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一人暮らしにつきものの憑き物  作者: ぴよ
第三部 友人宅と憑き物

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静かな、賑やかな友人宅

佐伯も水上も、こけしの存在にも、消失にも気づかなかった。

二人は今も変わらず過ごしている。

部屋は静かだった。

以前と変わらない、整った空間。物音ひとつなく、穏やかな時間が流れている。


けれど、どこか――ほんの少しだけ、違う。


ーー


「ただいま〜」

「おかえりなさい、先輩」


玄関の扉が開き、二人の声が重なる。買い物帰りらしく、紙袋を提げたままリビングへと入ってくる。


「今日は人多かったね〜。疲れた〜」

「週末ですからね。でも、いいもの買えました」


笑いながら荷物を置く。いつもと同じ、何気ないやり取り。

そのまま水上は、自然な動作でサイドボードへと向かった。

置かれているのは、あのこけし。

手に取り、軽く埃を払う。柔らかな布で、ゆっくりと磨く。

その手つきは、以前と変わらず丁寧だった。

少しだけ微笑んでから、続ける。


「今日はちょっと寒かったね」


「早苗ちゃん?」

「あぁ、すいません。変ですよね?でも、つい話しかけたくなるんですよね」


ーー


「いや、わかるよ?」

いつの間にか横からこけしを覗き込んでいた佐伯が、笑いながら答える。


「え?」

「なんかさ、その子、聞いてくれてる気がするもん」


軽い調子で言う佐伯。冗談半分のようでいて、どこか自然な響き。

水上は少しだけ考えてから、小さく頷いた。


「……そうかもしれませんね」


再びこけしを見つめる。 静かで、何も変わらないはずのその姿。


それでも――

「そのうち、喋りだすかもしれませんね」


ふっと、そんな言葉がこぼれた。


ーー


一瞬、間があいた。

佐伯はきょとんとした顔をしてから、すぐにくすっと笑う。


「それ、ちょっと楽しみかも」


そして、肩をすくめて続けた。


「実は、とっくに話しかけてくれてるかもね!」


ーー


くすくすと笑い合う二人。

部屋は相変わらず静かで、こけしは何も語らない。


けれど、その場にある空気はどこかやわらかく、ほんの少しだけ、あたたかかった。


ーー


見えないところで、いくつかの気配が揺れる。


すねこすり

(……ねぇ)


座敷童子

(なにかしら)


すねこすり

(なにか……きこえなかった?)


少しの間。 誰も、答えない。


家鳴

(……きのせい)

(だとおもう)

(でも)


目目連

(観測不能です)


すねこすり

(そっか……)


白沢は静かに目を細める。

(あなたにだけ聞こえた……それで良いのでしょう)


ーー


大きな喪失感に一同は消沈している。

だが、同時にこうも思っている。彼は、今でも家族なのだ。


もしかしたら、こけしはいずれ、結局付喪神になったりするかもしれない。

そとのきは、それこそもしかしたら、またサナエチャやセンパイの話しを、トモダチの話しをしだすかもしれない。


またしても、無謀なショウブを持ち掛けてくるかもしれない。


そうなったら、すねこすりは満面の笑みでショウブをうけるだろう。


(まずは動けるようにならないとね)


そして、またこの部屋に迎え入れるだろう。


おかえり、と


ーー


サイドボードの上。

磨かれたこけしは、変わらずそこにある。


ただ―― ほんの一瞬だけ。


誰にも気づかれないほど、かすかに。

ほんの少し、空気が揺れて。


(……オカエリ)


そんな、声が聞こえた気がした。


ーー


部屋は、今日も静かで。

そして、確かに賑やかだった

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