神社の祠とおたぬきさま
面倒ではあるが、呼ばれてしまったからには仕方ない。
すねこすりはクスノキをぐるりと反対側へ回ってみる。
するとそこには、小振りのお堂に納められた祠があった。
ただ、その入り口には酒徳利を手にどっかりと腰を下ろしたお爺が一人。
すねこすり
(やっぱり、ろくでもない)
見事な太鼓腹とさっぱりした禿頭、片手の酒徳利に見合った赤ら顔。
法被を羽織ってはいるが、とてもお神輿を担げそうにはないほど上機嫌にきこしめしているご様子。
(おぉ、来たか。どうじゃ、いい席じゃろ)
すねこすり
(席?あっ、この木の下の?)
(そうよそうよ、いい席じゃろ。ご招待って奴だわな)
すねこすり
(そうなんだ、ありがと)
クスノキの下のテーブルと椅子は、このお爺が用意してくれたらしい。
すねこすり
(でも、お爺こそそんなところに座り込んでたらバチが当たるんじゃない?)
(あっはっはっ、いいんじゃいいんじゃ、ここはわしの特等席なんじゃ)
すねこすり
(ふーん。それで?化け狸のお爺がなんの用なのさ)
(うぉっほっほ、年頃の娘が何やら二体もくっ憑けて歩いとるもんじゃから、ちょっとからかってやろうと思ったんじゃが、こっちの化けの皮が剥がされたわい。)
何がそれほど楽しいのか、ひとしきり笑ったお爺がクスノキの落ち葉を手に取る。
(まぁ、ばれとるならもう良かろ。そーれっ)
落ち葉を頭に載せると、ポワンと煙に包まれたお爺はあっという間に大きな狸に変わっていた。
化け狸
(どうじゃ!)
すねこすり
(でっか!)
化け狸
(そぉうじゃろそうじゃろ!でかいじゃろ!立派じゃろ!ふわっはっは!)
すねこすり
(ほんとに大狸なんだ、よく退治されなかったね)
化け狸
(なんじゃ?そこはわかっとらんかったか?鼻はきくのに目端はきかんのう?わし、この祠に祀られとるんじゃ)
すねこすり
(へ?神様なの?)
化け狸
(そうじゃそうじゃ!そりゃ昔まだ素狸じゃった頃は、危うく狸汁にされかけたこともあったがの?)
すねこすり
(普通の狸が神様になったんだ)
化け狸
(ふわっはっは!そうじゃそうじゃ!よし、ここは一つ、おまえさんにこのわしの立身出世の話を聞かせてやろう。)
すねこすり
(え、別にいいよ……)
化け狸
(そもそもこの辺りは昔、人なぞおらん森じゃったんじゃがのぉ……)
すねこすり
(あっ、やっぱり面倒くさい……)
ーー
(わしも生まれたときはそりゃぁ可愛いちっちゃな毛玉でのぅ、群れの雌狸の人気もので……)
(ありゃわしもすっかり若狸になった頃、森を開いて村が出来たんじゃが……)
(団子屋の看板娘がそれはそれは可愛い娘でのぉ……)
化け狸の長話はいつまでたっても終わる気配がない。酒を呑みのみ上機嫌で語り続けている。
いい加減うんざりしたすねこすりだが、相手が神様とあっては途中で逃げだすわけにもいかない。
そこへ
(ちょっと何してるのよ)
座敷童子がやってきた。
化け狸
(お、お嬢も聞いてくかの、ヒック)
すねこすり
(あ、ちょうど良かった、交代して)
座敷童子
(あら、お邪魔だったわね、ごゆっくり)
化け狸
(おぉ、見事な去り際じゃ、そんで続きじゃがな……)
すねこすり、離脱に失敗。
ーー
(ウヒック、まぁ、そんなわけでここに祠を建ててもろうての、ウィッ、主神様の傍ら、イタズラせんかわりにここらの鎮守になったわけよ)
(はぁ、チンジュウね)
(まぁ、それからがまた大変でのぉ)
真っ赤な顔をしていい加減呑みすぎの狸、まだまだ話が続きそうな気配。
そこへ再び座敷童子がやってきた。
座敷童子
(そろそろ帰るのよ。お爺ちゃん、すねこすりの相手ありがとう。わたしたちはお暇するのよ)
化け狸
(おっ、そうかそうか、ウヒック。おまえさんすねこすりじゃったか。)
すねこすり
(なんだよそれ、もう)
化け狸
(ふわっはっはっ、すまんすまん。年寄りの長話によく付き合うてくれたのぉ。そしたら本題じゃ。おまえさんら、あの娘っ子らを守護しとるようじゃの?)
すねこすり
(まぁね、んと……家族、みたいなもの、だから)
化け狸
(うぉっほっほ、家族か、そりゃいい。そんならその家族に、わしから加護を与えてやろう。せっかくの祭りに娘二人とは色気がない。ここは縁結びでも……)
すねこすり
(いらないよ、余計なお世話)
化け狸
(おほっ?そうか?なんなら子宝運でも良いぞ?)
すねこすり
(いらないってば!)
化け狸
(ふわぁっはっは、ウヒック、まぁ遠慮するな。まぁ見繕って色々つけといてやろう、ヒック)
すねこすり
(もう、余計なことしないでよ)
そんなこんなで、やっと解放されたすねこすり。
食べきれなかった屋台グルメをお持ち帰りにして帰り支度中の佐伯と水上にやっと合流したのだった。
ーー
帰り道の参道、佐伯は懲りずに屋台に目移り。
「あっ、あんず飴!」
「ちょっと先輩!」
水上が声をかけるも、佐伯はもう屋台の前。
「二つ下さい!」
「毎度あり!でもお嬢さん、うちのはルーレットがあるんだよ?これを回して、当たった数だけ持っていきな。」
どうやらこの屋台では、ルーレットで当たれば一つ分の値段でいくつもあんず飴がもらえるらしい。盤面をみるとハズレが一個、当たりが二個、大当たりの三個の上にさらにフィーバーの十個がある。ただしフィーバーは針のように細い。
「よーしっ!当てちゃうから!」
佐伯がルーレットの針を力一杯回した。
ーー
すねこすり
(加護って、こういうこと?)
座敷童子
(良かったじゃない?これでみんなのお土産も出来たのよ)
佐伯と水上は、屋台グルメのほかに沢山のあんず飴を抱えて笑っている。
まさかのフィーバーにあんず飴屋のお兄さんもびっくりしつつも大笑いしてくれた。
「お祭り楽しかったね!早苗ちゃん!」
「そうですね、先輩。」
色々あったが楽しかった夏祭り。
妙な出会いもあったものの、憑き物たちも満喫した様子。
たまにはこんなふうに、ご近所に繰り出してみるのもいいかもしれない。
そう思える一日だった。




