと思ってね?」
寄り添うように置かれたのは、今日クレーンゲームでとってきた河童をデフォルメしたキャラクターの縫い。
「お友達よ。仲良くしてあげてね」
この日から、水上の部屋のサイドボードには、少々趣きの違う二体の河童が並ぶこととなったのだった。




